2017年07月08日

『京都の凸凹を歩く』から考えた、資料・情報とユーザのあり方についてその1

 梅林秀行. 『京都の凸凹を歩く』1・2. 青幻舎, 2016-2017.、をもとに、資料・情報とユーザのあり方について考える機会が、どうやらegamidayさんにはあったらしく、そのことについてたぁーっと書いたのの下書きめいたもの。
 なお、著者の梅林さんも登壇予定の9/9-10の「アーカイブサミット 2017 in 京都」(http://archivesj.net/summit2017top/)は、近日参加受付開始と思われます。

京都の凸凹を歩く  -高低差に隠された古都の秘密 -
京都の凸凹を歩く -高低差に隠された古都の秘密 -
京都の凸凹を歩く2  名所と聖地に秘められた高低差の謎 -
京都の凸凹を歩く2 名所と聖地に秘められた高低差の謎 -

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 『京都の凸凹を歩く』は、土地の“高低差”や“凹凸”を主役に据えた、他に類を見ない京都ガイドブックである。著者である京都高低差崖会崖長(http://kyotokoteisa.hatenablog.jp/)の梅林秀行氏によれば、この崖会は「まいまい京都」(http://www.maimai-kyoto.jp/)という京都の住民がガイドするミニツアー企画の活動を通して生まれたものらしい。特徴的な土地の形状から読み取れる歴史や社会と人の関わりをわかりやすく解説してくれる。梅林氏は、NHKの人気番組「ブラタモリ」にもたびたび出演し、サングラスのあの方をあちこち連れ回しては軽快な語り口でその地形や街並みに秘められた物語を紹介している。
 土地を解説してくれているわけだから、ただ屋内でぼーっと読んでいるだけではもったいない。というわけで、6月のある週末、『京都の凸凹を歩く2』一冊を携えて金閣寺へ足を運んでみた。金閣寺と言えば一年中観光客でごった返し、一方で市民が足を運ぶことはほぼないようなスポットで、私自身も訪れたのは10年ぶりか15年ぶりかとんと覚えがない。そんな手垢のついたような観光地でも、あらためて本書を片手に地図と写真と解説文を比べながら歩いてみると、見知っていたはずの風景がまるで違って見えてくる。金閣の配置とその背景を構成する地形にはそんな由来があったのか、金閣と衣笠山はこんなふうに見えるのか。古文献によれば金閣の北にもう一棟あったらしい、だとすれば風景はさらに違って見えるのではないのか。そうやってひとつひとつの意味を丁寧に解説してくれる”ガイド”とともに歩いていると、本書に言及のないものでも自力で丁寧に見るようになってくる。あの垣根は、あの祠は、あの敷石はどういう由来があるんだろう、気になっては立ち止まりスマホでググる。そうこうするうち、観光客なら30分で通り過ぎるような境内に、気がつけば2時間以上も滞在していて、いやあ金閣寺ひとつにこんなポテンシャルがあったとは、とすっかり堪能してしまった。
 その丁寧な”ガイド”を支えているのが、本書中で引用・参照されている豊富な文献・資料の数々である。金閣寺の章だけでも、江戸中期の古絵図、大正の都市計画基本図、幕末の錦絵、室町期の日記本文、京都市埋蔵文化財研究所による地下電気探査の報告書、そして地形図のベースは「カシミール3D」(http://www.kashmir3d.com/)という地形データのデジタルアーカイブ。学際的、というよりは分野の混交、その土地を主軸とした一種の総合芸術(総合学術?)のようにも思える。
 このような活用をしているユーザへこれらの資料・情報がどう届くかを考えるとき、ポイントのひとつは分野横断的なポータルの有無だろう。デジタル公開されてくれていればそれでもよいが、各種のデジタルアーカイブがネット上に散在していて思うように探せないとなれば、効率が悪いだけでなく、柔軟な発想を生み出しにくい。個々にしぼって探せる機能、に加えて、異なるデジタル資料を一括で発掘できるツールがほしい。2020年までに整備されるという国立国会図書館のジャパンサーチ(仮称)(@デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会・実務者協議会. 「我が国におけるデジタルアーカイブ推進の方向性」. 2017. http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/houkokusho.pdf@)がそれを実現してくれるのか、期待されるところである。
 もう1点、著者の梅林氏が大学等に所属しない”崖会”の”崖長”であることにも留意したい。各分野の様々な専門資料・学術資料が、特定の大学に属する者だけでなく公共に開かれたものであるか。特に、デジタル資料がオープンにアクセス可能かどうか。知の継承と共有が新しい知を生産するサイクルの原動力となる、ということを信じる立場としては、最高学府たる大学が知の囲い込みや出し渋りに走るのはひとつの自殺行為に等しいと考えずにはいられない。大なり小なりどのような形でであれ”オープン”を実践していくことは、今後の大学等の社会に対する責任の果たし方のひとつとしても切実に考えられなければならない課題のひとつであろう。
posted by egamiday3 at 16:03| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

このMALUIがすごい! : 「近畿地区MALUI夏の親睦会2017」からの報告

 
 先日(2017.7.2)、京都某所にて、近畿地区MALUIの恒例行事である”名刺交換会”あらため”夏の親睦会2017”が開催されました。

・近畿地区MALUI
 https://kinkimalui.wordpress.com/
・近畿地区MALUI 2017年夏の親睦会
 https://connpass.com/event/58372/

 MALUIというのは、要はMLAのバージョンアップ版であり、
  Museum(美術館・博物館)
  Archives(アーカイブ・文書館)
  Library(図書館)
  University(大学)
  Industry(産業・企業)
 の略で、文化学術情報関係のあらゆる人々で集まり、交流し合い、まあるい環になったところでお互いに協力しあって課題解決にもいそしみましょうよね、という多業種横断的な業界ムーブメントです。
 近畿地区では数年前からこのMALUI関係者が顔を合わせて自己紹介しあいましょうよねという”名刺交換会”という名目の呑み会がたびたび開かれており、善男善女が集っては友達の環!をかたちづくりつづけて早幾年、環が螺旋になりつつあるんじゃないかという成長ぶりであります。

 私もこの会に参加し、(ちょっとしたよんどころない事情で遅刻したディスアドバンテージに多少の心理的ダメージを持ちつつも)いろいろな方のお話をうかがってきて、たいへん勉強になりました。
 MALUIは組織ではなくムーブメントですので(たぶん)、固定メンバーがいるわけではもちろんなく、でもそのゆるさというかアドホックというか、だからこそ得られるファーストコンタクトの機会、というのがいいよなって思ってます。

 それで、せっかくなので、どんな方のどんなお話をうかがって環をひろげてきたのか、というそのいくつかをご報告してみようかなと。そうすることで、来なかった人たちをうらやましがらせたうえでの来年以降につなげてはどうかと、そういう浅知恵含みの記事です。


●全国遺跡報告総覧の世界発信
 http://sitereports.nabunken.go.jp/ja

 奈良文化財研究所の研究者で高田さんという方にお会いしてお話をうかがう機会がありました。
 高田さんは奈文研の全国遺跡報告総覧を世のデータベース類と連携して流通させようとしてらっしゃる方で、え、そうなんですか、あたし常々、あの活動はもっともっとこの業界で注目&議論されるべきだと思ってました(例:これこれ)し、これはベストプラクティス行き、この流れ来い!って思ってたし、もっと言うと、このニュースきっかけでうちとこでもいまちょっとしたことを具体的に取り掛かってる最中なんで、お話うかがえてありがたかったです。
 具体的には下記を参照。

・奈良文化財研究所、全国遺跡報告総覧とWorldCatとのデータ連携を開始
 http://current.ndl.go.jp/node/33409
・奈良文化財研究所、全国遺跡報告総覧の英語自動検索機能を公開
 http://current.ndl.go.jp/node/32393
・全国遺跡報告総覧、ProQuest社のディスカバリサービスSummonに対応
 http://current.ndl.go.jp/node/29385

 その時に見せてくださったのが下記の図なんですけど、

image2.JPG

 「ここまではやったんですけど、これ以外に何かないですかね」って問われたんですけど、いや、もうこれ、全部やってますやん、やれてない自分とこが縮こまるだけのやつですやん、ってなって恐縮してしまいましたっていう。
 その場にいた図書館業界の懲りない面々も「これはすごい」と色めき立ってたんですが、でもやっぱり、ていうかいまになって色めき立つくらいに、ほんとは当たるべきスポットライトがまだまだ当たり足りてない、もっと当たってほしいと思ったので、2015年に1記事出てるみたいではありますが、ぜひこの連携・発信活動のあたりをもういちどカレントアウェアネスでお願いします、という感じで、その会に参加してたカレントアウェアネス担当者にお願いしておきました。


●アニメ資料のアーカイブ化
 「プロダクション・アイジー」というお名前をあたしはそれまで存じ上げなかったんですが、会場でその自己紹介がされると「おおー」という声が上がってたので、あたしが知らないのがあかんかったのですね、「攻殻機動隊」ですよね、すみません、永崎さんに見ろと言われてまだ見てないです、すぐ見ます。Amazonプライムとかにないかな。ていうかwikipedia見たら知ってる作品ばっかりでビビった。
 そのプロダクション・アイジーの山川さんという方がいらっしゃってて、この方には3月にトロントでおこなわれていた北米の日本研究司書の集まりにもいらっしゃっててそこでお会いしたのですが、アニメ資料のアーカイブ化に携わっておられるとのことで、これもまた、さまざまなお話をうかがい勉強させていただきました。これは要後追い。
 ネットで見つけた参考文献を貼っておきます。

・山川道子インタビュー「アニメ会社におけるアーカイブ、そして未来」 | X - クリエイターに聞いた10年後の未来
 https://joshibi.github.io/mdw16/a/2.html
・第75回デジタルアーカイブサロン「アニメーション制作資料の保存と活用」
 https://www.slideshare.net/MichikoYamakawa/ss-75279406


●『ひっちょのステンショと呼ばれた駅』
 京都駅研究家の北川さんにもお会いしました。

・京都停車場 ひっちょのステンショと呼ばれた駅
 http://kyototeisyaba-hittyonosutensyo-m1025.blog.jp/

 京都のカフェで「『京都駅 絵葉書で見る140年』展」というのをやってて、京都駅関連の図像資料がずらーっと展示してあったのを、あたしもこないだ見に行ってきました(https://twitter.com/egamiday/status/860339682378477568)が、充実しすぎてて図録買って帰らざるを得ない感じで、堪能して帰ってきました。(当然ながら)知らんこともいっぱいあった。京都駅はまだまだ掘り下げられるべき。


●合同会社AMANE
 金沢からいらっしゃっていた上田さんという方にもお会いしました。合同会社AMANEというところは学術資源の保存とデジタル化にかかわる事業をやっておられるところで、金沢大学や石川県などの各機関、京都大学などとも連携でいろいろやっておられる。あと、あの国文研の江戸料理レシピ関連のをやっておられたのもこちらです。
 CiNiiひいたらいっぱい記事出てたので、リンク貼っておきますね。

・CiNii Articles 検索 - 上田 啓未
 http://ci.nii.ac.jp/search?q=%E4%B8%8A%E7%94%B0%E3%80%80%E5%95%93%E6%9C%AA
・KURA: 博物資料情報に対するDOI付与の意義と展望
 http://dspace.lib.kanazawa-u.ac.jp/dspace/handle/2297/45891

・合同会社AMANE
 http://amane-project.jp/


●『賀茂祢宜神主系図』データベース
 月本さんという方は、本業とは別に、上賀茂神社の文書のデータベース化にたずさわっておられるそうです。

・賀茂県主同族会
 http://www.kamoagatanushi.or.jp/
・賀茂県主同族会(上賀茂神社) 賀茂祢宜神主系図ほか
 https://trc-adeac.trc.co.jp/WJ11C0/WJJS02U/2600515100

 上記サイトで重要文化財である「賀茂祢宜神主系図」が公開されていて、800年代から明治までまとまってる、検索もできるという。
 関連論文もオープンアクセスで公開されてましたので、貼ります。

・『賀茂祢宜神主系図』データベースの構築と活用の可能性(じんもんこん2015論文集)
 http://id.nii.ac.jp/1001/00146546/

 9月にはこの系図の曝涼・展覧もおこなわれるらしいので、これはカレンダーに書き込んどかなきゃなという感じです。


●展示・イベント各種
 京都国立近代美術館の黒岩さんから、8月から10月にかけて開催の「絹谷幸二 : 色彩とイメージの旅」展をご案内いただきました。9/1には京大の山極総長と対談イベントするらしいですよ。

・絹谷幸二 色彩とイメージの旅 | 京都国立近代美術館
 http://www.momak.go.jp/Japanese/exhibitionArchive/2017/421.html
 
 伊丹市昆虫館の坂本さんからは「ぶんぶんミツバチ」展の案内をいただきましたが、残念ながら7/3まででしたね・・・

・伊丹市昆虫館
 http://www.itakon.com/ 

 大阪市立中央図書館の司書の皆さんからご案内いただいたのは、デジタルアーカイブのオープンデータ提供についてです。
 下記のページを見たら、ミニ展示として「オープンデータ活用術」というのをやってたんですね。そうか、”活用方法の展示”か、これはかなり学ぶべき。

・デジタルアーカイブのオープンデータ化開始 - 大阪市立図書館
 http://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=johsaozpv-510


 他にもたくさんの人にお会いしましたが、手元に資料のあるがこんな感じです、すみません。

 あと、ごくごく個人的なハイライトとしては、高校の時の先輩に20数年ぶりに再開したことで、まさかこんな近場におられるとは思ってなかった。名乗ってもしばらくリンクしなかったみたいで、めっちゃ驚かれましたとさ。
 そんなハプニングもたまにある(かもしれない)という近畿地区MALUIの催しは、今後もちょくちょくおこなわれると思いますので、興味のある方はぜひ下記のML登録からよろしくです!

・近畿地区MALUIメーリングリスト
 http://www.freeml.com/k-malui


posted by egamiday3 at 12:00| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする