空腹を忘れてしまいたい断食や
生水ではどうしようもない疫病に
苛まれたときに修道士は
酒を醸すのでしょう

あ、すみません、駅のベンチでアルコールフリーの缶ビール飲んでました。これがまたレベル高くて美味い。
いや、ちがうんです。荷物をコインロッカーに預けようとすると、コインがいるじゃないですか。しかもトイレ行くにも有料でコインがいるじゃないですか。でもスイスフランをATMで手に入れても、札しかないじゃないですか。だからコインを得るために駅併設のスーパーで飲み物買って、午前中のドタバタで渇いたのどを潤そうとしたら、これがあったわけですよ。
ね、美味いアルコールフリービールは頼りになるインフラですよ。


というわけで、ザンクトガレンの町にやってきました。
ここでのお目当てはザンクトガレン修道院とその図書館です。
説明しよう、ザンクトガレンとは。
7世紀にアイルランドからやってきた修道士(ここでアイルランドが出ますかそうか)が建てた小屋を起源とするザンクトガレン修道院は、中世も早いうちから学問と写本作成を熱くおこなっていた中核的存在だったと。建物こそ近世以降のもののようですが、バロック建築たる大聖堂、豪華な装飾の付属図書館、世界最古といわれる建築設計図ほか稀覯過ぎる蔵書群などなど、もちろん世界遺産認定(1983年)です。
というわけで、駅から町を抜けて、ザンクトガレン修道院へ向かいます。


↑旧市街っぽいところで、かつ観光客やお店も多そうなところですが、なんかフェスティバル的なことをやってはる。

祭の催しや市民のみなさんのにぎわいの中を、適当にぶらつきながら路地を歩いていくと。



なるほど、これがザンクトガレンの大聖堂か。
シンメトリーに2つ並んだ塔(逆光のため正面からは撮影できませんでしたが、展示品の模型を↑参照)、随分と男前なのと、芝生で市民のみなさんが思い思いにくつろいでるのを見ると、あ、愛されてるんだな、というのがちょっとわかりますね。建物自体は近世以降のものなので、古さからくる威厳のようなものが感じられるわけじゃないんだけど、なんか、愛され感はある。


そして↑中がこんな感じ。
もうこれはごてごてしてて、ちょっとあたしの手には負えません(笑)。


↑お目当ての図書館へ向かいます。
で、もちろん撮影禁止なので生撮影の写真はありませんが、以下、代替物でいくつかご紹介します。
まずWikimedia Commonsの写真が、↓こう。

Stiftsbibliothek St. Gallen [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons
あと、館外で掲示してある室内写真が、↓こう。

いわゆる「世界の美しい図書館まとめ」的なところで出てきそうなやつ、ですね。
18世紀の建造物だそうで、木造が醸し出すいい感じの色調と照りが癒やされるし、ごてごて感のある装飾もその木造感でいい具合に抑制されていて、上品さを保ってくれてる、という感じがする。
なので、ほぼ1時間ぐらい室内をうろちょろ見まわる感じで滞在してました。去るのはもったいなかった。
蔵書的には、全17万点。それはともかく、西暦が3ケタの写本が400あるっていうのがすげえなと。当時は写本作成のためにヨーロッパ各地の僧侶たちがここまで足を運んだ、というようなこともどっかしらに書いてあったので、一大アーカイブセンターだったんだな、と思います。
上記写真は無人状態ですが、実際はかなりの観光客が室内にいて、入れ替わり立ち替わり、いろんな言語をしゃべりつつ見学する、という感じです。稀覯書展示ケースもたっぷり置いてあって、ここの蔵書でもってここの歴史や修道会の歴史を語る、的な感じ。アイルランドの話もたっぷりあったと記憶してます、英語でこのへんの説明をされてもなかなかしんどいのでぼんやりしてますが。
入室者は、靴を履いたままもうひとまわり大きいウレタンのスリッパを履きます。履き替えるんじゃないだ、と思った。あとはロッカーとミュージアムショップが充実してる感じです。相当の来客を受け入れる態勢はちゃんとできてると。
蔵書や装飾の諸々の謂われ(人形が各分野を表現してるとか)はもちろんあるんですが、ここであたしがうろ覚えでふんわり書くよりは物の本でも参照し直したほうがいいと思うので、おおかたを省きます。
ただ、それでも省けないというか、これがここへ来たメインだよという最大の見物が、”世界最古”と呼ばれる9世紀の建築設計図です。


↑館外掲示の、原寸大写真です。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/5e/Pianta_dell%27abbazia_di_san_gallo%2C_816-830%2C_san_gallo%2C_stiftbibliothek.jpg
↑wikimedia Commonsの画像へのリンクです。
77cm×112cmだそうですので、ほぼA0ですね。
室内にもテーブル状の展示があって、みんなが囲んでやいのやいの言ってました。
ポイントその1。建築図面として世界最古らしいこと。
修道院施設として教会や作業場などなどが書き込まれている。
ただし、世界というかたぶんヨーロッパで。あと、実際には建設されてないらしい。
ポイントその2。「図書館」も書き込まれている。
この図書館は2階建てで、書庫と写本室があったらしい。
ね、写本という複製行為と、保存がセットなんですよね。よくわかる話だ。
ポイントその3。「ビールの醸造所」も書き込まれている。
この建築平面図にはビール醸造施設らしき場所、樽らしきものが描かれているという話じゃないですか。マジか。
そもそも修道院とビールは古来関わりが深く、例えば断食修行の時でも飲料は認められていたから栄養補給のためにビールを醸したんだとか、例えば疫病が流行ると生水が飲めないから煮沸済みのビールが飲まれたんだとか、結果ビールが収益になったんだとか、いろいろなことを言われていますが。
(なお、「ザンクトガレン修道院は文献に登場する最古のビール醸造所」という説もありましたが、現在は否定されている様子)
まあいずれにしろ、図書館史では図書館史の見地から、ビール史はビール史の見地から語られる建築図面ということで、ドイツではないのにドイツ3Bのうちの2つ(BibliothekとBier)がここにあるじゃないですかね。しかも相当古い。
というわけで、今回の旅にぴったりな、かつ図面としてもなかなか愛らしいこの資料の絵葉書を記念にいただいて、帰ったのでした。
ほんとはアイルランドから続くキリスト教文献史的なのをちゃんとたどるほうが絶対おもろいと思うのですが、それはまたいずれ勉強しなおします。