2021年08月15日

2.1.3 社会には共有されるリテラシーの範囲がある (「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として)

【目次】
 「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
 index(目次&参考文献)
 0. 序論
 1. 図書館にとってアウトリーチは本質的な概念である
 2. クイズでは何がおこなわれ、何が求められているか
 2.1 クイズとは何をやっている営みなのか?
 …
 2.1.2 クイズは”リテラシー”の”ギャップ”を素材とする娯楽である
 2.1.3 社会には共有されるリテラシーの範囲がある
 2.1.4 クイズの娯楽性はどこにあるのか


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2.1.3 社会には共有されるリテラシーの範囲がある

●どの範囲を共有し、どこからはみ出すことになるのか

事例1 (アタック25・単刀直入)「四字熟語で、前置きなしにすぐ本題に入ることを、ただ独りで刀を取り敵陣に切り込む」という意味から、「刀」という字を使って何というでしょう?」
事例2 (トリニク)「牛肉は牛の肉、豚肉は豚の肉、ではトリニクは何の肉?」
事例3 (東大王・トーチタワー)「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」
事例4 (0文字クイズ・シャ乱Q)「    、   、   、   ♂       、    『    』『       』              ?」

 2.1.2で下記のようにいろんなクイズを事例として出しましたが、とはいえこれらすべてが、お茶の間に代表されるこの社会全体の平均的なリテラシーの範囲内に含まれるのか、と言われるとけっしてそういうわけではないですよね、という確認です。
 上記事例の問題や解答者その他を、リテラシーの高い低い(という一次元的な尺度があると仮定するならばですが)によって並べてみると、このようになります。

★高い
  ↑ 東大王
  ↑ 「トーチタワー」問題
  ↑ 「シャ乱Q」0文字クイズ問題
  ↑ 
------------------------
|  ↑ アタック25・白の解答者
|  ↑ 「単刀直入」問題      ←平均的なリテラシーの範囲(か?)
|  ↑ 平均的な”お茶の間”
------------------------
  ↑ 
  ↑ 「トリニク」問題
  ↑ 考えたことない人
☆低い

 このうち、「東大王」や「トリニク」はクイズの楽しみ方としてはやはり異色の類で、リテラシーのギャップの高すぎること、あるいは低すぎることを素材とするという意味では”色物”っぽくはあります。平均的な”お茶の間”が娯楽として楽しむのは、やはり平均的なレベルのリテラシーのあたりをカバーして、その中でのギャップ(わかる/わからない)を素材としていると言えるでしょう。

 そして逆に言えば、テレビのクイズ番組が成立しているということは、解答者、企画者だけでなく、観覧者(視聴者)全体、つまり平均的な”お茶の間”層…その番組が放送される社会(なんなら国民国家)内で、このくらいだったら大勢の人が知っているだろうと当然視される文化的・社会的なリテラシーの”範囲”のようなものが存在し、共有されている、ということが前提となります。これは知ってて当たり前、これは知らなくて当たり前、これは知ってそうで知らなさそうで知ってたらエライ。それを、一億数千万人の視聴者が暗黙のうちになんとなーく共有している範囲内で、問題を出し合い解答を競い合うから、お茶の間の娯楽になり得るわけです。「単刀直入」や「四面楚歌」なら知ってる人が多いからクイズに出せる。「伊尹負鼎」?「蓴羹鱸膾」?誰が答えられますそんな、リテラシーの共有範囲に入ってない四字熟語、と。
 単純に内か外かだけではなく、むしろ境界や周縁、半歩はみ出した辺りこそがギャップの面白さを生みやすいでしょう。「跳梁跋扈」は範囲に入るかは微妙だけど、逆に「魑魅魍魎」だと”難しい四字熟語キャラ”として周知されててクイズの対象になりやすいし、出題しやすい。同じ「単刀直入」でも、抽象的な意味(前置きなしに云々)だけだと連想や特定が難しいから、問題文の前の方に置くことで”ギャップの可視化”がしやすくなる。「日本で一番高い山」なんてクイズは低すぎて対象外ですが、「では二番目に高い山」ついては範囲内なのか、リテラシーとして高いのかそれとも低いのか(”山”だけに)。
 範囲の内か外か、高いか低いか、微妙ラインか半歩はみ出してるか、その選択・配置・配点といった塩梅が、クイズの出来不出来を決めることになります。

 で、そのリテラシーの範囲を逸脱したもの、例えば、クイズ番組で超難問を俗に「クイズ王」などと称される猛者が正解した時「なんでこんな難問がわかるの」と驚愕される(例:「変態天才ショー」とまで言われた『頭脳王』)ことがありますが、これも同じことで、「それが難問である」こと自体は平均的視聴者も理解できているし共有されているわけなので、ということはある程度共有されたリテラシーの範囲が暗黙の内に存在することを前提にクイズをやっている、ということに変わりはないわけです。
 上の図で言えば、平均的リテラシーにはどこかしらに上限が存在するからこそ、そこを越えたものは「越えている」と認識される、という。

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「何がクイズの設問となり何がなりえないのか」
「クイズに出される設問を、その国民国家やメディアが流通する範囲に共有されているカルチュアル・リテラシーととらえる」
「人々が楽しむ(考え、問題を解く)ことができる問いの範囲が…ある文化を中心化・正統化し、「○○人なら知っておくべき知識の体系」として提示されるように、国民国家に強く境界づけられている」
(石田佐恵子. 「序章「クイズ文化の社会学」の前提」. 『クイズ文化の社会学』. 世界思想社. 2003, p.1-20.)

「クイズは、「参加者が知っている」と期待される知識」が想定できない環境では成立しない…日本人にとって、江戸幕府の初代将軍は小学生でもわかる常識だが、ひとたび海を越えれば、世界市場の瑣末な事項となる」
(徳久倫康. 「国民クイズ2.0」. 『日本2.0 思想地図β Vol.3』. 2012, p.484-510.)
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 というわけで、本稿の目的である「図書館のクイズ問題を予想する」に寄せて言えば、テレビのクイズ番組でどのような問題が出題されるかは、平均的な”お茶の間”が持つリテラシーがどの範囲に位置しているか、に左右されるということになります。

 本稿のベースとなる、図1を再掲します。

図1.JPG

 お茶の間を含むほぼすべての存在が、共有されるリテラシーの範囲内の内側にいます。が、クイズの問題は若干はみ出てますね。他にもはみ出てる存在がいくつかあります。何が、どういうときに、どうはみ出すか、それがクイズに何をもたらすか、についてはまた追々整理できれば、と。
 とはいえ、この図の圧倒的範囲を赤い枠が占めており、すなわちクイズというものが基本的には、想定される範囲の社会において、広く共有されているリテラシーが存在していることを前提としているんだ、ということが言えるかと思います。



●そのリテラシーの高い低いを、クイズが決めるのか

 そして昨今のクイズ番組では、そのリテラシーの高い低いにけっこうあからさまなナビゲーションが付いている例がよく見られます。
 「Qさま!!」という、初期はたしかクイズをダシにしたがしゃがしゃしたバラエティだったような気がするのですが、いつの間にか知識中心のまっとうな出題に正面から解答する企画になり、PTAが「子供に見せたい」と言うまでに至った番組、からの事例です。

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「エ」から始まる名所・世界遺産
@40点 神奈川県の景勝地 え□□□
A60点 世界最高峰の山 エ□□□□
B80点 世界最大級の一枚岩 エ□□□・□□□
C100点 天台宗の総本山 え□□□□寺
D120点 3つの宗教の聖地 エ□□□□
E140点 地中海東部 エ□□海
F160点 パリの建造物 エ□□□□□□□□門
G180点 ロシア最大の国立美術館 エ□□□□□□美術館
H200点(激ムズ) 鎌倉五山の一つ え□□□寺
I250点(激ムズ) ニューヨークの超高層ビル エ□□□□・□□□□ビル
J300点(鬼ムズ) 曹洞宗の大本山 え□□□寺
K350点(鬼ムズ) 五大湖の一つ エ□□湖
(「Qさま!!」(2020年12月14日放送))
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 それぞれの問題には写真が付いていて、この写真や説明文を手掛かりに日本・海外の名所を答えなさいというものです。内容的にも、言ってみれば「視聴者がまったく知らないような難問を出す番組ではない。中学や高校の授業でいちどは聞いたことがあるような知識を中心に」(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.7, p.95-103.)据えたもので、それに加えて難易度の高い低いがある、という感じです。
 その難易度の高い低いが番号と得点でランキングされている、あたりが、けっこうにあからさまだな、と思います。「エリー湖」という地名を知っていればあなたは350点分の価値のあるリテラシーの持ち主だし、エベレストも答えられないようであればその1/6の価値もない、というわけです。え、大丈夫ですかね、関西だと@とCの認知度逆転してませんか。
 ですが、これをPTA推奨のもとでお子さまと親ごさまたちが鑑賞しては、80点がわかる、100点がわかり、8番はわかるけどむしろ5番がわからない、だのと語り合っては、お互いのリテラシーがどの立ち位置にあるのか、その範囲は共有できているのか、むしろギャップがあるのか、という確認作業を、全国のお茶の間で実践してらっしゃるんでしょう。このようなランキングもそうですし、「一般正解率 何%」とか「東大生正解率 何%」とか、「小学5年生が正答できました」、「私立○○中学校の入試問題です」、うん、わかったわかった、自分が平均的リテラシー範囲を共有できているかどうか、そんなにまでして知りたいか、と。

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「クイズそのものが、世界に対する価値判断を含む営み」
「われわれが知りうる情報のうち、なにを出題に足る価値のあるものと捉え」「「どのような世界観が望ましいか」を決めることと同じ意味を持ってしまう」
(徳久倫康. 「競技クイズとはなにか?」. 『ユリイカ』. 2020.7, p.85-94.)
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 これは考えてみれば、ある意味こわいことでもあります。我々はどうやら無意識のうちに不文律のリテラシー・ランキングのようなものを社会内で無言のまま共有しているらしい、ということだからです。なので、なんというか、このクイズにまつわりそうなリテラシーの有無やギャップというのは、せいぜいテレビのクイズ番組”程度”の娯楽にとどめておくのがちょうどいいんじゃないかしら、という気がしています、過度に価値を持たせて良いようなものではたぶんない。

 いずれにせよ、この社会には共有される平均的なリテラシーの範囲があるらしい。しかし、共有され平均であるはずの範囲内にも、よくよくさらってみれば実はそこかしこにギャップがある。クイズは、その微妙なギャップをきわだたせたり、すりよせたり、良い具合の塩梅をはかりながら提示することによって生まれるおもしろさを、娯楽にしている。ということが言えるのではないかと思います。
 逆に言えば、そのリテラシーの共有が維持できなくなったとき、「クイズ」は終わります。参照、「もうすぐ終了するという「アタック25」について」(egamiday 3) http://egamiday3.seesaa.net/article/482402344.html

 というわけで、とりあえずここではいったん、「クイズは、“リテラシー”の”ギャップ”を素材とした、”観客”のための”娯楽”である」と述べるにとどめておきます。どのみち、本稿の最終目的である「99人の壁問題予想」の段階では、このリテラシーの所在をねちねち考えなきゃいけないので。



 なお以下余談ですが、日本のテレビではやたらと「漢字」がクイズとして出題される、という指摘がおもしろかったので紹介しておきます。確かに、クイズと名の付く番組で漢字の問題が出ないものを探すのは、ちょっと難しいかもしれませんね。

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「日本のクイズ番組では、漢字の書き方、読み方といった漢字そのものについての問題と、そこから派生する熟語問題・連想問題にいたるまでの多様な漢字関連クイズが出題されている」
「一つの漢字が複数の読み方をもつことが多いため、日本語を母国語とする人にとってさえ完璧に上達するにはよりいっそうの教育が必要となる。これはアルファベットだけで表記される英語などとは異なった言語的な特徴だろう」
「レストランのメニューを読むのにも、漢字の能力は必要とされる。カルチュラル・リテラシーとしての漢字がクイズ番組によく登場するのはごく自然な現象」
(黄菊英, 長谷正人, 太田省一. 『クイズ化するテレビ』. 青弓社, 2014. (第1章「クイズと「啓蒙」」))
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 著者(黄菊英)が指摘するように、漢字は日本において習得する必要があるリテラシーである、という意識が共有されているということが、要因として大きそうです。特に、英単語や歴史年号や元素記号などと違って、老若男女職業立場を限らず日常生活で使わない人はいないし、使わない日やシーンはないくらいに身近で誰でもが触れるものだから、その出題には誰もが参加可能でお客を選ばない、という。それだけに、そのリテラシーは高ければ高いほどいい、持っていて損はない、という上向き一方向の価値尺度を共有してるんじゃなかろうか、という気がしますね。あくまでそのリテラシ-を共有している社会の範囲内において、ですが。
 またこの著者(黄菊英)はリテラシーの問題としてだけでなく、「漢字問題はその視覚的要素ゆえに、より「テレビ的なもの」としての特性をもつ」というメディアの問題としての指摘がおっしゃるとおりかと。地デジ移行で画質が上がってより画数の多い漢字が、ていうの、ちょっとおもろかった。

 加えるならば「出題者目線」として、
  ・難しい漢字や簡単な漢字が多種多様で、ネタに困らないこと。
  ・辞書・字典という公明正大かつ容易に参照可能な典拠があるので、作問しやすいこと。
  ・言葉なので、出題の背景に物語を持たせやすいこと。
 なども漢字クイズ隆盛の要因じゃないかなって思います。
 要するに、クイズにうってつけなんですよね、漢字って。


posted by egamiday3 at 07:55| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月14日

2.1.2 クイズは”リテラシー”の”ギャップ”を素材とする娯楽である (「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として)

【目次】
 「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
 index(目次&参考文献)
 0. 序論
 1. 図書館にとってアウトリーチは本質的な概念である
 2. クイズでは何がおこなわれ、何が求められているか
 2.1 クイズとは何をやっている営みなのか?
 2.1.0 「クイズ」とは何であって、何ではないか?
 2.1.1 クイズは”観客”のための“エンタメ”である
 2.1.2 クイズは”リテラシー”の”ギャップ”を素材とする娯楽である
 2.1.3 社会には共有されるリテラシーの範囲がある


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 正直、2.1.1まではわりと軽めの前フリじゃないかなと思います。
 このへんからわりと膏肓入りし始めるっぽいです。

2.1.2 クイズは”リテラシー”の”ギャップ”を素材とする娯楽である

 クイズがエンタメ・娯楽であるというのは、四の五の言わなくてもわかりそうなものですが、ではその”素材”はなんなのか。
 そりゃまあ、知識とか情報とか(場合によっては思考・推理)とか呼ばれるものでしょうとは思うのですが、それは「クイズ」の素材かな、と。もっと掘り下げて、「クイズの持つ娯楽性」は何を素材としているか、と考えると、それは「“リテラシー”の“ギャップ”」である、と言えるんじゃないかという話です。

 ”お茶の間”を対象とした娯楽のためのテレビ番組から、クイズの事例をいくつか示してみます。
 (なお考察のため、1例目以外はかなりクセのある事例を無理やりひっぱってきてますので、いったい何がおこなわれているシーンなんだかというさっぱりわかりにくいところがあるかもしれませんが、のちほど個別解説できればと。)

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●事例1(アタック25)

※通常の早押しクイズ
アナ「四字熟語で、前置きなしにすぐ本題に入ることを/」
白「ピーン」
谷原「白!」
白「単刀直入」
谷原「お見事! 「ただ独りで刀を取り敵陣に切り込む」という意味から、「刀」という字を使って何というでしょう?」。さあ白、何番?」
白「15番」
(「パネルクイズアタック25」(2017年10月8日放送))

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●事例2 (トリニク)

※一般常識と思われていることを若い世代が理解しているかどうかをクイズとして出題するが、答えられない解答者がいる、という企画。
(問題・再現VTR)
父(モノローグ)「スマホ以外何事にも関心を持たない娘に、ふとこんなことを聞いてみた」
父「おい、唐揚げのトリ肉って何の肉か知ってるか?」
娘「知らなーい。そんなこと、考えたこともないんだけど」
父「(モノローグ)うちの娘なんですがトリニクが何の肉か知らなかった事にはビックリしました」
ナレ「そこでスタジオの平成生まれのみなさんに聞きます。
問題 牛肉は牛の肉、豚肉は豚の肉、ではトリニクは何の肉?
 ↓
(スタジオ)
浜田「これはちょっとなめすぎちゃう?」
ヒロミ「世の中でこういう問題出るの、ないよ」
 ↓
(結果、30人中5人が不正解、「鳥の肉」と誤答。)
解答者A「スズメとかニワトリとかツバメとかいっぱいいて、その全般、みたいな」
解答者B「焼き鳥屋さん行ったらスズメとか出てくるじゃないですか。だから「鳥」っていう、おおまかなあれかな、ていう」
解答者C「え?1種類なんですか?」「いつ誰が決めたんですか、その1種類」
(「平成生まれ3000万人!そんなコト考えた事なかったクイズ」(2018年8月28日放送))

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●事例3 (東大王)

※これから出る画像を見て答える、というクイズであるにもかかわらず、画像が出る前の説明文(前置き)だけでボタンを押して正答してしまう、という例。
問題テロップ「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」
(注:このテロップ通りの前置きがナレーターによって読み上げられたあとで、問題となる建造物の画像に切り替わる予定であるが、画面上にはまだテロップしか表示されておらず、読み上げられてもいない。)
林「ピコーン」
山里「えっ!?」
実況「押したのは、ジャスコ林!? 問題文の途中だぞ!?」
(会場が騒然となる)
実況「答えをどうぞ」
林「はい、トーチタワー」
効果音「キロキロキロン」
(中略)
ヒロミ「ちょっと待ってちょっと待って、だって問題出てないじゃん!」…「なにこれ、どういうこと?」
林「あの、東京駅の近くにトーチタワーっていう、日本一高いビルが建設予定になってまして。まあ、いまニュース関連で出すなら、それかなと。「建設予定」っていう字が出てたのが」
山里「あ、この問題文でわかるんだ」
(中略)
実況「(出るはずだった画像の表示とともに)まさに今月17日にその名称が発表されました、トーチタワーの画像です。東京駅前に2027年に完成予定で、高さは390メートル、あべのハルカスを抜いて日本一高いビルになります。見事正解、トーチタワーでした。」
(「東大王」(2020年9月23日放送))

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●事例4 (0文字クイズ)

※トーク番組のゲストであるクイズプレーヤー・伊沢拓司氏が、クイズに詳しくはない関ジャニ∞のメンバーに、超難問を例題として出題したもの。「0文字クイズ」では、クイズの問題文から文字を全部消して、記号だけを表示して答えさせる。
「問題 0文字クイズ」
「    、   、   、   ♂       、    『    』『       』           ?」
ゲスト「いや、ムリでしょこれ」
村上「これは常軌を逸してんねん」
大倉「あの記号だけや」
丸山「これは男性マークがたぶんあれですよね、ヒントですよね」
伊沢「まさにそう」
大倉「つんくさんって、あれ(♂)やったっけ?」
伊沢「おっ!? おっ!?」
大倉「つんくさん?」
伊沢「はい、そこはあってますよ、ということは?」
横山「モーニング娘。?」
村上「ちがう」
大倉「代表曲、あれ(『 』の部分)、曲名?」
伊沢「おっ!?」
大倉「……「に、代表される」…曲?」
安田「あの『 』でいったら、2曲入るってことやな」
村上「導き方はいいですよね」
(中略)
大倉「シャ乱Q?」
伊沢「正解!その通りです、すげえ!」
「たいせい、まこと、はたけ、つんく♂の4人からなる、代表曲に『ズルい女』『シングルベッド』があるロックバンドは何?」「答え シャ乱Q」
伊沢「すごいですね大倉さん、完璧です」
(「関ジャニ∞のジャニ勉強」(2021年4月8日放送))

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 問題の種類、難易度、どのように正答を導き出すかや、その様子をどのように放送するか、何をおもしろがっているのかは、当然のごとくそれぞれで異なりますが、それらがすべて「クイズ」である以上、共通しているところがあります。
 解答者は、インプットした限られた情報にもとづいて、自らの「知識・情報」や「思考・推理」を駆使し、アウトプットすべき適切な事実または解答(少なくともその社会内ではそれがもっとも適切と広く認められるであろう解答)を導き出す。(あるいは出せないでいる。)
 このインプット→アウトプットをおこなうための知的能力(そのために駆使される知識・情報までをも含めて)のことを、本稿では、図書館業界ならずとも現代社会であれば耳馴染み深く便利使いされがちな言葉で、「リテラシー」と呼びたいと思います。多少鵺っぽい語ではありますが、まあ、使わせて下さい。

 で、クイズがただリテラシーを問う営みなだけであれば、学校の試験や資格試験などといったほとんどの人にとって無味で砂を噛むような苦行でしかなかったものとたいして変わらないわけです。なのに、なぜそれが”お茶の間”の娯楽になり得るのか。
 それは、試験が単純にリテラシーの有無だけを問うている(それを評価する)にとどまっているのに対し、クイズは、人によってリテラシーに”ギャップ”が存在することをもともと認めており、リテラシーの有無自体よりもギャップが生む面白さのほうに焦点を当てているから、と言えます。

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「クイズが効果的に使われるためにはまず、コミュニケーションを交わす人間同士のあいだに情報の量と質の差、身体的・精神的能力の差が存在しなければならない」
「情報と能力の差があるときこそ、クイズは意味をもつのであり、それを見ることにおもしろさが生まれるのである。」
(黄菊英, 長谷正人, 太田省一. 『クイズ化するテレビ』. 青弓社, 2014. (序章「テレビとクイズのはざまで」))
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●ギャップがあるから、競い合いが鑑賞できる

 リテラシーのギャップは、まずはステージ上でプレーをしている解答者同士の間にありますので、その競い合いを観戦することは娯楽になり得るでしょう。

 事例1(アタック25)の「単刀直入」の問題をはじめ、「アタック25」のような正統派(そしてやがて失われるという)のクイズでは、わかる人もいればわからない人もいそうな出題に対し、正答できるリテラシーをもった解答者が正答して、他者とその高い低いを競い合っている。その様子を、お茶の間が鑑賞している。そういう娯楽です。
 テレビ番組の娯楽目的の企画ですから、その”ギャップ”も鑑賞に堪えうるようにいい塩梅で演出されることになります。例えば互いに競い合う解答者同士のリテラシーのレベルは、事前の予選テストや面接などにより、おおむね同程度の持ち主が4人そろえられるであろうことは、容易に想像されます。ワンサイドゲームもスルーの連続も放送に堪えないわけですから。解答者同士のリテラシーは、ギャップはあるけれども拮抗している、くらいがもっとも競い合いとして盛り上がるでしょう。(ですから「アタック25」などは、放送回によって初級者同士の回もあれば上級者同士の回もある、というレベルの差の存在が見てるとなんとなくわかります。また、「学校の先生大会」や「20代大会」のような”くくり”も拮抗させることに一役買うでしょう。)

 総合点では拮抗していたはずの解答者間のリテラシー・ギャップは、具体的な1問が出題された途端、露骨に差として現れます。クイズが結局は知・無知を問うものである以上、どんなクイズ猛者であろうとも、知らないことがたった1問出ただけで手も足も出なくなってしまうからです。
 ここで競い合いを演出するのは、その知識を有する・有さないのギャップだけでなく、少ない手掛かりでもわかる・わからないのギャップ、そしてわかるのが早い・遅いという早押しクイズならではのギャップ、です。

図3:リテラシーのギャップが可視化される.jpg
図3:リテラシーのギャップが可視化される


 事例1の「単刀直入」問題の全文をもう一度確認すると、
「四字熟語で、前置きなしにすぐ本題に入ることを/、「ただ独りで刀を取り敵陣に切り込む」という意味から、「刀」という字を使って、何というでしょう?」
 (凡例。問題文中の「/」は、早押しクイズの読み上げ中に、解答者がそのタイミングでボタンを押した、ということを意味します。)
 この問題には解答の手掛かりが3つ提示されていることがわかります。
  1.「前置きなしにすぐ本題に入ること」という周知されている(抽象的な)意味。
  2.「ただ独りで刀を取り敵陣に切り込む」という語本来の(具体的な)意味。
  3.「刀という字を使う」という特定可能な語そのもの。
 これを、問題文の頭から1→2→3と順を追って読み上げ(音声)で提示することで、少なく抽象的なヒントで解答可能なリテラシーの持ち主はボタンをより早く押すことができる。事例1の白の人のようにカンのいい解答者なら、1の時点で早押しボタンを押して正答する、というかたちで、他の3人の解答者とのリテラシーのギャップをぐうの音も出ない形で可視化させられるわけです。
 解答者によっては、自分は2まで聞けばわかったという人もいれば、3まで聞けばさすがにわかる、という人もいるでしょうし、場合によっては最後まで聞いてもまだうーんという人もいるかもしれない。そして、「早押しクイズ」という形式のクイズは、その解答者の中で最も少ない手掛かりで早く解答できた人のみが勝ちを得る、というものです。

 そしてここで”お茶の間”のための”エンタメ”としてさらに重要なことは、お茶の間の鑑賞者自身も「自分はわかった」「わからなかった」「自分のほうが早かった、パリ行けるやん」などと、鑑賞者と回答者との間のリテラシーのギャップを楽しんでいる、ということです。ていうか、意識的/無意識的にかはともかく、クイズの視聴者なんて大半はその”仮想的な参加”をやりながらクイズ見てるでしょう、じゃなかったら画面上に正解表示した状態で出題すりゃいいんだから。
 クイズという競争の鑑賞が、他のゲームやスポーツの観戦と圧倒的に違いかつ長じていると言えるのが、この「お茶の間の鑑賞者自身も、ギャップの参加者に容易になれる」という点であり、ゆえに「クイズが”お茶の間”の”エンタメ”である」ということに逃れられない重みが生まれてしまう点でもあるのですが、まあこのへんはひとまず置いておきます。

 重要なのは、単に知識の有無を問い、互いのリテラシーの共有と確認作業をおこなっているのではなく、解答者間および鑑賞者間に存在するギャップを素材として、その競い合いと鑑賞を娯楽にしている、という点です。
 繰り返しになりますが、「ギャップはあるけれども拮抗している、くらいがもっとも競い合いとして盛り上が」りますので、出題される問題もそのようないい塩梅のものを用意する必要があります。
 ほぼ誰も知らないような狭い知識や、誰も関心を持たないそれを聞いてどうするの的な情報は使えない。平均的なお茶の間層の間で、これくらいだったら大勢の人が知っているだろうし、あるいは知ることで損にはならないだろう範囲の知識・情報。文化的・社会的なリテラシーの”範囲”のようなものが暗黙のうちに存在し、共有されている、ということが大前提となります。「単刀直入」という四字熟語についての知識はこの共有範囲に入っていると、誰かが?どこかで?なんとなく?認められたからこそ、クイズの問題に採用されているというわけなんでしょう。
 このあたりの話が、「クイズの問題を予想する」という本稿の所期の目的にリンクしてくるわけなのですが、これは次項2.1.3や他の章節でもうちょっと掘るでしょう。

 さて、その娯楽性を追求しようとすると、ただ単純に共有されたリテラシーの範囲の「中にあること」だけでは飽き足らなくなる、というような調子ノリが登場するのは世の常のようなもので、「半歩くらいはみ出したもの」「大幅にはみ出したもの」、そのうえで「なお鑑賞の対象になり得るもの」、それが(少なくともテレビ番組である限りは)クイズの問題として選ばれ得るのではないか、と。



●低すぎるギャップを鑑賞する

 リテラシーの範囲を大幅にはみ出したものが、鑑賞対象になる、とはどういうことか。
 「ヘキサゴン」と書けば低さのほうが、クイズ王番組の類に言及すれば高いほうが、それぞれ二言三言で説明はつくかもしれませんが、もうちょっとゴニョゴニョ考えさせて下さい。

 事例2(トリニク)を再掲します。
 この番組自体は特番でしたが、のちに「そんなコト考えた事なかったクイズ!トリニクって何の肉!?」という身も蓋もない直接的なタイトルでレギュラー番組化され、なんだかんだでいま(2021年8月現在)にも至っています。ざっと言えば、世間的には一般常識とされている知識を、芸能人に出題し、答えられない解答者がいるということに対して、あれやこれやわーわー言う、というタイプのやつです。

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●事例2 (トリニク)

※一般常識と思われていることを若い世代が理解しているかどうかをクイズとして出題するが、答えられない解答者がいる、という企画。
(問題・再現VTR)
父(モノローグ)「スマホ以外何事にも関心を持たない娘に、ふとこんなことを聞いてみた」
父「おい、唐揚げのトリ肉って何の肉か知ってるか?」
娘「知らなーい。そんなこと、考えたこともないんだけど」
父「(モノローグ)うちの娘なんですがトリニクが何の肉か知らなかった事にはビックリしました」
ナレ「そこでスタジオの平成生まれのみなさんに聞きます。
問題 牛肉は牛の肉、豚肉は豚の肉、ではトリニクは何の肉?
 ↓
(スタジオ)
浜田「これはちょっとなめすぎちゃう?」
ヒロミ「世の中でこういう問題出るの、ないよ」
 ↓
(結果、30人中5人が不正解、「鳥の肉」と誤答。)
解答者A「スズメとかニワトリとかツバメとかいっぱいいて、その全般、みたいな」
解答者B「焼き鳥屋さん行ったらスズメとか出てくるじゃないですか。だから「鳥」っていう、おおまかなあれかな、ていう」
解答者C「え?1種類なんですか?」「いつ誰が決めたんですか、その1種類」
(「平成生まれ3000万人!そんなコト考えた事なかったクイズ」(2018年8月28日放送))

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 平均的な”お茶の間”のみなさんであれば当然持っているにちがいないと思われるようなリテラシーを、この解答者はどうやら持っていないらしい、それどころか「考えたこともない」とすら言っている、こんなところにリテラシーのギャップが存在していたのか、ということを素材として提示しています。一見、リテラシーの低さ(とはいえ低すぎないか)を鑑賞対象としている趣味の悪さも覚えますが、私はこの手の番組の要点はむしろ「そんなこと、考えたこともなかった」のほうではないかと思います。
 これの変化形としてデジャビュを覚える番組が、「チコちゃんに叱られる!」です。あれは、あらためて問われると確かにわからない、考えたことなかった、自分にはこんな意外なところにリテラシーの欠損、もしくは取りこぼしがあったのか、ということを気づかせることから始まる知的娯楽じゃないか、と。

 これらの番組について、単純に知識の有無をあげつらって笑ったり叱ったりというのはケシカラン、知や学びというのはそういうことじゃないだろう、という感じの批判を、まあツイッターなんかでもよく目にします。が、私はその批判は、間違ってるとは言えないもののちょっと一面的な見方じゃないかな、と思うのです。あれは、「知識の有無」を問題にしてるんじゃなくて、ギャップや取りこぼしの存在を知らなかった、気付かなかった、気付かせてくれた、そういうことに焦点を当てているんだと思えば、むしろ知や学びというのはそういうところから始まるものだろう、と。おかっぱのCG少女は「知らない」ことを叱ってるんじゃなくて、「考えたこともない」ことをボーッとすんなと叱ってるわけなので、大の大人も「トリニクが何の肉かわかってない」若者とたいして変わんねえよ、という、なんだろう、一休宗純あたりが言いそうな警句なんじゃないかなと思いますね。
そういう意味で言うと、「トリニクって何の肉かわかってない若者」への反応として妥当なのは、「そんなことも知らないのか」と笑う、でもなく、「笑いものにするのはおかしい」と怒る、でもなく、「そう言われると自分も、”白身魚フライ”の魚が何か考えずに食べてるな」と気付くこと、じゃないかと。
(なお、平気で誤情報を流したり「諸説あり」で逃げるあたりは、もちろん番組側がちゃんと叱られてください。)

 

●高すぎるギャップを鑑賞する

 その逆が、事例3、「東大王」のトーチタワーの例です。ここでは、平均的な“お茶の間”のリテラシーではわかるわけがないレベルの手掛かりで、できるはずのない回答を成し遂げるという、天才アスリートの試合展開のような場面が目撃される=鑑賞の対象とされます。
 事例3も再掲します。

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●事例3 (東大王)

※これから出る画像を見て答える、というクイズであるにもかかわらず、画像が出る前の説明文(前置き)だけでボタンを押して正答してしまう、という例。
問題テロップ「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」
(注:このテロップ通りの前置きがナレーターによって読み上げられたあとで、問題となる建造物の画像に切り替わる予定であるが、画面上にはまだテロップしか表示されておらず、読み上げられてもいない。)
林「ピコーン」
山里「えっ!?」
実況「押したのは、ジャスコ林!? 問題文の途中だぞ!?」
(会場が騒然となる)
実況「答えをどうぞ」
林「はい、トーチタワー」
効果音「キロキロキロン」
(中略)
ヒロミ「ちょっと待ってちょっと待って、だって問題(画像)出てないじゃん!」…「なにこれ、どういうこと?」
林「あの、東京駅の近くにトーチタワーっていう、日本一高いビルが建設予定になってまして。まあ、いまニュース関連で出すなら、それかなと。「建設予定」っていう字が出てたのが」
山里「あ、この問題文でわかるんだ」
(中略)
実況「(出るはずだった画像の表示とともに)まさに今月17日にその名称が発表されました、トーチタワーの画像です。東京駅前に2027年に完成予定で、高さは390メートル、あべのハルカスを抜いて日本一高いビルになります。見事正解、トーチタワーでした。」
(「東大王」(2020年9月23日放送))

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 「これから画像を見せるから、それがどこか答えろ」という説明をしている最中にボタンを押し、通常では手掛かりと認識されない「建設予定の建造物」という前置きの語句を手掛かりとして駆使し、まだ画像自体は見えていないもののその名前を解答する、というシーンです。そんなもの、平均的な“お茶の間”はその理不尽な試合展開に驚愕せざるを得んでしょう(しかもこれが生放送でしたから)。加えて、どのようにすればその正答が導き出せるのかという、上位方向のリテラシーの構造が解答者自身から解説されています。そのリテラシーの高すぎるギャップを見て、「すげえーさすが」とか「へーなるほど」とか「いやいやありえん」などと言ってみる。
 いわゆるクイズ王系の番組は、こういうことを手を替え品を替えショーアップしてきたわけです。

 そして、この高さ方面のギャップをエンタメとする例においても、やはり確認しておきたいのは、それが単なる知・無知を問うているというだけではなく、リテラシーのギャップの問題であるという点です。リテラシーの問題である以上、クイズとかいうものを必死にやってるようなクイズ王とかいう得たいのしれない存在、だけにしか正答できないというわけではなく、出題に合致したリテラシーの持ち主であればその気があれば誰にでも正答可能なはずです。そのへん、サッカーやフィギュアスケートの天才選手の真似事とはちょっとちがう”オープンさ”を持っているんじゃないかと。
 その例として挙げたのが、事例4です。

 事例4で出題されている「0文字クイズ」というのは、伊沢拓司氏率いるQuizKnockのYouTube動画(https://www.youtube.com/channel/UCQ_MqAw18jFTlBB-f8BP7dw)の中でも、変態的に難解かつ内輪向けで行き着くところまで行ったようなクイズ企画です。事例内で掲示している↓下記の問題文のように、本来の問題文から”文字”をすべて消去して”記号”だけを残し、解答者はその記号を手掛かりにして問題文を類推する、という。酔狂が過ぎるだろうと。

「    、   、   、   ♂       、    『    』『       』                 ?」

(参照)


 事例4では、番組にゲストで呼ばれた伊沢氏がホストの関ジャニメンバーにこの0文字クイズを出題してみたところ、意外にもあっという間に正答されてしまった、というようなシーンです。
 これも再掲します。

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●事例4 (0文字クイズ)

※トーク番組のゲストであるクイズプレーヤー・伊沢拓司氏が、クイズに詳しくはない関ジャニ∞のメンバーに、超難問を例題として出題したもの。「0文字クイズ」では、クイズの問題文から文字を全部消して、記号だけを表示して答えさせる。
「問題 0文字クイズ」
「    、   、   、   ♂       、    『    』『       』           ?」
ゲスト「いや、ムリでしょこれ」
村上「これは常軌を逸してんねん」
大倉「あの記号だけや」
丸山「これは男性マークがたぶんあれですよね、ヒントですよね」
伊沢「まさにそう」
大倉「つんくさんって、あれ(♂)やったっけ?」
伊沢「おっ!? おっ!?」
大倉「つんくさん?」
伊沢「はい、そこはあってますよ、ということは?」
横山「モーニング娘。?」
村上「ちがう」
大倉「代表曲、あれ(『 』の部分)、曲名?」
伊沢「おっ!?」
大倉「……「に、代表される」…曲?」
安田「あの『 』でいったら、2曲入るってことやな」
村上「導き方はいいですよね」
(中略)
大倉「シャ乱Q?」
伊沢「正解!その通りです、すげえ!」
「たいせい、まこと、はたけ、つんく♂の4人からなる、代表曲に『ズルい女』『シングルベッド』があるロックバンドは何?」「答え シャ乱Q」
伊沢「すごいですね大倉さん、完璧です」
(「関ジャニ∞のジャニ勉強」(2021年4月8日放送))

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 特にクイズに長けているわけでもない(注:カタギ)関ジャニメンバーですから、視聴者からしてみればお茶の間のアバターみたいなもので、こんなのわかるわけないじゃん的サイドとしてふるまうであろう、はずだったのでしょうが、意外にも天才アスリートかのようなリテラシーの高さをもって、スムーズに正答してみせた、という場面でした。つまり、何らかの”導き出し方”というリテラシーさえあれば、カタギであろうが超難問であろうが、クイズに正答することはぜんぜん可能なんだ、ということを示しています。
 これも、面白みを生むギャップのひとつではないかと思います。できる人だけができる、できない人はできない、ということはありません。その気になれば、または場合によっては、できる時にはできる。それこそお茶の間で、大人たちにわからない問題を子供たちが簡単に正答してみせる、というような場面はいくらでもあるでしょう。
 それを構造的にエンタメとしてつくりあげたのが、子供でも得意分野なら99人の大人を相手に100万円の賞金を獲得できる、という「99人の壁」である、ということが言えそうです。

 なお蛇足ながら、正解を手元に握っている出題者と、その謎をふっかけられて正解を出すことに苦慮している回答者との関係性を考えれば、クイズというものが本質的にギャップから生じているということは、自明というよりもはや定義でしょうし、それを極限まで芝居がけて演出していたのが「クイズミリオネア」のみのもんたなんだろうなと思います。

 リテラシーの話題、もうちょっとだけ、次項2.1.3につづくんじゃ。

posted by egamiday3 at 16:35| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月07日

「海外の日本研究と日本図書館」に関する2021年7月の動向レビュー -- Japanese Digital Image Gateway、留学生が入国できない問題 他 ( #本棚の中のニッポン )

■デジタルアーカイブ

●NCC Japanese Digital Image Gateway
 日欧米の日本関連デジタルアーカイブ/コンテンツの、ディレクトリデータベース。英語ベースであることが肝。
・北米日本研究資料調整協議会(NCC)、日本・北米・欧州の諸機関が公開する日本関連デジタル画像のデータベース“NCC Japanese Digital Image Gateway”を正式公開 | カレントアウェアネス・ポータル
 https://current.ndl.go.jp/node/44436
・News - NCC News - LibGuides at North American Coordinating Council on Japanese Library Resources
 https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Announcing-NCCs-Japanese-Digital-Image-Gateway-DIG

●Nagasaki Atomic History and the Present (NAHP)
 長崎原爆関連のデジタルアーカイブ&ポータルサイトについて、概要だけでなく、プロジェクトの具体的なところに踏み込んだ報告がされていて、学ぶところ多い。
・「Japanese Studies Spotlight: Humanizing History: Creating Nagasaki Atomic History and the Present」
 https://guides.nccjapan.org/homepage/news/news/Japanese-Studies-Spotlight-Nagasaki-Atomic-History
 「Nagasaki Atomic History and the Present (NAHP) seeks to introduce students at American high schools, colleges, and universities to the human stories of living through a nuclear Holocaust from underneath the mushroom cloud. 」


●CDDP Award Program
 デジタルなツールやプロジェクトを紹介する動画を投稿して、賞金500ドル、というなかなかの企画、NCCで。
・「CDDP Award Program」
 https://guides.nccjapan.org/cddp/award-program?utm_source=soc&utm_medium=ref&utm_campaign=soc21
・NCC Japan (北米日本研究資料調整協議会) on Twitter: "We're excited to announce a new award through our Comprehensive Digitization & Discoverability Program! We want to… https://t.co/uVLTsFTLlA"
 https://mobile.twitter.com/NCCJapanInfo/status/1411070831476760576


■日本研究

●「日本研究の国際化とは何かを東アジアから考える」
・ワークショップ「日本研究の国際化とは何かを東アジアから考える―『東アジア文化講座』全4巻の刊行に寄せて」 – 早稲田大学 文学学術院 国際日本学
 https://www.waseda.jp/flas/gjs/news/2027
・録画公開あり
 https://www.youtube.com/watch?v=ftWbhmkuVVc
 https://www.youtube.com/watch?v=fJ6F25S9S4M
 https://www.youtube.com/watch?v=9gGSNgAqM2U
 https://www.youtube.com/watch?v=eRzL4JuUKvI
 https://www.youtube.com/watch?v=_UiLa-9SBP0
 https://www.youtube.com/watch?v=VObNq294hU8

●「「日本」をどう認識するか? 社会科学の視点から考える」
・大阪大学グローバル日本学教育研究拠点:国際シンポジウム「「日本」をどう認識するか?社会科学の視点から考える」
 http://www.let.osaka-u.ac.jp/ja/research/activities/ou_gjs-eri/20210731symposium_gjs-eri

●Theodore C. Bestor氏、逝去
・Theodore C. Bestor, 1951-2021 | Reischauer Institute of Japanese Studies
 https://rijs.fas.harvard.edu/news/theodore-c-bestor-1951-2021

●Job Market Data
・Japan- and East Asia-related Job Market Data Visualizations (2020-2021)
 http://prcurtis.com/projects/jobs2021/
「This page compiles information and visualizations on academic-oriented job postings related to East Asia and Japan for the 2020-2021 season (from June to June)」
・East Asia-related Job Market Data in Progress (2021-2022)
 http://prcurtis.com/projects/jobtable2022/

●Japanese Early Modern Palaeography
 ケンブリッジ大学のくずし字サマースクールがYouTubeチャンネルを開設とのこと。
・Japanese Early Modern Palaeography - YouTube
 https://m.youtube.com/user/chikucanada

●「英語の日本文学研究論文を読む会」
 第1回は2021年10月1日とのこと。
・Motoi Katsumata on Twitter: "「英語の日本文学研究論文を読む会」という会を始めます。 英語で書かれた日本文学研究論文を読んで、アカデミックな英語に慣れ、海外の研究方法を知ろう、という勉強会です。 話し合いは基本的に日本語で。英検2級の人がおいて行かれないレベル… https://t.co/MdsPY7TSm6"
 https://twitter.com/motoi_katsumata/status/1419524153401483272?s=12


■日本資料

●「Sisters from the shadows – Katsushika Ōi」
 British Library大塚さんによる記事。シリーズ予定のようです。
・Sisters from the shadows – Katsushika Ōi - Asian and African studies blog
https://blogs.bl.uk/asian-and-african/2021/07/sisters-from-the-shadows-katsushika-%C5%8Di.html
 「This is the first in an occasional series of blog posts which will highlight the work of Japanese women artists, whose achievements have often been overshadowed by their male contemporaries.」

●大英博物館・北斎展
 9月30日から、昨年新たに発見されたものを。
・‘Boundless invention’: British Museum to show more than 100 unseen Hokusai works | Art | The Guardian
 https://www.theguardian.com/artanddesign/2021/jul/20/boundless-invention-british-museum-to-show-more-than-100-unseen-hokusai-works

●「戦後京都の「色」はアメリカにあった! カラー写真が描く<オキュパイド・ジャパン>とその後」展
 京都文化博物館で、2021年7月24日〜9月20日。
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_shibun_post/sengokyotonoiro/
・オンライントーク企画あり。
 https://www.youtube.com/watch?v=wPzcv3p3LCs
 https://www.youtube.com/watch?v=A4A78MGjNRI



■コミュニティ

●NCC30周年記念事業へ向けて
・Feedback and Proposals for NCC's 30th Anniversary and 4-D Conference |
H-Japan | H-Net
 https://networks.h-net.org/node/20904/discussions/7939788/feedback-and-proposals-nccs-30th-anniversary-and-4-d-conference

●EAJRS2021年次大会@サンクトペテルブルク
 ハイブリッド開催で、9月15日〜18日。
 プログラムが公開されています。
・2021 EAJRS conference in Saint Petersburg | European Association of Japanese Resource Specialists
 https://www.eajrs.net/



■日本文化
●「An Introduction to Japanese Subcultures」
 日本のサブカルチャー入門、慶應義塾大学のMOOCS「FutureLearn」で公開。
・Introduction to Japanese Subculture - Online Course - FutureLearn
 https://www.futurelearn.com/courses/intro-to-japanese-subculture

●The Japanese Women directors Project
・The Japanese Women directors Project
 https://jwdp.site/
「The content curated here will feature a variety of voices and visions that showcase the works of women working in Japanese film industries.」

●李琴峰『彼岸花が咲く島』、芥川賞受賞
・芥川賞の李琴峰さん 「受賞の連絡、2回受信拒否した」:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASP7G7HQBP7GUCVL04B.html
「一作ごとに日本文学というものを確実にアップデートしてきたという自負はある。私は自分が大事だと思っている問題意識を小説に取り込んで、自分が書きたいものを書いていく」



■社会問題

●アジア系米国民の歴史、学校で教えることを義務化 イリノイ州 - BBCニュース
https://www.bbc.com/japanese/57830903

●”技能実習”問題
・「借金に基づく強制」と日本政府のやる気の欠如。米国務省の人身売買報告書は技能実習の何を問題視したか(望月優大) - 個人 - Yahoo!ニュース
 https://news.yahoo.co.jp/byline/mochizukihiroki/20210702-00246052
・(社説)技能実習は速やかに廃止を: 日本経済新聞
 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74163610V20C21A7PE8000/

●東京新聞7月5日に、ラムザイヤー論文問題特集
・"夜中で日付も変わったので、東京新聞7月5日の特報欄に掲載されたラムザイヤー論文問題についての記事、シェアします。右派を除く日本のメディアでなかなか記事になりづらかったテーマですが、もっと扱われていくと良いなと思います。 https://t.co/rUb1LAORKC"
 https://twitter.com/yamtom/status/1412064412479881216
 
●強制労働の説明不十分、ユネスコ 明治の産業革命遺産で決議案 | 共同通信
https://nordot.app/787318229109391360

●留学生が日本に入国できない問題
・「私の人生は止まったまま」「私たちは見捨てられた」: 日本に入国できない留学生2万7000人の悲痛な叫び | nippon.com
 https://www.nippon.com/ja/in-depth/d00725/
・As athletes arrive for the Tokyo Olympics, foreign students at Japan’s universities are left stranded | South China Morning Post
 https://www.scmp.com/week-asia/politics/article/3141712/athletes-arrive-tokyo-olympics-foreign-students-japans

●東京五輪にまつわる問題、海外からのまなざし

 枚挙にいとまがない…。

・「ちゃんと開催しようという努力が感じられない」海外メディアが東京五輪に“大憤慨”ワクチンは自己申告、書類は不備ばかり、取材体制は大学以下… | 文春オンライン
 https://bunshun.jp/articles/-/47166?utm_source=twitter.com&utm_medium=social&utm_campaign=socialLink
・Tokyo 2020 'axed opening ceremony musician for being black'
 https://www.telegraph.co.uk/news/2021/07/23/tokyo-2020-axed-opening-ceremony-musician-black/
・五輪開会式、出演消えたアフリカ人アーティスト 「人種が理由としか…」消えない疑問:朝日新聞GLOBE+
 https://globe.asahi.com/article/14401789
・Yes, Naomi Osaka is Japanese. And American. And Haitian
 https://theconversation.com/amp/yes-naomi-osaka-is-japanese-and-american-and-haitian-165011
・「MPCに礼拝室とハラールフードがない?」について、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会へ事実確認を行いました | Food Diversity.today
 https://fooddiversity.today/article_95626.html
・Japan's Olympic organizers lied about its weather, and now athletes are paying the price
 https://sports.yahoo.com/japan-lied-about-the-weather-and-now-olympians-are-paying-the-price-010612634.html
・ユダヤ人から見た小林賢太郎氏のホロコーストコント(JPN Editon) - Unseen Japan
 https://unseenjapan.com/kobayashi-scandal-jpn-edition/
「日本では、国内で制作され放送されているものが外には出ないという考えがまだ残っている。完全に単一の日本人の聴衆のために作られ…彼らが聴衆の一部であるかもしれないという事実は、めったに考慮されない」


posted by egamiday3 at 05:52| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年08月06日

2021年7月のまとめ


■2021年7月のまとめ

●総評
 在宅が解けるとデスクワークが捗るようになるという不思議(でもわかる)。
 いろいろ乗り越えた。


●7月のまとめ
・特論登壇。同じテーマの少しづつアップデート。
・ドラム式洗濯乾燥機があっという間にマスト家電として定着。「洗濯に使う時間帯のことを勘案せずに週末の行動を組めるというのは、こんなにも自由だったのか!!!!自由だ!!!!自由を我等に!!!!」
・鷹ヶ峰〜天神川
・「どう生きよう。こう生きよう。そのための図書館なんであって、その力があると信じてるのでいまここにいますね。公共図書館なんて特にそうだと思う、自分は公共図書館にはいませんが。」
・今日ももっとバンガロー。
・NIIオープンフォーラム登壇。「なんで私が“CiNii Researchと大学図書館”に?」
・寄席対面再開。不織布で講義して卒倒しそうになる。
・天神川〜北野天満宮
・衣笠山の方舟に乗る、第1回目。少しかゆみ。
・「もうすぐ終了するというCiNiiのArticlesについて」(egamiday 3)
 http://egamiday3.seesaa.net/article/482402223.html
・「もうすぐ終了するという「アタック25」について」(egamiday 3)
 http://egamiday3.seesaa.net/article/482402344.html
・「な、なんだってーっ。」
・思いつきで町歩きしていい気候ではなくなってきた。
・「アウトリーチの三様態」
・鉾立て
・父の菜園から野菜が届く
・「理念なんてものは鏡なんですよ」
・伏見クライシス
・『イデオロギーと図書館:日本の図書館再興を期して』
・イワシ缶とミニトマトとオリーブ
・「祇園祭を返せ」
・密避けのため、早朝の山鉾巡り@前祭。朝日の中の神々しい放下鉾と、おにぎり朝食。
・「「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として」(egamiday 3)を開始。
 http://egamiday3.seesaa.net/article/482582706.html
・考古学・文化財のためのデータサイエンス・サロンonlineワークショップ「文化財論文ナビ×博物館・図書館連携で拡げるオープンな文化財情報」。横断的に語り合うことの重要さ。
・For the moment / Every Little Thing
・つらい。
・生きよう。生きて、言葉を刻み込むことくらいなら、自分にもできる。時間差でもいい。
・四十肩の治療がオフィシャルに終了。たまにリハビリくらい。
・早朝の二条城まで歩き、暑い&帰りバス無い。
・川崎家住宅とグッチのノート。ていうかいやマジで川崎家住宅よ。
・極私的に「東京オリンピックはなかった」世界線に移行。
・早朝の山鉾巡り@後祭
・「戦後京都の「色」はアメリカにあった」展@文博。カラー写真の訴える力の強さよ。「佐藤先生の言う、在米写真を地域資料として里帰りさせることの意義大きさを、見て理解した感。」
・うっかり京都新聞デビューしてしまう。https://www.youtube.com/watch?v=k9TKEZ0tRyo
・還幸祭
・越境シンポジウム 第1回「文化施設の連携・融合を探る」。「ロールモデルの不在が気になる。何すれば何が得られて誰が得するのか、意識のアップデートができてない。」
・スパイスカレー2軒。マイルドに感じるのはなぜ。
・「日本研究の国際化とは何かを東アジアから考える」
・言葉というタイムマシンを信じることについて。
・また会う日までバンガロー。

●7月の進捗
 ・いろいろパブリッシュさせられた。パブリッシュ大事。
 ・祇園祭

●8月の取り組み
 ・某執筆
 ・某執筆
 ・あとはひたすら御身大事に

posted by egamiday3 at 12:51| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする