2015年10月10日

世界記憶遺産おめでとう記念:「東寺百合文書×デジタル×世界」について


 東寺百合文書さん、世界記憶遺産への登録決定、おめでとうございます。

 今年発売された『デジタル・アーカイブとは何か : 理論と実践』(勉誠出版, 2015)に「「誰でも」とは誰か―デジタル・アーカイブのユーザを考える」(江上敏哲)っていう記事を載せていただいたんですが、その中に東寺百合文書について言及した節がありまして、それが”東寺百合文書×デジタル×世界”的な話なので、オリジナル原稿を抜粋して載せておきますね。

デジタル・アーカイブとは何か 理論と実践 -
デジタル・アーカイブとは何か 理論と実践 -
 本編から切り取って文脈が失われた状態で載せたかたちなので、たぶん一部にこいつ何言ってんだ的なところもあると思うんですが、それは本編『デジタル・アーカイブとは何か : 理論と実践』(勉誠出版, 2015)のほうで文脈をご確認いただければと。(っていうか、あたしのよりも古賀先生とか大場さんとか湯浅先生のほうをですね、)


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 日本の図書館やアーカイブが持つ日本語で書かれた日本についての資料・情報を必要とするユーザは、一般的な論理で考えれば、日本にいて日本語がわかる日本のユーザであろう。これをいったん否定し、別のユーザ像、すなわち、海外にいる、日本語がわからない、日本のことが専門でもない他分野の研究者を想定してみる。このようなユーザが、日本にある日本語で書かれた日本についての資料・情報にアクセスしようとすれば、先述のような様々な不自由を伴うことが想像できる。距離が遠く実物を閲覧・利用することができない。入手にコストがかかる。言葉の壁やリテラシーの低さ、制度や慣行の違いによって、読めない、探しづらい、利用しづらい、などである。そしてそれは、1.で挙げたデジタル・アーカイブが持つ利点、すなわち、距離・時間の差を解消できる、汎用性のあるツールに流用できる、検索が容易などの特徴によって解消できる可能性がある。
 例として東寺百合文書とそのデジタル・アーカイブを考える。東寺百合文書は、京都の東寺に伝わる約25000通の古文書群である。その範囲は8世紀から18世紀までの約1000年にわたり、特に14-16世紀の文書が充実している。東寺は規模も大きく広大な荘園も所有していたため、土地台帳や絵図、荘園経営にかかわる文書や、寺院の議事録なども含まれる。当時の東寺および社会の政治・経済・宗教などの背景を現代に伝える、日本史研究には不可欠な一次史料である。現在は京都府立総合資料館が保管しており、1997年には国宝に指定されている。
 東寺百合文書を「日本史研究に資する寺院の史料」ととらえれば、想定されるユーザは日本史研究者や日本の寺院関係者であり、日本にいて日本語を理解する者という前提に限られる。来館利用が充分に可能であり、特段のサポートがなくとも活用可能な専門性とリテラシーを持つと思われる。このユーザ像を否定し、海外にいる、日本語がわからない、日本のことが専門でもない他分野の研究者が、東寺百合文書を利用すると仮定する。そのユーザと東寺百合文書の間にはギャップがある。ギャップを解消するため、東寺百合文書そのものに変更を加えることはできないが、そのとらえ方を変更する。すなわち、東寺百合文書を「世界(東アジア、ユーラシア、環太平洋)の中にある日本という地域の、土地台帳や契約文書などを含む、仏教という宗教組織の文書群」ととらえれば、想定されるユーザは日本の日本史研究者に限らず、世界中の経済学研究者や宗教学研究者など多地域・多分野にひろがり、日本語を充分に理解せず日本資料を扱うリテラシーも低いユーザであるという可能性もうまれる。
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 2014年3月から京都府立総合資料館により公開が開始されたデジタル・アーカイブ「東寺百合文書WEB」 では、約80000枚のデジタル画像をインターネット上で閲覧できる。デジタル・アーカイブとしてオープンにされることで、海外にいるユーザ、日本が専門ではない他分野のユーザによるアクセスがより容易になったと言える。それは、距離の遠さや時間、冊子・コピー等の入手にかかるコストが解消されたというだけではない。その存在がGoogleなどの一般的なサーチエンジンにより不慣れな人にも探しやすく、見つかりやすいという点。また、目録・索引をキーワードで検索可能なデータベースとして提供し、加えてヴィジュアルな地図や年表など双方向性があり直感的操作の可能なツールを提供している点。これらはいずれも、日本資料を扱うリテラシーが高くないユーザの利用とアクセスを容易にするものである。
 また「東寺百合文書WEB」はクリエイティブ・コモンズの「CC-BY」で公開されていることも大きく評価されている。自由な利用を促し社会に還元する姿勢に加え、ここではクリエイティブ・コモンズという国際的な仕組みの採用に注目したい。すなわち、日本国内の限られた地域・分野の研究者コミュニティなどの狭い範囲で共有されるルールや作法、または日本国内の慣習に則った複雑な手続きによってその利用をコントロールするのではなく、海外にいる、日本語がわからない、日本のことが専門でもない他分野の研究者であっても、その利用のルールが容易に理解できる、という利点である。(註:たとえ研究者・執筆者が日本語や日本事情をわかってても、編集者・出版社がそれをわからなければ掲載ができない)
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posted by egamiday3 at 22:32| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

(メモ)『図書館のための個人情報保護ガイドブック』より

 藤倉恵一. 『図書館のための個人情報保護ガイドブック』(JLA図書館実践シリーズ, 3). 日本図書館協会, 2006.
(藤倉恵一. 「図書館における個人情報保護 : 理念と実際」(<特集>情報セキュリティ). 『情報の科学と技術』. 2012, 62(8), p.342-347. でいろいろ補足した)

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・2005年4月 「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)全面施行

●個人情報保護法の適用範囲
・適用される”個人情報保護”法令は設置母体による
・「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)
→民間事業者=私立学校の図書館、私設・民間の図書館
・各地方自治体が定める個人情報保護に関する条例
→公共図書館、公立大学図書館
・「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」(2003年)
→行政機関に属する図書館
・「独立行政法人等が保有する個人情報の保護に関する法律」(2003年)
→国立大学法人、法人化した公立大学

●「個人情報」と「個人データ」
・「個人情報」
・特定の個人を識別できる情報
 (氏名、住所、生年月日、連絡先、容姿、指紋・遺伝子)
・単独では個人を識別できないが、他のリストと照合すれば特定できるもの
 (ID、学籍番号などの数字・記号)
・プライバシーとは異なる

・「個人情報データベース等」(民)・「個人情報ファイル」(公)
 個人情報が検索可能なデータベース
 (アナログなものも含む(冊子、紙リスト、整理された名刺))
・「保有個人データ」(民) 半年以上保有する個人データ
 「保有個人情報」(公) 職務上取得した個人情報ファイル
・図書館では
 「個人情報」: 利用者の氏名、住所、連絡先等
 「個人情報データベース等」(民)・「個人情報ファイル」(公): 利用者情報をデータベース等のシステムに登録したもの
・個人情報保護法等で取り扱い注意の対象にしているのはほとんどが「保有個人データ」「保有個人情報」である
・(法的保護の対象でない)「個人情報」やその他の利用者に関する情報は、「図書館の自由に関する宣言」で守る(読書履歴、レファレンス記録など)
・個人情報保護等で保護すべきものは、おおむね「図書館の自由に関する宣言」で守るべきものに含まれる

●利用者情報の「利用目的」
・個人情報を取得する(利用登録等)ときに、「何のため(目的)」を明示する必要があるか?
 ○ 貸出、返却、督促、到着通知 →図書館利用のためという目的が明らかであれば、明示する必要はない。
 △ 広報、新サービス案内など →明らかな「図書館利用目的」でなければ、個人情報取得時に「広報に使用します」などを明示しなければならない。どこまでが図書館利用なのかを特定する必要がある。
・外部のデータベースから得られた情報を利用してよいか?
 (例)入学生の情報を、事務部から図書館に渡して転用する。
    卒業生に連絡をとるために、事務部が管理する同窓会名簿や在学記録を利用する。
 →その個人情報が、図書館利用の目的でも使用されることが、正しく伝わっていなければならない。

●図書館の「資料提供の自由」と制限
「図書館の自由に関する宣言」
第2 図書館は資料提供の自由を有する
1 国民の知る自由を保障するため、すべての図書館資料は、原則として国民の自由な利用に供されるべきである。
 図書館は、正当な理由がないかぎり、ある種の資料を特別扱いしたり、資料の内容に手を加えたり、書架から撤去したり、廃棄したりはしない。
 提供の自由は、次の場合にかぎって制限されることがある。これらの制限は、極力限定して適用し、時期を経て再検討されるべきものである。
(1)人権またはプライバシーを侵害するもの
(2)わいせつ出版物であるとの判決が確定したもの
(3)寄贈または寄託資料のうち、寄贈者または寄託者が公開を否とする非公刊資料
2 図書館は、将来にわたる利用に備えるため、資料を保存する責任を負う。図書館の保存する資料は、一時的な社会的要請、個人・組織・団体からの圧力や干渉によって廃棄されることはない。

●資料としての「個人情報」
・図書館が所蔵・提供する資料に含まれている「個人情報」
・「個人情報」
 図書・論文の著者名/著者の略歴/ノンフィクション作品に登場する個人/人物研究・人物評論
・「個人情報データベース等」
 人名事典/名簿・電話帳/卒業アルバム
 著者名目録(目録カード・データベース)/著者標目
 (これら「データベース」には「個人データ」が収録される)

●図書館資料は適用されない
・個人情報保護法 第50条
「個人情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については、その個人情報を取り扱う目的の全部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、前章の規定は、適用しない。」
「三 大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者   学術研究の用に供する目的」
・独立行政法人等の・・・法律 第9条第2項第4号(利用制限の例外)
「四 ・・・専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由のあるとき。」

●名簿閲覧の是非(1)
・2005年4月 金沢市立玉川図書館が、新聞記者の指摘を受け、明治大正期受刑者名簿の利用を禁止した。

・日本図書館協会への内閣府個人情報保護推進室からの回答
「図書館などが所蔵し提供している資料は対象とならない。図書館が個人情報を含む資料を利用者に提供することは(中略)この法律は直接対象としない。その資料に問題があるとすれば、それを出版した者がまず問われることになる。」
↓↑
・「図書館の自由に関する宣言」
「(1)人権またはプライバシーを侵害するもの」

●名簿閲覧の是非(2)
2008年11月 元厚生事務次官連続殺傷事件
「次官宅住所は国会図書館で調べた」

厚生労働省から国会図書館・都道府県教育委員会へ、厚生労働省関係者の名簿を提供制限することを要請した(犯人逮捕前)

(緊急措置として)厚生労働省の名簿を制限した図書館
一時制限してのちに解除した図書館
関係ない名簿も制限した図書館
提供制限をしなかった図書館

日本図書館協会「名簿等の利用規制について」(2008.12)
http://www.jla.or.jp/portals/0/html/jiyu/meibo.html
「人々の知る権利を保障し、自由な判断を支えることを基本的な使命とする」
「緊急避難的に・・・利用規制がとられたことは・・・理解できないことではない」
「その対応が過度にわたり、常態化することはあってはならない」
「利用規制を行う場合には、利用者に対してそのことの理由が説明されること、規制期間の明示、解除についての検討が必要」

●名簿
・判断のポイント
 体系的に整備されているものか(保有個人データ、個人情報ファイル)
 公になっているかどうか
 出版・編纂者の意向
 名簿記載者の同意を得ているかどうか
 侵害の申し立て
・体系的に整備されているもの
 (例)電話帳/人名事典/学会員名簿/卒業アルバム
・公に出版・販売されているもの
 →通常の資料と同様
・公にすることを前提としていないもの
 限られた人だけに頒布・配布されるもの
 →受入時に判断する(なぜ蔵書とするのか(利用/保存))
  作成者・寄贈者の意図を確認する
・思想の自由等の侵害につながるもの
 差別につながるもの
 →提供に部分的な制限をかける
・生存しない人物を対象にしたもの
 →個人情報保護の対象ではない(ただし子孫のプライバシーの問題あり)

●人権・プライバシーに関わるもの
「図書館の自由に関する宣言(1979年改訂 解説第2版)」
「プライバシーとは、特定の個人に関する情報で、一般に他人に知られたくないと望むことが正当であると認められ、かつ、公知のものでない情報」
(該当する)
・特定個人の出身地が被差別地域であることが推定できる資料(「部落地名総鑑」の類の資料や一部の古地図、行政資料)
(該当しない)
・特定個人の人権侵害に直結しない、差別的表現
・「その判断は・・・それぞれの図書館が、図書館内外の多様な意見を参考にしながら、公平かつ主体的に意思決定する」
・「やむをえず制限する場合でも、「より制限的でない方法」」

●目録における個人情報
・著者名目録・著者標目
 →個人情報を体系化した「個人情報データベース等」「個人情報ファイル」に該当する。
・2005年6月「個人情報保護と日本目録規則(NCR)との関係について」(日本図書館協会目録委員会)
 公刊物から取得・転記した個人情報は、作成・公開しても問題ない。
 公刊物ではない情報源から取得し、本人の同意を得ていない個人情報は、作成はできても公表はできない。
(例)
 匿名著作に著者名をリンクする
 本名と別名をリンクする/本名を記載する
 →情報源が公刊物かどうか/本人の同意があるかどうか

●レファレンス協同データベース
 http://crd.ndl.go.jp/reference/
 全国の図書館が協同して、レファレンス事例をデータベースに登録し、インターネットで公開したもの。
4.2.1 プライバシーを尊重する
「記載されるデータ中に、個人名が記されていないことを確認する必要があります」
4.2.2 質問者の特定化を避ける
「質問者が第三者に特定化されないよう記載することが必要となります。個人名が記されていなくても、「質問」、「事前調査事項」、「質問者区分」等から、質問者が特定されてしまう可能性がまったくないとは言えない」
posted by egamiday3 at 22:01| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする