2016年02月27日

コスパとキャパ : 或いは、うちとこのサービス小論


・未来食堂
 http://miraishokudo.com/
・未来食堂日記(飲食店開業日記)
 http://miraishokudo.hatenablog.com/

 去年の末頃に「未来食堂」さんというところの紹介記事が出てまして、それをいくつか読んでました。
 一番気になったのは、「あつらえ」(お客が材料を選んで好きな料理をつくってもらえる)のとこですね。

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・あつらえシステムの解説マンガ
 http://miraishokudo.com/img/manga_atsurae.png

・メニュー1つ、お酒はシェア 元クックパッド社員の食堂:朝日新聞デジタル
 http://www.asahi.com/articles/ASHDV6W3KHDVUTIL02C.html
「「卵とミニトマトが食べたい。ふわふわな感じ」。約5分後、ざく切りのミニトマトをくるんだだし巻き卵が出てきた。
 常に10種類超を用意しているというメニュー表の食材を選んで注文できる「あつらえ」というしくみ。午後6時から注文でき、一品400円。女性は「どんな料理が来るのか、考えながら待っている間がわくわくしますね」と笑顔だ。
 この日の定食は唯一のランチメニューでもある900円のチキン南蛮。メニューにある食材はキャベツ、ゴボウ、ユズ皮など15種類。」

・元・エンジニアが営む“定食屋のスタートアップ”が、飲食業界の定説を覆す!?|PR Table
 https://www.pr-table.com/miraishokudo/stories/24
「「個人の要望に応えて作るなんて非効率だ」と思うかもしれませんが、実際は非常にロスの少ない、飲食業界の定説を覆す、画期的なビジネスモデルになっています。
 「固定されたメニューにすると、1個食材が足りないだけで買い出しに行く必要があったり、どこかで必ず破棄が出ます。でも『あつらえ』は、今日の冷蔵庫の中身を紙に書けばメニューが完成します。あるもので作るので売り切れのメニューもなく、在庫もゼロ。残った食材は次の日のおかずにも使えます」(小林)
 つまり、その日のお店の冷蔵庫に入っているものから食材を選んでもらい、それを使って調理するだけ。未来食堂のロス率はほぼゼロに近いと小林は語ります。」

・元クックパッドのエンジニアが起業 飲食店の常識を覆す「未来食堂」 | 月刊「事業構想」2016年1月号
 http://www.projectdesign.jp/201601/chance-in-mature-industry/002618.php
「オーダーされたものを作る手間暇は、並んでいるメニューから注文されることと変わりません。一方で多くのお店は、メニューが多いほど満足度が上がると考えます。すると、それぞれの料理に合った食材を揃えるため、食材のロスも多くなります。『あつらえ』は、店にある食材を書いているだけです。無駄がないし、メニューから頼むよりも自分のために一品を作ってもらうほうが、満足度が高いと思いませんか?」

・数学科卒エンジニアが「食堂」を起業した理由 | ハーバービジネスオンライン
 http://hbol.jp/69606
「あるもので作るので、在庫を抱えるリスクが減るんです。メニューを増やすことがお客さんに投げるボールを増やすことだとすれば、『あつらえ』はお客さんにボールが当たるところまで来てもらう感じですね。」「店の在庫や私の余力がフレームワークとしてあって、その上でお客さんの要望がその状況に合致するなら『あつらえ』られるというイメージでしょうか。お客さんの要望や行動をリクエストとして捉え、最適なフレームワークを組み立てることで質の良いレスポンスを効率的に返す。」
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 あつらえのほうがロスが少なく効率的、あるものを提示するだけ、というのはよくわかります。
 知ってる方はご存知の通りここは”図書館バカ”のブログなので、図書館も似たようなところあるんじゃないかな、という話になるわけですが、これを例えて言うなら、図書館が利用・サービスのためのルールをつくればつくるほど、それに縛られて効率が悪くなっていくのは職員側のほうじゃないか、という直感です。

 うちとこは蔵書52万冊、建物4棟×3フロアで、サービスまわりの職員が4人こっきりです。出張先で登壇するときは「私ここに来てますから、いま3人でやってます」て毎回言います。しかも5年前までは建物2棟でした、5年でスペース倍に増えてフロアスタッフ4人のままです、これも定番ネタですが。
 まあそういう愚痴は置いておいて、要は人員きつきつでやってる。ので、例えばおひつから自由によそってもらうかのように、内部の人にも外部の人にもほとんどの蔵書を開架にして自由に使ってもらう、まあ良し悪しは別にしての放置プレイですけど、で、たまによその図書館から来た人に「え、こんな古いの開架なの」て驚かれることもあります。

 一方ユーザさんのほうは、内部利用者がほとんどで対象者100数十人で外部の人もそう多いわけではない。そのかわり各分野の専門の研究者、学生も博士課程以上ですから、求めるものの難しさや複雑さがわけわからなさが半端ない、ということになります。その道の専門の先生が調べて調べて調べて、わかんなかったからって投げてくる。まあ、毎回毎オーダーが、オーダーメイド、みたいになりますから、ゼロから相手の話を聞いて何を欲しているかろ理解してできることを相談してっていうお話し合いからやらないといけない。

 スタッフも少人数、ユーザ数も小規模、オーダーの個別度が高い。そういうところで、例えば不特定多数のユーザが来館してだいたい定型な用向きを満たそうとしにくる規模の図書館さんがやるようなルール作り・様式作りみたいなのって、結局あんま有効に働くこと少ないよな、っていうのがこれまでの自分の直感です。意味ないとか不要とかでは決してないんだけど、コストパフォーマンスで言えば低いな、っていう。

 そのことにあらためて気付かされるのが、よそさんの大学等から来館や遠隔でうちとこを利用しようとしていらっしゃる外部ユーザさんとやりとりをするときです。
 人文系で大学その他に所属されている研究者で、頻繁によその図書館にあちこち出向いて行かれているであろう方の中で、たまにいらっしゃるのが、こちら(図書館)側のルールに先回りして合わせに来よう来ようとする方です。例えば、カメラ駄目なんでしょうね、コピー駄目なんでしょうね、本棚見せてもらえないでしょうね、みたいに。こちらが何も言わないのに禁止事項や制限を確かめにくる方とかがいて、なんだろう、よその図書館で相当イヤな目に遭ったのかしらって思います。あきらめないで、って真矢みきみたいに思います。または、まだ何が必要ということもおっしゃらないうちに、最初から提出書式や手続きの情報を求めにいらっしゃったりするとか。それは、自分もユーザ側にまわる時はそうなりがちなんで気持ちはわかるのですが、図書館をこれまである程度使ってきてる人ほど、自分のリクエストを図書館側の枠組みに無理にあてはめようとしはるんじゃないかなって思いますね。
 それでたまに起こるのが、最後の最後のほうになって、あ、コピーがほしかったんですか、全体の写真がほしかったんですか、だったらカメラもスキャナも使ってもらって良かったでしたのに、ていうか来館なさらなくてもこっちから現物なりコピーなりちゃちゃっとお送りできる方法いくらでもありましたのに、ていう。それはもちろんうちとこだって無理なものは無理、断らざるをえないところは断るしかないんですけど、こういうことができます、こういう方法も選択肢もなんなら裏技もあります、みたいなことって、相手の最終目的というか要するに何をしたいのかがわかんないと、こちらからは提案しようがなかったりしますね。

 なので、あれ、このお客さんなんかありそうだな、と感づいたら、えっと、すみません、それはともかく最終的には何をどうなさりたいんですかね、ていうのを率直に語ってもらう、解きほぐしてもらうことをしたりします。うちとこの先生にもよそさんのお客にも、とりあえず、何が見たいのか、それをもって何をしたいのかを、まずそのまま言ってほしい。上の記事で言う「お客さんにボールが当たるところまで来てもらう」、かな。それで、できないならできないって言うし、できなくても代わりにこんな方法ではどうかというのもできるだけ寄り添ったかたちで率直に提案できる。
 そのほうが、最初から少人数でしかないのに、あれもあるかもしれないこういうことも起こるかもしれないと我々側が先回りして”サービス・メニュー”みたいなのを構築する、というコストをかけるよりは、いいと思うんですね。特にうちとこみたいに、要求がみなさんバラバラで、1個1個がディープ、資料や図書館をある程度使い込んでる人が多いし、その専門の資料の中身や特性や取り扱いについてはお客側のほうがよっぽど精通してはる、イレギュラーな対応がレギュラーみたいにならざるを得ないというようなところで、お仕着せのメニュー提示しても無駄になることが多いというか。これが食品だったら大幅ロスだろうという。

 もちろんうちとこにも組織としての規則はありますし、運用のルールもありますし、それを利用案内にもwebサイトにも書いて提示してはいますからそのへんはよその図書館さんと同じではあるんですけど、なんていうんでしょう、正直言うと、よっぽどの必要最小限のルールやさすがにそれは無理というようなこと以外は、十中八九がケースバイケースになっちゃうから、あんまりつべこべ掲げてもしょうがないんですよね。結局、ものによります、場合によります、何をなさりたいかによります、になっちゃうので。
 だからネットにOPACやデータベースを公開することでこれこれがありますって言って、何がしたいですかって聞いて、それはできます、それは時間がかかります、これは無理です、かわりにこうでどうですか。結局はそれが手っ取り早いんじゃないかと思います。
 というわけなので、webサイトにいろいろ利用のための要領は掲げつつも、あちこちに「事前にご連絡ください」「個別に相談させていただきます」「詳細はご相談ください」「対応が異なります」とうるさいくらいに書いてますね。海外の方にはもう「JUST E-MAIL US」だけ強調して言ってます。とりあえず言ってみろと。とりあえずメールくれと。話はそこからだと。
 なにより、せっかくうちとこみたいな辺鄙なところにわざわざ興味を持って/必要があってモーションかけて来てくれるような奇特なお客さんに巡り会えた僥倖なのに、右から左のルーチンで処理してる場合じゃない、ちょっとつかまえてあれこれお話をうかがう、どんなリクエストがあるのか、どんなニーズがあるのか、どういうことをやってる人がどんな経緯でもってうちとこの扉をノックノックしてくださってるのか、というユーザ理解ポイントがそれによってゲットできるのであれば、あつらえの対応なんかコストでも何でもないだろう、て思うんですよね。

 ただし、です。

 それが通用するのは、ユーザやリクエストの「バリエーションは多い」としても「数・規模は大きくはない」場合にのみ通用することです。
 そうです、よくわかってます。ようするにうちとこだからできる範囲のこと、というだけのことです。ユーザの多くが内部利用者で数字上の対象者が100数十人、顔と名前と専門分野とIDを暗記できてるレベルの規模で、外部からの来館者も1日2桁いくことはそうそうない。だったら上のやり方のほうがコストがかからないかもしれない。
 でもこれが例えば単純に倍になれば、まあまず無理だと思います、あきらかにキャパ・オーバー。不特定多数ユーザの、定型な用向きを満たすための、ルール作り・様式作りを先回りしてやらないと、とてもじゃないけど回していけない。

 ”あつらえ”が効率的でコストもロスも低いからといって、その分キャパシティーを上げられるかというと、そういうわけではない、ということだと思います。
 コストパフォーマンスと、キャパシティーというのは、たぶん別系統の問題として議論・検討されるべき問題なんだろうなと。

 未来食堂さんの別の記事では、「2号店、3号店を出すようなイメージはない」「座席が増やせるわけではない」「私のあつらえと他の人のあつらえは違うし、それぞれの魅力がある」(http://nipponmkt.net/2015/12/23/takurami28_miraisyokudo_kobayashi04/
)というようなことが書かれてます。また、記事が出たころはお客が増えたのか、「1月になってから来てもらったほうがいい」みたいなことも書かれてたみたいです。

 で、ここで誤解したくないのは、キャパ・オーバーするからオーダーメイドはすべて却下、というわけではないよなということです。コスパとキャパは別系統の問題、それぞれの規模によって適したやり方が異なるにちがいないので、うちとこにはうちとこにふさわしいやり方があるというだけだし、またうちとこでうまくいってた/あたりまえであったやり方をよそにいってそのまま適用できるわけでもない。あつらえやオーダーメイドができるしふさわしいところではそれをやったらいいし、そうじゃないところはそうじゃないし、未来さんとこだってメイン1メニューだからこそできることもあるんだろうし。例えば同じ館内でも、このタイプのサービスはルーチンじゃないと無理だけど、このあたりのサービスはオーダーメイドでいけるみたいなことってあるんじゃないか。まあそれこそケースバイケースだろうな、という感じです。だから、うちはそんな余裕ないから無理だよみたいに、あきらめないで、って真矢みきみたいに思いますね。あきらめなきゃいけないって誰が決めたんですか、って。

 というふうなことを、未来食堂さんに関する記事を読んでなんとなく考えてたんですけど、とはいえ、自分は経営やマネジメントや政策科学の専門家でも何でもないからこの考えがあたってるかどうかなんてわかんないし、そもそも未来食堂さんに行ったことすらまだないから、この考えに未来食堂さんを引き合いに出しちゃったりするのがあたってるのかてんで的外れなのかもわかんないので、その程度の感じです。
 とりあえず次に東へ向かう列車に乗ることがあればいの一番にごはん食べに行ってみたいと思います、そしたらもしかして考え変わるかもですが。

posted by egamiday3 at 17:31| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする