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■以下、2018年8月23日に公開した、ネタバレのない本文
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注:
オープンにしている部分の記事にはネタバレは(たぶん)ありません。
ネタバレ記事は末尾にパスワードをかけて置いてあります。
「サマータイムマシン・ブルース」。
京都を拠点にマルチに活躍する劇団・ヨーロッパ企画の、初期を飾る代表作。
SFものであり、タイムマシンものであり、ゆるい会話劇コメディであり、つまりはヨーロッパ企画っぽさと言えばこれだろうというわかりやすさであり、という代表作。
再演回数がもっとも多く、本広克行監督により瑛太・上野樹里・真木よう子・ムロツヨシらによる映画化もされた、やっぱり代表作。

サマータイム・マシン・ブルース
それが、劇団旗揚げ20周年のこの年、13年ぶりの再演、という。
しかも、その「ブルース」の15年後を描く新作「サマータイムマシン・ワンスモア」も、交互上演という。
・・・リアルに、生きててよかった、という感想が出ますよね。
ほんとに、生きてこの作品に出会えたこと、目撃できたことを、神に感謝せざるを得ない。健康第一だなと、長生きはするもんだなと。
2001年の初演を三条御幸町のアーコンで観たときが、自分にとってのヨーロッパ企画初観劇で、タイムマシンネタ全部のせの作品はいまと変わらずながらも、まだ学生演劇感が満載だった、そう、このときは松田さんが出てたんですよね。
2003年に再演するというんで大阪に観に行ったら、でっかい劇場のお客を何度も揺らすように爆笑させて、拍手させて、完成度も高いしいろんな意味ででっかくなってて、自分にとっての「ブルース」はこの「2003」がベースで、DVDがほんとに擦り切れるんじゃないかというくらい再生し、なんか耳寂しいなというときはかけ流すように再生し、再生し尽くし続けて15年、いまでもなお笑いどころではどうしてもまた笑ってしまう、もう落語じゃないですかねこれ。
2005になるともう横綱相撲というかプロの所業になってるし、あとのことはもうふりかえるまでもないだろうと思うんですが、それでももう13年経ってるのか、すごいな。
というような「ブルース」が再演だと、かつ続編「ワンスモア」が新作上演だと、いうのを今年の正月にイベントで発表された時には、リアルに「ひぇっ!?」とへんな悲鳴が出るわけです。
というような前置きを踏まえ、2作交互上演だから結果的に倍率が2倍近くなる、そんな抽選をなんとかのりこえて、栗東と京都で、「ブルース2018」と「ワンスモア」を観劇してきました、ていうメモです。
「ワンスモア」は「観てしまった」「感謝してる」などの感嘆しか出ない、壮大な大河ドラマを目撃した、という印象。キャストもセリフも小道具も小ネタも時代性も辻褄も伏線回収もオチもシビれるほどで、客席から何度か悲鳴のようなリアクションがあがるくらい。そりゃもちろん「ブルース」だっておもろいんだけど、難易度・高度・カオス度がぶ厚く、そう、層が折り重なって厚くなってたという感じ。ライターの吉永さんの記事に「これまでが職人レベルだったとすると、今回は魔術師……いやもう魔王の領域」とあったのもうなずけるです。2度目によくよく注意しながら観たら、伏線が、辻褄が、そのためのピースが細部に、つまりは”神が細部に宿ってた”状態。そのピースがでっかいパズルとして組み上がり、全体として“最高”、ていう。
ていうかね、なんとかしてこう、まだ観てない状態に戻ってもう一回観れないかな、っていう(笑)。
もちろん「ブルース2018」も観ました。2001、2003、2005、映画、DVD、繰り返し繰り返し観ても、それでも、どうしても“あのシーン”では手を叩いて笑ってしまうという、至福の時間でした。
というような美辞麗句を手を変え品を変えして言いつのってるというのも、何をどう言ってもネタバレになってしまうから他に言いようがないせいであって、というわけで、以降はネタバレ込みのテキストを、パスワードかけて下に置いておきます。観終わった方はどうぞ。全公演終了したら公開します。
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https://eplus2.up.seesaa.net/hidden/stmb2018stmo.txt
ID: europe
PW: kikaku
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■以下、2018年12月27日に公開した、ネタバレのある本文
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●「ワンスモア」という皆得な感動
・「ワンスモア」の開始シーン、何から始まるんだろう?が最大級ワクワク点のひとつ。あのシーンから始まってああなるの、大いに納得。
・笑い疲れ切ったころに思い出す、もうひとつの最大級ワクワク点、どういうオチで終わるんだろう。そして、あのオチ。栗東会場は、暗転するや否やの大拍手。週刊ヨーロッパ2で上田氏が「続くかもしれないのに」とおっしゃってましたが、いや、あれはもう、この作品においてあれ以上のものはあり得ない”完璧なオチ”だと、あの会場のお客のほとんどが納得した、その結果なんだと思いますね。
・このできあがった壮大なタイムマシン大河ドラマは、広瀬正のあの作品にも通じるなという感があって、そう、上田氏は広瀬正になったのだ。いつかタイムマシンに乗ってどこかへ旅立つのだろう(妄言)。
●上田脚本が仕掛けて解くパズル、そのどたばたと辻褄
・上田氏がヨロッパ通信その他で、過去の自分との対戦だ、的なことを言ってるのを踏まえるとしたら。「ブルース2018」を見たところ、ほとんどが2005と設定も辻褄も同じで変わってなかったように思われ、これはすなわち、「ワンスモア」のパズルを盛り上げるためにだとか、わかりやすくするためにだとかで、「ブルース」に改変を加えることも十分できたはずなのに、それをあえてせず、ただただ2005の設定と辻褄というピースをストイックに維持して、「ワンスモア」というパズルを組み立てたということになるんじゃないか。例えば、「ブルース2018」でヒルタニの名前なりなんなりをぽろっと出しててもおかしくないはずなのに、記憶の限りそれもしてなかったと思う。そういうストイックなパズル脚本。
・4号機出現のころから、もう初見では脳がついていけないレベルアップ感。何せ、仕切り役がなぜかヒルタニに移って、これまでさばいてくれてたはずの頼りになる小暮が置いてかれてるから、見る側がよけいに不安でついていけない感になる。
・ヨーロッパ企画さんの醍醐味である”無駄話”が、重要な”伏線”であったりする一方で、やっぱりただの”無駄話”だったりもする、そのへんの絶妙な取り紛れさせ感が、解けそうで解けないでも最後には解けるパズルをおもしろくしてるんだな、と。「撮り鉄の部員が最近活動していない」ネタとか伏線かなと思ったら無駄話で、まさか「タップダンス場」がピークに効いてくるとは思ってない、ていう。
・曽我を今度は天狗にしてしまう力技。
・伊藤「伝わったー」
・自力で帰ってくる(来ざるを得ない)パターンのが、2週間→半年→15年とだんだんステップアップしていくのの、おもしろさとわかりやすさ。(でもまあ、「半年働いてきた」ていうのが一番笑ったけどなw)
・そういう意味では、「任天堂スイッチが2つある」「いま(城築)が3人同時にいる」ていうのとかが、最後の「1台のタイムマシンが3台同時に存在している」へ向かうまでのステップというかレッスンになってるんだな、という感じ。ダンデライオン。
・1・2・3のトリック。なんか字が不自然だと思った(笑)。
●20周年おめでとう
・「野良ドローン」「ディセンシー」「タイムパトロール、航時法」などなどの、過去作品とのふんわりしたリンク。
・「ブルース」で小暮が冷蔵庫の小泉にツッコむのに、いままでの小暮にはあまりなかった「そうしてるの?」という強めのツッコミをしてるあたりが、「ワンスモア」でかなり気の強めのキャラで事態をさばいていくのを、自然に見せてる、気がする。で、いまとなっては後者の酒井くんのほうが自然だしなと。
・にっしゃん伊藤が、2005下級生→2018同級生、なの。
●会場の反応
・栗東での観劇が(もちろん初日補正入ってたとして)よかったのが、会場の盛り上がり感。よく考えれば、わざわざ栗東まで、しかも「ブルース」無しでいきなり「ワンスモア」見に来るお客は、そりゃおおむね「(2005以前の)ブルース済み派」であろうし、続編待ちかねてた、いよっ待ってましたっ、というような濃い反応にならざるを得んだろうという。みんなで盛り上がりながら見れた気がして、栗東、当選してよかった(わりとあぶなかった)。
・その反応のわかりやすいのが、「歌舞伎のようだった」と週刊ヨーロッパ2でも言われてた「栗東での田村登場時の会場の拍手」で、確かにあんなところで拍手が出てしまうのはかなり意外ながらも、でも納得して拍手してしまう。少なくとも自然に出てた拍手だったと、あの場にいた身としては思う。京都ではちょっと不自然だった。
・終盤で(城築)が「田村です」と名乗ったときの、会場の不穏などよめきと、そういえばこいつの名前まだ誰も聞いてなかったというぞわぞわ感。京都より栗東の反応のほうが濃かったように思うのは、やっぱり「ブルース済み派」が多かったからか。あのぞわぞわはブルース済みか済みじゃないかでだいぶちがう。
・ヒルタニの”タイムスリップ未遂”で会場から変な悲鳴が出る。
・栗東では、子供がケタケタ笑う声。幸せな空間。
●2回見るとわかる裏演技や伏線
・タイムマシンの2号機3号機の登場時に、腕時計を見ている小暮。なるほど。
・現役生ミノワ登場時に、「あんな子いた」と発言するメンバーあり。なるほど。
・現役生を前にしての思い出話の中で、メンバーから「田村」の名前が出たときに、ミノワと(城築)が口パク裏演技で「タムラ?」と言ってたの。
・田村登場時にまわりが盛り上がってる中での、柴田のこそこそと逃げ回る感、プラス、田村のかきわけてきょろきょろ探してる感。
・2018年の田村と柴田が「やっと入籍できる(戸籍の関係で)」という話は、栗東ではなかったような気がする。加わった?
●極私的に好きなところ
・タイムマシンの出し入れのトラブルあり。まあ、あるよねw
・タイムマシンと再会して「ずっと使い方考えてた」という、積年の後悔とリベンジチャンスの興奮。よくわかる。
・柴田と田村の親子げんか全般。ここでしか見られない最高の掛け合い漫才だと思った、ずっと見てたい。
・レポート出しに過去に行く許可が出て、文字通り欣喜雀躍するミノワのバネ。そのレポートを、どうでもいいと投げ捨てる時の捨て方。
・(トラブルについて)あとは祈るしかない、と言われて、祈るミノワ。
・ビジネスマンのプレゼンVS研究者のくだり。
・「しろうとが飲食に手を出すな」
●極私的に、のこってる謎
・ニコンを調べたことあると言う(城築)。
●結局、柴田だけ一度も乗ってない件
・一度もタイムマシンに乗ってないのに、人生にもっともタイムマシンの影響を受けていると思われる、柴田。
・2018年から来た小泉たちに対する、2003の柴田の拒絶反応も、そう思うとなんとなくわかる気がする。
・がんばれ柴田。2028年まであと10年。
●2018、の次?
・「ブルース2018」と「ワンスモア」はどういう作品だったか。宣伝番組で上田氏は「いま封印を解かないと本当の封印になってしまう」と、まあ冗談めかしながらおっしゃってましたけど、もしかしたら今回でわりと”マジ封印”のつもりなんじゃないかという気はする。それは、以下のようなところから。
・「ブルース」と「ワンスモア」が、ペア扱いされながらも実は根本的に性格の異なる作品だというところがひとつあって、”時代”というローカルさの、まったく無いの(ブルース)と、めちゃくちゃ有るの(ワンスモア)。「ブルース」が2001でも2003でも2005でも2018でも上演されて特に不自然じゃない(演者の年齢を無視するものとする)のに対して、「ワンスモア」は各時代の具体的なアイテムが洪水のように出現した、そして絶対に2018年の現在しか上演できない作品になってる。インスタ、任天堂スイッチ、フリクション、酷暑、2018年問題、うなぎといった現代の”ローカルネタ”に加えて、過去も、クロックス、お札が変わった、狂牛病、倍返しだのなんだのと、枚挙にいとまが無い。絶対にいましかできないのが「平成の次の元号」ネタで、あれなんか世の動きによっては本公演ツアー中にネタとして成り立たなくなる事態すら起こりえるんじゃないかと、ちょっとドキドキしている。そういう、各時代の具体的なアイテムが洪水のように出現、という意味でかなり「続・時かけ」が見ててオーバーラップしたし、ちょいちょい聞く、「来てけつかる」や「トロンプルイユ」からの流れだな、というふうにも思う。
・となると、これ、少なくとも「ワンスモア」は再演はありえないわけで、「ブルース」と一緒に封印なのでは?
・・・・でもやっぱり、2028、を期待してしまう?
2028年、ってことになったら、あたしなんかわりとリアルに「がんばって生き延びよう」と思い始めるあれなんですが。