2014年02月28日

大英博物館のグレートコート : ミュージアムの"場所"について


 去る9月と1月に、春画的な用向き(http://egamiday3.seesaa.net/article/376964225.html)でロンドンの大英博物館に行ってきました。どちらも2-3日程度ではありましたが、ほぼずっと博物館内に居て仕事してた感じでした。
 居てた場所としては、仕事として地下倉庫(バックヤード)にずっと籠もるとか、たまに空き時間に展示室(お客のいる場所)で展示見るとかでしたが、加えて、ちょくちょく居てたのが、グレートコートと呼ばれる場所です。

 このグレートコートって、ミュージアムが持つ”場所”としてなんか結構すげえぞ、ということをつらつら思ってたので書いときます。
 どうすげえかと言うと。
 ・無目的/多目的なパブリック・スペースとしてすげえ具合いい。
 ・アクセスというか身動きがすげえ良くなる。
 ・なんか存在がすげえグレーていうか狭間(はざま)。

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 ↑写真はこんな感じです。
 で、どういうフロアプランになってる場所かというと、↓こんな感じ。

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 本館建物をざっくり「ロ」の字型だと言っちゃうと、その「ロ」の四辺に囲まれた中庭部分ですね、その真ん中に円形の建物(いわゆるBLの円形リーディングルームだったところ)があったところを、すっぽり屋根をかぶせて床を張ってモダンに改装して、まるごと屋内にしちゃった、結果的に巨大吹き抜けスペースになってます。屋根っつってもガラスですから、お日さまの様子も雨の様子も、夕暮れや宵の様子も感じとれます。
 現在このフロアには、インフォメーションカウンターがあり、特別展チケット売り場があり、ミュージアムショップがあり、簡易カフェスタンドがあり、ベンチがたくさんあり、その他はまあまあ広い床スペースというパブリック・スペースになってます。中央の円形部分はかつてのリーディングルーム、いまはときどき特別展示会場として使われる、という。館内ではごくごく近年にできた新参者的なスペースのはずなんだけど、たぶんいまとなっては大英博物館の象徴的おもて看板的存在になってるんじゃないかな、って思いますね。

 で、ここ滞在中のあたしは、なにかっていうとここでぼーっとしてるっていう感じだったんです、というのも、仕事をすべきバックヤードへは鍵がないと入れないので、中のスタッフの人と待ち合わせるためにここにいる、とか。仕事終わりで解放されはしたけど身も心も脳も疲れ果ててクールダウンするために、ぼーっとベンチに腰掛けてるとか。次の用務までに時間があいちゃってごめんなさいここでお茶しててって言われて、時間つぶしにここにいるとか。その末に、ごめんもう30分待って、ってここにいるとか。そんなん。

 そうやってぼーっとしてると、いろんな人たちがここに来て、ここを通って、しばらくここで過ごして、そしてどこかへ行く、っていうそういう様子が見られるわけです。
 学生グループがフロアマップ囲んでわいわい言ってるとか。
 日本人の中高年の一団が先頭のガイドさんにひっついてだらだら歩いてたりとか。
 おのぼりさんっぽいファミリーがコート内のでっかい彫像の前でかわるがわる写真撮ったりとか。
 夫婦で来た人が本見ながらあっち行こうかこっち行こうかを延々ディスカッションしてるとか。

 それだけならただの公園のかわりでしかないのかもしれないけど、加えて。
 例えば、地下のエデュケーション・ルーム的な場所へ続く階段があって、そこへ行くために小学生の団体(ヨーロッパな子もいればインド系の子もアジア系の子もたくさんいる)が列を作って待ってて、先生のお話をお行儀良く聞いてる、とか。
 スケッチブック持った中学生たちがふざけあいつつも課題のための準備をしてるとか。
 韓国語が聞こえてくるなあと思ってなんとなく見てたら、観光で来たっぽい韓国の大学生のグループの前で、もうひとりの学生、たぶん彼女は留学か何かでこっちにいるんでしょうけど、その彼女がバイトでガイドか何かをしてるらしく、でっかいクリアファイルにたくさんの写真を綴じたのをぺらぺらめくりながらいろいろしゃべってレクチャーしている、それをみんながふむふむって聞いてる、そのうち引率されて展示室へ向かう、みたいなのとか。

 あ、ここって、パブリック・スペースとしていい具合に機能してんだな。
 活用っていうか、便利使いされてるんだな、と思たです。

 博物館・美術館の類に行ったときにちょくちょく困るのが、”展示を見る”ということをしないでいられる居場所がほとんどない、ていうことです。たまにあっても狭いかすげえ混んでて居られない、ていう。そういうときって、なんていうんでしょう、「自分って展示を見ないんだったらここに居ちゃいけないんだな」的な居心地の悪さを、もちろん無意識なんですけど、なんとなく抱いちゃう。館内にいるんだったら、展示を見るか、じゃなきゃカフェでお金払って飲み食いをするか、ショップで買い物してるかくらい。それ以外のめいめい勝手な目的、無目的または多目的のためにそこに居てられる空間、なんてのは、しかもそれなりのキャパでっていうのは、まあふつーの博物館・美術館にはないですよね、だってそんなことするための施設じゃないんだし。あっても、だいたい狭い。

 でも、”展示を見る”ためには、”展示を見る”こと以外のもろもろな事・こまごまな事もする必要ってちょいちょい出てくるし、したいじゃないですか、実際。
 それができるパブリック・スペースが、ここ大英博物館にはあるわけです。

 休んだっていいし、立ち止まって迷っててもいい、雑談やディスカッションしたっていいし、即興のレクチャーを催してもいいし、待ち時間の居場所にしてもいい。
 そしてそのためのベンチが、まあまあたっぷりある、という余裕。
 無目的/多目的のための、居場所。 

 またアクセスがいいんです、ここ。
 まず南側の正面入口から博物館に入館するともうすぐまん前にこのコートが見えてるんで、入館者の足はほとんどが自然にここに向きます。そして、マップやサイン見てあっち行こうかこっち行こうかって、立ち止まってしばらく考えたりみんなでやいやい言ったりできる。
 入館してすぐに居場所があるって、すげえなと思います。欧米の古い古典様式の建物な博物館・美術館って、入口入ってすぐのところはだいたい狭くて混雑してて、すぐに展示室への順路につながってるとかか、広い吹き抜けがあったとしてもそれはあくまで一時的な通り道のためであり、またはチケットのための事務的な用向きのためのスペースであって、過ごせる居場所がたっぷりとあるわけではないですね。たぶん大英博物館さんも、このグレートコートが出来る前の入口付近・「ロ」字の南辺あたりは、入る人・出る人・通る人・待つ人で殺伐としてたんじゃないかしらって勝手に妄想してます、あたしは出来た後にしか来たことないのでわかんないですけど。

 入口からだけでなく、全体の中心にあってでかくて有無を言わさず目立つから、迷いようがなくアクセスできるという。博物館・美術館なんてのはほぼ例外なく脱出困難なダンジョンなものですけども、大英博物館だと「ロ」の字の真ん中全体が広場なわけなんで。どの辺へもアクセスできるし、どの辺からもアクセスされるし。ていうか、あまりにでかすぎて、このグレートコートを避けて館内を移動することの方がまず無理だろう、ていうくらいにアクセスがいい。集合場所にしたって迷いようがない。

 しかも余裕で横切れる。例えば日本美術の展示室は、南辺の正面の入口からは逆サイドの北辺、しかもその最上階である5階にあります、これがなかなかの山のあなたの空遠くに位置しているわけです。グレートコートがなかったら、長い長い回廊型の展示室に満ちあふれる世界数百カ国からやってきた来館者たちに揉まれ、人混みに流されて変わっていく私をときどき叱られながら分け入って、ていうルートをたどらないといけない。それが、グレートコートさんのおかげで、入口しゅっと入って、グレートコートをまっすぐさささっとつっきって、ドンつきの右手にあるエレベータにひゅっと乗ったら、あっというまに5階・日本美術フロアでございます、てなるから、すっごい行きやすい。
 ど真ん中の広い面積がフリースペースなおかげで、身動きがとりやすくて仕方ない、ていう感じ。

 さらに言うと、外から来た観覧者たちにとって吉なだけじゃない。展示見てなくても居られる居場所っていうのは、むしろ、博物館の中の人にとってこそ使い勝手のいい”インフラ”らしい、ということが今回わかりました。
 先述の通り、あたしは用務でここにやってきて、でも中の人ではない。立場的にはグレーなわけです。バックヤードにも展示室にも居場所がない、カギも持たないから自由に行き来できない、さあどうするってなった時に、あ、じゃあグレートコートで待ってて、とか、グレートコートで時間つぶしててとかいうふうに、「困った時のグレートコート頼み」ができるっていう。バックヤードからもアクセスがいいし、ここで待ち合わせようってなったら迷いようがない存在だし、無目的/多目的な場所だから相手が来るまで何して待っててもいい、ていう。

 バックヤードと展示室との間、端境、狭間(はざま)にある、パブリック・スペース。
 観覧者でも内部スタッフでもないあたしは、この狭間な空間たるグレートコートのベンチでぼーっとしながら、なんというか例えとしてすげえ不穏当かもしれませんが、「あの世とこの世の狭間としての鴨川」に腰掛けてるような心地がしたものでしたよ。あの屋根の向こうに鳥辺山が見えるよう、とかなんとか。あたしの存在も狭間だし、この空間も狭間なんだな、お互いにグレーな存在なんだな、なるほどまさにグレートコートだな、ちがうけど、とかなんとか。

 屋内であるけども、屋外っぽくもある。
 展示を見に来た人たちがいるけども、展示を見ているわけではない。
 何をするわけでもないけども、何をしててもいい。
 つっきって移動できもするし、立ち止まってても居座っててもいい。
 公道や公園のようにフリーではないけど、入館無料で自由に入れる。
 展示室でもないし、バックヤードでもないし、そしてどちらからもアクセスできる。
 そこにいる自分は、中の人ではないけど、観光客や観覧者でもない。

 なんか、どう言っていいかわからないけど、そのどう言っていいかわからなさ加減がすごく心地よいので、たぶんこれからもロンドンに行ったらここに通うだろうなというか、拠点としてキャンプ張る勢いです。

 あと、大英博物館の向かいのスタバも"常スタバ"です。あれはいい。

posted by egamiday3 at 08:27| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月24日

うちとこの「NDL図書館送信サービス」レポ (2)-導入した結果編


・うちとこの「NDL図書館送信サービス」レポ (1)-導入するまで編
 http://egamiday3.seesaa.net/article/388711019.html

 NDL図書館送信サービスを導入した、うちとこなりのレポの、続きです。
 導入して2週間から1カ月程度時点での感触として、どうなのか。


●利用は、まあまあ多い。
 うちとこでの利用は、まあそこそこかな、という具合です。人社系が主で年代の古い本の利用が多い、ていうか、”特例措置”の利用が多かったから送信サービスが多いのも当然というか。
 導入してから最初の2週間くらいまでは、おおむね毎日1人の利用がコンスタントにあったという感じです。なんだよたった1人か、と思われるかもしれませんが、うちとこはそもそも利用者が限られたコミュニティの中での図書館ですから、入館者自体が少ない中での”毎日”1人はまあまあ”多い”感触でした。1日の入館者が3000人レベルの某大図書館さんに換算したら、毎日30人以上の利用がある、と見ていただければ目安となるでしょう。 


●きっかけはほぼILL。
 NDL図書館送信サービスを使いに来る人、少なくともうちとこのお客で言えば、「NDL図書館送信サービスを使いに来ました!」という人なんてのはまずまちがいなく、いません。初日に1人いただけです、どんなんかなっつって。
 まあ↑そういう人はいないだろうとは思ってたものの、もしかしたら、例えばNDLサーチやNDLのOPACなんかで文献探索してて、あるいはグーグルなり経由で探してたら、求めている本がNDLの「デジタル化資料」になってて、でも見られないから、ってゆってうちとこに相談に来る、っていう人くらいならいるかなあ、うちの先生たちリテラシー高いしなあ、って思ってたんですけど、それで来ましたっていう人もまあいません。
 ほとんどがILLきっかけです。つまり、ILLで複写や現物貸借を欲しいんだ、っつって我々のところにオーダーに来はる。それをうちらが受けてよそさんをあちこち探してる中で、古い年代やし念のためにっつって国会さんを検索すると、あ、送信サービスの中に入ってる。それをオーダーしたお客に、これこれこういうのがあってうちとこの図書館まで来てもらえればパソコンから見れるんですよ、でも来なきゃいけなくてすみません、っつって案内する。それで、やっと使いに来る。
 それが9割方というか、それ以外のパターンの人をあたしはほぼ見たことがありません。ということは自力で「国立国会図書館デジタルコレクションwebサイト」や「図書館送信サービス」を使いこなせてる人は、いまのところまだいない、ということだと思います。我々スタッフが誘導してはじめて活用できるっていう仕組みだろうし、おそらく当面はこうなんだろうなって理解してます。


●だいたい複写込み。
 画面見て終わって帰る、ていう人もあまりいません。だいたいのお客が、見に来て、ここからここまで複写、ってオーダーしていく感じです。
 これは、うちとこがこの複写では(中の人からは)お金とってない、ってのが主因だろうとは思いますけど。


●好評:不評は、7:3くらいか(開始直後現在)
 いやあすっかり便利になりましたよねえ、すばらしい、と言われる声のほうが多いです、良いと思います。でもたぶんそれは開始直後のご祝儀的な好意コメントだと思うので、ゆくゆくはそのバランスくつがえるんだろうなあって覚悟はしてます。
 覚悟がいる「3」のほうは↓こちら。


●「不便だ」というまあまあの詰問を受ける。
 どこが、というより、わざわざ図書館にまで来なきゃいけないことを含めて、全般的にフラストレーションが溜まるということで、まあまあの詰問とお叱りを受けるので、ごめんなさいごめんなさいと平謝りをするというお仕事がまれにあります。
 ポピュラーなクレームポイント。
 ・図書館まで来なきゃいけない。
 ・平日の開館時間内のみ(註:うちとこは内部者はカードキーで夜間入館可なので、その間に使えないのが不自由)
 ・印刷が自由にできない。
 ・なんか、操作しにくい。
 ・なんか、探しにくい。


●初日、いきなり利用がバッティングする。
 先生が来る。使えるようになったんでしょ、使わせてよ。はいどうぞ、このパソコンがそのサービス専用のやつで、こうやって使います。へーそうなんだー、じゃあちょっとしばらく見させてもらうねー。
 別の先生が来る。ILL依頼した本がネットで見れるって聞いたんだけど。あっと、えー、ごめんなさいそのパソコンをいま別の先生が使ってる最中です、しばらく経ってまた来てもらっていいすか・・・。
 初日にしていきなりの”混み具合”。

 原因は、NDL専用の閲覧端末が1台しかないことにあります。
 NDL図書館送信サービスは、どの端末からでもいいってわけではなくて、図書館の「この端末から」っていうふうに決めないといけないってなってます。で、それは別に1台じゃなくてもいいんだと思うんだけど、だからといって何台も「この端末」ってするわけにはいかない。
 というのも、閲覧用端末は職員の目の届く範囲じゃないとダメとか、USBさしちゃダメとか、キャプチャしちゃダメとか、いろいろな禁止事項があります。うちとこではパソコンで論文書いたりいろいろしはるので、USBさしちゃダメというようなNDL専用パソコンを2台も3台も増やすわけにはいかんのです。ていうか、1台設けてるのだってまあまあの不自由なわけです、たぶんうちとこだけでなく、小さな規模の図書館図書室では「何々専用パソコン」みたいな余裕はそうは持てなかろうと思います。(ただでさえ”CD-ROM専用”みたいな前時代的なのも延々とメンテせなあかんし・・・)
 なので、1台。となると、複数利用者がバッティングする。といっても、それほどの人気の事態はうちとこでもまだ1回しか発生してませんし、どうやら今後頻発することはなさそうですが、もしかしたら予約制にでもしなきゃいけないかも、というディスカッションはしてます。ふつーの公共・大学図書館さんならなおさらなんでしょう。


●海外からのvisitingの先生、「帰国後利用できる?」と本国に問い合わせる事案。
 海外の図書館が対象になってないことについて、うちとこの外国人研究者の先生たち、帰国後困るだろうな・・・。


●「これじゃない」問題が発生する。
 ある先生が「この本がほしい」とILL依頼を出して来はる。
→調べると、NDLデジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)内に収録されてて、図書館送信サービスの対象である。
→先生、これってNDL送信サービス対象なんで、図書館まで来て閲覧専用端末で見てください、ってURLをメールで連絡する。
→わざわざ図書館に来てもらう。
→もう1回デジタルコレクション(http://dl.ndl.go.jp/)のサイトで検索してもらって、見てもらう。
→先生「いや、これじゃない」
→Σ(゜д゜;).。oO(無駄足を踏ませてしまった・・・)

 ご本人に特定の端末のところに来てもらって見てもらうまで、中身の具体的な確認ができないため、まあまあこういうことが起こります。
 ひとつには、うちとこのリクエストにしろ、送信対象となる資料群にしろが、年代的に古く書誌事項の同定・特定が難しいケースが多いため。書名・年代・出版者もろもろが、欠けてたり似てたり同じだったり違ってたりするので、これと思って画面を見に来てもらうと、これじゃない、ってなる。
 もうひとつには、それにしてはデジタルコレクション上での書誌同定が容易なつくりにはなってない、んだろうと思います。簡易書誌はAmazonみたい、詳細書誌はExcelみたいなので、ここでOPACの書誌確認できたらいいんだけどな、とは思います。


●紙ベースのやりとりをはさむ。
 NDL図書館送信サービスの提供環境を全体で見ると、いくつかの”断絶”があります。
  @ユーザ個人所有のパソコン
  A図書館の閲覧専用パソコン
  B図書館の複写専用パソコン
 @≠A≠B
 という具合に、@とAとBの間に断絶。

 例えば、この資料のこの箇所が見たいっていうのを、ユーザが@で文献探索してて見つける、あるいは我々が見つけてここにあるんですよっていう情報をメールで@に送る。それが図書館のAで見られるからっつってユーザがAのところまでやって来るんだけど、@とAはつながってない、共用のパソコン上でメール開けないし、コピペでURL貼り付けられるわけでもないから、@で得た情報をいったん紙に書くかケータイに入れて、Aのところまで物理的に持ってきて、あらためて手で打ち込むということになる。
 でもまあ、URL長々と打ち込む人ってまずいないから、たいていはもう1回キーワードかなんかで検索しなおすことになる。ここまでならOPACでの本探しとたいしてかわんないんだけど、ここで先の「これじゃない問題」と同様、書誌の同定・特定がしづらいという問題が発生するので、さっき@で一度は見つけられたあの本のあのページを、もう一度探してみようとするとなんか見つからない、もしくはなかなかたどりつけなくてイライラする、という。

 で、先に「だいたい複写込み」と言いましたが、その複写の際もAとBの間で同じことが発生します。ここも断絶してるので、複写がほしい本の書名とコマ数なんかをユーザに紙で書いてもらって、うちらに渡してもらう。@ならまだプリンタから印刷もできましたが、Aはプリント禁止端末なので必ず手書きメモになっちゃう。
 それをうちらがBで複写(プリントアウト)しようとするときに、同じ本をもう一度検索して目指す箇所をもう一度探しにいかないといけない。でもそりゃよっぽど慣れた人でない限りは簡単な書名しか書かないわけなんで、また見つからない。もう何回目かの、見つからない。似たような書名がたくさんある。版違い・年違いがたくさんある。あと、複写箇所が数字で書いてあるけど、ページ付だったりコマ番号だったりする。
 で、すいません、もう1回確認し直してもらえますか?っていう問い返しは少なからず、ちょいちょい少なからず発生します。まあでもたいていは、もうブラウザ閉じてログオフしちゃってます、ってなる。そして、やはりもう何度目かの探しに行くが発生する。
 セーブのできない大昔のRPGです、あったんですよそういうの、あれはつらかった><。

 こうやってみると、ああやっぱり”どの端末からでもアクセスできる”っていう環境は偉大なんだなあって思います。アクセスできるから、というよりも、アナログな伝達が不要だから、という意味で。

 で、でもじゃあOPAC検索やILLや購入依頼でだってこういうのは発生しがちなわけなんだけど、それがある程度防げるのって、請求記号とか資料IDとかISBNとかのおかげなわけなんで、そういうユニークなIDが、誰が見ても有無を言わさずそれをメモせずにはいてもたってもいられないくらいに、画面上で自己主張してくれてたら、うちとこのユーザの人たちもメモしてくれるかなあ、とか、あとそのIDから簡易検索(詳細じゃなく)できたらなあとか思ってたんですけど。でもまあそれをただ待っててもしょうがないし、そういうシステム改変って何年かに1回しかできないだろうしなので、うちとこの対応としては、「複写箇所メモ」専用の用紙に「画面のここに書いてあるこの番号をメモせよ!」と図解入りしたやつを作って、なんとかユーザさんの動きを誘導しようとしてます。永続的識別子を書け、つったってわかるわけがないので、欄内に「info:ndljp/pid/」まで書いといて、もうこのあとの番号をメモせざるを得ない状態をお膳立てしたり、とか。そのくらいしないと、何書いたらいいのかなんてすぐにはわかんないですので。


●レファレンスにとっても大吉。
 でもやっぱりすげえ便利です、ということを最後に記すと、ユーザさんへの直接の提供なだけでなく、我々がレファレンスとして調べ物をするのにすげえありがたいと思います。そりゃそうです、だって、レファレンスのためにILLするわけにはいかなかった資料が、オンラインで確認できるわけですから。特定の資料を入手するために、というよりはむしろ、あれこれ悩み探しながらブラウジングするのに吉な仕組みなんだろうし。そのための百何十万冊なんだろうし。
 だから、うちとこのユーザにこのサービスのニーズあるのかなあ、みたいに迷ったり躊躇したりしてる図書館さんでも、レファレンスのための強力な資料群、というふうに考えてみたら、背中がひとつぽんって押されるんじゃないかなあ、って思います。



posted by egamiday3 at 21:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月15日

うちとこの「NDL図書館送信サービス」導入レポ (1)導入するまで編

 2014年1月21日、国立国会図書館さんによる、国立国会図書館デジタルコレクションの、図書館向けデジタル化資料送信サービス、が開始されました。
 そこで、このサービスを導入した一図書館である”うちとこ”ことNBKでの、サービス導入までの経緯を記録としてまとめておくというあれです。

 この記事では、このサービスを「NDL図書館送信サービス」くらいに短縮して呼びます。
 あと、もう概要はおおむね下記のとおりということで、説明もすっとばします。業界の人かまたはそうでなくてもだいたいのことはわかってる人向けの記録、っていう。

・図書館向けデジタル化資料送信サービスを開始しました|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2013/1204154_1828.html
・図書館向けデジタル化資料送信サービス|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/library/service_digi/index.html
・国立国会図書館デジタルコレクション - 図書館向けデジタル化資料送信サービスについて
 http://dl.ndl.go.jp/ja/about_soshin.html
・【行って来たよ!】国立国会図書館図書館向けデジタル化資料送信サービス体験レポ【美味しいマカロニ】
 http://hendensha.com/?p=1758


●●前史的なもの

●2011年4月 NDL”特例措置”がスタートする。
 うちとこの当サービスの歴史はこの”特例措置”から始まります。
 2011.4.19付の「図書館協力ニュース」No.143に、「デジタル化資料の図書館間貸出しの特例の試行について」という記事が掲載されています。
 かいつまんで言うと、  
 ・国立国会図書館は所蔵資料のデジタル化を進め、原本の代わりにデジタル画像を提供するようにしている。
 ・が、現行ではまだ、デジタル画像の図書館間貸出(いまで言う「図書館送信サービス」)ができない。現地に来館しないと見られない。
 ・なので暫定的な特例措置として、デジタル画像を紙にプリントアウトしたものを、郵送する
 
・デジタル化資料の図書館間貸出しの特例の試行について|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/library/news/1191496_1484.html
・デジタル化資料に係る図書館間貸出しの特例措置(デジタル画像の複製物の提供)の申込手続|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/library/news/1191497_1484.html

 うちとこのILL依頼担当約2名はこの記事を読んでかなりざわざわしてました。そりゃざわざわします、これまでは、古くて壊れそうな現物をおそるおそる借りるか、全ページ複写依頼するかしてたものが、デジタル化されてるけどNDLに実際に行かないと見られないという理不尽なたくさんの資料が、なんやあちらさんの都合か何か知らんが、送料負担によってプリントアウトしたものが届くと言うんですから。
 というのも、うちとこのユーザさんは古い年代の本や絶版本へのリクエストが多くて、外部あちこちの図書館さんから借りようとする、借りられなければ古書市場で探し出して買う。で、古書でも買えないというなら、よその図書館さんから全ページ複写を取り寄せます、これは著作権切れの古典籍に限らず、著作権法第31条の1の3「他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物」という条項をフルに活用して、コピーを入手し、製本し、当館蔵書として館内に所蔵する、というようなことをわりと頻繁にやっています、月に2-3件から、多い時は年で100冊超えるくらい。(ちなみに、あたしは31条の1の3を実践している職場に来たのはここが初めてでしたし、実践してる館はそう多くはないんじゃないかと思いますが、どうでしょうかね。)
 その絶版本コピー入手で最大手にお世話になってたのがNDLさんなわけですが、今後は、特例措置範囲&諸条件(当然ながら、まあまあ厳しい)がそろえばプリントが届くとおっしゃる。あくまで郵送貸出の代替手段ですが、だとしても、ざわざわします。
 ていうんでこのとき以来、2014年1月の送信サービスが始まるホントにぎりぎり直前くらいまで、この特例措置にかなりお世話になっていました。これこそフル活用でした、たいへんお世話になりました、毎朝精華町方面に向かって敬礼してました(盛りました)。確かな統計は存じませんが、受付連番的なものから察するに初年度は全体の4割くらいはうちとこの依頼だったんじゃないか、ていう、そのくらいに。
 ということは逆にですが、このサービスは世にほとんど知られていなかったんじゃないかとちょっと思ってます。業界の人と話しても、何それおいしいの?的な反応がほとんどだったし、下手したらNDLの中の人からもそんな感じだったりして。


●2013年1月 改正著作権法が施行される。
 NDLによるデジタルデータの図書館送信を可能とする改正著作権法が、2013年1月に施行されました(公布は2012年6月)。
 現物も借りれず、古書でも手に入らず、全ページのコピーを注文するか、NDL現地に行くしかなかったような、そんな資料への大量のリクエストがうちとこでオンラインで見れるという、長尾せんせが描いた夢の未来図がついに実現するのだと! 福音!
 2012年12月のNDLさんによるプレスリリース(「デジタル化資料の図書館送信に関する改正著作権法の施行について」(http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2012/__icsFiles/afieldfile/2012/12/17/pr121217.pdf)では、実際のサービス開始は2014年1月からの予定とありましたものですから、うちとことしては「早く笑え!来年の鬼!」と気を揉んだものです。


●2013年2月 日本専門家ワークショップ2013@NDLが開かれる。
・日本専門家ワークショップ2013 シンポジウム「なぜ今、海外日本研究支援か?」|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/jsw2013.html
・(メモ)日本専門家ワークショップ2013 の index: egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/331591534.html

 海外の日本研究者・ライブラリアンが集まるこのワークショップに参加してきました。1日目の日本専門家育成戦略会議の中で、NDLさんからコメントがあり、翌年1月からのNDL図書館送信サービスでは海外の図書館はその対象になっていない、という説明がありました。法律その他諸事情あるところでしょうが、これはがっくりでした。


●●申請の道のり

●2013年夏 NDLさんからうちとこに、このサービスの説明を直にしに来はる。
 世間様的にはもろもろの広報は随時出てたと思うのですが、いくつかの図書館・大学さんには図書館向け説明会(2013年9月、http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/01gaiyo.pdf 他参照)に先立って、”直説明”をしに行くということをNDLさんはやってはったみたいです。その中に、小規模研究機関であるうちとこも、なぜか含まれていました。なぜか・・・ってことはないですよね、そういう狙い撃ちされるだけの依頼件数だった、ということだと思います。もう頭が上がらないったらない m(_ _)m。
 で、お話をうかがった結果ですが、ああこりゃあ、もろもろ致し方ない所以ではあるにせよ、結構に使い勝手の良くないことになりそうだなあ実際、というのが率直な感想でした。どう良くないかは(2)「導入した結果編」で詳述するでしょうが、うちとことしては「・・・これ、申請せんと、”特例措置”のまま使わせてもろたほうがマシなんちゃうか?」というディスカッションがまあまあマジトーンで発生したりしてた、ていうくらいではありました、もちろん否定されましたが。

●2013年10月 利用申請が始まる。
 翌1月サービス開始に向けて、利用申請の受付が10月に始まった、ということのようです。
 え、もう申請始まるんですか、だってスタート1月からでしょう。12月くらいにちゃちゃっと書類送ったらそれで終いでしょう。そのくらいの理解だったんですが。

●2013年10月-11月 図書館の利用規則の改定にとりかかる。
 NDL図書館送信サービスを各図書館が利用申請するためには、そこそこのハードルがあります。

・図書館向けデジタル化資料送信サービス|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/library/service_digi/

 例えば、提出しなきゃいけない書類にこんなのがあります。
 ・利用登録制度や、送信を受けた資料の利用について明記されている利用規則類。
 ・複写作業は図書館等の職員が行う、と明記されている利用規則類。
  (マニュアルは不可、決裁されてるもの)

 ・・・うちとこの規則にはそこまでわざわざ書いてなかったりするんですが。
 なかったら、え、作らないといけない??

 というわけで、脱兎の速さで駆け回り、新しい規則(実際にはこのサービスに特化した取扱要領)をうちとこの機関内で正式に定めてもらうよう、手配しました。いくつかの会議を経ることになりました。結果として1ヶ月近くかかった、あぶないあぶない、12月にちゃちゃっとどころのあれじゃなかった
 という大きいハードルがまずひとつ。

 このころに気になった記事としてはこちら。
・@ryuuji_y 2013年11月22日 10:17
 https://twitter.com/ryuuji_y/status/403693592788480001
 「デジタル化送信の参加館、いまのところ20数館、とのこと。少ない #jla2013 #jal99 #全国図書館大会 #第8分科会」
・NDL図書館送信が始まったら利用者をどうナビゲートするか - ささくれ
 http://cheb.hatenablog.com/entry/2013/09/16/021838
 「その利用者はどうやって自分の欲しい資料がNDLでデジタル化されていて,かつそれが送信対象であり,自大学の図書館で閲覧できることに気づいてくれるだろうか」


●●導入・夜明け前

●2013年11月-12月 ただ待つ、& 諸事確認の対応。
 まあでも、無事に申請書も出せたし、1-2週間くらいでIDとパスワードなんかが届くんだろうなあ、なんて思ってましたが。

 ・・・来ない。あれ?

 そのうち、機械やブラウザや通信環境の確認が来る。はいはいと対応する。
 モニタテストに来はる。はいはいと対応する、技術的な問題は特にないらしい。
 あ、問題はないんだねえ。よかったねえ、開始が楽しみだ。

 ・・・何も届かない。
 あれ、1月開始じゃなかったっけ??


●2013年12月30日 送信サービスについて、NHKニュースで流れる。
・国会図書館 電子書籍を配信へ NHKニュース
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131230/k10014203721000.html(リンク切れ)

●2014年1月10日 NDLさんが送信サービスについてのプレスリリースを発表する。
・図書館向けデジタル化資料送信サービスを1月21日から開始します(付・プレスリリース)|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2013/1203990_1828.html

 まだ音沙汰がない。
 うちら界隈の人ら、わりとネットで話題にしてはるけど、えっと、それより何より具体的なところとして、申請したうちらはどうやったら使えるようになるんだろう。
 うちとこの先生の何人かがにこやかに言うて来はる、確か1月でしたよね、もうすぐ使えるようになるんですよね。ええそうなんですよー、楽しみにしててくださいー、あははー、て返しながら内心で冷や汗をかいてるっていう。
 言ってる間にも、デジタル化済み&NDL現地閲覧のみ、の資料へのリクエストがまたやってくる。うん、しゃあない、まだ始まってないんだから”特例措置”でお願いします。

 このころ、「全国数10か所の公立図書館や大学の図書館」(NHKニュース)「1月10日現在、93館から利用申請があり、17館が承認されています」(NDLプレスリリース)など、3桁も行ってないという目をパチクリするような数字を前にして、あれれ、もしかして、ものすんげえワクワクしながら待機してたのってうちとこくらいなんちゃうか??という現実的温度差を、ここへ来てようやく抱くようになりました。
 ていうか、直前のこの期にして申請(93館)と承認(17館)の間にそんなギャップがあるんだ。ってことはうちはまだそのギャップの中なのか、ハードル越えてなんかなかった、やっぱり12月にちゃちゃっとどころのあれじゃなかった(2回目)んだなこれって・・・。


●2014年1月11日 NDLさんからメールが届く。
 おお、来た!
 ついに!

 「さらに1点の書類が必要になりました。
  これこれをご提出ください。」

 ・・・うおぉぉぉぇ... orz


●2014年1月21日 NDL図書館送信サービスが(承認されたところから)開始される。
・図書館向けデジタル化資料送信サービスを開始しました|国立国会図書館
 http://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2013/1204154_1828.html
・国会図書館 電子書籍を図書館に配信 NHKニュース
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140121/k10014642881000.html(リンク切れ)

 NHKでも流れた。
 各種の主要なネットニュースでも流れてる。
 うちら業界界隈の人らもわやわやといろんなコメントをポストしあってる。
 ・・・何も連絡がないよ。何も届かない。
 なんだろう、この、みんながにぎわってるクリスマスイブにひとりぼっち感

 先生がやってくる。ネットで見たよ、始まったんでしょ? さっそく使わせてよ! ・・・えっと、ごめんなさい、まだ承認がおりてなくてうちとこでは使えるようになってないんです。 はぁ?なにそれ?? 
 完全に涙目><。


●2014年1月29日 うちとこでも、NDL図書館送信サービスが開始される。
 というわけで、封書で承認の書類とID・パスワード類その他が届きましたとさ。
 さっそくサービス対応開始しました。
 それは、長い長い片想いの終わりでありました。
 fin.

 そして、開始初日にいきなり利用がバッティングする、という。
 そのへんのもろもろは、次の(2)「導入した結果編」で書くんじゃないかな。



posted by egamiday3 at 20:17| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月06日

日本研究シンポの極私的補遺 - index

●NDLシンポジウム当日の様子
・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」|国立国会図書館―National Diet Library
 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/knssympo.html
・Togetterまとめ - 日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」20140130 #日本研究シンポ
 http://togetter.com/li/622943
・slideshare - NDL日本研究支援シンポ「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」20140130江上
 http://www.slideshare.net/egamislide/ndl-30879993



●当ブログ記事
・祗園とタモリとILL - 日本研究シンポの極私的補遺(その1): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387040331.html
・どうしても猫背になるデジタル不足 - 日本研究シンポの極私的補遺(その2): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387068201.html
・春画と檸檬と近デジ大蔵経 - 日本研究シンポの極私的補遺(その3・終): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387295187.html

posted by egamiday3 at 12:48| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月05日

春画と檸檬と近デジ大蔵経 - 日本研究シンポの極私的補遺(その3・終)

 
・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」|国立国会図書館―National Diet Library
 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/knssympo.html
・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」20140130 #日本研究シンポ - Togetterまとめ
 http://togetter.com/li/622943



 その1・その2からの続きです。

・祗園とタモリとILL - 日本研究シンポの極私的補遺(その1): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387040331.html
・どうしても猫背になるデジタル不足 - 日本研究シンポの極私的補遺(その2): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387068201.html



 ものすごくざっくりした問いで言えば。

 問:
 なぜこの国はこんなにもデジタル不足、デジタル未整備なのか?

 デジタル化・オンライン化・オープン化が進んでくれて、それがこの社会における学術や知的生産の基盤として築かれていってほしい。
 そう思っている人は決して少なくないと思うんだけど、どうも全体を”引きの画”で見てみると、デジタル環境がこんなにも不足していて、未整備に喘いでいるという現実がある。
 電子化されない雑誌・書籍・新聞。
 リーズナブル化されない価格。
 売ってもらえないデジタル。
 海を越えないオンライン。
 祇園の路地裏のような知る人ぞ知るアクセスルート。
 公開されない画像。
 中継されない動画。
 何がそうさせてるんだ、誰が止めてるんだ、と。

 なんですけど。
 でも一方で、「何が」とか「誰が」とかいう”問い方”がそもそもどうなんだろう、というふうにも考えるわけです。

 ”寄りの画”でズームインした状態で眼前にあらわれている、個々の諸事情、誰々が・どこどこがという特定の組織・存在に原因を求める、解決を求める。悪い時には責めて攻めて炎上したりする。もしくは、制度や技術や思想世論のような個々特定の”概念”に同じくそれを求める。

 それは、ていうか、それ”だけ”に解決を求めることは、果たしてどれだけ有効なんだろうかと。

 話をがらっと変えます。
 春画の話です。

・大英博物館・春画展への”はじめてのおつかい”: egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/376964225.html
・Erotic bliss shared by all at Shunga: Sex and Pleasure in Japanese Art | Art and design | The Guardian
 http://www.theguardian.com/artanddesign/2013/oct/01/shunga-sex-pleasure-erotic-japanese-art
・春画:”江戸のクール”と”クールじゃない”今の日本 | AGROSPACIA
 http://agrospacia.com/article/00063

 イギリス・ロンドンの大英博物館で、日本の春画を集めて公開するという春画展が開かれました。入場者数は約9万人、最後のほうは終日入場規制してたらしくそれがなければ10万は行ったろうという、大成功の興業になりました。ロンドンでの所蔵分だけでなく、日本からも我が社NBKをはじめとするいろんなところから春画をお送りした、その運び屋的仕事をしてきましたというのは、「はじめてのおつかい」でご紹介した通りです。

 で、この話題を日本ですると必ずと言っていいほど聞かれるのが、「日本では開催しないんですか?」「なぜ日本では公開できないんですか?」という話です。まあ、ほぼ全員がそれを言います(当社調べ)、あたしと会ってそれを言わなかった者が石を投げなさい、ていうくらい。
 そうです。巡回展として同じ展示を日本でも催そうと、関係者各位が国内あちこちで努力をなさったとうかがっています。「おもしろい」とまでは言われるんでしょう。賛同してくださる方も少なくはないはずです。実際、途中までは話が行ったかもしれない。
 でも最終的には、成就しない。
 なぜか、話がまとまらない、進まない。よくあるパターンではありますが。

 問:
 なぜこの国では春画展を開催できないのだろうか?

 この話題になった時の、ある春画関係者の方のお話が、確かにこれはなるほどとうなずけるものでした。
 すなわち、開催できないことについて特定の誰かに責任や原因を見出すのは、それはちょっとちがうんじゃないか。どこどこの美術館や博物館がどうしなかったとか、どこどこの機関が役所がとか、誰々長がとか誰々官がとか、それを言い募っても意味がない。ていうか、じゃあ特定の誰か・どこかが上手くやってれば丸く解決できてた、ということでもないだろうと。
 そうじゃなく、そもそもこの国全体、この社会が総体で、「春画を公開展示する」ということに対して何らかの仮想の敵、見えない恐怖のようなものをつくりあげてしまっていて、いまだにその前で躊躇してしまっている。それが、春画展開催に至らなかったことの実際だ、と考えた方がいいのではないか。
 だから、開催したいんだったらその躊躇を払拭するという空気づくりをしないと、根本的な解決にはならんだろう。幸いロンドンでの興業大成功とその評判で、風は吹いているし、と。

 あたしはこの話をうかがいながら、あ、これ今度の国会図書館のシンポで話さなあかんな、と脳内メモを湯川先生みたいに書き殴ってました。

 デジタル不足・未整備の話も、これと同じことなんだろうと思います。

 近デジなりなんなりで、公開できるはずの大蔵経なりなんなりの公開が、停止されたりする。せっかくのデジタルがオンラインでオープンにされないということがある。
 特定の図書館やその運用、特定の出版者や権利者、あるいは黙って我慢する聞き分けのいいユーザという存在、この国の著作権という概念、出版流通の制度。そういった個々の存在に、確かに原因があるのかもしれない。
 けど、そういった個々の存在”だけ”、寄りの画でズームインして焦点を当てることのできる存在”だけ”にその原因を求めるのは、やっぱりちょっと違うんじゃないか。

 それ以前にそもそも、「デジタル化」「オンライン化」「オープン化」を推進していこうじゃないかということについての、社会全体で合意形成・空気づくりに、我々はいまだに失敗してしまっているままなのではないか、と。
 具体的な何かはわからないけども、何かを侵害するかもしれない、何かの権利を失う・損するかもしれない、誰かに訴えられるかもしれない、具体的な理由は一切ないけれどももしかしたら何か不都合が起こるかもしれない。だからデジタルにもオンラインにもオープンにもしない。
 そういう見えない恐怖の前の躊躇、仮想の敵の前の萎縮。合意形成に失敗している状態としての、なんとなくな、あくまでもなんとなくでしかない空気。

 ”引きの画”で全体俯瞰した時に原因がそこに”も”認められるのなら、個々の存在”だけ”に原因や責任を求めてそこに解決を求めたり責めたり攻めたりしても、あれだろう、と。もちろん個々の問題を解決に導くことができれば、それはそれでめでたい話なことに間違いはないし、実際にそうしていかなければお話にはならない。けど、社会全体での合意の形成に失敗しているということを認めずに、焦点だけしぼってても、根本的な解決はしないし、失敗してる空気はずっとPM2.5のように漂い続けているだけなんじゃないか、ていう。

 それに、個々に諸事情があることについて、全体のために個々・ローカルが犠牲になるべきだとするなら、それはそれで承伏しかねる話だと私は思います。社会全体の利益がこうで、制度がこう、図書館側のサービスポリシーがこう、という全体の流れがあったとしても、個々の資料・個々の権利者・個々の出版者にローカルな諸事情があってこれはちょっとどうしても、というのがもし発生したとするならば、それはそれで個別に対応してどこかいい落とし処を互いに探し合う、というのは、ものすごく重要な姿勢のはずじゃないかなって。個々の存在が抱える個々の事情は、ゼロかイチかで一括処理できるようなものではない、と思うので。
 だから、近デジ大蔵経での対応、というのも、最終的な結果が大方のユーザの意に添うか添わないかはまったく別として、個別に対応するという余地が実際にあったというところにすごく意味があるんじゃないか、と思います。
(あとは、「ほら見てよ、個別対応するってこれでわかったでしょ、だから、いいよね?」ていう。)

 というようなことをぼんやり考えていましたよ、ていう。

 そういう話を先日の国立国会図書館での日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」でちょっとしゃべったんですけど、そのときに、仮想の敵・見えない恐怖の前での躊躇のことを、ちょっとふざけて「得体の知れない不吉な塊」って言っちゃったんですね。でもなんか、もしかしたら誤解されてるかもなって思ったんですけど、あたしは別に、そういう「得体の知れない不吉な塊」があるからってことに原因を押しつけたりだからできないんだって逃げ口上にしたりしてるつもりは全然なくてですね、なんていうんでしょう、それが自分自身の内なるところにもこびりついてて、なおかつ社会全体の空気の中にも蔓延ってるんじゃないかしらって、そういうことを言いたかったわけです。
 先ほどの春画関係者の方のお話にあたしが大きく共感した理由のひとつは、特定の存在=自分以外の他者にのみ原因を求めようとする他人事ではなくて、自分自身も含められた全体の問題としてとらえるという、壮大な”自分事”だったから、じゃないかと思います。

 ところで。
 いつものごとくさっぱり抽象的な話しかしてなくて、じゃあ具体的にどうしたらいいんだよって言われると、すっかり何にも言えねえになっちゃうんですけど。
 それについては、これもまた別の話題、いわゆる若手研究者問題の時の下記のTogetterにあった某の人のツイートが、なるほど参考になるな、という感じだったのでシンポジウム当日でも紹介しました。(鍵の人だけど公開してはるツイートです)

・「若手研究者の文献利用環境を巡る問題と図書館へのニーズ」つぶやきまとめ - Togetterまとめ
 http://togetter.com/li/620712
「(略)図書館員への啓蒙として、意義が大きい。あとはそれぞれの現場で、戦術レベルでしていくこと。 また、いまそれなりのポジションにいるアカデミアの住人の方たちが本気で考え、施策レベルで国や大学を動かしていくという戦略もいる。 二面作戦で。」(@bunny_a 2014/1/25 18:40)

 個々の問題に焦点をあてて”寄りの画”でひとつひとつ解決していく現場レベルの仕事と、それらの蓄積によって望む方向への空気・合意が社会全体で築かれていくような”引きの画”での動きをつくっていくこと。
 二面のどちらもがないとあかんのだろうな、ていう。

 とりあえずここまでです、っていう終わり方です。



 あと、たぶん”寄り”の方でいい解決というか具体的な処方箋を出してはるなあって、最近感動した例を、最後のおみやげにひとつ貼っておきますね。

・京都府立総合資料館の取り組み京都−日本のデジタルアーカイブのハブを目指して|Digital Archives|AMeeT
 http://www.ameet.jp/digital-archives/digital-archives_20140114/

 このブログ記事がだらだら長いからって、ここまですっ飛ばしてスクロールして来た方もいると思いますが、じゃあもうこんなへちゃむくれブログ読まなくて全然いいんで、↑この京都府立総合資料館の記事だけでもそのかわりにぜひ読んでみてください。m(_ _)m

posted by egamiday3 at 21:59| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

どうしても猫背になるデジタル不足 - 日本研究シンポの極私的補遺(その2)


・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」|国立国会図書館―National Diet Library
 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/knssympo.html
・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」20140130 #日本研究シンポ - Togetterまとめ
 http://togetter.com/li/622943
・祗園とタモリとILL - 日本研究シンポの極私的補遺(その1): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/387040331.html

 次の柱「e-resource」です。
 電子書籍・電子ジャーナルであり、データベースであり、オープンアクセスであったりデジタルアーカイブであったりするという。

 深刻なデジタル不足、という問題があります。
 e-resourceが圧倒的に少なくて、なにかといえば紙に頼るしかない、という欠乏した状態。

 もうナウシカやラピュタレベルの何度目だ的紹介になりますが、北米の東アジア図書館が所蔵する中国語・日本語・韓国語資料の、図書/電子書籍/電子ジャーナルの所蔵数・契約数のグラフです。2013年現在の数字に更新しました。

北米東アジアe-resource.bmp

 CEAL Statisticsより、2013年、56館を対象としたもの。記入のない館は0とし、また極端に桁数の異なる館の数値は除く、という処理をしてあります。年によってばらつきがあるのでうまいこと数字が取れないという難点もあるのですが、おおまかな傾向としてとらえていただければと思います。

 NDLでの海外日本研究支援をテーマにしたシンポジウムというのは去年もあったのですが、去年も、今年も、話題の多くはやっぱり「e-resourceがない」でした。
 電子書籍がない。
 電子ジャーナルがない。
 データベースがない。
 たまたまあっても海を越えない、売ってもらえない。
 あってもやたら高額だ。
 やたらCD-ROMやDVDで出る。
 なぜか「いらないものから電子化してる」と揶揄されちゃう。
 このあたりはついつい鉄拳の口調で脳内再生されてしまいますが。

 そして、海外の日本研究関係者から訴えられるこれらの問題は、そっくりそのまま、日本のユーザや日本の図書館関係者にとっての問題にほかならないな、と。

 「日本史分野のコアジャーナルで電子化されているのは?」という問いに対する、とある”添えるだけ”の人のツイート。
 「@pienet CiniiでPDFありで適当なキーワードで探してみましたけれど、史学雑誌。あとは大学ごとで出しているものになりますけれど、それでも早稲田の史観くらいですかね。日本歴史、日本史研究。歴史学研究とか歴史評論もやってそうですが、まだみたいですね。」(@negadaikon 2014/1/10 22:31)
 https://twitter.com/negadaikon/status/421635487237812224
 ※実際にNDLで紹介して一部にご迷惑とご心配をおかけしました。

 JSTORにびびった話 - 日比嘉高研究室
 http://d.hatena.ne.jp/hibi2007/20110825/1314275191
 「中国や韓国の留学生たちと話していると、完全に日本の論文データベースのデジタル環境は後進国状態だ。」

 コアな学術雑誌や総合誌(商用)が、電子化されていない、という問題。
 もちろん、CiNiiで機関リポジトリのオープンアクセスを、っていうのだって、実際あれですごく助かってるというのは海外のユーザからよく聞かれる声、なまでもなく、あたしもうちのユーザさんもすごい助かってるわけですが、一方で「いらないもの(ry」という声が聞かれるのも事実であったりする。(「いらないものから電子化されてる」って声を紹介したら、どこでもたいてい薄い笑いが起こるので、あ、みなさんこころあたりあるんだな、って思ってます。)
 これをどう考えるかについては、あたしはこう考えることにしてます。
 もし学生さんがCiNiiで見つけたオープンアクセスなPDF”だけ”でレポートや論文を書いてきたらどうしますか、と。
 言ったら、それは説教します、と。
 ということは、つまりいまのそのデジタル環境というのはそういうことなんだ、と。

 電子ジャーナルに限らず、電子書籍でも、デジタル格差がひろがっていくというのが日本の立場のように思います。
 解決のために旗揚げされた「電子学術書利用実験プロジェクト」に関連して、慶應の入江さんのお話を「大学と電子書籍の現状と未来」というセミナーでうかがったことがありましたが、

・大図研京都ワンディセミナー 「「大学と電子書籍」の現状と未来」
 http://www.daitoken.com/kyoto/event/20130921.html
・入江伸「「大学と電子書籍」の現状と未来」 (20130921大図研京都) - Togetter
 http://togetter.com/li/567311
・日本の学生だけが学んでないかもしれない、というリスクについて。 : 「「大学と電子書籍」の現状と未来」 (20130921大図研京都): egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/375677268.html

 あまりに電子書籍がなくデジタル環境が整備されてなさ過ぎて、「日本で、日本語で、研究をする」ということ自体が絶滅してしまうんじゃないか、ということが懸念されていました。世界で当然のように行なわれているデジタル環境を前提とした研究方法を、日本の学生だけが学習していないのではないか。このままでは日本から「若い研究者」は生まれなくなるのでは、という。

 やたら高いとかやたらCD-ROMやDVDで出る、というのも、日本の我々にとってこそ厳しい問題です。画報的なCDのためにWin98わざわざ中古屋さんに入れてもらったPC買うとか、日本のTimes的なブルーレイ買うのにいくらかかるとか、こないだまでただで使えてた文庫の検索や国の和歌が収まった参考図書のオンライン版がとか、そういうの。
 もちろん、個々にそれぞれ事情があり技術的制約もありコストもありでそうなってる、というのはあるんでしょうし、そこを否定してもしょうがないとは思います。ただ、個々の対象にズームインしたカメラで見たときは理解できることでも、その結果の総体を”引きの画”で、全体で見たときにはどうしても、肩が落ちるというか、背中が猫背になっちゃうというかそういう思いがします。

 商売物だからある程度しょうがないだろう、かもしれない。
 でも、じゃあ例えば図書館や公的機関のようなところのデータベースやデジタルなアーカイブにしても、この話が無縁になるわけではない、という。

 例えば、オープンでフリーにアクセスできるデジタルライブラリーでも、個々の事情や訴えによって公開されなくなることがある、という「近デジ大蔵経」の話。

・国立国会図書館、インターネット提供に対する出版社の申出への対応についての報告を公開 | カレントアウェアネス・ポータル
 http://current.ndl.go.jp/node/25212
・緊急シンポジウム「近デジ大蔵経公開停止・再開問題を通じて人文系学術研究における情報共有の将来を考える」に行ってきた。〜その1 - みききしたこと。おもうこと。
 http://d.hatena.ne.jp/xiao-2/20140130/1391093015
  (その3まで継続)

 それから、著作権が切れていないにしてもデジタル化されたものについてNDLから図書館に送信しますという「図書館送信サービス」についても、残念ながら海外の図書館は対象外になってしまっているという問題。法律上の問題であって運用上の問題じゃないみたいなので、結構きついかもしれない。
 デジタルが海を越えない、ていう。

 じゃあ国内だったら問題ないのかって言ったらそんなことはなくて、申請のハードルは高くて何度か挫折しそうになるし、利用手順は複雑で不便だし、うちはサービス開始からこっち毎日のように利用があって、ていうか初日から利用がバッティングするくらいで(1台しかないから)、毎日のように便利だねと言ってもらってる一方で、毎日のように不便だねと言われもして、今日なんかまあまあの詰問があったりもして、そこそこの頻度でごめんなさいごめんなさいって頭下げる仕事をしてる、ていう。

 NDLのデジタル化資料送信サービス体験レポ ≪ マガジン航
 http://www.dotbook.jp/magazine-k/2014/01/27/ndl_launchs_the_digitized_contents_transmission_service_for_libraries/

 なんかこの業界界隈にいるとみな少なからずNDLさんにはお世話に、多大なるお世話に毎日のようになってるだけでなく、親しくおつきあいもあるので、あまりネガティブなことっていうのはどうしても言い控えちゃうことも多く、なんか一読して気を遣ってはるなあ、言葉選んではるなあ、言葉選んではる様を見せてはるなあ、という印象の文に会うこともちょくちょくあるのですが、一方であたしの知り合いのアメリカのライブラリアンの人にはこのレポートを「あまりにも複雑すぎて、途中で読むのをやめた」という方もいて、あ、やっぱりそうなんだな、と思たです。

 あと、それにしたって国内参加館少なすぎないか?という意味では、使う側にだって何かしらのバリヤーみたいなんがあるのかもしれない、とも思わされます。国立大だけで100近くあって、県立だけで47はあって、例えば京大だけで大小の図書室が50近くあるっていう、フェルミ推定以前のザルのような勘定の前に、申請中含めて3桁行ってないっていう数字は、一人の納税者としてもちょっとビビる、っていう。

「どうして国立国会図書館のデジタル資料を地方の公立図書館で閲覧することができないんだろう(できる公立図書館もありますが)。愛知県で唯一閲覧できる私立大学図書館では教職員と学生しか利用できないと言うし。どこでも閲覧できたらすっごく便利なんだけどなぁ。」(@wakamickey 2014/2/4 19:41)
 https://twitter.com/wakamickey/status/430652256313028608

 今回は国会図書館さんで登壇させていただいたので、国会図書館さんを例に挙げましたが、そうでなくともやっぱり国内・海外のユーザからの期待はいま国会図書館さんに熱く・厚く・篤く向けられてるし、だからこそ不満や要望もたくさん出るんだろうなって。それは他でもなく国会さんの動きが活発な証拠なんでしょうきっと。
 あたし自身、京大でもNBKでもそういう公開されたデジタル画像ものに携わる仕事をしてた/してるですけども、新しいものを公開したときとか、Googleでトップにひっかかるような可視度の高いものとかっていうのは、お誉めや活用の反応がある反面、それと同じかそれ以上にクレームやコストのかかる要望といったしんどい反応もあって、それはもう、デジタル物を公開するっていうのは要するにそういうことなんだよな、って覚悟に近い理解をしています。
 それでもなお、デジタル化・オンライン化・オープン化していかなきゃ、って。それ自体が貢献だし自己アピールだし、今後の学術や知的生産の基盤をこの社会に築いていくことなんだし、って。そういうベクトルなんだって。

 いうふうに思うんだけども、全体を”引きの画”で映してみると、この国のデジタル環境はこんなに深刻に不足していて未整備で、やっぱり猫背で、どうしてなの悲しみがとまらない、と。

 2回で終わるつもりでしたが、もうちょっとだけ続くんじゃ的な感じで。

 次は春画の話なので。


posted by egamiday3 at 00:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月04日

祗園とタモリとILL - 日本研究シンポの極私的補遺(その1)


 去る1月30日、国立国会図書館において「日本研究支援シンポジウム『海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか』」というものが開催され、呼ばれて登壇してきました。

・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」|国立国会図書館―National Diet Library
 http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/knssympo.html
・日本研究支援シンポジウム「海外の日本研究に対して日本の図書館は何ができるのか」20140130 #日本研究シンポ - Togetterまとめ
 http://togetter.com/li/622943

 当日の基調講演は早稲田の和田敦彦先生(『書物の日米関係』『越境する書物』)。その後、北米・ヨーロッパ・オーストラリア・韓国からのライブラリアン・研究者の方々がそれぞれの国・地域の日本研究事情、図書館事情、日本の図書館への期待といったようなものを、それぞれ15分くらいづつ概説する、というものでした。

 あたしもそのうちのひとりとして、日本の現状みたいなんを、まあもちろん日本の現状なんかろくに知ってるわけでも何でもないんですけどあたしなりの色眼鏡で考えてみた、ていう感じのあれです。
 他の方のプレゼンはあたしががんばってツイート&トゥギャり(放送も中継もないんだもの)で↑上記のリンクのようにご紹介できたのですが、あたしのプレゼン部分はそりゃさすがにツイートできないんで、この場でちょっとざっくりと書いとく感じです。

 おおむね、「ILL」「e-resource」の2つ柱で。

 まずILLについて。

 日本の大学図書館における海外ILL件数(依頼/受付・貸借/複写)を、『学術情報基盤実態調査』から作成すると、2002・2010・2012で図のような感じです。

大学図書館海外ILL件数.bmp

 それから日米間GIF(ググってください)における複写・貸借の、こちらは受付のみ、但し謝絶は別、という件数をGIFの統計から作成すると、2004・2010・2012でこんな感じ。

GIF受付・謝絶件数.bmp

 10年前に比べれば大幅に改善しつつあるとか、特に2010年の貸借はほぼ均衡とか、但しそれは改善というよりweb・OAの影響かとか、謝絶っていっても理由はあってとか、どの数字はどこまで正確か、要因はどこにあるかじっくり見たいとかのもろもろをぐるっとのみこんで言えば、「受付が少ない」はまあまあでも、「謝絶が多い」の傾向はまだかなり目立つなという感じです。まあかく言ううちもそういう感じなのでごめんなさいと頭を垂れるしかないのですが。

 海外の図書館で日本宛てILL依頼の話を聞いたりなんかすると、まあまちがいなく相手の口から出るのは「ワセダ」です。早稲田さんが一番評判&認知度が高い。一番っていうか、ほぼ唯一。一強の早稲田。理由はOCLCに直接参加してるからでしょう。

 かといって、他にも有効に受け付けている、その用意があるという大学図書館さんはいくらかあって、それがたとえば京都大学さんだったりする。
 で、ここでこういう参考文献を見てみると、

・菊池香織『京都大学附属図書館の海外ILL業務』
 http://www.slideshare.net/kulibrarians/20090626-kulibrarians-112-ill
・林豊『ILL in 90 minutes』
 http://www.slideshare.net/kulibrarians/kulibrarians-132

 ひとつ目のほうのパワポに、若干気になるグラフがあります。
 あくまで2008年当時ですが、京大附図さんが受け付けた海外ILL複写141件のうち、1位がニュージーランド・30%、2位が香港28%。これで約6割。えっ?、て思うです、だって皆様おなじみのGIF(OCLC)なんか8%しかない。しかももっとよく見ると、ニュージーランドはもっぱらVictoria University of Wellington Libraryから。香港はもっぱらHong Kong University Librariesから、と書いてある。特定の大学から依頼が集中している。特定のユーザ/スタッフから?、というのは勘繰り過ぎだとしても、要するにこの大学さんからだけはここがILLで”使える”って知られてるんだな、と思います。
 知っていれば、依頼できる。知らない人は、依頼できない。
 “祗園の小料理屋”状態。

 念のためあくまで2008年であって、いまもこうだというわけではないのですが、ただ、あー、どこにしろこういうのって起こりそうなことだな、とは思います、海外のユーザからもライブラリアンからも一強で「ワセダ」の名前ばっかり聞いてると、ほかにもいくつもところたくさんあるはずなのに、知られてないんだなって。情報が共有されてないなって。
 で、それを解決するためにってゆってぱっと思いつくのが、webサイトでの案内強化、みたいな感じのやつなんだけど、それだけじゃあれなんで、個々各々で案内するというより、海外から日本へILL依頼しに来たい人のためのポータルサイトみたいなんできないか、とか思いついたんで当日なんとなく言っときました。というのも、NCC(北米の日本研究ライブラリアンのグループ)のサイトにはそういうページがあるわけです。

・Interlibrary Loan and Document Delivery - Homepage at North American Coordinating Council on Japanese Library Resources
 http://guides.nccjapan.org/illdd
 
 それを、北米のユーザに向けたものを北米の人に作ってもらってて、じゃなくて、日本側でちゃんと”おもてなし”するポータルがないと、せっかくあんなふうにあざとく流行語になった甲斐もないんじゃないかな、って。

 あとポータルって言えば、というか言えばでもないんだけど、海外ILLを実務としてやってると「案内・広報を強化して、依頼が急増したら、もう受付できないかも・・・」ていう恐怖と常に闘っている、ていう感じが多かれ少なかれどこの図書館さんでもあると思うんです。
 でもだからって、こういうのは一部の大学図書館だけががんばってるだけではあんまよくなくって、やっぱりILLっていうのはたくさんのところが参加してて援軍が多い方がいいわけなんで、じゃあ、依頼が増えてもこういうふうにしたらパターン化・ルーチン化できますよとか、リスクやコストが減りますよとか、そういう日本の実務者側の情報共有もできる、そういう意味でのポータルもないと、なかなか口で言ってるだけではうまくまわんないんだろうな、と。何よりあたしが教わりたいのです、切実に。

 なんとなく思うのが、そういうのって、いきなりはじめっからオフィシャルにというか全国展開でオーサライズされたものを、って必ずしも身構える必要はたぶんなくて、なんか、お試しっぽくぼんやり動いてたのが、あ、悪くないなってなって、そのうちふんわり既成事実になる、みたいなんでもアリはアリかなって。
 こないだ正月のNHKでテレビ放談的な番組やってて、笑っていいともの何がいいかって、企画なりコーナーなりとにかく番組が安っぽくて金かけてないのがいい。金かけてないと、おもろしろくなかったらすぐに修正したり中止したりできるから。あれを下手に大げさにコストかけて番組や企画始めちゃうと、やめようにもやめられなくて困る。みたいなこと言ってて、ああなるほどなあって思たです。

 控え室でもいろいろ期待されたし、がんばんなきゃなって。

 あと、謝絶の多くは「書誌が不完全」とか「所蔵してない資料への依頼」「オープンアクセス公開済み」らしいので、「所蔵/書誌情報の発信を強化する(※目次・概要などリッチなデータやオンライン資源の情報を含む)」ていうのも、当日割愛しちゃったけどここに書いておく。
 それと、GIF参加館のアンケート結果を期待して待つ、という感じ。

 とはいえ、いまどきはやっぱILLとかじゃなくてe-resourceですよねえ、と。デジタルでオンラインでオープンなアクセスよねえ奥さん、と。

 というわけで、次の柱「e-resource」。

posted by egamiday3 at 21:23| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする