2016年08月24日

デジタルアーカイブについていろいろと考えたメモ


 先日、とある場でデジタルアーカイブについていろいろ議論する機会があって、で、これはその議論をメモしたわけでもなんでもないんだけど、その議論を含めて全体的になんとなく自分で考えたりしたことのメモ。


・システムが先か利用/ユーザが先かについては、システムが新しい利用を掘り起こす、っていう理屈はなるほど確かにわかるし同意なんだけど、一個のイノベーティブなものをとんがって開発ならそれがいい、けどナショナルな社会的インフラの整備でそれだとマズイんじゃないか、ていう感じかしら。
・イングレスでポータルをエンリッチすれば、ポケストップもリッチになる、それによって街をデジタルアーカイビングさせていける。そういう活動について。(註:まあポケモンもいつまで有効は疑問)
・では、アーカイビングするに足る街とは。あるいは、街をアーカイビングしてどう活かせるのか。
・文化資源、学術情報、地域、芸術、呼称はいろいろあるでしょうけど、どれかを採るとどれかが落ちるわけで、どれかに拠るわけではない、全方位を包括する、ワンアップ上を行くメタなワードを、なんとか創出・普及させられないかって思うんだけど、それが「アーカイブ」なんだったらそれでもいいと思うんですね。
・ていうか、たぶんどんな業種、どんな分野にも、ひとりやふたり、1%や2%くらい、”デジタルアーカイブ”的な議題・課題に興味関心を持ってる人ってあまねくいるんじゃないかと思うんで、そういう各業種各分野の人を缶詰を開けるときの取っ掛かりとしてのツメとして、リーチしていけるような議論・企画ができたらいいんじゃないかな、って思いました。
・そういう人たちを招いて企画を催す、ディスカッションを実施する。それは、ディスカッションの中身や結論が効果を左右するというよりも、ディスカッションを実施する、あるいは招く・招へいするということ自体が、ひとつの広報活動、ていうことなんじゃないかなと。
・興味関心を持つ=能動的な態度をとる、だから、能動的に何かしてもらうのが手っ取り早いよな、そりゃそうか。
・京都にとってアーカイブとは? 観光? 寺社? 老舗? 学校? 地蔵? 伏見? 映画村? 任天堂? 挙げだしたらきりがない。京都学自体がアーカイブ学?
・だったら、”京都”は自らの”アーカイブ”を具体的にどう”活かし”てるんだろう?
・「MALUIマインド」という言葉がよぎった。意味はわからない。
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2016年08月21日

(メモ)『アーカイブ立国宣言 : 日本の文化資源を活かすために必要なこと』からのメモ

『アーカイブ立国宣言 : 日本の文化資源を活かすために必要なこと』ポット出版(2014)
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0213-9.html

アーカイブ立国宣言: 日本の文化資源を活かすために必要なこと -
アーカイブ立国宣言: 日本の文化資源を活かすために必要なこと -

■極私的感想
・課題も現状もユーザ像も価値観も将来性も優先順位も、これだけ多種多様・百花繚乱・百鬼夜行だと、全体をカバーしようとする仕組みにはできるだけふんわりとした寛容さというかふところの深さがいるなあ、という感じ。


●はじめに
・「問題は、技術力以外の分野での日本の著しい立ち遅れである。これまで技術力、経済力に頼って発展してきた国の驕りが、この立ち遅れの深刻さから目を背けさせてきた。」

●鼎談:アーカイブとは文化そのものである
青柳正規、御厨 貴、吉見俊哉
・「小説や文学、映画、建築、絵画などの中には、近代日本が西洋化・近代化の中で悩み、苦闘してきた痕跡がいっぱい残っています。・・・保持すべきものが、この19世紀末から1970年代前後までの日本にあると思うのですね。でも、現在はその価値が意外と認められていなくて」
・「個人的な記録はどんどん蓄積されているのに、それらが相互につながっていない」「東日本大震災では、被災地で膨大な記録が残されましたが、その大半がおそらくオーファン作品となるでしょう。でも、現在の日本ではそれらを共有する仕組みが整っていません」
・「全国各地で草の根的に生み出されてきた文化的資源がとてもたくさんありますが、それらは今、共有化されないままどんどん失われている」
・「大事なのは、共有化した記録が具体的にどのように役立つのか、そのプロセスを文脈化することです。」「「あなたが持っている記録は、公共の処に預ければこういうふうに役立つから、出したほうがいいですよ」って、目に見える文脈化を行なうことが重要であって、それを可能にするのが文化力だと思います。」

●(マンガ)「マンガ・アニメ・ゲーム文化のすべてを収蔵するミュージアムを」
東京国際マンガミュージアム/森川嘉一郎
・アーカイブを維持するためには、施設に集客機能を持たせて維持費をまかなうとともに、保存の意義を啓蒙普及していく。そのためにアーカイブ機能とミュージアム機能を併設する。→「東京国際マンガミュージアム」
・「保存のためのデジタル化」を可能にする制度が必要。複写請求の多い資料ほど複写不可に陥る。

●(ゲーム)「世界に通じる文化を国内で保存すべきである」
立命館大学ゲーム研究センター/細井浩一
・研究と開発の現場では、世界共通のIDを定めて同定可能にすることがポイントになる。
・「100年後、日本のゲームを研究しようと思った人が「スタンフォード大学に行かないとダメだよ」ってなってしまったら、嫌ですからね」

●(震災)「公開・共有のための仕組みづくりが必要だ」
311まるごとアーカイブス/長坂俊成
・震災前の生活を見たいというニーズ。地域の集会所で昔の地元小学校の運動会の映像を上映すると盛り上がる。コミュニティのアイデンティティの復活は「心の復興」。
・311まるごとアーカイブスを法人化し、法人が行政に代わって公開し、問題があった場合はオプトアウトする。

●(脚本)「映像の現存率が低いなか放送文化を残していくために」
日本脚本アーカイブズ推進コンソーシアム/石橋映里
・脚本アーカイブズでは、脚本・台本を収集し、データベースを作成したのち、複数の機関へ寄贈・移管している。作成した脚本データベースでは何がどのような内容でどこにあるかがわかり、ひとつのコレクションに見えるような形。
・全国の図書館102館に1万冊以上の脚本が所蔵されている。これらをひとつのフォーマットでデータベース化するには、これから協議が必要。

●(映画)「デジタルアーカイブは「保存」に役立つか」
東京国立近代美術館フィルムセンター/岡島尚志
・デジタルデータ保存の方法としての「式年遷宮」方式。一定の期間ごとに決められた新しいキャリアにデータを移し替えていく。
・「永代供養」方式。著作権者に一定の金額を負担してもらい、公的機関で保護する。
・フランスINA(国立視聴覚研究所)では、1000人の常勤職員がフランスのテレビ番組すべてを録画する。フランスという国はそういう事にお金を湯水のように使う。

●(放送)「テレビ番組とアーカイブ NHKの取組」
NHKアーカイブス/宮本聖二
・現在のNHK放送システムは、番組をファイルで完成させ、放送と同時にアーカイブされるという、一体的なシステムをとっている。

●(地域)「普通の人の話をきちんと残していく大切さ」
地域雑誌「谷中・根津・千駄木」/森まゆみ
・地域文化がない場所はない。ただ、それを記録として残しているところがほとんどない。
・地元の自治体とうまくいかない。町の記録をとる者は、行政には扱いにくい。
・「谷根千」のバックナンバーはエール大学、ハーバード大学で全号を保存している。

●(地域)「交流装置としてのアーカイブを作りたい」
小布施町立図書館「まちとしょテラソ」/花井裕一郎
・オーラルヒストリーとしてのこす「小布施人百選」
・「ワクワク通信」は説明責任とともに、図書館への来館を促すツールでもあった。普段来ない人に来館してもらうため、全戸配布にこだわった。
・町は交流産業。ほかに産業がないと、来訪者に小布施ファンになってもらうしかない。そういう町をどう作っていくか。交流装置としての、道具としての、アーカイブ。
・面白いと思えることを図書館が先導して行動すればいい。貴重な資料が地域にあるとわかっているなら、もらいに行く。そういう実績を積み重ねてはじめて予算がついてくる。実績がないところに予算はつかない。
・司書のキャパシティを越えていることには、外部の力を借りたらいい。いろんな角度のスキルを持った人を迎える。

●(地域)「地方の図書館で進める電子書籍の可能性」
札幌市中央図書館/淺野隆夫
・図書館が地域情報を積極的に集めていることに驚いた。だが、図書館は収集はするが、発信までは手が回らない。
・電子書籍サービスについて、インターネットで告知するだけではIT好きな人だけのものになりやすい。電子サービスをリアルな場所でPRすること。
・図書館をいろんな場につくるために、デジタルが必要。役に立つ事例を積み上げていくこと。

●(アニメ)「未来の日本のアニメーションアーカイブスを目指して」
日本・アニメーションアーカイブス/植野淳子
・1963年のテレビアニメ放映開始から2033年で70年になり、保護期間が切れる。そうすると、原版や中間制作物の保管コストを負担している所有者によっては、散逸・消失してしまうおそれがある。

●(音楽レコード)「タイムリミットが迫ってくる古い音源をデジタル化していく」
歴史的音盤アーカイブ/藤本草
・デジタルアーカイブは複製ではなく保全。原盤がなくなってしまえば権利者も権利主張できない。デジタルアーカイブ化してしまえば、これからもずっと権利を主張しつづけられる
・SP盤の総合カタログをインターネット上にオープンにし、収集機関やコレクターに所蔵品について書き込んでもらい、集大成できれば。

●(書籍)「既存の知的財産をいかにアーカイブしていくか」
植村八潮
・NDLの納本率。商業出版物は97%。行政資料は56.7%。
・電子書籍納本について、利用はしなくともデータの保存だけでも先行しておこなうダークアーカイブの実現を。

●「デジタルアーカイブ振興法制定の意義と今後の方向性」
福井健策、中川隆太郎
・国際的なプレゼンスの向上。適切な日本理解を促す外交戦略上の位置づけ。
・インターネットでアクセス可能なコンテンツの質・量。たどりつくための導線、一元的な検索窓口。多言語対応。
・多言語発信の例として、映像コンテンツに英語字幕を付与する字幕ラボの設置。
・国内外のデジタルアーカイブ間の相互接続の促進。アジア・ヨーロッパ・北米など諸外国のデジタルアーカイブとの相互接続を進めるべき。


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2016年08月13日

(メモ)アーカイブサミット2016・基調報告(動画)を見たメモ


アーカイブサミット2016(記録)
http://archivesj.net/?page_id=875

基調講演・基調報告の公開動画@YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=veF6dRHduFM

●(1)「アーカイブサミット2015の成果と課題」/吉見俊哉(東京大学教授)
・日本国内にさまざまな影響を及ぼすべく、継続的な事業としておこなっている。
・アーカイブサミット2015とは何だったのか?について。
・なぜ、アーカイブサミットが開かれたのか?
-現状日本のデジタルアーカイブ、知識基盤整備が遅れている。(ガラパゴス、各機関でバラバラ、ヒューマンリソースの問題)
-これらの問題に対して何がなされなければいけないか。
-著作権とパブリックドメイン
-人材育成
-標準化・横断化・公開化
これらに取り組むため「国立デジタルアーカイブセンター」「アーカイブ基本法」を2015アーカイブサミットで提言した。
・参加は、政界・文化庁、図書館・文書館・博物館、大学、産業界、地域活動、海外機関、メディア。
・何が議論されたか?
-東日本大震災→ポスト東京五輪
-「現場の知」を「政策の知」(「国立デジタルアーカイブセンター」「アーカイブ基本法」)へ。
・「アーカイブ立国宣言」
(1)国立デジタルアーカイブセンターの設立
(2)人材育成
(3)オープンデータ化
(4)孤児作品対策
-特に2015年に議論されたのが、専門職養成・確保などの人の問題。孤児作品対策のための法整備の問題。お金・経済的価値の問題。
・残された課題は何か?
-この場(アーカイブサミット)にいない担い手・地域との連携。
-内容が文化芸術に偏っていないか?
-オープンをビジネス的価値にどうまわしていけるか?
-国家主導の政策は、地方のアーカイブを疎外しないか?/作り手としての市民・草の根への視点が欠けていないか? (★<e>地蔵、じゃないか)
-国内アーカイブ機関の横の連携・連動をどうデザインするか?
-より広く人々に理解してもらい、価値ある物と認めてもらうためにどうするか。
-大胆な提言、ベストプラクティスの共有、文化資源の活用がもたらす価値とは何か、等。
・全体を束ねる機関としての国立デジタルアーカイブセンターや、全体の仕組みとしてのアーカイブ基本法、が必要なのでは。そしてこれは、地域の一人一人の草の根な活動を支援するものであってほしい。

●(2)「著作権リフォームの潮流とデジタルアーカイブの課題」/福井健策(弁護士)
・君臨するプラットフォーム(ビッグデータの集積、序列化、流通を寡占している)
・デジタルアーカイブにとっての問題は、権利処理のコストをいかに下げるかということ。
-そのため、著作権リフォームが必要。
-権利者への補償金よりも、権利処理コストのほうが高い。
-コンテンツが生む利益自体よりも、権利処理コストのほうが高い。
・2016年4月「内閣知財本部・次世代知財システム報告書」
-権利処理コストをどう下げるか
-権利情報の集中管理
-拡大集中許諾
-孤児作品対策として、利用裁定制度をさらに拡充する。(事前供託制度の見直しなど)
-権利処理自体困難な場合に、許諾不要など、柔軟に対応すること。
著作権第31条はここまで到達した!という話。
-絶版資料をNDLがデジタル化&図書館送信。(31条改正済み)
-全国の図書館が絶版資料をデジタル化し、それをNDLが図書館送信。(2015年3月文化審議会で解釈済み、2015年7月には博物館・美術館も含む)
-全国の図書館・博物館・美術館がネットワークでアーカイブを構築することが可能。
-一億総クリエイターの時代だからこそ、「知は力」という観点からの著作権教育をおこなう必要がある。

●(3)「めざすべきナショナルデジタルアーカイブの機能イメージ全体像」/生貝直人(東京大学客員准教授)
・海外の例
-Europeanaは、ディスカバリのためのポータルであり、全欧州の個々のアーカイブをカバーする多数のアグリゲータの連合体である。かつ、利活用のためにオープン化している。
-DPLA。地域拠点をネットワーク化する。(サービスハブ)
・日本の現状。
-非常にたくさんあるが連携できていない。
-「デジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会」(2015-)で、日本版ヨーロピアナ機能の構築が検討されている。
-デジタル化されたものを、いかに見つかるものにするかと、使えるものにするか。
・ナショナルデジタルアーカイブの要件とは。
-個々の多様性・固有性・自立性・専門性を最大限に擁護し、強化するものでなければならない。
-各地域・各分野に分散的なアグリゲータ(大学や大規模文化施設)を設置し、連携の拠点とする。
-ポータル機能。公的資金によるコンテンツは基本収録・アクセス保証するように
-これらを束ねるセンターは、必ずしも大きくなくていいだろう。
→アーカイブ基本法の骨子へ。
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2016年08月11日

(Q&A)「実家から出て来た古い時代の資料を、個人でできる範囲でどう保存したらいいですか?」


 寄席の常連さんから質問を出してもらってそれに答える、という三題噺のような企画をよくやるのですが、その時にいただいた質問のひとつ、一部改変して。

「実家の納屋から、戦前戦後の古い時代の小冊子や雑誌などが出てきて、それらをきちんと保存したいのですが、個人でできる範囲でどんなふうに保存したらいいでしょうか?」

 ここで言う「保存」にはいくつかの別のアプローチでの「保存活動」があると思うんです。
 例えば寄席でもよく話題にした「物理的劣化を防ぐ」という意味での保存活動。これはまあ、湿気と酸性紙に気をつける的な感じ。もうひとつは「公的機関に託す」という安住地探し的な意味の保存活動、図書館とか博物館とか、役場とか学校とか、どういうところに相談すれば任せることができるだろうか、みたいなのをがんばる感じ。でも、それをやろうとするとまず、その資料の価値評価をしないといけない、歴史的背景の正確な調査をしないといけない、他人様との交渉ごとをしないといけない、で、コストはかかるといえばかかります、個人レベルでできるかどうかはその人次第だし、決して誰にでもできるようなことではないかもしれない。

 で、ここではさらにもうひとつ別の、個人レベルでできる、とりあえずダンボールに入れて置いときたいくらいの人にも無理のない範囲の、そしてわりとその資料の将来を左右しかねない効き目もありそうな、「保存活動」をご提案します。

 その資料の山の「目録・解題を作る」をやってください。

 ごくごく簡単なものでいいんです、例えば目録って言っても、別に目録規則にのっとった図書館目録を、と言ってるわけではなくて、レポート用紙に一行づつ手書きでメモするんでもいいし、Excelに適当にパシャパシャ書き込んでいくんでもいい。要は、ダンボール箱か何かにごそっとその小冊子や雑誌が入ってるのをいったん取り出して、そこに入っているのが具体的に何なのかが、ひと目でぱっとわかるようなリストを作る、ということです。
 タイトルぐらいはわかるだろうからまあタイトルと、著者編者出版者なり刊行年がわかるようならそれと、それが何冊かとか巻号がどうだとか。中身の整理はしなくてもいいです、上から一冊づつ、パッパッと手にとってメモしていくだけでいい。で、やり始めておもしろくなってきたら、保存状態がいい悪いとかを書いてもいいし、リテラシーのある人なら所蔵館調査してもいい。
 あと解題と言っても、そうたいそうなのでなくていいので、まあざっくり言うとどういう内容のものかを手短に書いてみるっていうことです。毎日の暮らしの知恵を書いた手帖みたいなのだったとか、中に誰それが書いた記事があるとか、ホットケーキや直線裁ちの写真があるとか。それで興が乗ってきたら、タイトルでググってみて、ああこういう雑誌なんだねとかがわかれば、どうせ自分用だからコピペでもなんでもいいんで、ちょこちょこっと書いとくっていう。あとは来歴ですね、実家の納屋のどこそこの、たぶん何代前の爺様の誰それに関わる資料として一緒に出て来て、こうこうこういう経緯でいったん誰それが預かることにした、みたいな。
 そんなこんなを、無理なく書ける範囲でいいんで書いて、最終的に紙に印刷してホチキスなりで綴じて、その資料群が入ってるのと同じダンボール箱の中に、一番上にぽんっと置いておいてください。あるいは1枚で済むくらいだったら、ダンボールの横面に糊かなんかでペって貼っておいてください。

 資料の保存に失敗する、つまり失われてしまう、その原因にはもちろん湿気がどうのとかシバンムシがどうのとか酸性紙が中性紙がどうのとか寄席でもたらたら噺してましたけど、資料が失わせてしまう原因、その圧倒的存在は、「人」だと思います。「人が、棄てる」こそが、資料保存の一番の天敵だろう、ていう。

 その雑誌や小冊子が入ったダンボールを、将来、いつか誰かが、棄てようとします。
 いまはまだ、ご実家から出て来て、おもしろがってめずらしがってちやほやしたり気にかけたりしてて、捨てずにちゃんと保存しようよね、ていう感じになってるかもしれませんけど、そのいまの”興”なんか知らないよという人が、5年後だか10年後だか30年後だかに現れます。箱の中身を見ます。なんだこれ? 誰の何なの? 知らない、わからない、いるのいらないのどっちなの。
 私なんかには驚くべきことですが、この世の少なからぬ割合の人たちは、いるかいらないかどっちかよくわからないものを見つけたら、とりあえず棄てる、という選択肢をふつーにとります。何年かに一度のタイミングでそれが起こるので、かなりの高確率で、いつか誰かが棄てるでしょう。

 棄てられてしまう大きな原因のひとつは、「それが何なのかがわからない」ことです。いま引き取っていま保存しようと思っている、あなたの”興”が伝わらないことです。その正体もわからなければ価値もわからない、誰にとってどんな意義があるものかもわからない、そりゃ棄てます。
 なので、「わからないから棄てる」という気を起こさせないために、ダンボール箱の中の一番上に、そこに何が入っているのかがひと目でわかる「目録・解題」を置いておいてください。それを封入した今日の日付とあなたの名前を書いておいてください。それによって、未来の未知なるその箱の開封者に、「それが何なのか」を伝えることになりますし、あなたの”興”を伝えることになります。まあ、だったら、あなたの”興”的な気持ちをそのまま書いておけばいいっちゃいいんですが、開封者が、あなたの”興”に動かされる人か資料という物の価値に動かされる人かはわからないので、どっちも。

 もっと言うと、その未来の開封者というのは数十年後の自分自身かもしれません。不思議なもので、いまこうやってがんばって保存しようと思っているのと同じ自分が、数十年後には、あれ、これなんだっけ?って、すっかりぽんと忘れてしまっていて、ま、いっか、って棄てる人に簡単に転ぶ、そういうことはよくあります。
 なので、未来の自分自身へのアラートという意味でも、目録・解題、その他の説明メモは、ごくごく簡単でいいんで書いてのこしておくのがいいと思いますね。

 もし余裕ややる気があるなら、スマホででも表紙をパシャパシャ1冊づつ撮って、リストの脇に加えるといいと思います。というのも、棄てる派の未来の開封者というのは、中に何が入ってるかを取り出して確認する、というような自らの手を汚すようなことはたぶんしないので、取り出さなくても何が入ってるかがビジュアルにわかる、というのはひとつの手だと思います。
 それを紙かファイルで別に自分用に持っておけば、誰かに相談するときにパッと見せられるので、そういう意味でも。

 で、とは言え、開封者に「それが何なのか」が伝わったとして、その上でもまた棄てられるというのはあるので、まあできるだけ早めに公的機関に(結局そうなる)。

 とは言えとは言え、公的機関もまあ、棄てる時は棄てる。こういうのは賽の河原の合戦みたいなもんだと思います(最終、悲観的)。

posted by egamiday3 at 19:21| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月04日

(メモ)司書教諭科目のテキストの内容概観

 複数のテキストを(主に目次を)読み比べて、ざっくりまとめる感じ。

●学校経営と学校図書館
・理念・展望
・機能
・制度・行政・教育課程
・マネジメント・組織構成・評価・渉外
・施設・設備
・情報化
・会計
・資料全般
・活動全般


●読書と豊かな人間性
・読書の意義
・児童・生徒・成長・情操
・読書指導(ブックトークその他)
・読書材の提供
・行事・活動
・生涯学習


●学習指導と学校図書館
・教育課程・教科学習・学習指導
・リテラシー教育
・調べ学習
・情報検索・情報探索
・情報活用・情報編集・情報発信
・レファレンス
・情報サービス


●学校図書館メディアの構成
・資料論一般
・収集・選択・蔵書構築
・メディア/媒体
・組織論一般
・書誌・検索ツール
・目録実務
・分類件名実務
・整理実務・資料保存
・書架・施設


●情報メディアの活用
・情報史・情報化社会
・資料論一般・メディア/媒体
・視聴覚資料
・教育用ソフトウェア
・デジタル資料・インターネット
・情報発信・ホームページ
・データベースと著作権
・情報倫理
・構内情報か
・データベース・インターネット検索と情報リテラシー
・IT
・Word、Excel、PowerPoint、HTML


(所感)
・内容にもっとも揺れがあるのが「情報メディアの活用」。文科省の「ねらいと内容」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1327211.htm)に明確に書いてあるワード以外の部分にかなり迷いがある感じがする。逆に言えば、自由度高い?
・とはいっても、他の科目同士にも移動・揺れはある。5科目しかないのに揺れがあるのはどうか。
・「学校経営と学校図書館」の理念・機能部分は、全科目で前提としていったん触れたほうがよくないか。
・(今後の課題)その揺れを検証・考察している論文類をチェックすること。

posted by egamiday3 at 20:17| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月02日

「野生のニッポンが飛び出してきた!」 -- デジタルアーカイブと海外の日本研究とをからめて考えたこと


 NDL月報さんにお声がけいただき、2016年8/9月号に「「海外のユーザに日本資料・情報を届ける」ということ」というお題で寄稿させていただきました。

 江上敏哲. 「「海外のユーザに日本資料・情報を届ける」ということ」. 『国立国会図書館月報』. 2016.8, 664/665号, p.6-9.
 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10133196_po_geppo1608.pdf?contentNo=1#page=8

 そしてそれとは別になのですが、ちょっと機会があって、下記の「中間報告」(デジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会 中間報告(2016.3))と、それに至るまでの数回の会議の資料・議事録の公開分を、ひととおり読み通しました。

 デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会及び実務者協議会
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/index.html

 この件と、海外の日本研究とをからめて、いくつか考えることがあったので、ここに書いとくという感じです。

 海外の日本研究について、これまでの繰り返しは避けますのでその大方は上記NDL月報の寄稿をご参照いただければと思うのですが、特に下記あたりのポイントをピックアップしたいという感じです。

 ・日本を専門としない人も日本資料を使うことがある。(研究の学際化、国際化傾向)
 ・デジタル不足、デジタル環境の格差のひろがりが深刻。
 ・海外における日本離れが進行している。(退潮傾向、忌避傾向)
 ・デジタルアーカイブや電子資料の存在が知られていない、ユーザの目に触れない。

 特に「ユーザの目に触れない、知られていない」、discoverability・visibilityの低さについては、日本のデジタルアーカイブにとって深刻な問題ではないかと思います。例えば、
 ・海外司書を日本に招いて研修すると、「現地を訪問して説明を聞いて、はじめてそんなデジタルアーカイブがあるのを知った」と言われる。
 ・ディスカバリシステムで「枕草子」や「夏目漱石」を検索すると、中国語コンテンツが上位を占める。
 ・国際的な美術画像検索ポータルに収録されている日本美術作品は、大英博物館等の海外所蔵品ばかり。

 こういう状態にあって、日本のデジタルアーカイブのポータルを作ろう、というアンビシャス自体は我が友のように充分にわかるのですが、しかし、「ポータル」は「発信」ツールでしょうか、というと自分はそれは違うと思います。
 デジタルアーカイブだけでは「アクセス可能化」だし、そのポータルだけでは「探索効率化」であって、もちろんそれは国内外のユーザが喉から手が2,30本出てきそうなほどほしいんだけど、「発信」できてるわけではないんじゃないでしょうか。

 「ここが”日本”のポータルです」と。
 このwebサイトに、このストップに来て、この検索窓で検索すれば、”日本”のデジタルアーカイブがごっそり検索できます、と。ゲットだぜ!と。
 そう言って、海外のユーザがスマホ片手にわんさか集まるかというと、そんなことはない、それでお客は来ないんじゃないか、と思うんです。

 ひとつには、退潮傾向・忌避傾向が進行しつつある日本に、いま、それだけの集客力があるとはどうも思えない。わーい日本だあ、って言って、自分からわざわざそのサイトに足を運んでくれるのは、世界の本当にごく一部の存在です。
 逆に、「日本リテラシー」が高くない人たち。例えば初学者、若い院生や学部生、他分野・他地域が専門だけど学際化・国際化された研究において日本資料”も”必要としてくれるかもしれない人たち、というのが、人数的には圧倒的に多数で、世界の日本理解を下支えしてくれてて、でもリテラシー的にはサポートを要するので、デジタルの威力が頼りなんだけど、わざわざ日本オンリーのポータルサイトまで行くだろうかというとなかなか厳しい、そういう人たち。いやもっと言うと、世界の9分9厘を占めるであろう、日本になんか特に興味があるわけでもない人たち。
 そういう人たちに、ここが”日本”のポータルです、だからここに来てください、ではちょっと厳しいわけです。リテラシーが低いか、もしくは、それが日本かどうかなんか関係ないよ、ていう人たちが多数派なわけなんで。

 「発信」を、ていうか、もっと下手に出て営業努力をしようとするなら、そのポータルのデータを”外”に送り出すことのほうで、もう言い古されたことだと思うのですが、Googleでヒットするところにデータを出す。あるいは先ほどの例で言えば、ディスカバリシステムに対応させて、収録してもらう。国際的なポータルにも積極的に出す、連携する。
 これは海外に限らず、国内外ともに、ですけど。ユーザが見ている”いつものところ”、GoogleなりOCLCなりディスカバリなりWikipediaなりAmazonなり、そして各種SNSなり各種ポータルなり、そういうところにデータを送り込む、っていう。ユーザのメインな情報行動のルートというものがあるわけなんで、その路上に、ポケモンよろしく「野生のニッポン・コンテンツが飛び出してきた!」と、ポータルからデータを露出させに行く。そういう、こっちからのアグレッシブな働きかけがないと、「受信」はなかなかしてもらえないんじゃないかと思うんですね。

IMG_3620.JPG

 もちろんAPI的なものによってそれは成就するだろうし、私は技術的なことや制度的なことについては疎くて申し訳ないんですけど、ただ技術的に成就するとしても、先にみっちり検討すべきはユーザ理解・ユーザ考察のほうじゃないかと思います。発信者側・提供者側が発信したいしたいと言い募っても、もちろんその気持ちはいたく分かるのですが、ユーザの事情から逆算して組み立てていかないと、なかなかそれは成就しないんじゃないかなって。
 この世界は、受け手がいて、送り手がいて、君たちがいて僕がいて、そのトータルをデザインしてこその情報発信であり、情報流通じゃないかなって思います。

 情報をメインストリームへ合流させる、という意味では、どこがメインストリームなのかなっていう見極め品定めは必要になりますよね。
 聞くところによると、Europeanaの検索ワードランキングで「Japan」が4位に食いこんだらしいじゃないですか、すごいですね、需要あるじゃないですか、退潮傾向ってウソじゃないですかね。
 だったらそのEuropeanaさんと連携しましょうよと。さすがにEuropeanaさん側も日本のデジタルアーカイブのデータそのものを入れてくれるとは思えないし、それはちがうと思いますけども、例えばそうですね、Europeanaで○○と検索したその検索結果一覧の横っちょの欄にでも、「○○のニッポン・ポータルでの検索ヒット件数は**件です」ていうリンクがあって、クリックしたら日本のポータルに飛ぶ、くらいの連携は頭を下げてやってもらう価値あるんじゃないかなって思うんですけど。
 
 ってなってくるとそこで改めて必要になってくるのは、英語であり、ローマ字ですよね、ていう。ニッポン側が日本語でしか検索できないもん、Europeanaと連携のしようがないですしね。まあシソーラスか辞書かを噛ませばいいんでしょうけど。
 ユーザ側の事情もそれは同じで、日本研究者でもローマ字検索が主ですので、メタデータのローマ字対応は必須。教育研究の主戦場が英語であることを考えると、英語対応もできればほしい。インタフェースが英語なのはもちろん。
 できればコンテンツのほうも英語対応/ローマ字対応、というのはちょっとぜいたくかもしれませんが、それでもたとえば映像作品を大学の授業で使おうなんてときに、英語字幕があるかないかっていうのはものすごく重要になってきます。正規版に英語字幕がないなら、どっかよその国で買えるよくわかんないけどなぜか英語字幕がついてくれてるのを、まあ、ね、ってなっちゃいます。
 でも英語字幕みたいなコストかかるものそうそう作れないじゃないですか、商売になんないし、っていうのはわかりますけど、例えばですけど、映像デジタルアーカイブに収録されているファイルを、よそさんのプラットフォーム上でも柔軟に流用してもらえますよ、的な仕組みでオープンに公開すれば、ユーザが映像にクラウド的に字幕をつけられるサービス、なんていうのに活用できるんじゃないかなって思います。不勉強で恐縮ですが、たぶんそういうサービスあるでしょうどっかに。そういう、よそさんとの共有、ていう意味でのゆるいオープンさって、コスト低減という点でも大事だなって思います。

 あとは、翻訳って”言語”の問題だけでなく、意味というか文脈というか、「そのコンテンツっていったい何なの?」がわかんないと海外にアピールし難いと思うんで、それについては、MITさんにVisualizing Culturesっていうサイトがあって、日本資料の画像とそれに関係ある英語論文をリンクする、っていうのをやってはるらしいんですけど、そのアイデアをパクってOA論文とガンガンリンクさせるといいんじゃないかなって。OA論文に限らず、wikipediaや他のレファレンスツールとリンクさせることができれば、デジタルアーカイブ兼エンサイクロペディアみたいになりますね。21世紀の和漢三才図会というか、いい感じの百学連環になるんじゃないかなって思います。それっぽいワードを並べただけみたいになってますが。

 とりあえずはこんな感じです。

 あと、歩きスマホはやめましょう。

posted by egamiday3 at 18:45| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする