2016年08月02日

「野生のニッポンが飛び出してきた!」 -- デジタルアーカイブと海外の日本研究とをからめて考えたこと


 NDL月報さんにお声がけいただき、2016年8/9月号に「「海外のユーザに日本資料・情報を届ける」ということ」というお題で寄稿させていただきました。

 江上敏哲. 「「海外のユーザに日本資料・情報を届ける」ということ」. 『国立国会図書館月報』. 2016.8, 664/665号, p.6-9.
 http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_10133196_po_geppo1608.pdf?contentNo=1#page=8

 そしてそれとは別になのですが、ちょっと機会があって、下記の「中間報告」(デジタルアーカイブの連携に関する実務者協議会 中間報告(2016.3))と、それに至るまでの数回の会議の資料・議事録の公開分を、ひととおり読み通しました。

 デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会及び実務者協議会
 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/index.html

 この件と、海外の日本研究とをからめて、いくつか考えることがあったので、ここに書いとくという感じです。

 海外の日本研究について、これまでの繰り返しは避けますのでその大方は上記NDL月報の寄稿をご参照いただければと思うのですが、特に下記あたりのポイントをピックアップしたいという感じです。

 ・日本を専門としない人も日本資料を使うことがある。(研究の学際化、国際化傾向)
 ・デジタル不足、デジタル環境の格差のひろがりが深刻。
 ・海外における日本離れが進行している。(退潮傾向、忌避傾向)
 ・デジタルアーカイブや電子資料の存在が知られていない、ユーザの目に触れない。

 特に「ユーザの目に触れない、知られていない」、discoverability・visibilityの低さについては、日本のデジタルアーカイブにとって深刻な問題ではないかと思います。例えば、
 ・海外司書を日本に招いて研修すると、「現地を訪問して説明を聞いて、はじめてそんなデジタルアーカイブがあるのを知った」と言われる。
 ・ディスカバリシステムで「枕草子」や「夏目漱石」を検索すると、中国語コンテンツが上位を占める。
 ・国際的な美術画像検索ポータルに収録されている日本美術作品は、大英博物館等の海外所蔵品ばかり。

 こういう状態にあって、日本のデジタルアーカイブのポータルを作ろう、というアンビシャス自体は我が友のように充分にわかるのですが、しかし、「ポータル」は「発信」ツールでしょうか、というと自分はそれは違うと思います。
 デジタルアーカイブだけでは「アクセス可能化」だし、そのポータルだけでは「探索効率化」であって、もちろんそれは国内外のユーザが喉から手が2,30本出てきそうなほどほしいんだけど、「発信」できてるわけではないんじゃないでしょうか。

 「ここが”日本”のポータルです」と。
 このwebサイトに、このストップに来て、この検索窓で検索すれば、”日本”のデジタルアーカイブがごっそり検索できます、と。ゲットだぜ!と。
 そう言って、海外のユーザがスマホ片手にわんさか集まるかというと、そんなことはない、それでお客は来ないんじゃないか、と思うんです。

 ひとつには、退潮傾向・忌避傾向が進行しつつある日本に、いま、それだけの集客力があるとはどうも思えない。わーい日本だあ、って言って、自分からわざわざそのサイトに足を運んでくれるのは、世界の本当にごく一部の存在です。
 逆に、「日本リテラシー」が高くない人たち。例えば初学者、若い院生や学部生、他分野・他地域が専門だけど学際化・国際化された研究において日本資料”も”必要としてくれるかもしれない人たち、というのが、人数的には圧倒的に多数で、世界の日本理解を下支えしてくれてて、でもリテラシー的にはサポートを要するので、デジタルの威力が頼りなんだけど、わざわざ日本オンリーのポータルサイトまで行くだろうかというとなかなか厳しい、そういう人たち。いやもっと言うと、世界の9分9厘を占めるであろう、日本になんか特に興味があるわけでもない人たち。
 そういう人たちに、ここが”日本”のポータルです、だからここに来てください、ではちょっと厳しいわけです。リテラシーが低いか、もしくは、それが日本かどうかなんか関係ないよ、ていう人たちが多数派なわけなんで。

 「発信」を、ていうか、もっと下手に出て営業努力をしようとするなら、そのポータルのデータを”外”に送り出すことのほうで、もう言い古されたことだと思うのですが、Googleでヒットするところにデータを出す。あるいは先ほどの例で言えば、ディスカバリシステムに対応させて、収録してもらう。国際的なポータルにも積極的に出す、連携する。
 これは海外に限らず、国内外ともに、ですけど。ユーザが見ている”いつものところ”、GoogleなりOCLCなりディスカバリなりWikipediaなりAmazonなり、そして各種SNSなり各種ポータルなり、そういうところにデータを送り込む、っていう。ユーザのメインな情報行動のルートというものがあるわけなんで、その路上に、ポケモンよろしく「野生のニッポン・コンテンツが飛び出してきた!」と、ポータルからデータを露出させに行く。そういう、こっちからのアグレッシブな働きかけがないと、「受信」はなかなかしてもらえないんじゃないかと思うんですね。

IMG_3620.JPG

 もちろんAPI的なものによってそれは成就するだろうし、私は技術的なことや制度的なことについては疎くて申し訳ないんですけど、ただ技術的に成就するとしても、先にみっちり検討すべきはユーザ理解・ユーザ考察のほうじゃないかと思います。発信者側・提供者側が発信したいしたいと言い募っても、もちろんその気持ちはいたく分かるのですが、ユーザの事情から逆算して組み立てていかないと、なかなかそれは成就しないんじゃないかなって。
 この世界は、受け手がいて、送り手がいて、君たちがいて僕がいて、そのトータルをデザインしてこその情報発信であり、情報流通じゃないかなって思います。

 情報をメインストリームへ合流させる、という意味では、どこがメインストリームなのかなっていう見極め品定めは必要になりますよね。
 聞くところによると、Europeanaの検索ワードランキングで「Japan」が4位に食いこんだらしいじゃないですか、すごいですね、需要あるじゃないですか、退潮傾向ってウソじゃないですかね。
 だったらそのEuropeanaさんと連携しましょうよと。さすがにEuropeanaさん側も日本のデジタルアーカイブのデータそのものを入れてくれるとは思えないし、それはちがうと思いますけども、例えばそうですね、Europeanaで○○と検索したその検索結果一覧の横っちょの欄にでも、「○○のニッポン・ポータルでの検索ヒット件数は**件です」ていうリンクがあって、クリックしたら日本のポータルに飛ぶ、くらいの連携は頭を下げてやってもらう価値あるんじゃないかなって思うんですけど。
 
 ってなってくるとそこで改めて必要になってくるのは、英語であり、ローマ字ですよね、ていう。ニッポン側が日本語でしか検索できないもん、Europeanaと連携のしようがないですしね。まあシソーラスか辞書かを噛ませばいいんでしょうけど。
 ユーザ側の事情もそれは同じで、日本研究者でもローマ字検索が主ですので、メタデータのローマ字対応は必須。教育研究の主戦場が英語であることを考えると、英語対応もできればほしい。インタフェースが英語なのはもちろん。
 できればコンテンツのほうも英語対応/ローマ字対応、というのはちょっとぜいたくかもしれませんが、それでもたとえば映像作品を大学の授業で使おうなんてときに、英語字幕があるかないかっていうのはものすごく重要になってきます。正規版に英語字幕がないなら、どっかよその国で買えるよくわかんないけどなぜか英語字幕がついてくれてるのを、まあ、ね、ってなっちゃいます。
 でも英語字幕みたいなコストかかるものそうそう作れないじゃないですか、商売になんないし、っていうのはわかりますけど、例えばですけど、映像デジタルアーカイブに収録されているファイルを、よそさんのプラットフォーム上でも柔軟に流用してもらえますよ、的な仕組みでオープンに公開すれば、ユーザが映像にクラウド的に字幕をつけられるサービス、なんていうのに活用できるんじゃないかなって思います。不勉強で恐縮ですが、たぶんそういうサービスあるでしょうどっかに。そういう、よそさんとの共有、ていう意味でのゆるいオープンさって、コスト低減という点でも大事だなって思います。

 あとは、翻訳って”言語”の問題だけでなく、意味というか文脈というか、「そのコンテンツっていったい何なの?」がわかんないと海外にアピールし難いと思うんで、それについては、MITさんにVisualizing Culturesっていうサイトがあって、日本資料の画像とそれに関係ある英語論文をリンクする、っていうのをやってはるらしいんですけど、そのアイデアをパクってOA論文とガンガンリンクさせるといいんじゃないかなって。OA論文に限らず、wikipediaや他のレファレンスツールとリンクさせることができれば、デジタルアーカイブ兼エンサイクロペディアみたいになりますね。21世紀の和漢三才図会というか、いい感じの百学連環になるんじゃないかなって思います。それっぽいワードを並べただけみたいになってますが。

 とりあえずはこんな感じです。

 あと、歩きスマホはやめましょう。

posted by egamiday3 at 18:45| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする