6日目・5月2日(木)。
午前6時に、ジェノヴァの駅におります。
鉄路旅行の朝は早いのです。
朝、ホテルから鉄道駅にたどりつくまでがひと騒動でした。
6時過ぎの列車にまにあうようにと、あたりまだ真っ暗な5時台に宿を出るわけですが、まず駅向かいバス停の場所がわからない。ホテル最寄りのバス停はきのうの到着時に降りてるからもちろんわかるのですが、今度は駅向かいだから通りの向こう側よな、って思うじゃないですか。ないんですよ、対面の通りにバス停が。しょうがないから、逆向きバス停で待ってる地元の初老おばちゃんが、まあこの時間から働きにでも行くのか、ちょこんと座ってるから、駅向かいのバス停はどこですかって尋ねるじゃないですか。
イタリア語しかしゃべれないんですよね、おばちゃん、そりゃそうだ。
でもこんな真っ暗な早朝にこのおばちゃんしか見あたらないから、一生懸命に「ステーション、ステーション、バス」って言うんだけど、ええーわからへん、っていう顔しかしないし、イタリア語で駅ってなんだっけなー知ってるはずなんだけどなーって思って、ひねり出した挙げ句に「gare、gare」って言ってみたりしたけど、それイタリア語ちゃう、フランス語や。きのう・おとといの短期記憶に刷り込まれたフランス語や、っていう感じで、それでもなんとか「バス、バス、こっち、こっち」って身振り手振り続けてたら、「*****、******、*****」って100%わかんないんだけど、なんとなく手振りで100mくらい遠くに見える車通りを指してあっちへ行けと、「*****スタツィオーネ****ストラーダ******チェントロ****」と、ふんわり聞き覚えのある単語をつかみとれたりして、どうにかこうにかコミュニケーションとって厚く御礼を伝えたんだけど、全然離れた車通りまでトコトコ歩いてったところに、なるほど確かに目指すバス停があったから、この位置関係おかしすぎないかって思うんだけど、まあそれもこれも全部ひっくるめてあの初老おばちゃんのおかげであり、こんなふうに、いろんな人たちに支えられて旅をしております。
イタリアの駅の朝食が、朝食の中では一番好きかもしれない。(主に生搾りオレンジジュース的な意味で)
という中での、今日の目論見です。
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1. リビエラ・コートダジュールの海岸沿いを、鉄道で移動する。
2. 途中下車できる南フランスの町があれば、途中下車する。
3. モンペリエで泊まってもいいし、その手前でもその先でもいい
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予習した今日の路線はこんな感じ
ジェノヴァ (ここからずっと海沿い)
↓サンレモ
↓ヴェンティミリア(国境手前)
↓(国境)
↓モナコ
↓ニース
↓カンヌ
↓サンラファエル
↓(だいたいこの辺までが海沿い、ここから内陸)
↓マルセイユ
↓アルル
↓アヴィニヨン
↓(カマルグ湿原あたり)
↓ニーム
モンペリエ
今日は、リビエラ海岸・コートダジュール・南フランスを鉄道でぐっと移動して、いよいよスペインに近づく、という日です。
そう、なんだかんだいいながら、明日5月3日の夜21:43にはマドリード発の夜行に乗らないといけないわけなんで、いよいよ終盤戦にさしかかってるわけです。
とあるリスクから辛くも脱しつつ、いつものようにノートの手書き時刻表とにらめっこしながら、まずは国境手前のVentimigliaへ向かいます。
【egamidayさん、リビエラ海岸・コートダジュールを行く】
■ 06:07 ジェノヴァ発 → 09:03 ヴェンティミリア着
雲が厚い…。
西リビエラの湾岸車窓を楽しもうかと思いきや、どっしりした曇り空…しかも午後から雨という予報。
車窓も、ただのローカル線だな、っていうのがしばらくだらだらと続いたところで。
車窓が突然のリゾート感を発動して来ました。
なんだ、やればできるじゃん。
列車はリビエラ海岸、リグーリアの海をすれすれに通り抜けていきます。
グイグイとサザンオールスターズ感も増してきています。
いずれが江ノ島か湘南海岸かと。波はどこへ帰るのかと。
にしてもやはり雲がぶ厚い。旅先の天気と地頭には勝てない、とはよく言ったものであります。
ローカル便だからなのか、リゾート地だからなのか、このあたりからコートダジュール界隈まで、かなりと短距離間隔で刻むように駅があって停車します。そしてその駅がいちいちリゾートっぽかったりプチかわいかったりします、↑これなんかもそう。
↑地元的な謎の朝市みたいなのもやってる。ボルディゲーラ駅付近。
というようなリビエラ海岸を経て。
国境手前の駅、Ventimigliaに到着しました。ここもやはり、ほぼ定刻。
国境だけあって、駅も町もまあまあちゃんと栄えてて、ちょっと休憩に立ち寄ってもいいレベル。
なんですが、乗り換えは20分しかありません。
■09:24 ヴェンティミリア発 → 10:21 ニース着
ここからフランス再入国に向かいます。車輌はSNCF。
さようならイタリア。
やっぱりイタリアが大好きだ、ほんとはイタリアに居たいあ。
わりとすれすれだったり崖っぷちだったりするような海沿いを通り。
再度フランスに入国したのでした。
ただいまフランス。
いわゆる南フランス界隈には初めてやって参りました。
そして湧き上がる熱海感。
フランスに入国すると目立って大きな集合住宅や整備された街が続くようになりました。
ていうか、あの見えてるあたりがモナコなんだろうか??
というわけで、↑この謎のトンネル内駅、ここが7ヶ国目モナコ公国・モンテカルロ駅になります。
途中下車するわけではない以上、なんか旅情もへったくれもあったもんじゃありませんが、これも1国分のカウントです。
でも結局、どこがどうモナコだったのかはわからずじまい。
人工リゾート感がだんだん強くなってきたあたりで。
10時21分、ニース駅に到着です。
【ニース60分弾丸ツアー】
ニースと言えば、コートダジュール・高級リゾート地の権化みたいな名前じゃないですか。
さすがに観光客も多いせいか、↑自動改札機ですよ、こういうのあんま見ないでしょう、こちらでは。
到着が10時21分、次の便の発車が11時23分。
1時間あるな。
というわけで、”時間制限街歩きの術”のパターンです。時間いっぱい行けるところまで歩いていって、半分時間が経ったら即座に戻るという、弾丸ツアー。
駅前インフォで観光地図を手に入れ、街の構造と距離感をざっと確認して。
まずはこの大通りをバサッと突っ切って、海岸を見に行く。
すぐさまきびすを返して、トラムで駅へ直帰。
よし、その法案可決。
とりあえずガシガシ歩きます。
コインロッカーに荷物を預ける暇もなく、キャリーケースをリュックモードに変形させて、力業的に1時間歩くという。なかなかの修験道です。
あー、なんだろう。うまくいえないけど、金と暇があってしかも特に下品過ぎも上品過ぎもしない人たちが、数日無目的に過ごしそうな、「おりこうさん家族」っぽい街だな、という感想くらいにしときましょうか。ガラの悪さも排除的なハイソさもあまりなく、消費の街だなとは思うけどツーリスティックさもマクドナルドっぽさもあまりない。
地元の裏路地に行くとまた雰囲気ちがうらしいとも聞き及びますので、それはまたいつの日かの楽しみに。
街の街路樹や山の植物が若干の南国感、南国過ぎず、でもぬるく南国。
海岸が近づいてきましたが、この時点でもう息があがってます。
はい、海ーっ。
穏やかだねえ。
うん、よし、海見た。
じゃあ戻ります。(笑)
この時点で残り30分あるかないかくらいでしたが、トラムをつかまえて、無事に駅まで戻ってきました。正味歩いただけだったなあ、息ぜえぜえ言わせて。
と、そこまではいいのですが。
あれ、そういえば↑自動改札機じゃないですかね、この駅。
ユーレイルパスって、どうやったら改札通れるの?
ここでいきなり焦るわけです、ただでさえ人出の多い駅で、不慣れな自動改札のためにあちこちでブザー鳴らしてる乗客が何人もいるなか、見渡しても駅員らしき人がぜんぜん立ってない。おおう出たな、ヨーロッパ流の塩対応、日本の新幹線口とはだいぶ手当がちがう。
じゃあチケットオフィスで聞けるかな、と思いきや、切符を求める客が長蛇の列をなしているという。
困ったなとキョロキョロしてると、ああこれか、というものを発見。
改札口で乗客が駅事務員と話すためのインターホンです。
んー、この喧噪の中で、ややこしい話を、英語で話すのかあ、いやだなあ。
と苦虫をかみつぶしたようになりながら。
できるだけ大きく、区切るような声で。
「アイ ハブ ユーレイルパス。ハウ キャナイ エンター」
「何人?」
「ワンパーソン」
ぷしゅーっ。
あっさり開いた(笑)。
まあ観光地だから、英語不慣れ客もユーレイルパス客もあるあるなんでしょう。
ニースの想い出はそのくらいです。
【岩に次ぐ岩の南フランス】
■11:23 ニース発 → 14:01 マルセイユ着
というわけで、無事、次の列車に乗れました。
次は2時間半かけてマルセイユ向かいです。
ニースを出たあたりから、空がきれいに晴れてきて、車窓がやっとのことでコートダジュールとしての自覚を取り戻したようです。
よかったねえ、サザンもこれで浮かばれるよ。(謎感想)
カンヌ駅。
映画ポスターがたくさん貼ってある、ていう。
完全にリゾート海岸としての自信をとりもどしたこの海をごらんください。
あと赤いのは火成岩だとかで、このあたりを”黄金の断崖”と呼ぶとのこと。
このあと、サンラファエルという街を過ぎると、内陸の方へ入ります。
今度はブドウ畑に次ぐブドウ畑。褐色の集落、からの、ブドウ畑。
というか、内陸というよりずいぶん山がちな土地柄なんだなという印象です。なだらかな山々にぐるりと囲まれた感があるなと思えば、遠くにわりとゴツい岩張った山がひかえてたりしてる。
このへんはローカルな山岳鉄道も楽しめるらしく、次にゆっくり来るときはそこ向かいだねえ。
しかも。

↑マルセイユ近くなってきたころ、突如として現れる謎の巨岩。なにあれ、人工物じゃないとしたら何なんだろう。
さらにオバーニュという町からマルセイユに入ろうとするあたりで、白くてゴツゴツかつ凸凹した岩山がだだっ広くひろがっているところ(注:カランク国立公園の山手側にあたるらしい)があって、その正体も経緯もわからず、地質学的素養の無い自分を呪うしかなかったわけです。タモさん連れてきてよと。
マルセイユに到着。
…え、マルセイユってこんなでかい街だったんだ。
勝手にニースとどっこい扱いしてましたが、市の人口でいえばパリに次いでフランス第2位でした、大都市であり、大港湾都市であり、そして地中海に臨む大国際都市であると。
次の電車まで1時間あるので、昼食にします。
適当に入った駅併設のオープンカフェで、なぜかイタリアンで、魚の気分だからという理由だけでサーモンを選んだ結果↑。
ここで米にお目にかかれるとは思いませんでしたね。
鮭に米、すばらしい相性じゃないですか、和ですよ、和。
これに卓上の塩とバルサミコ酢を注意深い配分で調合すると、鮭の脂と米の糖分が調和して、和風味がグッと増すわけです、すばらしきかな卓上調理。
ここまでくるとバジルソースですら、春菊か何かと似てる気がする、味覚は騙されやすい。
さてその食事中のこと、オープンカフェの目の前の通りで喧嘩インシデントが発生。ワイシャツ姿でビジネスマン然としてるけど短気そうな男性と、ひげ面の濃い男性とが、文字通り「殴りかかる」かたちの乱闘を始め、連れが押さえ込む、カフェのがたいのいいシェフが声をかける、路上のジベタリアンが野次るなどして止めにかかり、おさまる、離れる、挑発する、追う、威圧する等が数ターン繰り返され、最終ポリスメンが登場してふんわり解散するも、今度はポリスメンがジベタリアンのポケット内を取り調べにかかるという不穏ぶりを見せるわけです。
さすが、マルセイユ。近年は改善されたよと聞くも、かつては治安の悪さで鳴らしたマルセイユ。フランスと言っても南だし、ラテン系だし、地中海岸の港まち、船と港という荒くれな土地柄であることには変わりないんだな、という感じです。ていうか、何をあんなに怒ることがあんの?ていうファイトぶりだった。
なるほど、南フランスに来てます。
後半へ続く。