ロンドン出張のついでということもあり、なんか話題になってたので、開館したてのバーミンガム図書館に行ってきました。2013.09.14当時の話、ということで。
ごく簡単にまとめると、
・話題で、開館したてで、人が押し寄せすぎて、喧噪でわやわやしてる。
・ハード(建物・施設・デザイン)は、”イマドキのトレンド”に実に忠実な感じ。
・ソフト面、サービスや実用性・効果については、まだなんとも言えない、見えてない。(保留)
という感じでした。
・Library of Birmingham
http://www.libraryofbirmingham.com/
・「People's Palace:欧州最大となるバーミンガム図書館が開館」 - カレントアウェアネス・ポータル(E1473)
http://current.ndl.go.jp/e1473
・Library of Birmingham - Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Library_of_Birmingham
そもそもバーミンガムという街は、産業革命で一気に発展した工業都市とのことで、ロンドンに次ぐ英国第2の都市をマンチェスターと争ってるような感じ(人口では第2位)。とはいえ、大都市という雰囲気ではなかったです、ヨーロッパの小都市で人が多い雰囲気。
ロンドンからは特急で1時間半かかるかかからないかくらい。(行くんだったら、オフピーク&往復割引が割安でオススメです。)
駅前の繁華街はこんな感じ(土曜昼)。


なるほど、こういう感じの住民の皆様が押し寄せるんだなあ、というその真新しい新築ほやほやの図書館が、こちらです。



蔵書約100万冊。広さ31000平米。総工費1億8,860万ポンド(1ポンド=約160円と考えれば目安となるでしょう)。
ぱっと見で正直、「なぜつくった」感はいなめない。ホテルとかパレスとか言われてますが、個人的には「ポーラ化粧品」の印象が強い。わかるやつだけわかればいい。
それでもまあ、問題は中身です。と思ってとりあえず入るとエントランスがこんな感じ。


ああもう、一目見てわかります、図書館のそれにしろ公共建築のそれにしろ、イマドキのトレンドに実に忠実に、道を踏み外すことなく真っ当になぞらえてつくられてる感じの内装デザイン。いま新築で何かつくったら、確かにどこに行ってもこんな風景が見れます。見覚えがあるデジャヴ感、カタログ感満載です。
ひとフロアづつ拝見していきます。

半地下の一番手近なフロアが、Book browseという、小説や人気の実用分野が並んでる感じ。そしてこれもイマドキの、図書館分類を配架に採用していない、一般の人の感覚にもとづいた並びになってるパターンのやつです。この本棚は旅行、この本棚は料理、ここは健康、このフロアは小説で、その中でも恋愛、サスペンス、背表紙に拳銃マークやハートマークがついてるという感じ。
それはいいんだけど、さてじゃあどうやって本を探したらいいんだろうと思って、現に書棚に並んでるはずの本をフロアの端末で検索してみるのですが、「Book browseフロアの健康の棚にある」ということまでしか表示されなくて、そこからどうやって探したらいいのかがよくわからない。じゃあ棚の前に立てば感覚的に探せるのかしら、と思って立ってみるけど、わからない。これはまあある意味しょうがないかもしれません、感覚的に並んでるということは、この土地の、この文化圏の、この言語・この出版流通環境の中で共有的な感覚を持ってる人間じゃないと、アジアの小国から来た英語もままならない御殿場ウサギがいくら本棚をにらみつけたところで、探せないのは当然なのかもしれないです。うん、じゃあそんな立場のユーザには探せないんだったら、公共図書館って何かね、という気はちょっとするけど。
まあ、聞けばいいんだろうけど、フロアのステーション的なところに職員常駐してるみたいだし。
地下1階は子供と音楽のフロアです。
お話し会的イベント用の階段フロアがありました、これはお子たちが盛り上がりそう!
グラフィックノベルの棚には日本のマンガほとんどありませんでした。でもOPACによれば相当タイトルあるはずなので、借りられてるのか、書庫なのかな。
上へあがります。

1階(イギリスの1st floorは2階目です)はビジネス・健康・生涯学習。2階に「Knowledge」・3階に「Discovery」という名前がついてて、人文系・社会系・科学系・芸術系の各分野がそれぞれにちりばめられてるんだけど、実際には「Knowledge」「Discovery」に意味はなさそうな配置なので、まあイメージ戦略でそれなりの単語使ってみたパターンかなと。
1階には「Advice」と書いた小部屋が何室かあって、たぶんビジネスや生涯学習的なことでの対面のディープなレファレンスをやってくれるんじゃないかな、と想像できます、使われてなかったけど。
あと、フロアの随所に自動貸出装置がいくつもあって、たぶんセルフで随時貸出処理ができます、これも使われてなかったけど。(ていうか、人が本を借りている風な風景を最後まで見なかったような気がする)
インターネット端末はほぼ満席でみんな使われてます、このへんはどこも変わらない風景ですね。
そして、たぶんこれが目玉なんでしょう。
2階・3階・4階をつなぐ円形の吹き抜けエスカレーターです。



↓パノラマ(クリックで拡大)

土曜日の昼間です。人が1階からどんどん湧いてくるように登ってきて、そしてどんどん上へ上へと進んでいきます。もはや行列です。阪急烏丸駅か京都伊勢丹に匹敵するくらいのエスカレーターの行列です。うん、そういう歩みの進め方や視線の向け方をしてる6-7割の人たちは、まあ図書館を”見に来た”人なんだろうな、っていうのはなんとなくわかります。自分もそうなんですけどね。
ちなみに、吹き抜けエスカレーターから見えてるあの書架のエリアの半分くらいは、一般のユーザは立ち入れないようになってるので、実際に手にとって閲覧できる蔵書を置いてるというわけではなさそうです、古い参考図書か製本雑誌かな。これ↓も、背の高い人だけが専用に読む内容の本、というわけでないのなら閲覧を前提とした配架ではないのでしょう。

あと、図書館分類を採用せずに感覚的に配列してるっていうならいいんだけど、並んでる書架をざっと眺めても、その感覚的な方のカテゴリ名すら見えるところに表示されてない、っていう。棚にだいぶ近づいてからじゃないと、そこにどんな本が並んでるのかはわからない感じになっちゃってるので、これは単純に設計ミスじゃないかなって。それも逐一フロアの職員に聞くっていうのが、意図的にそうしてるならいいんだけど、もうちょっと自律的に動ける設計にしたほうがいいとは思う。Discoveryフロアなんだし。(だから、か?)
そして、阪急烏丸のように皆が上へ上へと向かうその先には4階・アーカイブと地域資料の間があります。本来だと客数の少ない中で静粛に時間をかけて史料と向き合うようなゾーニングをすべきところなんでしょうが、残念ながらそういうわけにはいかない。いままで以上に混雑している。
この4階の先は最上階・シェークスピア記念展示ルームがあって、上へ上へツアーのゴール地点となっているのですが、ゴールへはエレベーターに乗り換えるか、階段で数フロア分歩かないといけない。エレベータホールは待ってる人たちであふれてるし、階段ですら蟻の行列みたいになってる。そこがボトルネックで滞留してるところへ、下階からは吹き抜けエスカレーター直結でどんどん人が増えて来る。しかも、そこからアーカイブの書架やマップケースの合間を縫ってフロアを通り抜けないと、エレベータホールにも階段にも行けない配置になっちゃってる。さらには、アーカイブのフロアなんかもともと手狭に作られてるから、余計に人口密度が高くなる。
結果、アーカイブ・フロアがまさかのバーゲン会場と化している、ていう。
いやたぶん、常態の図書館でなら、アーカイブ・フロアも展示ルームもひとつのラインで歩いてまわれて、なるほど図書館とはこういうところなんだなあって学ぶことができそうな設計なんだけど。常態じゃないいまにあっては、そうはなってないという。
それでもがんばって階段で展示ルームへ行こうとすると、途中に職員の人がいて、ダメです下りてください、って悲壮な顔つきで訴えかけてくる。なんやと思うてると館内アナウンスがながれてきて、どうやら展示ルームがあまりの入室者数騒ぎで入場制限かかってしまったらしい、「どこそこでレジストレーションしてください」て言うてはる。
というわけで、ハードはこんな感じです、ていう。
じゃあ、ソフト面は?サービスはどんな先鋭的なのが?というあれなんですが、これは一言で言うと、わかりません。
まずあまりに人が多過ぎてわやわやしてて、サービスの在り方だの利用実態だのを観察できるような余地がない。視界が良好じゃないので。
加えて、こんなサービスをしてますよ、というような掲示なりサインなり受付なりその体制・姿勢のようなものが、見えないというか、みつからない。これは結構に不思議なことです、あたしはこれまで国内外のいろんな図書館を山ほど歩いてきましたが、サービスの様子が見える範囲に見当たらない図書館なんていうのはそうそうない。英語だから文化圏が違うからといったって、手厚い図書館はぼーっと歩いてても、どんなサービスをしてるのかが目に飛び込んでくるものです。えーこんなんやってんねやーって、見つけてホクホクできるものです。
それが見えない、ホクホク感がない、というのは、人の多さにかき消されてしまってるのか、まだ開館数日だからしょうがないことなのか、それがこの街の住民ニーズなのか、それはわかりません。わからなくて、見えてないので、ここについてはまだ評価できない=保留にしておきたいと思います。
落ち着いたら、サービスのありかたがちゃんと見えてくるのかもしれませんし。
そう、落ち着いたら。これから、です。
ホクホクできたのは、屋外の壁面パネル展示で、図書館の沿革紹介的なのをやってたやつです、ああこれいいなあって。こうやって、入館しなくても道すがら歩いてる人に図書館のアピールができるの、いいなあって。

まあ、そんなアピールしなくても山ほど人は来てるんですけど。
うん、人が”来てる”っていう感じでしたね。
それはそれでアピールのひとつではあろうと思います。ひとつ、だけど。
来た人たちが、ただ来る・集まるから、集う、つながる、何かを産み出す、っていうふうにころがっていけるようになるのは、もうちょっと落ち着いてからじゃないかなって、思いますね。
その落ち着いた頃になって、従来だと図書館に来なかったような人たちにも近しい存在として親しんでもらえるんだったら、こういうわやわやの苦労も甲斐無しではないかな、って。
まあ、そう理解しています。
これから、です。