2022年12月06日

アメリカの図書館は、州図書館局、地域資産、モデル事業のサイクルが熱い(今日の本読みメモ『 #闘う図書館 』)


豊田恭子. 『闘う図書館 : アメリカのライブラリアンシップ』(筑摩選書). 筑摩書房. 2022.10.


●序章 図書館がつくる民主主義

・アメリカの公共図書館は、分断化された社会、排斥し合っている人々、崩壊しそうなコミュニティ再建しようとしている。地域のファシリテーターとなる。子供たちに議論の作法を教える、など。
・図書館活動の背景には、公的資金のバックアップ、図書館協会などによる組織的な研修、研究機関や民間資金の支援などがある。
・アメリカの場合は、何かを新しく始めようとすれば、すぐに制度の変更や追加予算の主張が始まり、関係者間で論争が沸騰する。実現しなければさっさと撤退する。←<e>実はこれが重要では。
・日本の公共図書館を見てみると、活動の発展を支える業際的議論や政策的連携がまだまだ弱く、持続させていくための体制が整えられていない。
・「博物館・図書館サービス機構(IMLS)」。1996、設置。国の博物館・図書館政策のビジョンを描いて政権に提言するだけでなく、連邦資金を原資とした助成活動を通じて、全米の博物館・図書館のモデル事業を戦略的に育成・推進してきた。


●第1章 地域変革の触媒としての図書館

・2016年「地域触発構想」の発表
・2017報告書「地域触発社としての博物館・図書館」
・2018戦略的5カ年計画「地域変革」(2018-2022)
・地域に根ざした博物館・図書館、および多くの地域組織が幅広くネットワークを組んで、地域のニーズやビジョンに応える。その際、地域にある資産を最大限に活かす。
・背景にあるのは、地方紙の衰退(ニュース砂漠)など、地域の対立、分断、共通基盤の喪失。
・「資産ベースの地域発展」(イリノイ州デポール大学ABCD研究所)。その土地の地域資産をつなげることによってコミュニティに化学反応をおこす。地域資産は、施設、機能、組織、活動、住民の営み、産業・歴史文化などすべて。(図「CommunityAssetsMap」
・博物館や図書館が日ごろから地域とのネットワーク形成によって知的刺激をもたらしてきたことを、さらにすすめてつなぐことそのもので地域を触発する。
・ALAが、図書館の役割を情報のハブから地域づくりのハブへ発展させている。その地域をつなぐのに、図書館は、親しみやすさ、中立性、住民からの信頼を得ていることが重要。
・とはいえ、図書館が単独で活動することや、リーダーになることを求めているわけではない。地域のアンカー機関として、人々と地域をむすびつけること。
・そのモデル事業について。地元の大学の研究室(専門分野の教授)と、課題を抱える市民をつなげるプログラムが多い。大学はまたの資産として認知度が高く図書館との親和性も高い。
・住民と行政をつなぐプログラム。ライブラリアンは基本的にヘルパーなので、人の話を聞くことに長けており、住民と行政との仲介によってスムーズに接触できるようになる。
・特に周辺においやられたり行政サービスから取りこぼされたりした人たちに、図書館側からアプローチする。
ニーズとリソース(地域資産(大学・研究者、行政、その他))をつなぐことによって、すべてのひとにとっての公正な社会の実現を目指すんだと。それは、社会教育や地域経済へのコミットメントという、これまでの方針の延長線上にあるんだと。

・<e>大学サイドの地域資産としての自覚がもっと必要、と心得た。なんなら”L型”として。


●第2章 博物館・図書館サービス機構の誕生

・アメリカ公共図書館史から
・アイゼンハワー大統領による「図書館サービス法」で一部未発達地域に連邦の図書館助成が交付されるようになり、ジョンソン大統領による「図書館サービス建設法」で全国対象になった。
・移民に英語を教える場として図書館サービスが役割を果たしていた。
・1970年代頃から、町の情報拠点としての役割が意識されるようになった。コミュニティ情報、地域ファイル、案内紹介サービスなど。
・「アメリカの公共図書館で、なにか新しい事業にぶつかったら、それはしばしば図書館サービス建設法にもとづく連邦の補助金を得て開始した事業である」

・1990年改正図書館サービス建設法の「相互協力」カテゴリに通信技術の利用が含まれ、多くの公共図書館がネットワーク構築に乗り出した。
・1992年情報スーパーハイウェイ構想。
・この構想で図書館を無視されることが危惧された。情報ネットワークにおける図書館の役割を、図書館コミュニティの外に届けることが課題。
・あたらしい連邦図書館法において、図書館界が市民の電子情報アクセス窓口になろうとした。
・「図書館サービス技術法」のドラフト作成。日本では法案は所轄官庁が作成する意識が強いが、米国では基本的に議員が法案を作成する。よって図書館界は議員に働きかける。
・1996年「博物館・図書館サービス法」成立。博物館・図書館サービス機構(IMLS)を創設。すべての館種の図書館を1つの法律のもとに統合し、助成事業を展開する。博物館と図書館がともに地域活性化の役割を担う。
・図書館サービス技術法で、図書館がインターネット接続拠点として認識され、市民の情報アクセス保証の役割を得た。
・「三つ目の要因は、図書館界のロビー活動の成長だ。…そもそも図書館界は、全国津々浦々の組織を巻き込んだグラスルーツ運動が非常に盛んで、それに長けた組織だとされているのだが、「技術法」以降は、まさにその強みを最大限に生かし、「図書館に予算を」と掲げた業界統一運動が展開されるようになった」


●第3章 インターネット時代の図書館

・アメリカの図書館界は、早くから、デジタルネットワークへの安価・安定的な接続が公共に開かれ誰もがアクセスできる環境を整備する必要がある、その拠点・アクセスポイントに図書館はなる、と考えていた。
・民間に任せていては、格差が広がる。フランクリンの郵便制度からはじまるユニバーサルサービスの保障が必要。
・図書館界は、情報スーパーハイウェイ構想に積極的に関わること、市民の情報アクセスポイントとなることを、声明として発表。
・1994クリントン大統領「すべての学校・図書館・医療施設を情報スーパーハイウェイにつなげる」
・実証実験の結果等を経て、図書館のデジタル情報環境整備とユニバーサルサービスが、市民の情報アクセスの保障と格差縮小に繋がる、と周知されるようになった。
・1996年改正電気通信法のユニバーサルサービス条項により、学校・図書館へのインターネット接料金続割引(Eレート)が始まった。
・1996年NYPLのSIBL開館。
・2017年調査。信頼できる情報を得るために必要なこととして、アフリカ系・ヒスパニック系の六割が公共図書館を回答。


●第4章 博物館・図書館サービス機構の発展

・IMLSの助成事業のうち、連邦による公募事業を通じた図書館政策の推進について
・ALA「地域を変革する図書館」プロジェクト(2010年代)。IMLSによる地域触発者としての博物館・図書館構想による。(→第1章)
→成功事例のケーススタディが、ALA年次大会やwebサイトで広く共有された。
→プロジェクトのワークショップや研修を受けた図書館が、自館プログラムのためIMLS助成金に応募。

・↓<e>ここが超白眉。モデル事業がサイクルしてるから効果倍増になってる。
「つまりALAは、自分たちが推進しようとするプロジェクトについて、IMLSの助成金を使ってまず初期段階の検討と研修プログラムの策定を行い、その後、私的財団から、より大きな寄付を引き出してモデル事業をつくり、その成功事例を研修の形でさらに共有することで多くの図書館を刺激し、各各館が独自のプログラムでIMLSの助成を申請するのを後押しし、それによってさらなる事例を増やす、という流れを作った」
「モデル事業の難しさは、それが終了したときに、その成果をいかに普及させていくかにある。選ばれた図書館が潤沢な助成金を受け取り、プロによる研修と手厚いサポートを受けて成功事例を生んでも、後に続く図書館にはその恩恵が共有されないため、実践が広がっていかないのだ。しかしIMLSの公募事業を活用すれば、初めのモデル事業に選ばれなかった図書館にも道が拓ける。彼らは先行事例のノウハウを享受しながら、助成金も受け取ることができるのだ。」


・オバマ大統領の時、オバマケア(公的保険制度)への登録窓口として、図書館が役割を担った。
→その際OCLCが構築していた情報プラットフォームで、医療情報の提供や、図書館印向け研修ビデオ等を掲載した。
・行政関係のワンストップフロントとしての役割が強化されていく。

・「図書館側にしてみれば、図書館関係の助成事業が国や州、地域のレベルで常に複数行われている状況であり、プログラムを応募する機会が、次々とあちらこちらで生まれている」
・2017年からのIMLS助成事業採択は、「計画」「フォーラム」「実施」「調査」の4カテゴリ。
・「計画」では構想段階での調査や連携模索が可能。「フォーラム」は会合のための助成。実績のないアイデアでもトライすることが可能になり、小さな図書館でも助成に応募できる。トップランナーだけでなく、図書館階全体の底上げ。(←<e>ここも白眉)

・<e>まわっていく仕組みと、とりあえずやってみる、が大事。


●第5章 国と地方をつなぐ州図書館局

州図書館局なしにアメリカにおける今日の図書館の発展はなかった。
・IMLSから各州に交付された州事業への補助金を、州図書館局が采配する。それはIMLS予算全体の85%をしめる。
・連邦からの予算の受け皿、州内の図書館振興に責任を持つ、専門部局が設置される→連邦と州のつなぎ役としての、州図書館局。
・連邦は予算は出すが口は出さず、州図書館局が采配をとる。(5カ年計画が義務づけられる)
・全国基準ではなく、各州の事情をふまえた計画によって、独自の性格を色濃く持つ州立図書館の多様性が加速した。「二つとして同じものはない」。(ただし格差も懸念)
・IT化・ネットワーク化では、州域ネットワーク事業を担う。90年代後半の情報サービス拠点化においては、州の事情にあわせた計画で事業を実施。
州内の広域図書館ネットワークの構築→大学図書館と公共図書館の垣根を取り払う
・ステート・ライブラリアン。図書館学のほかに行政・財政・経営、資金調達、政治力などのスキルをもつ専門職業。
・州図書館局による商用データベースの一括購入など。
・「アメリカでは、連邦資金は「シード・マネー(元金)」だと言われ、それを元本にして、いかに地方自治体や民間から資金を引き出すか」「連邦資金が州や地域のマッチング資金を引き出し、新たな図書館サービスを生み出す。その有効性が実証できれば、それは翌年以降の地元自治体の予算に反映される。ひとつの成功事例は連邦の支援を受けながらモデル化され、州図書館局による研修によって広げられていき、それが各地域でさらに多くの成功事例を生んでいく。図書館サービス全体の認知度の向上につながり、それがまた大きな予算獲得に結実する」

・<e>州図書館局、頼もしすぎないか。それは、”機能”という州立図書館


●第6章 トランプvsアメリカ図書館

・トランプ政権下の四年間、ALAが得意とするグラスツールのアドボカシーがどのように唱導されたか。
・2018年度予算発表でIMLSが閉鎖対象とされた即日に、ALA会長が声明を発表した。
・「あなたの選挙区の選出議員に電話を」「選出議員の関心領域や活動歴を知ること、それらと自分が訴えたい問題との結びつきを見つけること、そして何をしてほしいのかを簡潔に語ること」「議員との初面談を怖がらないで。いったん話せるようになれば、その後は何より力強い味方になる」
・議員宛てのEメールや電話メッセージのドラフト。すべての選挙区の選出議員の一覧表。連邦図書館予算に賛成したかどうかと、今年、もう署名したかどうかが、ひと目でわかる。地元新聞の編集委員の連絡先。メディアの力を借りて、その地域の議員に呼びかける。
・「二〇一九年一月、ワシントン支局は、アドボカシーのためのウェブページをリニューアルした。それぞれの図書館員が、連邦、州、地元自治体に対し、何ができるかをステップ・バイ・ステップで解説。年間スケジュール、地元の有力者へのアプローチ法、メディアとのとの関係構築、多くの体験談、ビデオメッセージ、メールの文例集、SNSやポスターに使える画像など、新たなページには様々なツールが満載されている」
・「議員は地元で起きていることを知りたがっている。ライブラリアンほど地域で起きていることを的確に語れる人はいないのだと。日頃からアウトリーチ活動を行い、地域を知っているという自負があればこその発言だろう。」

<e>我々、アドボカシーは苦手でも、情報の編纂と共有は本来得意なはず。


●終わりに

・「彼らは一〇年以上の年月をかけて、連邦および州予算、さらには民間資金まで調達することで、商用データベースを含めたあらゆる情報アクセスをすべての利用者に無料で開放するという理念の実現にこぎつけたのだ。アメリカの図書館界は常に、現実と妥協するプラグマティズムをもちながら、理想主義の旗を降ろさない。社会の変化に即応し、柔軟に変容しながらも、現状を追認して終わらせることなく、あるべき姿を追い続ける。」
・(NYPLの映画)「「なんとも羨ましい限り」といった感想に終わりがちなことには、残念な思いが残った。」

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2022年12月04日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第三部「流通への遠い道のり」、そしてこの本は…


和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


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第三部「流通への遠い道のり」
第8章 戦時期の日系人移民地の読書空間 --日本語出版情報誌から
第9章 戦争表象を引き継ぐ --『城壁』の描く南京大虐殺事件

■第8章 戦時期の日系人移民地の読書空間 --日本語出版情報誌から
ブラジル日系移民
雑誌(書籍情報)

・書物が拡がり、読者に働きかける、その仕組み・機能について、ブラジル・サンパウロ州の日系人移民地、日本語書籍情報雑誌『文化』(1938〜)に見る。
・雑誌『文化』: 書籍情報誌。1938.11-1939年、サンパウロ刊行。メインが縦組み日本語、裏表紙にポルトガル語数ページ。
・遠藤書店:日本語出版物をサンパウロで販売。『文化』を刊行。

・背景:ブラジルにおける移民同化政策(1937〜)。外国語教育禁止、日本語出版物のポルトガル語併記義務づけなど。→1940日米開戦後は、日本語は敵性外国語、公的使用は禁止。
・日本からブラジル移民数は1938年で20万人近く。ピーク時1933年で24000人。その後入国制限政策で減少。
・邦字新聞:日伯新聞、伯剌西爾時報、聖州新報、日本新聞など、日刊かつ大規模(日伯新聞で2万部近く)。
・当時のブラジルでの日本語書籍雑誌流通。遠藤書店。新聞社の販売ルート。日系人の協同組合、各地の日本人会・青年会。青年団が、その地域の新聞編集、書籍雑誌の取次販売をおこなっていた例など。
・日本からブラジルへの日本語書籍の流れ。日本力行会:海外移民の支援・教育をおこなう民間財団法人。国内によびかけて移民地へ図書雑誌を寄贈する活動。
・日本図書館: オフィシャルには無いが、小規模な図書室。地域や日本人学校父兄会などによる互助会的なもの。

・雑誌『文化』の特徴は、質の高い読書環境を作り出そうとしたところ。学術・芸術・専門知などホワイトカラー層のニーズあり。評価の高い書籍、教育学術関連の図書などの紹介。
総合雑誌・文芸誌から記事を選定して、転載する。オリジナルな文芸作品などはわずか。「創作は皆無」と評価されるしかない。(<e>通常の文学研究なら研究対象として不充分、だが、本書のポイントはその研究対象へのまなざしが違うこと)
・収録著作にしぼって評価すると「この雑誌全体が持っていた重要な特性が見落とされてしまう」。それは「この雑誌が日本の書物を伝え、教え、広げる雑誌となっていたという特徴」。
・『文化』は、教養を意識して選書している。(移民地読者の教育教養に役立つ図書)
・『文化』は、当地ブラジルにおける日本語出版・読書環境の整備を意識的に、論評、問題化する。(日本文化図書館の設置の必要性、など)→読書環境や、出版の思想的潮流に対し、批判的な距離をとっている。(日本文化・日本精神は移民地にとって自明不変ではない、等)
・例:田村俊子短編小説「侮蔑」(田村俊子全集9)を転載している。日本刊行の小説。日本に帰国した2人の日系米人二世を描く。ジミイは日本に憧れ日本に残る。万利子はアメリカに戻り二世として生きる。本編(文藝春秋)ではジミイに重点が置かれているが、『文化』掲載版からは全体の1/4が削除され、その結果、両者の対話・議論が拮抗している状態。←<e>文学作品研究。→移民地の読者に対して、自明な価値観(日本)の提示ではなく、疑問・議論・問いかけのような提示


■第9章 戦争表象を引き継ぐ --『城壁』の描く南京大虐殺事件
南京大虐殺事件(南京事件)
小説『城壁』

・書物の広がり、享受の様子を、国内で歴史的にとらえる(←→これまでは同時代で空間的な広がり)
・書物の、「戦争の記憶を引き継いでいく」機能について
・<e>本書の中では、唐突感ある。←→本書のアプローチの可能性のひろがり?(きれいにクローズでなくオープン)
←2020年復刊本『城壁』の解説「榛葉英治の難民小説」が初出。
・<e>ここで”阻む””忘却”を扱う(あるいは忌避、上書き(被害者→加害者)、資料改竄)

・南京事件(1937-1938)
・南京安全区国際委員会による証言・記述資料
→『戦争とは何か:中国における日本軍の暴虐』(H.J.ティンパーリー, 1938(英))
→中国語翻訳版
→日本語翻訳版『外国人の見た日本軍の暴行』(日)(軍部の極秘出版)
→榛葉英治が入手(1944、満州国外交部調査2科)
→捕虜→脱走→引き揚げ
→1964小説『城壁』を刊行

・榛葉英治(1912-
・小説『城壁』、自伝、日記(1945-1998@早稲田大学図書館)、自伝的小説『赤い雪』『極限からの脱出』
・日記によれば、1962年頃から具体的に構想・準備
→1963年、刊行を予定していた中央公論社から掲載を断られる。関係者から「文句がいって、取止めとなった」「つまり、日本には言論の自由はないのだ」
→原稿を掲載するあてがないまま書き続け、生活を犠牲にしながら、長編化
→1964年、完成(602枚)→河出書房新社から刊行。

・『城壁』
・複数の視点で南京事件を描いたもの。
・日本軍のある小隊からの視点と、南京安全区国際委員会からの視線とを、交互に配置する。
・『戦争とは何か』(当時まだ一般に刊行されていない)から直接大幅に引用して構成されている。(創作としてふくらませている)
・当時の朝日新聞南京支局員の回想記や、当時南京を訪れた評論家の朝日新聞記事をベースに、架空の人物として登場させる。
・出来事やその時系列は記録にもとづいている。人物の背景等は創作している。(「この作品は、その記録の部分は以上の資料を基にしているが、これは純然たる小説であり、構成も、主要人物も、すべて作者の創作である」)
記録『戦争とは何か』からの引用部分にも変更・追加が6箇所ある。なぜ記録自体を改変したのか。
・例:作中の異なる視点だった、南京安全区国際委員会と、日本軍小隊が、避難所(金陵女子文理学院)で対峙する、という創作出来事が登場する。それに沿った形で、委員会の事件報告を作り替えている。→これによって、複数の視点が交差する・結び付くという場面が作られる
・例:複数の恋愛エピソードが描かれる。それにあわせて、委員会報告や書簡の引用が修正される。
・和田「創作だからと言う理由でその資料自体を改変して示す行為は…配慮と尊重を欠いている」
・(日記や著述から)、特に1970年代以降、抑留者の方に関心が高まり、戦争被害者としての感情が加害者としての記憶を圧倒していく。
・『城壁』は1964年刊行後、現在までほぼ知られず研究も評価も無い。「いったい刊行から今までに、この小説に何が起こったのだろうか。」
・堀田善衛『時間』(1955):日記・一人称・モノローグで事件を描写、文学小説の話術で騙らぬ、小説的な記述を故意に拒否
・『城壁』:物語として描く。全体像をわかりやすく、異なる人々の視点からうかびあがらせる。
=南京事件を歴史知識に基づきながら創造可能な物語にして広く発信していった小説として重要。にもかかわらず、かえりみられてこなかった。

・南京事件は、物語化すらされない状態が長く続く。歴史認識として定着しない。事件を否定する言説が登場する。忌避・抑圧が生じる。
・近代文学研究者の、著名作家作品を扱う慣習、が忘却の原因。中間小説・大衆小説が広く読者にどう作用したかも重要。

・『職業作家の生活と出版環境 : 日記資料から研究方法を拓く』和田敦彦編 ; 須山智裕 [ほか執筆]. -- 文学通信, 2022.6.
・榛葉英治の日記・自伝等を使って、新しい文学研究方法をさぐる。タイトルにその作家名を掲げない。「特定の作家を研究する」というスタイル自体を問い直すという問題意識から。生活や出版環境、読み書きの行為をとらえる。
・榛葉英治にとって、「南京事件を描く」ことと「引き揚げ体験を描く」こととがどう結びつきあっていたのかを、日記・小説を通して明らかにする。(=日記資料の可能性・有効性)



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■この本は…

序章
終章
その他


・書物が国境を越え、時を超えて拡がり、残されていった過程=書物(情報や知)の読者への広がりをとらえる。[#序章]
・書物の読者への広がりをとらえることで、国内については文化統制を、海外へは文化工作を、その両者の連続性を、解明する。[#終章][#序章]
・<e>戦争は発火のずっと前から静かななりをして書物を介しておこなわれていたことがあらためてわかる。

●対外文化事業を所管する行政組織(序章)
・本書の対象は第二次世界大戦期。日本の価値を海外に知らせアジアに広げようとする活動+その価値付けを国内で国民に浸透させていく活動が活発化していた。[#序章]
・海外との学術文化交流に関心が高まるのが、1930年代[#序章]
・外務省に国際文化局(対外的に文化事業を展開する部署、1933年設置)[#序章]
・財団法人国際文化振興会が設立される(1934年)[#序章]
・文部省に思想局を設置(1934年)。日本文化の集約・発信。[#序章]
・文部省主導で官民による機関・日本文化協会を設置(1934年)。日本文化精神を国民に浸透させる。雑誌『日本文化』『日本文化時報』刊行。[#序章]
・1936年、情報委員会を設置。各省庁にまたがって、国外への情報宣伝・対外文化事業、国内への情報統制をとりしきる。→のちに内閣情報部→情報局。[#序章]
・1938年興亜院を設置する。
・1940年「大東亜共栄圏構想」の公表[#序章]
・日本を中心とした大東亜というあたらしいパッケージの文化工作へ。[#序章]
・東南アジア各地に日本文化会館を設置する。

対外的な文化外交文化工作が、日本国内への文化統制と結びつき会う
←<e>本書はここに注目。=発信するに値する日本文化の対外的価値・意味の創出。具体的なコンテンツを教え伝える。「我が国の精神文化」「本邦固有の思想」。この時期の対外文化事業構想は日本文化の振興+その国内統制&組織化への強い指向性をもつ。[#序章]


●@文化の発信・宣伝を、著者・書物(の内容?)自体からだけでなく、以下から、とらえる。[#終章]
 「教える」「紹介する」「翻訳する」「広げる」人や組織
 「仲介者」
 広げていく「技術」、広げていく「仕組み」を明かしていく
・<e>本書ではそれを「技術」「仕組み」と表現しているところ。
・<e>とらえかたを多角的にする
・こうした役割はこれまでの研究で見落とされてきた。文学研究では、作家や作品の研究が主であり、それを広げる人々の活動に目が向けられない。[#序章]
・書物を紹介し・・・に眼を向けるのが、こうした役割がこれまでの研究で見落とされてきたからである。[#終章]
(←<e>それはたぶん「文学研究において」。図書館史・書物史研究から見ると、むしろ作品の内容に踏み込んだ分析が文学研究だな(城壁、講談、山田長政)という意味で、文学研究と図書館史研究両者の”融通”がポイントか。)
・<e>逆に言えば、(大方の本誌読者の立場から見れば)そういった研究は図書館史・出版史でおこなわれてきた。はたしてそこでは作品の内容・表現や創作性、作家・文学史といったものにどこまで踏み込んで考察されているか、ということも問われるべきではないだろうか。肝要なのは両者のあいだを往復する、その”融通”だろう。
・<e>『読書の歴史を問う』より。「雑誌の内容を検討しても、それがどのような経路をへて、どれだけの範囲で広がり、どういう場で読まれていたのかが分からなければ、その雑誌の果たした役割は実際にはっきりしない。」「そしてまた、読者への具体的な働きかけを問うことなく出版史や流通史を記しても意味はない


・第一部では、「大学」「読書指導運動」「読書傾向調査」「図書選定」「読書会」=読書を統制する「技術」=「仲介」[#終章]
・第二部では、現地にのこされた戦時下の日本語資料から、
 -仲介者による文化工作をとらえる。
 -「資料そのもの」からではなく、「その資料があることの意味」を問う
・<e>この研究手法は、『読書の歴史を問う』ほか読書の歴史を研究するという和田氏のこれまでの問題意識とつながるし、実践編っぽい。


●A国内の文化統制と、対外的な文化工作とは、連続性がある。[#終章]
 -日本の価値を教え、広げていく営為。日本での統制が、海外へ拡がる。
 -学術
 -のこされた蔵書
 -岡倉天心
 -講談
 -山田長政


●「これからの」書物の広がりへの問い
・これからの日本の書物の広がり、日本についての知や情報の広がりを、どう考えていくのか[#終章]
現在そしてこれから、私たちが日本をどう発信し、海外の文化とどう関わり合っていくのか[#終章]
・日本語の書物を集めて外国に届ける、という発想や意義自体を見直す必要がある。
日本に永続的で自明の価値を見出し、それを一方的に押し広げていくのは、日本を中心として都合良く作り出されたもので、日本文化の正確なコピーを世界に広げることに価値はない。[#終章]
・ひろがっていった先で享受され、新たな表現、文化をうみだす。可能性。(例:日本人コミュニティの活動。現地で生まれた読書空間、ネットワーク。)[#終章]
・<e>日本のママを輸出して押しつけるのではなく。×日本を、○日本も。



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■『読書の歴史を問う』

○遠くの読書から、自身を知る
「そこに日本の書物があることも、それを読む人も、読む理由も当たり前ではなく、すべてが「なぜ」という問いをともなわざるをえない。」
「私たちの読書の過去も、現在も、当たり前でも自明でもない。読書の歴史を問うのはそれゆえだ。」
「読書について、このような不自由さを意識するには…「いま・ここ」での読書以外の事例と比較・対照するのが、もっとも効果的」「「遠くの読書」について知らねばならない」「

○本書はマニュアル
「読者、あるいは読書の歴史をどうやって調べ、学んでいけばよいのだろうか」
「主に近代以降の日本を対象として、できるだけ実践的に、そして体系的にこのことを説明していくこと、それが本書のねらい」
「読者をめぐる多様な問題への糸口を、具体的な資料を通して見いだしていくことができるよう本書は構成されている」
読書と読者の歴史について調べる方法、研究する方法を、できるだけ整理し、順序立てて示すようにしている」
「具体的に読書を研究する方法や事例をあげながら」
「いわば実践的なマニュアルのようなもの」

○「たどりつくプロセス」をとらえること
「本書ではこのように、読書を…書物が読者にいたる経路、流れとして捉えていく」
「読者にいたるこの書物の流れや、それに対する制約がどのように生まれ、広がり、変化してきたのかの歴史」
(読書のプロセスを2つにわけると)「物理的に書物が運ばれ、読者にまでたどりつくプロセスと、その書物を読者が読み、理解していく読者の内なるプロセス
<e>実際には、本書では特に「たどりつくプロセス」に焦点をあて紙面を割いている。
「読書の問題としてこの「たどりつくプロセス」…の研究が十分なされてきたとは言いがたく、むしろ読書とは別に、それぞれの組織や機関の歴史として(例えば出版史、図書館史といった形で)研究されてきているのが現状である。」
「雑誌の内容を検討しても、それがどのような経路をへて、どれだけの範囲で広がり、どういう場で読まれていたのかが分からなければ、その雑誌の果たした役割は実際にはっきりしない。」「そしてまた、読者への具体的な働きかけを問うことなく出版史や流通史を記しても意味はない


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■著者のブログ
http://a-wada.blogspot.com/

・2022年2月4日 新刊『「大東亜」の読書編成』刊行
「この本にまとまった調査は2013年から」
「調査して出会った資料や見つかったことが、自分の予想や想像を越えていたこと、そして自分の構想そのものがそれによってかわっていった」
「楽しいのは、それが想像通りになることではなくて、自身の想像の仕方をかえてくれるから」

・2022年8月20日 図書館の戦前業務文書の調査
 現在は長野県内にある公共図書館の戦前・戦中の業務文書を調査中

posted by egamiday3 at 17:04| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年9月・10月・11月のまとめ

●総評

 成果を求めるのではない。けど、我々は言葉で生きるのだ、と思う。

●2022年9月・10月・11月のまとめ

・Code4lLib Japan
・高校生クイズ2022
・突貫掃除week
・自宅宴
・「たまにフォローしてくださってる人が誰かを確認しにいって、のけぞりのたうつことがある。過度な期待はしないでください。」
・EAJRSリスボン
・オンラインミニシンポ。「我々はもっと、ちょこまかとディスカッションしていい。」
・笑の内閣
・朝から謎会議。地頭というか地リテラシー。結論、痩せる。
・ゴーレム逡巡、からの、結局感激。
・最高の座席。「えらべるんですか?」「えらぶんですか?」
・数年前の大阪地震で民博ヘルプに行った際、使おうと入手した防塵マスクDS2、謎の日の目を見る。
・今日の「クイズ鑑賞」メモ。「クイズを観るクイズを観ると言っているがクイズを観て何がどう楽しいのか、ということをたまに問われるので、クイズを観て何をどう楽しんでいるのかを言語化したメモです。」
・落ち着いてからもバンガロー。
・国立大学図書館協会シンポジウムは内輪の会か。
・秋季寄席がスタート。ハイブリッドの効果覿面説。
・インバウンド来客が急増(というか復帰)
・愛と哀しみの高雄〜清滝ルート。
・「消えたローマ字とわかりやすさについて」
・マイルクライシス
・ほけんの窓口
・置き配クライシス
・どんとこい鎌倉殿
・デジタルアーカイブ憲章円卓会議に登壇。議論の国際化と、DEIについて。
・「そういうデジタルアーカイブを目指さないんだったら、デジタルアーカイブ立国なんかやんなくていいって、わりと本気で思ってます。」
・「silent」
・「拾われた男」
・「ジャパニーズスタイル」
・「エルピス」
・『大東亜の読書編成』書評執筆
・方舟4艘目駆け込み。副反応ほぼ無し、むしろ体温下がるの謎。
・『闘う図書館』
・「図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会」。現場パンクするわ。
・平家物語、読了。灌頂の巻よ。
・充実した一日は充実した朝食に宿る。
・鯖、カツカレー、そしてカキフライが映える風景。
・フィフティ・フィフティ
・関西文脈の会・読書会『大東亜の読書編成』編。文学と図書館史の融通について。
・寒くなって朝一シェアサイクルがしぼむ
・ジェットウォッシャー
・「#NDL全文使ってみた〜「次世代デジタルライブラリー」&「NDL Ngram Viewer」」
・「学校はいま、図書館の支援を求めている〜地域資料のデジタル化が拓く図書館の未来〜」
・清滝〜高雄、紅葉とメタバース
・「あんなに優しかったゴーレム」オンライン配信
・月がこっちに出てる、月蝕。
・メタデータトワイライト
・越境シンポジウム
・日本語の歴史的典籍国際研究集会
・デジタルアーカイブ学会第7回研究大会一般研究発表 (オンライン)
・香る膳
・突如始まる解答編
・『闘う図書館』
・謎御所ミーティング
・日図研セミナー「図書館における電子媒体資料の活用について」
・博覧展@龍谷ミュージアム
・ガスファンヒーター点火の儀
・格差拡大装置としての図書館サービスについて
・血圧クライシス
・格差拡大装置としてのデジタルアーカイブについて
・第3回円卓会議。成否は?
・「図書館総合展2022カンファレンス in 鳥取」「都道府県立図書館サミット2022」。学校図書館が熱く、都道府県立図書館が頼もしい。
・浄住寺・地蔵院
・御所・哲学の道ルート
・『君のクイズ』


posted by egamiday3 at 08:35| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月12日

「海外の日本研究と日本図書館」に関する2022年9月・10月の動向レビュー -- EAJRSリスボン、NCCリエゾンに佐藤翔氏、OCLC Worldcat 他 ( #本棚の中のニッポン )


■トピックス

●OCLC Worldcatのローマ字問題
・「消えたローマ字とわかりやすさについて ( #本棚の中のニッポン 補遺)」egamiday3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/491504047.html
→その後10月中旬頃に、ローマ字がWorldcat.orgに復活しました。
 ユーザの声がちゃんと届いてスムーズに改善されるところが良いなと思います。


●EAJRS 2022年リスボン大会
 今年のEAJRS年次大会はリスボンを会場にハイブリッドで開催、2022/9/14-17

・プログラム
 https://www.eajrs.net/2022-lisbon#program
・動画アーカイブ
 https://www.youtube.com/playlist?list=PLmUAHfIV8hX0eMApp323KI2vCOBVKEvD5

 なお、極私的注目は、こちら。
・「Japan up close: prefecture by prefecture – newly designed course at the Japanese studies department, Sofia university "St. Kliment Ohridski", Bulgaria」
 https://www.eajrs.net/japan-close-prefecture-prefecture-2022
 https://www.youtube.com/watch?v=jFHL5GnMCVI
 日本学を教える構成としてprefecture by prefectureをとると、話題は拡がるし、現実社会と具体的に連携するのでおもしろいかなと。そうすると今度は、地域の図書館や公共機関からの海外への情報発信をどうするか、という問題にもなる。


●NCCの新リエゾンに佐藤翔氏
 期待してます!
・「Introducing NCC's Next Japan Liaison--Professor Sho Sato」(NCC)
 https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Introducing-NCCs-Next-Japan-Liaison-Professor-Sho-Sato


■デジタルアーカイブ

●「Digital Resources and Projects on East Asia Database」
・「Japanese Studies Spotlight: Finding Japan Studies Materials with the Digital Resources and Projects on East Asia Database」(NCC)
https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-Digital-Resources-and-Projects-on-East-Asia-Database
「in 2017 I created the Digital Resources and Projects on East Asia Database, an open-access repository that houses a wide range of online tools, archives, exhibitions, and more in a searchable and filterable platform for ease of use.」
「Airtable allows users to create a wide variety of labels, tags, and other forms of content integration, all of which can be filtered, grouped, keyword searched, and cross-linked to other tools and/or internal or external databases.」

●邦字新聞
・「The Japanese Diaspora in Digital Sources: The Hoji Shinbun Digital Collection」 – The Digital Orientalist
https://digitalorientalist.com/2022/09/20/the-japanese-diaspora-in-digital-sources- the-hoji-shinbun-digital-collection/

●沖縄県系移民渡航記録データベース
 1900〜37年の間の沖縄県から海外移民約5万人分の渡航記録を検索できる
・Okinawan Immigrant Database - Okinawa Prefectural Library - Okinawan Genealogical Society of Hawaii
 http://opl.okinawan-migration.com/main.php


■日本資料

●紙芝居
・Kamishibai Propaganda Plays - UBC Library Open Collections
 https://open.library.ubc.ca/collections/kamishibai
 1938年から1945年の間に制作された52本の紙芝居のデジタル化版。大半は日本教育紙芝居協会が制作したもの。


●藤木二三男・飛田時雄コレクション
・「The Fumio Fujiki and Tokio Tobita Collection of The Ohio State University Libraries」(NCC)
 https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-The-Fumio-Fujiki-and-Tokio-Tobita-Collection
 オハイオ州立大学ビリー・アイルランド漫画図書館(BICLM)に所蔵されている。巣鴨拘置所の戦犯容疑者の日常や、占領期の日本人捕虜とアメリカ人看守の交流などをスケッチしたもの。


●Forest of Illusion
・Forest of Illusion
 https://forestillusion.com/
「Preserving Nintendo's History 」


■日本研究

●「自衛隊という職場―女性自衛官から考える軍隊とジェンダー」(nippon.com)
 https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00838/
「「日本のフェミニストたちの間では、自衛隊を研究対象として取り上げることが警戒され、強い抵抗がありました」…孤立感を抱えた佐藤氏を勇気づけたのは、米国のフェミニスト国際政治学者、シンシア・エンローの論考だった。軍隊における家父長制の作用、軍事化・脱軍事化のプロセスを検証するには、軍隊の中の女性たちが抱える問題をつぶさに観察することも研究者の重要な仕事だと指摘したのだ。…憲法9条の下で災害救助など非戦闘業務を担ってきた自衛隊を『特殊』と捉えるよりも、新しい軍隊の在り様の先駆けと位置付けられるのではないか。海外の日本研究者の論考にも触発されて、次第にそう考えるようになりました」


●11月以降の催し
・Introduction to Text Mining in Japanese | Reischauer Institute of Japanese Studies
https://rijs.fas.harvard.edu/events/introduction-text-mining-japanese
・The Digital Turn in Early Modern Japanese Studies
https://japanesedhconference.co.uk/
・「デジタル日本学」の可能性 − 大阪大学
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/event/2022/10/l212kd


■コミュニティ

●「Specialist Spotlight: Tsuyoshi Harada」(NCC)
 https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Specialist-Spotlight-Tsuyoshi-Harada


■日本文化

●京都文学レジデンシー
・Kyoto Writers Residency - 京都文学レジデンシー
 https://kyotowriters.org/
・第一回京都文学レジデンシー開催(2022年10月1日〜21日・参加者6名)|京都文学レジデンシー|note
 https://note.com/kyoto_wr/n/nf12bb72aff12
・「世界の小説家や翻訳家を京都に招へい、執筆や交流の場提供 催しに6人登壇」(京都新聞)
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/891745
 世界の小説家・詩人・翻訳者らが京都に一定期間滞在して執筆やリサーチを行う。第1回は
2022年10月1日(土)から10月21日(金)にかけて開催。


●柳美里さんにバークレー日本賞
・Announcing 2022 Berkeley Japan Prize Recipient | Institute of East Asian Studies
https://ieas.berkeley.edu/news/announcing-2022-berkeley-japan-prize-recipient
 「全米図書賞翻訳部門を受賞した『JR上野駅公園口』は、東日本大震災とそれに伴う福島第一原子力発電所の事故で避難生活を余儀なくされた人々の痛苦と、出稼ぎで郷里を離れているうちに帰るべき家を失くしたホームレスの方々の痛苦、という二者の痛みをつなげる小説として構想され、その英訳版は海外で高い評価を受けています。」
・柳美里さんにバークレー日本賞 「日本の『窓』になりたい」 | 毎日新聞
 https://mainichi.jp/articles/20221001/k00/00m/040/143000c
・柳美里さん、第5回「バークレー日本賞」を受賞…過去に村上春樹さん・宮崎駿さんら選出 : 読売新聞オンライン
 https://www.yomiuri.co.jp/culture/20220913-OYT1T50075/


■社会問題

・Do Black Lives Matter for Asian Studies? - Association for Asian Studies
 https://www.asianstudies.org/do-black-lives-matter-for-asian-studies/

・国連、日本の入管死亡に懸念 「人権救済機関」創設を要求 | 共同通信
 https://nordot.app/960890316733644800
「国連の自由権規約委員会(B規約人権委員会)…は日本政府に対し「パリ原則」と呼ばれる国際基準に沿った独立した国内人権救済機関を早期に創設するよう要求。設置に向けた具体的な説明が日本政府側からなされなかったことを遺憾とし、十分な予算と人員を備えた機関の立ち上げを求めた。」

・保守派論客に訴えられた映画『主戦場』デザキ監督、二審勝訴で「新作」に意欲 - 弁護士ドットコム
 https://www.bengo4.com/c_18/n_15100/
「尋問調書をアニメ化したい」「次の作品は日本に関する非常に政治的なテーマを考えていますが、それを作品にするのは、もしかしたら慰安婦問題より難しい」

・円安を追い風に留学生の倍増を狙う国内の大学【WBS】(テレ東BIZ) - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/articles/08af85b3210032cbc39471d66f8a9347936a2963

posted by egamiday3 at 18:29| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月28日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第二部 「外地日本語蔵書から文化工作をとらえる」


和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


第二部「外地日本語蔵書から文化工作をとらえる」
戦時期に日本が占領していた東南アジアで、日本文化・大東亜文化圏の拡大のための文化工作はどのようにおこなわれていたか。
現地に遺された日本語資料から考える。
知や情報を伝え広げ教える仕組みをとらえる一環。
第4章 ベトナムの日本語資料、日仏ベ間の蔵書移動
第5章 ベトナムの日本語資料、大東亜学の具現化
第6章 インドネシアの日本語資料、文学による日本宣伝
第7章 「講談」と「山田長政物語」の2文学


●東南アジア諸国の日本語資料調査について(第二部)

・東南アジアで戦時期に構築された日本語蔵書がまとまってのこっているのはきわめてすくない。インドネシア国立図書館とベトナム社会科学院図書館、シンガポール国立大学。
・マニラ文化会館、日泰文化研究所・バンコク日本文化会館などがあったが、蔵書の現所在は不明。
・柳澤健はタイで各国語の南方アジア文献をあつめた「大東亜図書館」を設置することを主張していた。

・「ある国が日本についての資料を収集し、日本語蔵書が生まれるという現象は、その国と日本との文化的な関係のみならず、政治的、あるいは経済的な関係に結びつき、それらと影響しあっている。」→<e>この北米版→『書物の日米関係』『越境する書物』
・和田の東南アジア諸国調査は2014年から。
・東南アジアで戦時期の日本語蔵書がのこっているのは、大きく分けて2パターン。
 −植民地統治していた欧米各国が収集していた日本語資料
 −占領した日本が新たに築いた日本語蔵書
・<e>和田氏は「対象を拡大することが、調査、研究する方法そのものを更新してくれる」と[#終章]で述べている。これは具体的にどういうことか?


■第四章&第五章
第四章 「アジアをめぐる日仏の文化工作 --ベトナムに遺された日本語資料」
第五章 「日本を中心とした東南アジア研究へ --ハノイ日本文化会館蔵書から」

・ベトナムにおける日本語資料は、フランス極東学院が日本で収集し植民地ベトナムに構築していた蔵書と、日本がベトナムに進駐しハノイ日本文化会館に築いた蔵書とからなる。
・フランス極東学院: 1898年サイゴンにインドシナ考古学研究所として設置。その後、改称、ハノイ移転。アジアに置かれた研究機関として機能。
・フランス極東学院は、当時の日本研究者の手により、日本語資料の現地での収集もおこなった。1922年時点で和装本4000冊を含む6500冊を所蔵。

・1941の開戦後、日本仏印間で協定、文化交流。
・日本文化会館を設置して日本の文化工作の拠点とし実践がはじまる。東南アジアでの「大東亜共栄圏」構想のための文化工作。(日本は1930年代からニューヨークに日本文化会館を設置してきていた)
・ハノイ日本文化会館: 1943年設置。文化協力の基地となる。文化工作を「半官半民」事業として効率的におこなう。
・日本の文化工作は、仏印統治階級のフランス人向けと、ベトナム人知識人層や大衆層にもおこなわれた。
・ハノイ文化会館の事務局長小牧近江は、ベトナムの独立運動に関わっていく。
・1945、ベトナムがフランスから独立。日本敗戦。→引き上げ時に日本文化会館の蔵書がフランス極東学院に寄贈→ハノイのベトナム社会科学院へ。
・「この日本文化会館蔵書の今日までの道のりをたどることが、それ自体、日本やフランスの文化外交のあり方やその変容を浮き彫りにする」

・東南アジア中では大規模ではあるが、日本にない稀書があるわけではない。「資料そのものの珍しさや希少性という尺度」ではなく、「資料の移動を歴史的に意味づけ、その役割をとらえていく視点」でその価値や意味がわかる、という考え方。
 ↓
<e>これが第4章。←→第5章では、蔵書からわかる日本の文化工作(第一部のアプローチの適用?)
 ↓
・(@第5章)ハノイ日本文化会館の蔵書から、日本を中心としてアジアを捉えるという大東亜文化圏構築や「大東亜学」(大東亜学、日本を中心とした大東亜文化という体系)の考えがかたちづくられていたことを、とらえていく。
・この方法は、この時期の日本の対外文化工作をアジアの地で実践していく方法を具体的に示している。文化工作の学術版。
欧米中心の東洋アジア研究を排除し、研究主体を日本とし、日本語日本文化を中心とした研究をおこなう。≒日本語と日本文化を中心とした文化圏をアジアに構築しようとする。<e>欧米が日本にすりかわった。

・この枠組みが、ベトナムに残る日本蔵書からどうわかるか、を考察したのが第5章。

・ベトナム社会科学院所蔵のフランス極東学院旧蔵書: 和装本4100、洋装本5700、(そのうちにハノイ日本文化会館旧蔵書130も含む)
・わかりやすく日本を解説する文献ではなく、専門的な学術書が中心。
・例:当時、大東亜共栄圏や大東亜文化を広げていく考え方の根拠となった地政学(当時流行した)に関する著述。ほか、広域経済、国土計画、自然・資源など。
・例:日本研究・日本語教育の資料など。
ベトナムにのこる戦時期日本語資料の中心は、日本語で記された、仏印・東南アジアの歴史文化についての研究・著述である。すなわち、欧米によるアジア研究から脱却し、日本語による日本主体の東洋学へ転換する。<e>まさにこの節のタイトル通り、「誰がアジアを記述するのか」である。

・ただ、こうした特徴はそもそも戦時期の東南アジア研究・東洋史研究の刊行物全般にある。が、重要なのは、実際に具体的にこの土地にこの時期においてその蔵書があり、それによってこの学知の体系が具現化されているということ。それらはその蔵書のために選ばれたのだ、ということ。<e>これが和田研究のやりたかったことだから。

・インドネシアとは異なる→第6章へ



■第六章
第六章 「戦時下インドネシアにおける日本語文庫構築」

・日本は東南アジアにおいて、大東亜共栄圏建設、日本語日本文化教育をおこなう。
・日本文化会館の設置。バンコク日本文化会館、マニラ日本文化会館、ハノイ文化会館等。

・インドネシアは、オランダの植民地→1942年2月日本が侵攻、終戦まで日本軍政下におかれる。
・インドネシアでは、日本文化会館は設置されなかったが、文化工作は活発におこなわれ、日本語資料蔵書1200が構築された(現在はこれがインドネシア国立図書館に所蔵)。
・インドネシア国立図書館の日本語文庫
 分析すると、約1200冊のうち、76%が1940-1945刊、これら新刊書が戦時中に日本からインドネシアまで運び込まれている、ということ。
 戦時期刊行書の2割を「日本文学」(大衆向け文学、講談、児童向け物語等を含む)が占めている。日本文化をわかりやすくたのしめるコンテンツ?(注:←→ベトナム・ハノイ日本文化会館のほうは、社会科学、アジア歴史文化、各分野の学術書・専門書が中心で、大東亜学をかたちづくるものだった)

・オランダ領時代、昭和初期の日本人人口が急増する。日本企業・銀行が進出する。
 日本人学校、日本人会館。
 邦字新聞(爪哇(ジャワ)日報)。
 新聞社(爪哇(ジャワ)日報社)による日本書籍・雑誌・新聞(他紙)の取次、販売。
 横浜紹介による取次。
・日蘭関係の悪化で、日本人引き上げ(1941年)。
・日本軍侵攻(1942年)後、宣伝班がマスメディアによる文化宣伝を開始する。(宣伝班の例:武田麟太郎、大宅壮一、横山隆一、浅野晃等)

・日本軍による占領地インドネシアの文教政策
 日本語出版(ジャワ新聞社による『ジャワ新聞』等)
 日本語教育・日本語学校→日本語リテラシーの拡大、読者の育成
 翻訳出版
 日本内地からの日本出版物の供給網を、(戦前同様に)再構築する。
・啓民文化指導所:日本軍が1943年に設置。日本文化の紹介・指導など。
→日本文学の講座・紹介、日本文学のマレー語翻訳、映画化など。
大宅壮一「文学は、その浸透性の広さと深さにおいて、あらゆる宣伝媒体の中で王座を占める」
<e>和田さんはこれを本書であまり推してないけど、これを軸にしている/なっているのでは? でもそれは(文学研究にとっては)自明?

・教育にも文学にも書籍が必要。そのために、日本からの書籍の流通の仕組みが(新たに)構築された。

・日本出版配給株式会社(戦時期に書籍流通業務を統合した国策会社)が、東南アジアへの書籍流通と、日本語書籍の占領地への配布を担っていた。
・国際文化振興会が、南方への文化工作のため、日本語教科書、日本紹介の書籍・映画・幻灯を作成し、日配を介して南方へ配布していく。→流通体制の再構築
・『ジャワ新聞』の書店広告が1943年頃から増える。

・(町田敬二)インドネシア国立図書館の前身・バタビア博物館について、占領した日本からは、西欧の価値観によって構成されたものであり、アジア・日本を中心に改編されるべき。
=大東亜共栄圏の理念を広く広報していく役割を担わせる。
→日本語図書館の構築(提供も行われていた)


●岡倉天心
・インドネシアで「岡倉天心」を文化工作に活用する、という実践例。
・「Asia is one」(『The Ideals of the East with Special Reference to the Art of Japan東洋の理想』)
・岡倉天心の著述は、日本の文化工作において、日本文化を広げるべき根拠として広く活用されてきた。大東亜共栄圏の理想を文化面で支えるイデオローグとして権威化、神格化されていた。
・浅野晃(岡倉天心著述の翻訳・編纂)が『東洋の理想』をマレー語訳
・注:岡倉天心の著作・思想自体がどうだったか、ではなく、戦時期の岡倉天心受容がどうだったか、でもない。
・当時の日本の文化工作(日本文化の価値付け・中心付け)に実際に岡倉天心の著述が有効だった、ということ。実際にそれが活用された、ということ。


■第七章
第七章 文化工作と物語
講談文学
山田長政の伝記

・文化工作は、日本についての知識理解を意図的に海外に広げていく技術。(第一章から六章まで通して)
・インドネシア国立図書館の日本語図書からは、小説、伝記、講談のような物語が、現地における日本の文化工作にとって有用な素材だったことがわかる。
・(一般的なイメージとはかけ離れているにしろ)「これが占領地で具体的な形をとった日本文学である。」

・国際文化振興会は、戦時中、南方文化事業会や日本文学報国会を設置し、作家・文学者による日本文学の翻訳や普及宣伝をすすめていく。
↓↑
インドネシアの現地で主に用いられたのは講談文学だった
(当時のインドネシアにおける日本近代文学像は「講談」)
インドネシアの文化工作・宣伝班による、義士ものの翻訳。


●講談
・特に20世紀初頭に定着。各種メディアによる伝播。庶民の娯楽、教訓教養。
・特に、日本近代の思想道徳イデオロギーと結びつきが強い。
・思想教育・教化の手段として使われてきた。児童向け講談本など。
・活字だけでなく、講演・演劇など表現が多様。
・講談社、昭和初期以降、複数の全集・シリーズを刊行。(児童向け含む)
・講談とかさなるかたちで、偉人伝も、児童向けの教育効果が期待されたジャンル。


●『少年少女教育講談全集』を例に、語りの手法、物語の手法を考える
・<e>語り口の分析、という文学研究的アプローチ
・語り手(=地の文)から読者への呼びかけ、感嘆表現
・語り手(=地の文)による、規範意識、明確な価値観の提示
・唯一当然のこと(断定、言い切り)として共感、価値観の共有を求める
・(物語中に登場するものとしてではなく)現在残る史跡・銅像や事象に結びつけて、歴史的偉人の物語を読者の現在と結びつける。語られる人物の偉大さの根拠を、銅像や修身教科書に求める。
・→読者は、語りを読むことで、日本人であれば知っているべきこと、認めるべき当然の価値観を、共有している。あたかもそういう永続的な価値軸があるかのような前提に、読み手を誘う。
・なお、示している価値規範は、忠義・武勇・立身・海外渡航征服・孝行貞節・勤皇。


●海外渡航・征服話群=海洋物語群
・日本人の海外進出を称え価値づける
=日本の大東亜共栄圏の建設を支える物語。
・実際に海軍は文化工作としてこうした物語群の活用をはかっていく。
・戦時下にあって教育研究等多様な場で活用されていく。


●山田長政の物語
・戦時下でくりかえし利用された海洋物語のひとつ。「大東亜共栄圏の理想を体現」「日本人の戦意昂揚に利用」
・山田長政の物語:日本からタイ(シャム)・アユタヤの日本人町へわたって長となり、王室にとりたてられて王位継承戦争に参加、王子の即位に貢献したが、のち政争等の末に死亡。

・17世紀〜戦前:伝・物語はあるにはあったが、あいまいで「国史上疑問の人物」あつかい。
・1930年代以降、日本人研究者による関連資料の調査・刊行が進む。「山田長政が「発見」されていく時期」。
 −当時のタイの国立図書館に、タイ王室が在タイ日本人に依頼して日本から取り寄せた、日タイ関係史資料が収集されていた。同時に、タイに関する西欧の文献も参照できた。
 −1934三木栄『日暹交通史考』、郡司喜一『十七世紀における日暹関係』(日本語資料、日タイ関係史資料の紹介、欧米文献の紹介)
 −オランダの国立文書館にある、当時のアジア・日本に関する資料について、調査が進んだ。(東インド会社資料、蘭印総督府資料)
<e>国・地域を越えた活動・人物の資料が、国・地域を越えて発掘・調査・参照されていく様子。(そのモチベーションは南洋・大東亜共栄圏思想)
・この動向が、アジアに拡がる日本人の発見・検証というトレンド、西欧によるアジア研究から日本中心のアジア研究にシフトする「大東亜学」の流れと合致していた

・山田長政の伝記小説が、戦時下に生産されていく。
−小説であること
−海を越えてアジアで活躍する日本人像
特徴「考証のそぶり」:小説の語り手が地の文で史料・文献を示し、考証・批判までする。(あくまでそぶり)
(例:「暹羅国風土軍記」等によれば当時の在留邦人は8000人以上というが、これは多すぎる、他国の文献には見当たらない、等)
(例:これらの長政伝はみな「山田仁左衛門紀事」による創作。ハーグ国立文書館の史料等の史料をひく)
→これは、1930年代現在に、アジアにわたった日本人の存在を、現地の史料等からあらためて見出している・発見している、という「物語」

<e>
「過去の人物・事象」=価値がある、ひろめたい思想にかなっている
だけでなく、「その「過去の人物・事象」が現在実際に再発見できていること」=価値がある、ひろめたい思想にかなっている
歴史修正主義がそうなのでは。事実や内容よりも、いままさに”真実”の発見が成功しようとしているというのが、大好物の物語。




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2022年10月25日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ


本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ

和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


「第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ」
書物を読者へ広げていく人・組織・仲介者をとらえる
国内文化統制から対外文化工作へ
発信するべき日本文化の価値付け
第1章 大学、文学教育
第2章 読書指導・読書運動、読書傾向調査
第3章 青年文化協会『東亜文化圏』




■第一章 「再編される学知とその広がり --戦時下の国文学研究から」

・海外に送り出すべき日本文化を明確にする。コンテンツを創出する。それを教え広げる技術と人員を養成する。=戦時下の国文学研究・教育
・特に、学知を広げる個々の場(=早稲田大学)に焦点をあてて。かつ、本書の趣旨である、知を教え広げる仕組み・技術(=大学、文学教育)として。

・1931年 国民精神文化研究所が創設。教育を通した学生の思想統制。「国民精神」の浸透。
・1935年 教学刷新評議会が設置。「国体、日本精神の本義」にもとづいた日本独自の学問体系に国内の学知を再編する。
・1937年 近衛内閣、挙国一致、思想動員。国民精神総動員実施要綱。
・教学統制 (1939帝国大学への具体的指示、1940国立私立大学への指示)
・国文学は、その「国体」「日本精神」の内実を期待される。
 日本の文学史を古代から続く永続的な価値の発現として、日本古典から国家民族の固有・永続的価値を読み取る。(=日本主義)

(早稲田大学(という個々の場で)
・国文学という学知が、日本価値の拡散のための技術として、国内思想統制と対外文化工作を実施する。
・早稲田大学は、多くの教員を輩出し、教科書などの出版も多い。これによって彼らの思想が伝わり流通していったということの役割。→<e>本書に通底する、戦時下の思想が流通する場・経路をあわせて考えるというアプローチの、一実践。

・文学部で、カリキュラムの刷新、学科再編、日本精神を基調とした科目編成、国体の本義などの必修共通科目。
・積極的に日本主義的な国文学研究・教育の実践へ。
・五十嵐力(国文学科)『新国文学史』『純正国語読本』(教科書)
・五十嵐力・金田一京助らが日本語教科書の編纂(占領時で日本語教授に用いられる)に参加する。
・日本語教科書を制作する=日本を教える上で価値ある文章を選択する=国文学者がその役割をになう=日本語や日本文化を教え伝え広げる技術
・他、海洋文学、南進文学。

・<e>参照:「学問をしばるもの」
・<e>学問どころか読書も
↓個人の営みとされがちな読書(第二章へ)


■第二章 「読書の統制と指導 --読書傾向調査の時代」

<e>読書の可視化がもたらす***
書物を教え伝え広げていく活動のひとつ。

・”読書傾向調査”:愛読書や感銘を受けた書物などの個人の読書嗜好を質問紙などによって調査する方法。
・例『早稲田大学学生読書調査報告書』
・読書傾向調査は、1920年代から見られ、戦時期に規模・対象が拡大・活発化する。関心が高まり、実践報告が多くなされる。
・読書傾向調査は、戦時期には、国民読書運動(全国的な読書指導のネットワーク)、推薦図書の選定、読書会の組織化等と密接に関わる。
・読書傾向調査を、国内の文化統制の手法(→かつ対外文化工作へ転用)として位置づける。
・(本研究の特徴)読書指導や読書統制については先行研究があるが、読書傾向調査にはあまり触れられていない。
・読書傾向調査が、戦時期に、図書推薦事業の図書選定の根拠として、その推薦図書が読まれているかどうかの検証として、読書指導への足がかりとして、位置づけられていくこと。その規模や対象が拡大していくこと。

(読書指導の動きは、こう)
・国民読書運動は、読書を全国的に指導統制する仕組み。
・同時期、文部科学省が全国的に読書指導統制の仕組みを強化していく。(大政翼賛会推奨図書の共同読書会など)
・読むべき図書を選定し、それを広く読ませようとする動き。選書・読書指導は思想指導に近づく。
・1938年 日本図書館協会が国民精神総動員のための「図書館総動員」活動を提唱する。図書館による読書指導への関心が高まる。
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」(読書方法、読むべき図書リストを含む)が提示される。大東亜共栄圏建設に寄与する自覚的日本人を作ると言う目的。

(読書傾向調査は、こう)
・1936年、文部省思想局が各地の学校の各種調査(読書傾向調査を含む)を調査
→1938年、文部省教学局が全国学生調査(読書傾向調査を含む)を実施する
・1938年 内務省による児童雑誌の指示指導(「浄化」)、1939年文部省が児童図書推薦(読書指導と選書)→図書推薦=読書指導
・読書傾向調査→推薦図書の普及の検証。1939年の文部省による児童読書傾向調査は「推薦事業の成果を検証」するとしている。
・同様の活動が勤労青年、農村、女学生へも。

(読書会)
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」が提示される。
・要綱では、読書後にそれを口頭発表することや、読書日記に記すことを推奨。これは読書を(個人的営みではなく)集団で共有することを求めている
・共有の先には、点検、指導があり、それは内面の可視化による点検・指導である。
・1942年、日本図書館協会が『読書日録』(日記帳)を作成・販売。
読書の可視化=内面の可視化→戦争に有用かどうかでの価値付け

・調査=その集団の読書実態の可視化→見合った図書選定→読ませる指導活動=読書会 ←読書傾向調査は(孤立した事象ではなく)読書統制のための一連の技術、一連の思想統制の手法である。
・この一連の技術は、読者の可視化だけではなく、読むという行為自体の可視化である。←<e>もっといえば、その可視化は読書(個人的行為)をプライバシーから引きずり出した集団化・社会化といえる?(↓読書会へ)
・調査自体は一見中立でも、読書指導へ続く一連の技術・転用
・一般的な(誰にでも推薦すべきというような)推薦ではなく、具体的な読者層に応じた積極的な読書指導、が必要とされた。<e>アプローチは分かるんだけど。

・<e>この一連の技術は応用・汎用可能?(例えば現代)

・「この章で…なぜそうした一連の手法としてとらえる必要があるのか?」
→「その技術がどのように変化し、利用され、転用されていくのかをとらえる手立てとなる」→内地から、占領地・移民地へ。この一連の技術は満州へも適用される。
→1943、満州開拓読書協会が設立される。満州での読書指導と指導者養成のため。

・この章の最後では、読書後の内面化が実際にはどうおこなわれたか、「具体的な『読書日録』や『読書日記』から今後明らかになっていくこととなるかもしれない」

・戦時期早稲田大学学生読書調査報告書[川越淳二著]不二出版, 2021.12


■第三章 「「東亜文化圏」という思想 --文化工作の現場から」

<e>雑誌というメディア
<e>現地理解への考え方

・雑誌『東亜文化圏』: 東亜文化圏の会(青年文化協会(母体))の機関誌。東南アジアへの文化工作の実践。1942-1945。
・青年文化協会: 日本を中心とした「新興東洋文化圏ノ拡充強化」の人材育成を目的として、アジア諸国(中国以外、南洋・東南アジア中心)との対外文化事業を展開していく財団法人。もとは海外留学生対応をしていた。留学生教育、教育部による日本語教育普及事業など。
・1942年、東条英機内閣で大東亜建設審議会が設置、大東亜共栄圏構想が具体化。大東亜省が設置され、欧米や東南アジアに対する対外文化事業を担当する(芸術普及、日本語教育、国際文化振興会などの文化団体の指導・補助)
・「東亜文化圏」という思想: それまで日本発信としておこなわれた文化工作を、大東亜という広域の文化圏に拡大し、その中心に日本を据える。アメリカ文化圏と欧州文化圏とアジア文化圏の思想戦。地政学を根拠とする。

・実際に文化工作・教育宣伝をおこなっていた官民の多様な活動のひとつが、『東亜文化圏』
・『東亜文化圏』の特徴:
 対外文化政策を、宣伝学・新聞学を通して、体系化・科学化していこうとしている(理論)
 映画音楽言語等の多様な表現領域で、言語政策・映画制作などのぐたいてきな対外文化政策の実践が検討されている(具体策、提案)
 インドネシアやフィリピン等における日本占領地での実践データや報告を多く含む(現場、実践結果、検証批判)

・『東亜文化圏』は「全東亜を思想的に一体一丸たらしめむとする」
・『東亜文化圏』は、地政学(という科学・思想)を文化工作として実践に移す場となっている。また、地政学だけでなく民族学や、新聞・宣伝のような民族の統一性をつくりあげる技術が、それを実践的な文化工作をおこなうことによってつくりあげようとしていく現場の活動と結びつき、現場実践・経験の豊富な情報・報告の提供にいたる。<e>雑誌というメディアが、多様な学知・理論、宣伝・文化工作、実践活動を、まとめあげる場となっている。雑誌はコミュニティ、雑誌は活動(無いけど理想的なものをみんなでつくりあげようとしている)、★<e>雑誌の”場”の機能。(速報性、多様性、集合性)
・報告・集約されている実践例: 日本語教育、映画。

・政策と現地実践とのずれへの指摘や批判もしばしばおこなわれている。例:現地状況や住民の理解不足のままの、一方的な対外文化政策。例:現地状況を理解するための、現地調査結果の報告など。
→現地の現実を調査し理解し、各国に適した文化工作が必要、という考え方。(そうでない欧米的なまなざしの国際文化振興会に対する批判、日本の西洋化への批判)
一方的な文化発信ではなく、現地に出向き、現地の青年と交流しようという動き。/実際にアジア各地に会の拠点を作ろうとする動き
→日本の文化工作政策自体への疑問や批判。
・ただしその批判は、方法・技術への批判であり、目的への批判ではない。(現地の理解が得られないのは、日本の価値や文化工作の目的がまちがっているのではなく、方法・技術がまちがっていて充分つたわっていない)
→結果どうなったかといえば、現地へは、兵士ではない民間の青年が文化戦闘員として派遣されるべき、という主張がされる。
<e>どうしてこうなった。どこでまちがえた。そして、現代の我々はこれと同じ間違いをしていないだろうか、という不安。

<e>可視化→理解・調査・相手を知る→批判・自省


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図書館が文献をメールで送るための近くて遠き道 : 「図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会」メモ

 2021年6月に著作権法が改正され、図書館がいよいよ文献複写をメール等で送っていいという時代が、来るのかどうなのか、それをどう段取りするのかを協議している関係者協議会による、2023年の本サービス開始を前にした、説明会、というのがおこなわれ動画配信もされていますので、それを見たまとめメモと所感。
 2022年10月24日現在です、新コンテンツが公開されれば追記するかも。


●説明会動画
・図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会(1回目)説明アーカイブ - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=WuF6iONAtiY
・動画見た人が質問を送れるフォーム(10月31日まで)
 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeMJKjUPBBzP5tJTk60PfpOTLOsFa5-4agIb3kd-FwWHI8hYQ/viewform?usp=sf_link

●ドキュメント類
・図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会
 http://www.jla.or.jp/committees/chosaku/tabid/988/Default.aspx
・図書館等公衆送信サービス説明会 説明資料(2022年9月30日)
 http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/20220930_toshokankoshusoshin.pdf
・図書館等公衆送信サービス説明会 1回目質疑応答概要
 http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/kosyusoshin_setumeikai_shitsugi01.pdf



■法改正の概要

・図書館等が、現行の複写サービスに加え一定の条件(※)の下、調査研究目的で、著作物の一部分をメールなどで送信できるようにする。
・その際、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払うことを求める。
(※)正規の電子出版等の市場を阻害しないこと(権利者の利益を不当に害しないこと)、データの流出防止措置を講じることなど

・権利者保護のための厳格な要件の下で、国立国会図書館や公共図書館、大学図書館等が、利用者の調査研究の用に供するため、図書館資料を用いて、著作物の一部分(政令で定める場合には全部)をメールなどで送信することができるようにする。

・公衆送信を行う場合には、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払うことを求める。
(※)実態上、補償金はコピー代や郵送代と同様、基本的に利用者(受益者)が図書館等に支払うことを想定。
(※)補償金の徴収・分配は、文化庁の指定する「指定管理団体」が一括して行う。補償金額は、文化庁長官の認可制(個別の送信ごとに課金する料金体系、権利者の逸失利益を補填できるだけの水準とする想定)



■動画(@図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会)等からわかる要点

・要件を満たす図書館のみが公衆送信できる。(「特定図書館等」)
・事前に利用者が図書館等に氏名・連絡先等を登録する。その際、不正防止規約に同意を求める。

・不正拡散防止(複製抑止措置?)として、
  全頁のヘッダに、利用者ID等を挿入する。
  全頁のフッタに、図書館名と作成日を挿入する。
図書館から指定管理団体へ、実施実績の報告と、実際に利用者に送ったPDFファイル(ただし利用者IDを削除した別のファイル)を、送付する。
・ファイルは保存期間中に破棄する、誤送信防止の対策をする、等。

・(関係者協議会としては、)補償金は利用者(受益者)が図書館に支払うことで負担することを想定している。
・補償金の徴収分配は、指定管理団体が一括しておこなう。
・補償金は、各図書館が個別の送信ごとに利用者から徴収し、指定管理団体に一括して支払う。
・補償金は、包括的な料金体系(年いくら)ではなく、個別の送信ごとに課金する
・補償金は、一律の料金体系(1件いくら)ではなく、著作物の種類・性質、分量に応じてきめ細かな設定
算定の要素は、著作物の種類(新聞か、雑誌か、価格あり図書か、そうでないか)と、価格と、ページ数。

・著作権者の利益を不当に害さないありかたについて、具体的にはガイドラインを作成する。
・複写送信可能な図書館資料には、ILL借り受け資料、電子資料(契約によりそれが可能なもの)を含む。
・著作権保護期間が満了していれば補償金支払いは不要だが、やっぱ駄目だったとわかったときの追徴・返還について
・複写可能な範囲の問題として、発行後相当期間経過の定期刊行物の著作は全部、が消えて、政令で指定することになった。政令で定めるのは定期云々のほか、複写内の写真や著作物。
・楽譜・地図・画集・写真集はのぞく。



■所感
・「個別に課金・徴収」「個別に複数要素できめ細かに算定」「ヘッダ・フッタにID等を入力」「その後それを削除したものを管理団体に送付」、現場パンクするのでは
・割高でいいから年額定額プランもつくってほしい、事務処理コスト半端ないので。
・なおILL・図書館間については特に考慮されていない様子。(第2回質疑応答より)
・PDFファイルのヘッダーにID等を入力できるシステム・ソフトが用意できなければならない?
・JPEGやTIFFは?
・連絡先はメールアドレスに限らず、LINEのIDその他の各種コミュニケーションツールのアカウント等でよい?([送信」なので)
・発行後相当期間経過の定期刊行物の著作は全部、の政令←図書わい。
・関係者協議会の案に現場から意見する態勢はないのか? パブコメは?


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2022年10月23日

やはり「誰でも」とは誰か? : デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議第2回登壇メモ


 デジタルアーカイブって、何?って考える。
 そのときにいつも思うことは、「いつでも、どこでも、誰でも」の「誰でも」って誰のこと? ということです。
 記憶する権利、あるいは記憶される権利は、誰が有しているのかと。



 これは、先日おこなわれた「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」の第2回に、登壇者の一人として参加しコメントさせていただいたので、そのときのコメントのまとめです。

・「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」 | デジタルアーカイブ学会
 https://digitalarchivejapan.org/advocacy/charter/kenshoentaku/

(参)デジタルアーカイブ憲章について
・デジタルアーカイブ憲章 https://digitalarchivejapan.org/advocacy/charter/
・デジタルアーカイブ憲章 (案) 2022年10月11日円卓会議提出案 https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/09/DA-Charter-ver-20220922.pdf
・デジタルアーカイブ憲章におけるこれまでの論点整理 (2022/10/11版) https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/10/RontenSeiri-20221011.pdf


 デジタルアーカイブ憲章というのは、デジタルアーカイブ学会が策定しようとしているもので、「デジタルアーカイブが目指すべき理想の姿」を提示して、デジタルアーカイブ関係者が実現に向けてどのようなことを行なうべきかを宣言する、というようなものだそうです。(記事末に但し書き)

 なんか、日文研の図書館の人キャラみたいな感じで、「国際化」のあたりのコメントを求められていたのですけど、えーそんなおそれおおい、英語もろくにしゃべれやしないし、なんなら海外の司書紹介するのに、と思いつつ、それでも依頼されたからには”足らず”をどう補えばいいかをほじくったらいいのだな、と思いながら、下記の会議日10/11現在案をふまえて。

・デジタルアーカイブ憲章 (案) 2022年10月11日円卓会議提出案
 https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/09/DA-Charter-ver-20220922.pdf

 しかも、最初のコメントターンが持ち時間3分だったので、エレベータよろしく端的短文でピシャリと言わないと無理そうだな、という感じでだいぶ凝縮版にしたのが、下記の2要点です。

 @ 国際化
 A DEI

 メインの発注だった「@ 国際化」のほうですが、上記10/11案でもちゃんと明言はされています、まあ多言語だけで済む話ではないし、正直「観光」につなげないと国際化と言えないのかどうかとも思うのですが、そのあたりはそう言いたい人もいる多様な学会だからそれはそれでいいし、内容的なことを盛り込むにしても現案の派生のようなものになるだろうから、こまかく言い募るようなことでもないかなと(3分しかないし)。
 ただ、もし現案に決定的な”足らず”がもしあるとしたら、それを日本サイドだけで考えてもの申そうとしてることなんじゃないかな、と思ったわけです。
 つまり、「憲章をみんなで創る」の”みんな”とは誰か、と。
 なので、提言@として「「みんなで創る円卓会議」の議論の国際化」を提示しました。

20221023-1.jpg

 これは、デジタルアーカイブやそのコンテンツを国際的に流通させるとか、この憲章をつくって世界にも示すとか以前に、いまこの場でやってるこの議論に、海外から、特に日本の情報やコンテンツを求めている人に加わってもらって話を聞くべきではないのか、ということです。
 (念のため、国籍が海外の人、という意味ではないです、環境とか文脈の問題として。)

 例えばこの憲章ががっちり成立成文化されて、世に公表されまた英訳版も作成されて、こんなん作りましたって海外の関係者に発表したときに、たぶんですけど、「えっ、なんで決める前に教えてくれなかったの、先に見せてくれてたらいろいろ言えたのに」ってなると思うんです、国際化トピックスのあたりに対して、海外の日本研究関係者や司書等から。
 なると思うんです、っていうか、過去にそうなってた/なってるシーンを別の企画でちょいちょい見聞きしてるので。たぶんそういうの、なんだかなー、って思われるパターンのやつだと思います。知らんまに知らんとこでやってんなー、ていう。

 ていうか、それってもうすでに海外サイドから提言されてることなんですね。

・「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」
 http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/04/J2016_520.pdf
・極私的解説付きの「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」: egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/450762067.html

 これは海外で日本美術やその研究・資料提供の仕事をしている専門家の人たちが、日本側に向けて「もっとこういうふうに情報発信力を高めてほしい」ということを提言してくださったもので、美術に限らずあらゆる文化・学術的プロジェクトに言えることかと思います。
 その中に「3.3交流・ネットワーク作りやコラボレーションが重要であること」の一部として、

20221023-2.jpg

 「海外の関係者もプロジェクトに加えて進めること」
 日本側だけの問題として日本側だけでなんとかしようとするのではなくて、向こうの人たちひっぱりこんで。それで何かが成就するか憲章が成立するかどうかよりも、一緒になって何かやってるその過程の議論や活動のほうにこそなんか意義的なものがありそうに思います。
 少なくとも、あたしみたいな中途なハンパ者に国際化まわりのコメントさせようというくらいであれば、リアル開催でもないんだし、オンラインで誰なりとひっぱってくればよいのではと思うので、第3回はぜひそのようによろしくお願いします。

 というのも、もちろんこれは主語が日本だからとか我々の範囲とはという話はおっしゃるとおりにせよ、受け手・ユーザの話を聞くチャンネルはあっていいし、何より、日本サイドだけで意見こねくり煮詰めてるだけでは得られないような、ちがった見方が得られるのがいいんだって、こういうのは釈迦に説法かと思うんですが。
 実際現案のデジタルアーカイブの「国際化」の文脈に「観光誘致」が出てきてると、そのコンテンツはなんというか、キラキラしたポジティブな美しい国みたいなもので飾られてしまうのではないかという危惧もなんとなくあるのですが、開国ニッポンじゃないんだから日本サイドの売らんかなを「国際化」と言ってる場合じゃないので、ほんとのところ我々が日本から世界へアクセス可能化していくべきコンテンツはそんなものばかりではないし、じゃあ何が求められてるんだ、っていうのはシンプルに傾聴すべきだろうと。

 例えば先にリスボンで開かれたEAJRS(ヨーロッパ日本資料専門家会議)では(あ、その録画もYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCaDvNifPoLWOsRrLUC2p-tg)で公開されてるので、どうぞご覧ください、良い時代になった)、こういう指摘がありました。
 いま海外の日本研究や教育で取り扱われているトピックには、主にDEIの視点が取り入れられている。なので、必要とされているコンテンツは例えば、アイヌ、琉球、ジェンダー、部落解放、水俣、といったことだ、云々。

 というわけで、そうだ、取り組む姿勢にもコンテンツにもDEIを、という発想を得たのが「A DEI」です。

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 「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」をあわせて「DEI」と昨今では称されていますが、特に今回焦点をあてたのが「Equity(公平性)」だったかな、と。
 こういう図をネットでよく見るかと思うのですが。

20221023-4.jpg

 我々が目指すべきって右側ですよね。「誰でも」ってそういうことだと思います。

 という考え方をふまえて現案を眺めてみると。
 利用者がアクセスする時に不利・障壁がある場合には、それをフォローしよう、という「Equity」については言及があるのがわかります。

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【デジタルアーカイブの目的】
2. アクセス保障
「個人の身体的、地理的、時間的、経済的などの事情から発生するあらゆる情報格差を是正し、いつでも、どこからでも、誰でも平等に、情報資産にアクセスできるようにします。」

【行動指針】
(ユニバーサル化)
「心身の機能に不自由のある人々や高齢者など、様々なアクセス障壁のある人びとによる情報資産の更なる活用を促し、デジタル技術を用いて誰もが便利に享受できるようにします。」
-----------------------------------------------------

 一方で、自らの情報発信やコンテンツ提供によって、声をあげ存在を示し課題を社会に共有しようとするような、発信者・提供者サイドについてはどうか、と見てみると。
 その「Diversity(多様性)」には言及があるのですが、「Equity(公平性)」やその格差是正にまでは言及が無いのではないか、と思うのです。

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【デジタルアーカイブの目的】
1. 活動の基盤
豊富で多様な情報資産を永く保存し、情報資産の生産・活用・再生産の循環を促すことで、知の民主化をはかり、現在及び将来にわたり人びとのあらゆる活動の基盤となります。」
3. 文化
あらゆる人類の営みと世界の記録・記憶を知る機会を提供することで、多様な文化の理解を助け、新たな創作活動の促進により文化の発展に寄与し、コミュニティを活性化させ、人びとの生活の質を向上させます。」

【行動指針】
(オープンな参加)
「デジタルアーカイブが扱う情報資産の保存・公開・活用等の全ての計画・実施局面において、その提供者と活用者を含む幅広い主体の声を聞き、主体的な参加を促します。」
(体系性の確保)
「アーカイブ機関が保有する情報資産に限らず、大学・研究機関、メディア、民間事業者又は個人が保有する情報資産についても、可能な限り収集・保存し、構造化・体系化して公開します。」
-----------------------------------------------------

 もちろん多様性の確保はきわめて重要なことですが、多様なことだけを目指すつもりでいたとき、ほうっておくとマジョリティに偏るであろう、あるいは声の大きい小さい、力の強い弱い、土地柄や数の大小、そして結局は市場原理によって流れていくだろうことは、まあ容易に想像がつくので、そこを一歩踏み込んで流れを踏みとどまらせるような、意識的な宣言は必要なんじゃないか。
 という思いで、とは言えそういう思いを抽象的にふわっとコメントするだけだと扱いづらいかな、と思ったので、こちらも踏み込んで、なんとなくそれっぽい文体で言語化し、具体的に検討の俎上に載せやすくしたのが、当日の提言Aです。

20221023-5.jpg

 提言A
 「リテラシー、地域、ルーツ、性差、社会制度、市場原理などの様々な要因から、声を発し課題を広く共有することに不利な状況にある、マイノリティや特定の社会的属性を持つ人々にも、デジタル技術により情報発信の格差を是正し、コンテンツ可視化を促すことでエンパワーメントできるように…」的なこと(を現案に加える)

 アクセスに障壁のある利用者がいるのと同じように、提供者・発信者の側にもなんらかの不利な状況にある人たちがいるはずではないか、と。それはリテラシーの問題だけでなく、風潮や力関係で被っている不利かもしれないし、社会の無理解や制度の不整備によるものかもしれないし、単に属性がまれとか数が少ないとかいうマイノリティなだけなのに被っている理不尽かもしれない。それって、リアルな社会現場だけでは声を大きくできなかったかもしれないけども、そのディスアドバンテージをデジタル技術やオンライン環境によって解消し、あるいはアンプのように声を増幅することで、コンテンツの可視化、課題の社会共有が実現できるのではないか。

 デジタルアーカイブって、そういうエンパワーメントができる存在だと思っています。

 ていうか、そういうデジタルアーカイブを目指さないんだったら、デジタルアーカイブ立国なんかやんなくていいって、わりと本気で思ってます、あたし別にデジタルアーカイブ自体にはそこまで価値も興味も置いてるわけではないので。

 そこまで言わなくても「多様な文化の理解」でいいのでは、って思われるかもしれませんが。
 でもアクセスの保障には「心身の機能に不自由のある人々や高齢者」のようにかなり具体的にあれしてるんで、発信者・提供者側についても多少踏み込んでもバチは当たらないと思います。
 「誰でも」って、そういうことじゃないかな、と。
 「記憶する権利」というか「記憶される権利、記憶させる権利」じゃないかな、と。


 というような感じのことを、がんばって3分で当日申しました、というまとめでした。






 但し書き。
 なお、依頼を受けて登壇コメントはさせていただいたものの、実を言うと、このプロジェクトの発端や経緯についてとか、この憲章の主語や矛先がどのあたりなのかというのが、各種文書を拝読してもいまいち身体に落ちてなくてふわっとした状態だったのですが、それでもふわっとした立場なりに遠いところから眺めて言えることもあるんだろうな、というくらいであれさせてもらった感じです。

posted by egamiday3 at 12:17| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月04日

今日の「クイズ鑑賞」メモ: 「東大王」2022年9月21日放送回


 「東大王」2022年9月21日放送回、Tverにて視聴。
 https://tver.jp/episodes/epyydjbgj6
 すべて敬称略。

 クイズ猛者枠は、アタック25地上波最終回の優勝者。


●第1ステージ「4面マルチクイズ」

 第1ステージ「4面マルチクイズ」は、今回初登場の企画。
 画面に4問の問題(主に画像クイズの類)が田の字に並んでいて、どれか1つを選んで解答する。4問中3問が正答10ポイント、1問が難問で正答20ポイントという設定。正解すると、新しい問題が補充される(10ポイントの問題が正答されれば、そのマスに10ポイントレベルの新しい問題が表示される)ので、常に4面中1面を選べる。
 対戦は、先攻・芸能人チームが4人、後攻・東大王チームが3人参加し、各チーム1人づつ解答者となって交互に解答する。つまり7人が1問づつ7問解答して、各チームの合計獲得ポイントで勝敗を決める。これを、一ステージで3戦、(少なくとも今回は)各回で出題内容が異なる。
 1回目 日本各地の郷土料理の写真とヒント(例「青森県」「???に」)から、料理名を答える
 2回目 広辞苑のある見出し語が提示され、その語の次に(五十音順で)書かれている、生き物名を答える(例:おぼつかない→オポッサム)
 3回目 世界遺産の写真とヒント(例「ドイツ」「???大聖堂」)

 これ、東大王チームがかなり不利なルールじゃないかなと。
 4問中10点問題と20点問題があって、東大王チームが3人、芸能人チームが4人。ということは、芸能人チームは全部10点の易問だけ選んでも40点取れるから、東大王チームは1人が難問20点取っても40点で同点。勝ち越そうと思ったら、3人中2人が難問20点で正答(計50点)しないと勝てない。しかも、易問10点は常に3種類の問題が出てるから、まあどれか1つは正答できそうなのあるだろうところ、一方で難問は常に1種類の問題しか出てないので、その1つがわかんなかったらもうアウトっていうことでしょう。ということは、東大王チームは3人中2人が決められた難問1つに必ず正答しないと勝つことはできないし、あろうことか芸能人チームがたまさか難問1つ正解してしまったら(計50点)、東大王チームは3人全員が決められた難問1つに正答(計60点)しないといけない。かなり厳しそう。
 東大王というのはどちらかというと、純粋な知識量というよりも、早押し技術・スピードや、それを支える推理・推測力や、事前の対策力のようなものによって成り立っている傾向があって、この難問1つを確実に正答、というのは難しいんじゃないか。
 実際今回も、1回目の郷土料理は芸能人チームの勝利、これは知識が問われる系(むしろ芸能人チームはロケや情報番組等で有利なやつ)。2回目は、語彙力や五十音による推測力が問われる系で、東大王チームの勝利。3回目の世界遺産は当番組必須科目で、東大王チームの勝利。

 
●第2ステージ「難問オセロ」

 特になし。


●第3ステージ「全員一斉早押しバトル」

 2問目のいわゆる「問題文押し」(注:略)で、ピンクダイヤモンドの原石が発見されたアンゴラを答える東大王チーム・東は、芸能人チームクイズ猛者枠・倉門との”対策会”で情報共有していたとのこと。いまどきの対策は、画像や出題形式あたりまで考慮にいれるんだろうな…。


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2022年09月25日

本読みメモ『日米交流史の中の福田なをみ』:序章と終章から

小出いずみ. 『日米交流史の中の福田なをみ : 「外国研究」とライブラリアン』. 勉誠出版, 2022.2.
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101275


・生い立ちや若い頃について知る人も少なく、半ば伝説の人になっていた。片鱗が取り上げられながら全貌が明らかでない福田なをみをとりあげ、日米に跨がる彼女の仕事の文脈を解明しつつ評価を試みた(342)

■序章
・外国研究と資料や情報資源を考えるにあたって、本書では一人の人物、福田なをみを参照軸において観察する。[3]

・福田なをみ(1907-2007)[4-]
・第二次大戦前、戦中・戦後の時代を通して活動した、日本研究ライブラリアンの草分け
・アメリカ合衆国と日本の両国の多様なライブラリーにおいて仕事をしたという、希有な経歴
・1930年代から1970年代までの期間、ミシガン大学、米国議会図書館、東京帝国大学図書館、外務省、GHQ、国立国会図書館、国際文化会館、メリーランド大学図書館、ミシガン大学図書館など
・福田の活動は、戦時期と占領期を挟む期間、とりわけアメリカで日本研究が学術研究として形をなしていく時期
・福田自身は記録や資料を手元に残さない人であった…本人が直接書いたものが少ない[5]
・現在までに評伝ないし研究はない…日米にまたがって所在する資料を発掘する必要がある。[5]


■終章
・ライブラリアンとしての福田は、「図書館員」あるいは「司書」で連想される静的・受動的なイメージではなく、ライブラリーにおいて必要とされるサービスを積極的に繰り広げ、調査や出版のプロジェクトを企画し、財団から資金を引き出し、各地を歩き回る能動的なライブラリアンであった。[331]

・外国研究の二面性とライブラリーの情報資源
・アメリカでも日本でも外国研究は異文化理解にもなれば緊張の中で敵国研究になる。研究主体国と対象国を交流によって結びつけるだけでなく、研究主体による解釈によって離反させる機能もあわせもつ。(333)
・福田はそれを理解していただろう。それでも需要を把握し、資料の利用可能性を高め、情報資源化にとりくみ、ライブラリアンとしての責務を果たした。(334)
アメリカでは、地域研究は対外政策を立案し、遂行するのに不可欠とされ、国防関係予算を含む資金がつぎ込まれてきた。つまり、地域研究を政策科学として取られている。それに対し日本は「日本理解促進」を目的とした対外文化政策の一環として奨励し、資金を投入している。日米の政策意図は異なる。(339)
外国研究(としての日本研究)と自国研究(としての日本研究)の特性にはどのような違いがあり、それが研究結果にどう反映されるか。この点は、日本が外国における「日本研究」に積極的に取り組むようになった、福田より後の時代の「日本研究」を俯瞰することで何らかの解が得られる可能性がある。[339]
・福田が経験した国際間の史料アクセスの問題はデジタル時代の現在でもまだ解決されていない。相手国への関心、研究体制の違い、言語、資料提供制度、記録資料の残し方などの差異が障碍としてのこる。
posted by egamiday3 at 18:01| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする