「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
【目次】index(目次&参考文献)
【前項】2.2 クイズで何がおこなわれているのか : 思考と行動
【次項】2.2.1.(続) 「リテラシーの地図」から問題を予測する
まずは、解答者はクイズにのぞんで何を考え何をおこなおうとしているか、についてです。
というより、本稿では最初っから「問題を予測する」と耳にたこができるくらい連呼していますが、なぜそんなことをするのか、そしてどうしてそんなことができるのか、についてです。
これはたぶん古今東西、世代を超えての”クイズ研あるある”だと思うのですが、自分がクイズ研究会やクイズサークルにいたことを(何かの拍子で、うっかり)カミングアウトすると、カタギの人からはまず必ずと言っていいほどこのような質問をされます。
「なんで問題の途中のあんな早いところでボタンを押して、答えがわかるの?
最後まで聞かないと何が聞かれている問題かわからなくない?」
例えば、
「日本で一番高い山は富士山ですが、」
「江戸幕府の初代将軍は徳川家康ですが、」
だけ聴いて、ボタンを押して答える、というようなこと。
2.2.1.は要するにこの話です。
つまりここでやろうとしているのは、単に個々のクイズ問題の正答を考えるというだけではなく、まだ出題されていない、あるいは完全には出題されきっていない問題そのものを考える、ということになります。またここでやろうとしているのは、運とカンとに頼ってなんとなくヤマをはろうというギャンブルではなく、ある程度の根拠と理屈にもとづくことによって、少しでも精度の高くなるような予測をしようというものです。(なので、「予想」ではなく「予測」としています。)
クイズの解答者は、出場するよりもずっと前の日々の準備・勉強の予習段階から、実際の壇上に立って問題が読まれ始め、ボタンを押すぎりぎり直前まで、いや、シンキングタイム含めて回答を口から発する瞬間まで、どんな問題がこれから出るのか(あるいは未完の問題文の全体像は何だったのか)を「予測」(または推測)しようとしています。つまりクイズにおけるタイムライン上のほとんどの時間を、この「予測する」という脳内作業に費やしている、と言っていいかもしれない。
↓その様子がわかりやすく描かれている動画が、こちら。
(「クイズ王は問題が読まれている間、何を考えているのか?」. QuizKnock. 2021年9月25日公開. https://www.youtube.com/watch?v=e-jKLNxYb8Y)
この動画では、予習段階ではなく出題時瞬間の様子のみが描かれています。ネタっぽくコントっぽく仕上がっているように見えますが、ファンタジーというわけでもなくおおむねこんな感じですね。
●なぜ事前に問題を予測する必要があるのか?
なぜ、事前に(つまり出場前、出題前、問題出題が完了する前に)、待ちきれないかのようにせっかちに問題を「予測」しようとするのか。最後まで聞いてから答えたらいいんじゃないのか。
問題を予測する目的は、主に以下の3つです。
(1) 効率的に予習して正解率を上げるため
(2) 他のプレーヤーよりも早く解答する/解答権を得るため
(3) 問題として提示される情報が少なくても、その問題と正答を推測することで、正解率を上げるため
(1)「効率的に予習して正解率を上げるため」は、時系列で言えば出場前の準備・予習の段階です。そして、本稿の「ジャンル「図書館」の問題予想」実践もここにあたります。
予習段階での問題予測であれば、まあ受験勉強・試験勉強でやってることと同じ話ですから、イメージできる方も多いと思います。が、問題は、クイズの出題には出題範囲/試験範囲が存在しない、ということです。受験であれば教科書のような明確な規範があり、どのようなリテラシーの有無を問うかの方針があって、逸脱するといってもまあ無茶な出題はまれでしょう、それやったら試験・考査にならない(トンデモ入試問題として揶揄される様をたまに見かけます)。ですがクイズにとりあげられる知識・情報の範囲には基本的に設定はなく、事前に知らされることもない。クイズとしてそれなりに成立してれば基本なんでもありなので、どこまで勉強しておけば準備として事足りる、というような範囲などという概念がそもそもありません。
かといって森羅万象を100%丸暗記できるわけでもない。いくら「ジャンルが図書館に限られている」からといって、何でもかんでも手当たり次第に対策することは無理です。限られた時間とコストで効率よく予習しようとするのであれば、「どんな問題がクイズとして出そうか」「クイズになりそうか」「クイズとして成立し得るか否か」と事前に予測する。2.1.4の図5「いい塩梅で逸脱する」の例で言えば、アメリカや台湾で一番高い山は覚えようとするが、キルギス他のなじみの薄い国までには時間をかけない、ということです。
これは、出題範囲がある程度限られる受験勉強・試験勉強のそれよりも切実かつ必要不可欠な”準備作業”であり、なんなら暗記力や知識量よりもよっぽどそのセンスが問われる、と言っていいかもしれない。
(2)「他のプレーヤーよりも早く解答する/解答権を得るため」と(3)「問題として提示される情報が少なくても、その問題と正答を推測することで、正解率を上げるため」が、まさに本番での出題中、特に早押しクイズの類で問題が読まれている途中なのにボタンを押す、という段階の話です。
試験とクイズとの間には決定的なちがいがいくつかありますが、そのひとつが「解答する権利が誰にでも等しくあるわけではない」というものです。
いわゆる早押しクイズが顕著で、複数の解答者にむかってクイズ問題が1問出題されたとき、解答する権利が与えられるのがたった1人。しかも、なぜかもっとも早くボタンを押した人という、「スピード」に価値が置かれ評価されるという、試験ではあり得ないある種理不尽な世界であるわけです。理不尽ではあるもののそれがルールである以上、解答権を得るためには、出題中であろうが問題が完了していなかろうが早く押さなければならない。なによりもまず解答権、解答権を得ることが一番大事、これが得られなければどれだけ知識量が多かろうがどれだけカンが働こうが、どれだけオセロや陣取りゲームに強かろうが、何の意味もない。
とは言え、早く押せば押すほど、提示される問題文は短くなり、正答を導き出すための手掛かりは少なくなります。解答権を得たところで、正解を解答できなければやっぱり意味がありません。つまり、出題が未完であり、提示される情報が少ないという条件のもとで、「この問題は何を出題しようとしているのだろう」という「予測」を瞬時におこなう。「解答権をいち早く得る」ことと「正解率を上げる」ことという、正反対に逃げる二兎を追わなければならない。それをゲームとしてやろうとしているのが早押しクイズである、というわけです。
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「早押しクイズは正解にたどりつく以前に解答権を奪い合う競技だ」
「解答権を奪うためにはどうしたらいいだろうか。答えは単純である。ボタンを確定ポイントよりも前に、つまり、答えがわかる前に押せばいい。」
(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.6, p.95-103.)
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クイズに出題範囲がなく、森羅万象すべてを丸暗記するような芸当が不可能である以上、運を天に任せることなく何かしらの事前準備をしようとすれば、多かれ少なかれこれら(1)(2)(3)をやらざるを得ません。ですので、解答者(プレイヤー)はクイズについて「予測する」ということを常におこなおうとします。
●問題文(未完)から問題(全体像)を予測する
では、どのように「予測」すればよいのか。ていうか、そんなことが本当にできるのか。
クイズの解答者は、大きく分けて以下の2つのアプローチで問題を予測することができます。
(1) 問題文自体からの予測
(2) 問題文以外の要素からの予測 ("メタ読み")
このうち(1)「問題文自体からの予測」がおこなわれる代表的な場面が、早押しクイズで問題文がまだ途中なのにボタンを押し、その後の問題文を予測して正答を導き出す、というものです。「日本で一番高い山は富士山ですが、」「江戸幕府の初代将軍は徳川家康ですが、」のような、(1)の(未完の)問題文自体から(完全体を)予測する、などという、およそ早押しクイズを好き好む人種にしか有用性のなさそうな、あまりにニッチすぎるテクニックの類ですね。
これについては、筆者世代において「長門本」と呼び慣わされ読み込まれた書籍『クイズは想像力』(長戸勇人. 『クイズは創造力〈理論編〉』. 情報センター出版局, 1990.)が、その考え方についてまとまった言語化をした文献として知られています。また、マンガ『ナナマルサンバツ』では第1巻、かなり初期のほうでそのカラクリが説明されている(後述)ことから、このテクニックがクイズ関係者の間でも初歩的・基礎的なレベルで、かつ言語化&伝授しやすい種類のものである、ということがなんとなくわかります。
これらの文献でほぼ言い尽くされている感があるので、本稿で長々とは繰り返しません。ただ、後述する「(2)問題文以外の要素からの予測」との違いを明確にするならば、(1)「問題文自体からの予測」は主に”国語力”の問題であるということが言えるでしょう。
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「京都の三大祭り、五月の葵祭、し」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第1話.)
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「並行(パラレル)問題ってのは前振りに出てきたヒントとなる単語を後半で変化させて「関連した別のモノ」を問う問題形式だが、問題を読み上げる側がヒントとなるその単語をあえて強調して読むことがある」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第5話.)
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つまり、読み手が「”日本”で一番高い山は富士山ですが、」と”日本”を強調して読めば、「では”世界”で」「”アメリカ”で」と続くことが予想されるし、「江戸幕府の”初代”将軍は徳川家康ですが、」と”初代”を強調して読めば、答えが「秀忠」や「慶喜」になるのではという察しがつく、という
で、このテクニックが病膏肓に入り出すと、こういう問題文から正答を導き出すことが可能になってしまいます。
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(QuizKnockのメンバーが早押しクイズをやっている動画を、伊沢が視聴しながら解説している。
画面内のメンバー(こうちゃん)が、問題文「751年/」と読まれた時点でボタンを押す。)
伊沢「「751年」で押すのはこわいですね。751年はいろいろあります、タラス河畔の戦いもあるし、あとカロリング朝の創設がありますね。一応「懐風藻(の成立)」もあるんだけど、日本初の勅撰漢詩集。でも「懐風藻」の場合は、「751年、」で(問題文を)止めないんで。」
(中略)
(実際の問題文は「751年に成立した、現存する日本最古の漢詩集は何? 懐風藻」)
ふくらP「これね、「(751年)、(点)」じゃなくて、ほんとは「(751年)に」って続いてるのを、こうちゃんが早く押しすぎ」
伊沢「ああなるほど。そう、「懐風藻」(が正答になるような問題文)の場合は、「751年、(点)」とはならないですね。「(751年、)日本初の勅撰漢詩集としてつくられた…」ってなると、文章が変になるので。」
ふくらP「「751年に」って必ずなる。」
伊沢「そうですね、「751年に」だった場合は(正答は)「懐風藻」の可能性が非常に高いですね。」
(「動画内のクイズ王vs画面外のクイズ王」. QuizKnock. 2019年7月19日公開. YouTube https://www.youtube.com/watch?v=W30ZE_82rQs)
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国語力と知識・情報のデータベースがあれば、最小限の情報にもとづいて、出題と正答が予測できる、という。
以上が、「(1)問題文自体からの予測」についてです。
なお、本稿は「(2)問題文以外の要素からの予測」のほうが本丸ですので、記事をあらためます。
※なお、日本初の勅撰漢詩集は「凌雲集」です。
2.2 クイズで何がおこなわれているのか : 思考と行動 (「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として)
【目次】
「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
index(目次&参考文献)
0. 序論
1. 図書館にとってアウトリーチは本質的な概念である
2. クイズでは何がおこなわれ、何が求められているか
2.1 クイズとは何をやっている営みなのか
2.2 クイズで何がおこなわれているのか : 思考と行動
2.2.1. 解答者は問題を予測し、正答を推理しようとする
2.1において、そもそも「クイズ」とは何をやっている営みなのか、について考えました。クイズは観客のためのエンターテイメントであり(2.1.1)、リテラシーのギャップを素材としている(2.1.2)。その前提として、社会には共有されるリテラシーの範囲があり(2.1.3)、しかもその範囲をいい塩梅で逸脱するところに娯楽性がある(2.1.5)。クイズとはどうやらそういうものであるらしい、と。
そのことをふまえたうえで、この2.2では、解答者(プレイヤー)、出題者・制作者、そして視聴者(鑑賞者・お茶の間)はそれぞれクイズにのぞんで何を求め、何を考え、何をおこなっているのかを考察します。クイズにおける、それぞれの立場での思考と行動についての考察です。
-----------------------------------------------------
「ルールを考えて問題を作る人がいて出題者と解答者がいる」
「観てる人さえ巻き込んでひとつになって問題を追いかける」
「僕にとってクイズは世界を広げて人を繋げてくれる 自分を豊かにしてくれる最高のコミュニケーションのツールです」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第111話.)
-----------------------------------------------------
マンガ「ナナマルサンバツ」の主人公・越山識は、クイズを取り巻くさまざまな立場の関係性を、↑このように詩的かつ青春っぽく表現してくれましたが、そこまで詩的にならなくとも、「クイズ」(ここまで見てきたようなもの)は一人では成立せず、複数の異なる立場があって成り立つものだ、というのはわかるんじゃないかと思います。
本稿の最初のほうで出した図1を再掲します。

解答者とは、クイズを出題されてそれに解答しようとする人、解答することが求められている人、解答することが認められている人、を指します。多くの場合で複数人から成り、出題内容や正答は事前に知らされておらず、正答して他の解答者よりも良い成績を得ようとしています。「答えたい」し、「勝ちたい」人です。
出題者ですが、ここで言う「出題者」は「クイズの問題を作成する者」を意味しています。アナウンサーやナレーターのように、クイズの現場で物理的に声を出して問題を読み上げたり(昨今では「問い読み」と称される)、画面に出題画像や動画を投影したりする立場のことではないです。かつ、制作者はもう少し大きく「番組やその内容を制作・企画する人」です。出題者・問題作成者と密接ではありますが、まったく同じことを考えたりおこなったりしているわけでは、おそらくない。
視聴者は、観客であり鑑賞者であるお茶の間の人々です。解答者や問題・番組はこの人たちの鑑賞の対象となっており、出題者・制作者はそのことを強く意識していると思われます。
解答者と出題者・制作者は、それぞれ別の立場からながら、クイズ(特にテレビのクイズ番組)においては具体的に何かしらの行動を起こしているし、その行動のもとになる思考があるわけです。つまり、「クイズにおいて何がおこなわれているのか」、そのとき「解答者は、そして出題者・制作者はそれぞれ何を考えているのか」、という問いです。
一方で鑑賞者は、鑑賞中に目に見えて具体的な行動を何か起こしているというほどのことはありませんが、それでも何かを求めたり何かを期待して、他人同士がクイズを出題したり解答したりする様子をわざわざ好き好んで観ようとしているわけです。つまり「クイズに求められているものは何か」、という問いです。
なぜ「クイズで何がおこなわれているのか」「そのとき何を考えているのか」そして「クイズに求められているものは何か」を、わざわざ考察しようとしているのかというと、「出題者・制作者が何を考えているか」がわかれば「どのような問題が出題され、何が正答となるかが予測できる」と考えるからです。
繰り返しになりますが、本稿で筆者は解答者(プレイヤー)の立場から「ジャンル「図書館」で出題される問題を予想する」ことを実践しようとしています。であれば、解答者は「予想」などということをどのようにすればできるのか、をまず明確にしておきたい、これが2.2.1です。かつ、「予想」するためには出題者・企画者が何を考えているかを理解する必要がある、これが2.2.2です。
2.1.1ですでに確認したように、本稿で言うクイズは”観客”のエンターテイメントのためにあります。であれば、出題者・企画者は、「学習の到達度をはかる」ためでも「優秀者を選別して採用する」ためでもなく、「お茶の間を楽しませる娯楽を提供する」ために出題するわけで、どのような問題が出題されるかもそれに左右されます。
そして、出題者・企画者の意図が「お茶の間を楽しませる娯楽を提供する」ところにある以上、そのお茶の間がクイズに何を求めているのかを理解しなければならない、これが2.2.3です。この問いは2.1.4クイズの娯楽性の所在である程度触れてはいるのですが、さらに具体的かつテレビのクイズ番組という条件に即したかたちで、かつ実際に問題を予想するのに役立つレベルで考察しようとするものです。
そしてその2.2.3のお茶の間が何を求めているかを考察する、ということこそが、本稿のもうひとつの目的である「図書館のアウトリーチと、クイズとの関係を考察する」につながります。
「つながります」って言ってますが、本当につながるんだろうか。
書き上げてみるまで自分でも若干不安ではありますが、ここまで来たんだし、まあ、やってみます。
「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
index(目次&参考文献)
0. 序論
1. 図書館にとってアウトリーチは本質的な概念である
2. クイズでは何がおこなわれ、何が求められているか
2.1 クイズとは何をやっている営みなのか
2.2 クイズで何がおこなわれているのか : 思考と行動
2.2.1. 解答者は問題を予測し、正答を推理しようとする
2.1において、そもそも「クイズ」とは何をやっている営みなのか、について考えました。クイズは観客のためのエンターテイメントであり(2.1.1)、リテラシーのギャップを素材としている(2.1.2)。その前提として、社会には共有されるリテラシーの範囲があり(2.1.3)、しかもその範囲をいい塩梅で逸脱するところに娯楽性がある(2.1.5)。クイズとはどうやらそういうものであるらしい、と。
そのことをふまえたうえで、この2.2では、解答者(プレイヤー)、出題者・制作者、そして視聴者(鑑賞者・お茶の間)はそれぞれクイズにのぞんで何を求め、何を考え、何をおこなっているのかを考察します。クイズにおける、それぞれの立場での思考と行動についての考察です。
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「ルールを考えて問題を作る人がいて出題者と解答者がいる」
「観てる人さえ巻き込んでひとつになって問題を追いかける」
「僕にとってクイズは世界を広げて人を繋げてくれる 自分を豊かにしてくれる最高のコミュニケーションのツールです」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第111話.)
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マンガ「ナナマルサンバツ」の主人公・越山識は、クイズを取り巻くさまざまな立場の関係性を、↑このように詩的かつ青春っぽく表現してくれましたが、そこまで詩的にならなくとも、「クイズ」(ここまで見てきたようなもの)は一人では成立せず、複数の異なる立場があって成り立つものだ、というのはわかるんじゃないかと思います。
本稿の最初のほうで出した図1を再掲します。
解答者とは、クイズを出題されてそれに解答しようとする人、解答することが求められている人、解答することが認められている人、を指します。多くの場合で複数人から成り、出題内容や正答は事前に知らされておらず、正答して他の解答者よりも良い成績を得ようとしています。「答えたい」し、「勝ちたい」人です。
出題者ですが、ここで言う「出題者」は「クイズの問題を作成する者」を意味しています。アナウンサーやナレーターのように、クイズの現場で物理的に声を出して問題を読み上げたり(昨今では「問い読み」と称される)、画面に出題画像や動画を投影したりする立場のことではないです。かつ、制作者はもう少し大きく「番組やその内容を制作・企画する人」です。出題者・問題作成者と密接ではありますが、まったく同じことを考えたりおこなったりしているわけでは、おそらくない。
視聴者は、観客であり鑑賞者であるお茶の間の人々です。解答者や問題・番組はこの人たちの鑑賞の対象となっており、出題者・制作者はそのことを強く意識していると思われます。
解答者と出題者・制作者は、それぞれ別の立場からながら、クイズ(特にテレビのクイズ番組)においては具体的に何かしらの行動を起こしているし、その行動のもとになる思考があるわけです。つまり、「クイズにおいて何がおこなわれているのか」、そのとき「解答者は、そして出題者・制作者はそれぞれ何を考えているのか」、という問いです。
一方で鑑賞者は、鑑賞中に目に見えて具体的な行動を何か起こしているというほどのことはありませんが、それでも何かを求めたり何かを期待して、他人同士がクイズを出題したり解答したりする様子をわざわざ好き好んで観ようとしているわけです。つまり「クイズに求められているものは何か」、という問いです。
なぜ「クイズで何がおこなわれているのか」「そのとき何を考えているのか」そして「クイズに求められているものは何か」を、わざわざ考察しようとしているのかというと、「出題者・制作者が何を考えているか」がわかれば「どのような問題が出題され、何が正答となるかが予測できる」と考えるからです。
繰り返しになりますが、本稿で筆者は解答者(プレイヤー)の立場から「ジャンル「図書館」で出題される問題を予想する」ことを実践しようとしています。であれば、解答者は「予想」などということをどのようにすればできるのか、をまず明確にしておきたい、これが2.2.1です。かつ、「予想」するためには出題者・企画者が何を考えているかを理解する必要がある、これが2.2.2です。
2.1.1ですでに確認したように、本稿で言うクイズは”観客”のエンターテイメントのためにあります。であれば、出題者・企画者は、「学習の到達度をはかる」ためでも「優秀者を選別して採用する」ためでもなく、「お茶の間を楽しませる娯楽を提供する」ために出題するわけで、どのような問題が出題されるかもそれに左右されます。
そして、出題者・企画者の意図が「お茶の間を楽しませる娯楽を提供する」ところにある以上、そのお茶の間がクイズに何を求めているのかを理解しなければならない、これが2.2.3です。この問いは2.1.4クイズの娯楽性の所在である程度触れてはいるのですが、さらに具体的かつテレビのクイズ番組という条件に即したかたちで、かつ実際に問題を予想するのに役立つレベルで考察しようとするものです。
そしてその2.2.3のお茶の間が何を求めているかを考察する、ということこそが、本稿のもうひとつの目的である「図書館のアウトリーチと、クイズとの関係を考察する」につながります。
「つながります」って言ってますが、本当につながるんだろうか。
書き上げてみるまで自分でも若干不安ではありますが、ここまで来たんだし、まあ、やってみます。
2021年10月06日
2021年9月のまとめ
■2021年9月のまとめ
●総評
ほぼEAJRSと在宅勤務に終始。
終盤、本気出し始めた。理由は、そうしないとそろそろヤバいから。
●9月のまとめ
・終わらない在宅勤務
・KYからの神回避クライシス
・ビデオテープが擦り切れるかのように朝二条城歩き
・Code4Lib Japan。驚きの多様性(雪道運転など)
・「鼎談『ビジョン2021-2025 国立国会図書館のデジタルシフト』からライブラリーの未来を考える」
・EAJRSパネル事前打ち合わせ、かなり盛り上がるの巻。
・EAJRS2021@サンクトペテルブルグ(ハイブリッド)
・「#EAJRS 午前の発表が終わって昼休憩に入ったけど、ほんとはここからの時間が本番なんよな…」
・「国文研「オンライン画像を使った研究と図書館での研究」は、デジタルヒューマニティーズに対する図書館の役割を、従来型のそれと見せつつ現在に通じる普遍性、みたいなことを(勝手ながら)考えさせられて、良かったです。 」
・「司書が、研究者でも教師でも政治家や企業家でもないのに、形骸化してるだのAI化できるだの揶揄されながらも、社会の一角で何かを支えようとするなら、いま求められることと長く求められること、広い眼と深い目、人と資料と社会とを、柔軟に目配せできる度量を持ってなきゃな、という感じでどうですか。」
・EAJRSワークショップ、オンラインは難しいの巻。
・EAJRSパネル本番、時間全然足りない系の成功裡に終わるの巻。
・三田図書館・情報学会第186回月例会「『これからの学術情報システム構築検討委員会』におけるこれまでの議論と今後の展望」
・EAJRS総会からのエンディング。早く会いたいね。
・「2021年EAJRS年次大会のまとめメモ」(egamiday 3)
http://egamiday3.seesaa.net/article/483599484.html
・NHK「私の欠片(かけら)と、東京の断片」
・NHK「ふたり/コクリコ坂」(宮崎駿と吾郎)
・美しいしあっという間の謎解き
・永遠に続くかのような在宅勤務
・秋期寄席(オンライン・オンデマンド版)が早くも開始。
・今日から本気出す(再本気)。
・99人の壁レギュラー終了。アタック25終了。
・ゆる町家モーニング
・本とお干菓子を買いに
・第2回越境シンポ。ポータルとしての図書館(よく考えりゃ当たり前)
・『著作権は文化を発展させるのか: 人権と文化コモンズ』
・『批評の教室』
・さらに終わらない在宅勤務
●9月の進捗
・EAJRSオンライン → 無事成功。
・web寄席対応 → 無事順調。
・引き続き御身大事に → これも成功。
なんだかんだ、結構ちゃんとやってたんだね。
●10月の取り組み
・引き続き再本気出す
・寄席アップデート
・QoLを上げる
・11月先取り: チャプターレベル対応
●総評
ほぼEAJRSと在宅勤務に終始。
終盤、本気出し始めた。理由は、そうしないとそろそろヤバいから。
●9月のまとめ
・終わらない在宅勤務
・KYからの神回避クライシス
・ビデオテープが擦り切れるかのように朝二条城歩き
・Code4Lib Japan。驚きの多様性(雪道運転など)
・「鼎談『ビジョン2021-2025 国立国会図書館のデジタルシフト』からライブラリーの未来を考える」
・EAJRSパネル事前打ち合わせ、かなり盛り上がるの巻。
・EAJRS2021@サンクトペテルブルグ(ハイブリッド)
・「#EAJRS 午前の発表が終わって昼休憩に入ったけど、ほんとはここからの時間が本番なんよな…」
・「国文研「オンライン画像を使った研究と図書館での研究」は、デジタルヒューマニティーズに対する図書館の役割を、従来型のそれと見せつつ現在に通じる普遍性、みたいなことを(勝手ながら)考えさせられて、良かったです。 」
・「司書が、研究者でも教師でも政治家や企業家でもないのに、形骸化してるだのAI化できるだの揶揄されながらも、社会の一角で何かを支えようとするなら、いま求められることと長く求められること、広い眼と深い目、人と資料と社会とを、柔軟に目配せできる度量を持ってなきゃな、という感じでどうですか。」
・EAJRSワークショップ、オンラインは難しいの巻。
・EAJRSパネル本番、時間全然足りない系の成功裡に終わるの巻。
・三田図書館・情報学会第186回月例会「『これからの学術情報システム構築検討委員会』におけるこれまでの議論と今後の展望」
・EAJRS総会からのエンディング。早く会いたいね。
・「2021年EAJRS年次大会のまとめメモ」(egamiday 3)
http://egamiday3.seesaa.net/article/483599484.html
・NHK「私の欠片(かけら)と、東京の断片」
・NHK「ふたり/コクリコ坂」(宮崎駿と吾郎)
・美しいしあっという間の謎解き
・永遠に続くかのような在宅勤務
・秋期寄席(オンライン・オンデマンド版)が早くも開始。
・今日から本気出す(再本気)。
・99人の壁レギュラー終了。アタック25終了。
・ゆる町家モーニング
・本とお干菓子を買いに
・第2回越境シンポ。ポータルとしての図書館(よく考えりゃ当たり前)
・『著作権は文化を発展させるのか: 人権と文化コモンズ』
・『批評の教室』
・さらに終わらない在宅勤務
●9月の進捗
・EAJRSオンライン → 無事成功。
・web寄席対応 → 無事順調。
・引き続き御身大事に → これも成功。
なんだかんだ、結構ちゃんとやってたんだね。
●10月の取り組み
・引き続き再本気出す
・寄席アップデート
・QoLを上げる
・11月先取り: チャプターレベル対応
「海外の日本研究と日本図書館」に関する2021年9月の動向レビュー -- EAJRS年次大会、日系アメリカ人資料 他 ( #本棚の中のニッポン )
■EAJRS
・2021年EAJRS年次大会のまとめメモ: egamiday 3
http://egamiday3.seesaa.net/article/483599484.html
■日本資料/デジタルアーカイブ
●コロラド大学ボルダー校 日系アメリカ人コミュニティ歴史プロジェクト
・CU Japanese and Japanese American Community History Project
https://outreach.colorado.edu/program/cu-japanese-and-japanese-american-community-history-project/
・Japanese history project strengthens archival record | University Libraries | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/libraries/2021/08/27/japanese-history-project-strengthens-archival-record
「A community partnership with the Sakura Foundation helped library facilitators Friedel and Adam Lisbon, Japanese & Korean studies librarian, early in the process, which was instrumental to the project’s evolution. 」
●「Densho」
第2次世界大戦中の日系アメリカ人強制収容に関する資料等のサイト
・Main - Densho: Japanese American Incarceration and Japanese Internment
https://densho.org/
「Densho is a Japanese term meaning “to pass on to the next generation,” or to leave a legacy. The legacy we offer is an American story with ongoing relevance: during World War II, the United States government incarcerated innocent people solely because of their ancestry.」
●早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)、開館(10/1)
・早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)
https://www.waseda.jp/culture/wihl/
●『初級日本語 とびら T』電子書籍版をリリース(くろしお出版)
https://tobirabeginning.9640.jp/1098/
■日本研究
●「和本」は韓国で通用するか?: 染谷智幸研究室
http://sometomo.seesaa.net/article/483547251.html
「日本で古典と言った場合、古文と漢文を分けて考えますね。これが良くありません。これは、和本を特別なものとして他の東アジアの諸本から切り離したり、崩し字と漢字の五体を別物として分けて考えるようなものです」
「世界でも日本への興味は、東アジアの中の日本の興味であって、日本単独のものというのは少ないように思います。逆に言えば、日本が世界にその存在をアピールするなら、この「東アジアの日本」を、分かりやすく魅力的に描き出すことが大事です」
■コミュニティ
●EAJRS&国文研のくずし字ワークショップwebサイト
・NIJL/EAJRS Kuzushiji workshop | European Association of Japanese Resource Specialists
https://www.eajrs.net/kuzushiji/nijleajrs-kuzushiji-workshop
●JapanKnowledgeワークショップ
・Registration - JapanKnowledge Workshop Series 2021 - Research Guides at University of Hawaii at Manoa
https://guides.library.manoa.hawaii.edu/JKworkshop
●Interview with Dr. Kristina Troost, Japanese Studies Librarian, Duke University (1990-2020) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PTxYZrZ9YDo
・2021年EAJRS年次大会のまとめメモ: egamiday 3
http://egamiday3.seesaa.net/article/483599484.html
■日本資料/デジタルアーカイブ
●コロラド大学ボルダー校 日系アメリカ人コミュニティ歴史プロジェクト
・CU Japanese and Japanese American Community History Project
https://outreach.colorado.edu/program/cu-japanese-and-japanese-american-community-history-project/
・Japanese history project strengthens archival record | University Libraries | University of Colorado Boulder
https://www.colorado.edu/libraries/2021/08/27/japanese-history-project-strengthens-archival-record
「A community partnership with the Sakura Foundation helped library facilitators Friedel and Adam Lisbon, Japanese & Korean studies librarian, early in the process, which was instrumental to the project’s evolution. 」
●「Densho」
第2次世界大戦中の日系アメリカ人強制収容に関する資料等のサイト
・Main - Densho: Japanese American Incarceration and Japanese Internment
https://densho.org/
「Densho is a Japanese term meaning “to pass on to the next generation,” or to leave a legacy. The legacy we offer is an American story with ongoing relevance: during World War II, the United States government incarcerated innocent people solely because of their ancestry.」
●早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)、開館(10/1)
・早稲田大学 国際文学館(村上春樹ライブラリー)
https://www.waseda.jp/culture/wihl/
●『初級日本語 とびら T』電子書籍版をリリース(くろしお出版)
https://tobirabeginning.9640.jp/1098/
■日本研究
●「和本」は韓国で通用するか?: 染谷智幸研究室
http://sometomo.seesaa.net/article/483547251.html
「日本で古典と言った場合、古文と漢文を分けて考えますね。これが良くありません。これは、和本を特別なものとして他の東アジアの諸本から切り離したり、崩し字と漢字の五体を別物として分けて考えるようなものです」
「世界でも日本への興味は、東アジアの中の日本の興味であって、日本単独のものというのは少ないように思います。逆に言えば、日本が世界にその存在をアピールするなら、この「東アジアの日本」を、分かりやすく魅力的に描き出すことが大事です」
■コミュニティ
●EAJRS&国文研のくずし字ワークショップwebサイト
・NIJL/EAJRS Kuzushiji workshop | European Association of Japanese Resource Specialists
https://www.eajrs.net/kuzushiji/nijleajrs-kuzushiji-workshop
●JapanKnowledgeワークショップ
・Registration - JapanKnowledge Workshop Series 2021 - Research Guides at University of Hawaii at Manoa
https://guides.library.manoa.hawaii.edu/JKworkshop
●Interview with Dr. Kristina Troost, Japanese Studies Librarian, Duke University (1990-2020) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=PTxYZrZ9YDo