「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
【目次】index(目次&参考文献)
【前項】2.2.1.(続) 「リテラシーの地図」から問題を予測する
さて、解答者が事前に出題を予測しようとする。そのために、問題文の構造や日本語文法を分析しようとしたり、時事的情報や不文律のリテラシー・ランキングを把握しようとしたり、企画意図やターゲットとなる視聴者層まで読み取ろうとしたり、というようなことを踏まえていくと、クイズの解答者が本当に対峙している“真の対戦相手”は、他の解答者というよりも出題者・制作者のほうなんだろうな、というのがだんだんわかってきてもらえるのではないかと思います。
であれば、「出題者・制作者が何を考えているか」を理解するために、解答者が出題者目線を身につけようとする、というのもごく自然なうなずける話だな、というのもわかっていただけるのではないか、と。
余談から入りますが、再び、自分がクイズ研究会やクイズサークルにいたことを(何かの拍子で、うっかり)カミングアウトすると、カタギの人からはこのような質問もいただくことがよくあります。
「じゃあクイズで得た知識が、入試とか資格試験とか就職試験とかで役に立ったりもするんでしょう?」
これは、半分あたりで半分的外れかな、と思います。クイズで得た知識そのものが試験の類でそのまま役に立つ、ということはほぼありません。むしろ役立つのは、クイズをやっている過程で身についた“出題者目線”のほうじゃないかなと思います。何か試験的なものを受ける必要があるというときに、テキスト的なものを見ると、この情報は正誤問題で出そう、これは用語を問われそう、とか。逆にこれは丸暗記するコストをかける必要はない、とか。過去問の傾向と試験の目的から考えれば、このあたりは論述として背景を理解しているかを問われそうだし、この知識は取りこぼすとリスクにつながる重要なことだから繰り返し問われるはず、等。
つまり、相手がどういう範囲のリテラシーをどのように共有することを求めているか、を問うのが世の様々な“試験”である、というのであれば、その見積りを相手と同様に理解しようとするのが“出題者目線”を身につけるということじゃないかと。
クイズ研究会の類の人たちはふだんたくさんクイズを解いているだけか、とカタギの人には思われがちですが、むしろ自分たちでクイズ問題を作る”作問”活動をするほうも同じくらい重要だったりします。それは、受験参考書と違ってクイズ問題は自作しなければどこからも得られないし、仲間内でクイズを競技する際には誰かが出題役・企画役を担わなければならない(「ギブアンドテイク」(殴り合いが好き!?伊沢拓司を虜にする“アマチュア”クイズとは? https://quizknock.com/izawa-interview-quiz-1)、という事情がひとつ。
もうひとつには、自分で作問する鍛錬を重ねていくことで、「どんな問題がクイズとして出そうか」「クイズになりそうか」「クイズとして成立し得るか否か」を事前に対策することに直結するため、でもあります。良い取材と良い作問ができれば、おのずと良い正答を出せるようになる、と。
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「出題する側だって考えて考えてこだわりや意図を持ってクイズを作っているんだ」
「それを読み解くことができたら…」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第20話.)
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「作問が得意になると解答する時も問題構造や問題文の一字一句から答えを推測するのが息をするようにできてくるんだ」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第71話.)
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「越山くんにとってクイズは…単なる文章でも情報でもない 「作品」なんだ」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第73話.)
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「古畑任三郎」で“クイズ王”役の唐沢寿明が犯人になる回がありましたが、あのドラマ内のクイズ番組がなかなかエキセントリックな形式で、出場者がその場で即興で対戦相手に出題する、相手はそれに解答する、というものでしたね。問題・正答の“裏取り”ができないのでかなり現実離れはしていましたが、まああれくらい自然に問題作成ができるくらいには、出題者目線というのは必要なんだと思います。(その出題者目線でめざとく拾った情報のせいで、唐沢寿明はお縄になっちゃったわけですが。)
その出題者目線が解答者として正答を導くプロセスにどのように寄与しているか、わかりやすい事例が、やはり東大王から。
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●事例(東大王・走れメロス)
問題テロップ「15秒で文学作品を読み 問いにお答え下さい」
ナレ「これからお見せする文学作品を15秒間で読み、後から出題される問いにお答え下さい」
(太宰治『走れメロス』の冒頭の文章300字弱が15秒間表示されたあと、消える。)
問題テロップ「メロスの妹の年齢は?」
ナレ「では、/問題…」
後藤「ピコーン」
実況「押したのは開成高校席次1位、後藤弘。リーチをかけるか。答えをどうぞ。」
後藤「はい。16。」
効果音「キロキロキロン」
(中略)
ヒロミ「後藤くん、これはなに、15秒間でこう…」
後藤「そうですね、15秒間でできるだけ頭の中で問題をつくっていって、その中にこれ(妹の年齢)があったので」
ヒロミ「問題をつくるんだ」
(「東大王」(2021年4月7日放送))
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では、出題者はクイズにおいて何を考えているのか。
次項に続きます。
2021年11月09日
2.2.1.(続) 「リテラシーの地図」から問題を予測する (「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として)
「図書館×クイズ=アウトリーチ」試論 : 「99人の壁」を実践例として
【目次】index(目次&参考文献)
【前項】2.2.1. 解答者は問題を予測し、正答を推理しようとする
【次項】2.2.1.(続々) よき解答者は、よき出題者である
クイズの解答者は、大きく分けて以下の2つのアプローチによって、問題の予測と正答の推測をする、という話です。
(1)問題文自体からの予測
(2)問題文以外の要素からの予測 ("メタ読み")
で、実は本稿では「(1)問題文自体からの予測」をほぼ対象にしていません。なぜならこの予測は、当日壇上で問題を読まれ始めてから初めておこなえることだからです。そりゃそうです、本稿では「99人の壁出場前に図書館クイズを予測して準備しよう」と言う話をしてるわけなんで、いくら何でも出場前の問題が1文字も提示されていない段階でそれができるわけではない。
一方で(2)「問題文以外の要素からの予測」は、問題を読まれている途中でもおこなえるし、事前に問題を予測して対策しようという時にもおこなえます。特に前記事(http://egamiday3.seesaa.net/article/483818860.html)の「問題を予測する目的」で言う「(1)効率的に予習して正解率を上げる」段階では、「問題文以外の要素」に頼るしかないわけで、畢竟、本稿ではこちらを中心に考察と実践をすることになります。
例えば「過去の出題傾向」から予測する、なんていうのは、受験対策でもお馴染みかと思います。この大学の数学は大問が5問で、確率の問題が1問必ず出るとか。世界史は古代中国史と近代ヨーロッパ史が必ず出るし、国語では明治擬古文が出るとか。これが『99人の壁』なら、画像を見て名前を答えさせる形式や、正誤問題を選択式で答えさせる形式が出る。そういう出題傾向がわかっているなら、そこから逆算することで、それに見合った内容の出題が出されるんじゃないかと予測し、対策する、という具合です。
特に出題対象が森羅万象で際限ないクイズの問題というものにおいて、ただ記憶力と知識量だけで純粋に向き合うだけでは、残念ながら「予測」に限界があります。『99人の壁』のようにジャンルを極々限定するようなクイズでさえ、「図書館」というひとつのキーワードから出題され得る問題は無限に考えられるわけで、いかに「この100人の中で一番「図書館」のことを知ってる」と言ったところで太刀打ちできないです、対戦相手は「99人」というよりむしろ「出題者」なんだから。問題以外のメタな要素を深読みすることではじめて、事前の「効率的な予習」と、現場での「解答権の獲得」「少ない情報からの正答推理」が可能になるわけです。
また、ここで前提として確認しておきたいのは、クイズ(特にテレビ番組)は、問題(回答・正答含む)と企画(形式含む)から成る、ということです。それこそ試験や実力考査ではないので、出題と解答だけで成り立っているテレビ番組やクイズ大会などというものはあり得ない、なんらかの「企画」として存在している以上、その企画の意図、目的、形式、対象者といった外的要因にわしゃわしゃと囲まれる中で進行しているわけです。
そのわしゃわしゃの外的要因という”枷(かせ)”、それっぽい言葉で表現するなら”コンテクスト”の中で出題されるのであれば、なにが出題されてなにが出題されないか、候補となる解答のうちでも何が正答か、ということをある程度しぼりこめるはず、というのが(2)「問題文以外の要素からの予測」の考え方です。
このことを、関連文献では下記のように表現・説明しています。
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「解答権をより疾く奪うために、彼らは「問題のコンテクストを読み解くこと」に心血を注ぐ」
「問題文の外部にまでおよぶ「メタ読み」の段階に到達する」
(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.6, p.95-103.)
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「(『ナナマルサンバツ第1巻』において)のちに主人公のライバルとなる少年が、「なぜ山(や)」のわずか三音で「マロリー」という回答を導いている。…回答者の少年は、対抗戦の性質、出題されるであろうクイズの難易度、そしてこれが一ラウンドの一問目であることなど、問題文以外のメタ情報を読み取ることで回答を導いているのだ。むしろ競技クイズにおいては、このようなメタ情報の読み取りなくして回答権を得ることは難しい」
(徳久倫康. 「国民クイズ2.0」. 『日本2.0 思想地図β Vol.3』. 2012, p.484-510.)
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というふうに表現すると、それこそ一部のマニアだけが云々するニッチなスキルかのように見えてしまうかもしれませんが、いやまあ「メタ読み」って、ふつーの人がぼんやりテレビ見ながらでも無意識のうちになんとなくやってることだと思いますよ、意識的に言語化したりしないだけで。言うなれば、刑事ドラマ見て「まだ時間が早いからこの容疑者は濡れ衣」とか「この俳優がネームバリュー的に真犯人のはず」みたいなこと言うやつです、そういうメタな読み方は多少なりとも誰でもやってるのでは。
そういうのを、クイズというものに臨んでめっちゃがんばって意識的にやってる様子を、言語化してみると以下のようなことになる、と思ってください。
「問題文以外の要素」は多種多様で複合的ですが、代表的なものを挙げます。
(1) 形式
(2) 時事
(3) 難易度
●(1)形式:
"かたち"が内容に影響を与える、なんて書き方をするとなんとなくメディア論っぽい雰囲気がただよいそうですが、しかしどんなものであれ「形式」が「内容」をかたちづくるなんてことはよくある話です。そこから問題を予測する、という。
端的に言えば、正誤問題(○×クイズ等)なら、ルールや法律に関する問題が出そう、とか。選択問題(三択クイズ)なら、エピソードや数値に関する問題を出しやすくなる、とか。ビジュアル問題なら、"テレビ映え"しそうな画像を使った問題が出されることは察しがつくでしょう、という。
問題予測だけでなく、正答の推理もまた同様です。よくおこなわれるのは、選択問題で「選択肢の出され方」から正答を導き出すパターンのやつ、「例の方法」とか懐かしいですね。正誤問題だと、いわゆる「悪魔の証明」のようなもので、「芭蕉は富士山の句を詠んだことがあるかないか」なんて未発見の句含めて無いこと証明できないでしょう、等。
というような考え方を基礎にして、出題形式だけでなく、そこで使われるメディア(言語か音声か動画か)や表現方法、ゲームとしてのルールや番組の企画意図などを丁寧に分析してみると、そのものズバリではないにもしろ、なんとなくこのあたりじゃないのかなという絞り込みはできる、という話が以下の文献の例です。
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(答えの絞り方について)「例えば「鉛筆で肖像画を描くので、その人の名前を答えなさい」という問題があったんですけど、その時は「肖像画にして面白いのは誰だろう?」って、まず自分の中で考えるんですよ。というのは、見慣れた人じゃないと、答えを見た時に「あーっ!」ってならないと思ったので。なので、「お札とか、そっちの路線かな?」っていう風に、ある程度絞って。」
「早書きの時は、そんな感じで「設問を見た時点である程度絞って臨む」っていう風にやっているので、確定ポイントの前でもわりと精度が高く勝負に出られる」
[#QJ9東大王特集鈴木インタビュー]
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(国民の祝日が書かれたカードから、条件に合うものを選ぶという、アーケードゲームをプレイ中)
「まだ文字見えてねーじゃん」
「このクイズ 上のカードがズレて 下の文字を徐々に見せるっていうヒントの出し方をしてるでしょ?」
「だから なかなかヒントの見えないカードがあったら すぐに押そうって決めてたんだ」
「「元日」って唯一たったの2文字で 祝日のなかで一番文字数が少ないんだ」
「文字数が少ないってことは それだけヒントが見えないゾーンが大きいってこと」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第14話.)
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このように企画やルールが独特なものだと、逆に「形式からの予測/推測」のためのとっかかりも特徴的になってくるので、そこをどう分析するかの問題になってくるのかな、と。
●(2) 時事
そもそもクイズには「時事問題」というのがつきもので、これの無いクイズというのは特殊な縛りがあるものでない限り、あまり見かけません。
クイズに時事がよく出る理由としては、
・情報というものは新しいものに価値があると思われがちだから、とか、
・テレビは現在のもの・新しいものを伝えるのに適したマスメディアだから、とか、
・いまこの時期にしか出題できない刹那的なものだから、いま出したい、
などなどいろいろ考えられますが、本稿2.1でやたら出てきた「リテラシー」や「ギャップ」から考えると、
・いまこの時期であれば(視聴者含め)多くの人が知っているから、時限的に共有されたリテラシーの範囲内のものとして認められやすい、し、
・時事的情報は蓄積的情報に比べて、クイズの猛者とお茶の間の視聴者との間のギャップが広がりすぎなくて済む、
ということも言えるんじゃないかなって思います。
ともあれ、「時事問題」はクイズによく出る。
ということは、意識的にメタ読みすれば、問題や正答を"時事的な情報"の中から絞り込める、ということでもあるわけです。
これもよくやります。(せっかくギャップが広がりすぎないようにと思ったのにね。)
例えば、問題文の導入が「映画「○○○」・・・」で始まるクイズがあるとします。普通だったら映画タイトルが読み上げられた段階で、正答の候補が「監督」「主演女優」「原作」「主題歌」「舞台となった土地」「獲得した賞」云々云々とずらずら挙げられるでしょう、だからまだ全然ボタン押せない。ところがこれが最近のニュースで、出演した3〜4番手くらいの俳優が最近結婚したとか亡くなったとか別の出来事で話題になったりした場合、その時期に限っては「時事問題」として、一気に(でも刹那的に)正答候補第1位に上がっちゃう、なんなら映画名だけでボタン押していいくらいですよね。
これは、ある情報がリテラシーの共有範囲内のどのあたりに位置するかが、一時的(時限的)に移動する、というふうに言えるかもしれません。
図6:時事的情報は時限的にリテラシーの位置づけが変わる

というようなことをやってたのが、2.1.2で紹介した「トーチタワー」の例です。
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●事例3 (東大王)
※これから出る画像を見て答える、というクイズであるにもかかわらず、画像が出る前の説明文(前置き)だけでボタンを押して正答してしまう、という例。
問題テロップ「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」
(注:このテロップ通りの前置きがナレーターによって読み上げられたあとで、問題となる建造物の画像に切り替わる予定であるが、画面上にはまだテロップしか表示されておらず、読み上げられてもいない。)
林「ピコーン」
山里「えっ!?」
実況「押したのは、ジャスコ林!? 問題文の途中だぞ!?」
(会場が騒然となる)
実況「答えをどうぞ」
林「はい、トーチタワー」
効果音「キロキロキロン」
(中略)
ヒロミ「ちょっと待ってちょっと待って、だって問題出てないじゃん!」…「なにこれ、どういうこと?」
林「あの、東京駅の近くにトーチタワーっていう、日本一高いビルが建設予定になってまして。まあ、いまニュース関連で出すなら、それかなと。「建設予定」っていう字が出てたのが」
山里「あ、この問題文でわかるんだ」
(中略)
実況「(出るはずだった画像の表示とともに)まさに今月17日にその名称が発表されました、トーチタワーの画像です。東京駅前に2027年に完成予定で、高さは390メートル、あべのハルカスを抜いて日本一高いビルになります。見事正解、トーチタワーでした。」
(「東大王」(2020年9月23日放送))
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問題予測の端的な例では、先日惜しまれつつ終了した「アタック25」でたぶん(クイズ界隈で)有名なのが、「放送日にちなんだ問題」でした。出場者にはあらかじめ放送日はこの日ですよと伝えられ、もっと言えば、なのでその日にちなんだ問題(○月○日は誰それの亡くなった日です、何々の記念日です等)を出しますよ等と直接言われたりもしてたんじゃないかしら。
●(3) 難易度
端的に言えば、予選段階や初学者向けのクイズなら易しい問題が出るはずだし、決勝段階や実力者向けのクイズならそれなりに難しい問題のはずだろう、というような予測。これにもとづいて、正答を予測することも可能です。
例えば「日本で一番高い山は富士山ですが、」という問題文の導入のあとに何が問われるかを予測しようとする場合。これが小学校低学年くらいに解かせる/観てもらうための企画であれば「世界で→エベレスト」くらいだろうし、一般成人向け番組の序盤くらいなら「アメリカ」「2番目」あたりかもしれない。一方で、3時間特番の決勝戦でバチバチとした熱戦が演出されようものなら、結構な難問に変化するにちがいありませんから、逆に言うと「エベレスト」「アメリカ」「2番目」程度は候補から落とせる、ということになります。
この”難易度”からメタ読みをするというやり方、正攻法じゃないように思えるかもですが、マンガ『ナナマルサンバツ』ではいきなり第1話でこのパターンが登場します。クイズ未経験の主人公がいきなりこれにぶち当たって、しかも正答するという。そういう意味では、メタ読みの中でもある種わかりやすいパターンなのかもですね。(以下、2.1.4からの再掲です。)
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越山「(どうしよう 押してみようか… 答えてみたい…!)」
笹島「--ふむ では次は難問といこうか」
越山「(難問…)
(中略)
越山「(「”恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった”」 知ってる…これはあの小説の書き出しだ。)」
「(貰ったペーパークイズにも似たような文学に関する問題があった これも作者名とかタイトルを答える問題だとしたら… どっちだ? 作者名… タイトル… これが本当に難問なら…)」
「答えは…ダス・ゲマイネ」
(中略)
深見「さっきのラスト問題 どうして答えがタイトルの方だとわかったの?」
越山「あ それは会長さんが”難問”だって言ってたから… 有名な著者名よりマイナーなタイトルの方が その…答えるのに難しいって思ったから…」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第1話.)
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↑上記のエピソードでは、出題者が「次は難問」と明言したのをふまえた判断なので、まだわかりやすいほうかと思います。
ですがおおかたの場合は、これから出題される問題の難易度を解答者は自力で推し量らなければならないわけで、その見積りが上手くいくか否かは解答者の力量次第、ということになるでしょう。その判断材料としては、過去問の傾向、序盤か終盤か、予選か決勝か等のステージ、報酬の多寡、対戦者・解答者群のレベル、そして何よりも(それがテレビ番組であれば)番組の企画意図とターゲットとする視聴者層、視聴者に何をどう届けたいというつもりで、いまこのクイズがおこなわれ出題がされようとしているのか、に尽きるかと思います。
特にテレビ番組は視聴者・お茶の間に向けて放送するためにクイズをやっているわけですから、受け手であるお茶の間に合わせて難易度をコントロールするのは、企画者・制作者にとってはある意味で死活問題なんだろうなと思います。そして、だからこそその難易度を推し量る芸当もなし得る、というのを丁寧に解説したのが下記の文献です。
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(クイズ番組『Qさま!!』での一幕を紹介・分析した評論)
「このときのジャンルは、「世界史上の人物の名前」であった。」「問題文は「第一回ノーベル…」であった。この時点で、経験豊富なクイズプレイヤーである山本は、「人物の名前」という前提条件から、「第一回ノーベル賞の受賞者」が答えになるところまで絞り込んでいる。」
「山本は、第一回ノーベル賞受賞者をすべて知っていた。」
「『Qさま!!』は、視聴者がまったく知らないような難問を出す番組ではない。中学や高校の授業でいちどは聞いたことがあるような知識を中心に出題する番組である。そういった出題傾向まで踏まえて、この(第一回ノーベル賞受賞者)六人のなかからクイズをやっていなくても聞いたことのあるような人物が答えになるはずだと山本は考えた。」
(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.7, p.95-103.)
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本稿で既に触れたところをふまえれば、自分がいま対峙している“企画”の難易度と、2.1.3でいう「不文律のリテラシー・ランキングのようなもの」を出題者・制作者と同様に把握していれば、2.1.4(5)でいう「クイズとしてかっこうがついている」「いい塩梅で逸脱した範囲」の情報の中から、正答となるにちがいない候補を相当程度大幅に絞り込むことが可能、ということになります。
というわけで、本稿ではやはり再々登場することになりますが、ある情報が「共有されたリテラシー」の範囲内にあるかどうか、そのどのあたりに位置しているのか、ギャップと距離感の推し量りがつねにクイズというものにはつきまとうのだな、というふうに思います。
下記の図で言えば、このクイズの鑑賞者(お茶の間)にとっての難易度に、合致するような候補があれば、それが問題/正答である蓋然性が高い、という判断です。
図7 出題の難易度で候補を絞り込む

こうやって見てみると、クイズでやってることというのは、「知識・情報それ自体を知る/問う」というよりも「リテラシーの地図を理解する」ということなんじゃないかなって、まあ、ええように言うとそんなとこです。
【目次】index(目次&参考文献)
【前項】2.2.1. 解答者は問題を予測し、正答を推理しようとする
【次項】2.2.1.(続々) よき解答者は、よき出題者である
クイズの解答者は、大きく分けて以下の2つのアプローチによって、問題の予測と正答の推測をする、という話です。
(1)問題文自体からの予測
(2)問題文以外の要素からの予測 ("メタ読み")
で、実は本稿では「(1)問題文自体からの予測」をほぼ対象にしていません。なぜならこの予測は、当日壇上で問題を読まれ始めてから初めておこなえることだからです。そりゃそうです、本稿では「99人の壁出場前に図書館クイズを予測して準備しよう」と言う話をしてるわけなんで、いくら何でも出場前の問題が1文字も提示されていない段階でそれができるわけではない。
一方で(2)「問題文以外の要素からの予測」は、問題を読まれている途中でもおこなえるし、事前に問題を予測して対策しようという時にもおこなえます。特に前記事(http://egamiday3.seesaa.net/article/483818860.html)の「問題を予測する目的」で言う「(1)効率的に予習して正解率を上げる」段階では、「問題文以外の要素」に頼るしかないわけで、畢竟、本稿ではこちらを中心に考察と実践をすることになります。
例えば「過去の出題傾向」から予測する、なんていうのは、受験対策でもお馴染みかと思います。この大学の数学は大問が5問で、確率の問題が1問必ず出るとか。世界史は古代中国史と近代ヨーロッパ史が必ず出るし、国語では明治擬古文が出るとか。これが『99人の壁』なら、画像を見て名前を答えさせる形式や、正誤問題を選択式で答えさせる形式が出る。そういう出題傾向がわかっているなら、そこから逆算することで、それに見合った内容の出題が出されるんじゃないかと予測し、対策する、という具合です。
特に出題対象が森羅万象で際限ないクイズの問題というものにおいて、ただ記憶力と知識量だけで純粋に向き合うだけでは、残念ながら「予測」に限界があります。『99人の壁』のようにジャンルを極々限定するようなクイズでさえ、「図書館」というひとつのキーワードから出題され得る問題は無限に考えられるわけで、いかに「この100人の中で一番「図書館」のことを知ってる」と言ったところで太刀打ちできないです、対戦相手は「99人」というよりむしろ「出題者」なんだから。問題以外のメタな要素を深読みすることではじめて、事前の「効率的な予習」と、現場での「解答権の獲得」「少ない情報からの正答推理」が可能になるわけです。
また、ここで前提として確認しておきたいのは、クイズ(特にテレビ番組)は、問題(回答・正答含む)と企画(形式含む)から成る、ということです。それこそ試験や実力考査ではないので、出題と解答だけで成り立っているテレビ番組やクイズ大会などというものはあり得ない、なんらかの「企画」として存在している以上、その企画の意図、目的、形式、対象者といった外的要因にわしゃわしゃと囲まれる中で進行しているわけです。
そのわしゃわしゃの外的要因という”枷(かせ)”、それっぽい言葉で表現するなら”コンテクスト”の中で出題されるのであれば、なにが出題されてなにが出題されないか、候補となる解答のうちでも何が正答か、ということをある程度しぼりこめるはず、というのが(2)「問題文以外の要素からの予測」の考え方です。
このことを、関連文献では下記のように表現・説明しています。
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「解答権をより疾く奪うために、彼らは「問題のコンテクストを読み解くこと」に心血を注ぐ」
「問題文の外部にまでおよぶ「メタ読み」の段階に到達する」
(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.6, p.95-103.)
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「(『ナナマルサンバツ第1巻』において)のちに主人公のライバルとなる少年が、「なぜ山(や)」のわずか三音で「マロリー」という回答を導いている。…回答者の少年は、対抗戦の性質、出題されるであろうクイズの難易度、そしてこれが一ラウンドの一問目であることなど、問題文以外のメタ情報を読み取ることで回答を導いているのだ。むしろ競技クイズにおいては、このようなメタ情報の読み取りなくして回答権を得ることは難しい」
(徳久倫康. 「国民クイズ2.0」. 『日本2.0 思想地図β Vol.3』. 2012, p.484-510.)
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というふうに表現すると、それこそ一部のマニアだけが云々するニッチなスキルかのように見えてしまうかもしれませんが、いやまあ「メタ読み」って、ふつーの人がぼんやりテレビ見ながらでも無意識のうちになんとなくやってることだと思いますよ、意識的に言語化したりしないだけで。言うなれば、刑事ドラマ見て「まだ時間が早いからこの容疑者は濡れ衣」とか「この俳優がネームバリュー的に真犯人のはず」みたいなこと言うやつです、そういうメタな読み方は多少なりとも誰でもやってるのでは。
そういうのを、クイズというものに臨んでめっちゃがんばって意識的にやってる様子を、言語化してみると以下のようなことになる、と思ってください。
「問題文以外の要素」は多種多様で複合的ですが、代表的なものを挙げます。
(1) 形式
(2) 時事
(3) 難易度
●(1)形式:
"かたち"が内容に影響を与える、なんて書き方をするとなんとなくメディア論っぽい雰囲気がただよいそうですが、しかしどんなものであれ「形式」が「内容」をかたちづくるなんてことはよくある話です。そこから問題を予測する、という。
端的に言えば、正誤問題(○×クイズ等)なら、ルールや法律に関する問題が出そう、とか。選択問題(三択クイズ)なら、エピソードや数値に関する問題を出しやすくなる、とか。ビジュアル問題なら、"テレビ映え"しそうな画像を使った問題が出されることは察しがつくでしょう、という。
問題予測だけでなく、正答の推理もまた同様です。よくおこなわれるのは、選択問題で「選択肢の出され方」から正答を導き出すパターンのやつ、「例の方法」とか懐かしいですね。正誤問題だと、いわゆる「悪魔の証明」のようなもので、「芭蕉は富士山の句を詠んだことがあるかないか」なんて未発見の句含めて無いこと証明できないでしょう、等。
というような考え方を基礎にして、出題形式だけでなく、そこで使われるメディア(言語か音声か動画か)や表現方法、ゲームとしてのルールや番組の企画意図などを丁寧に分析してみると、そのものズバリではないにもしろ、なんとなくこのあたりじゃないのかなという絞り込みはできる、という話が以下の文献の例です。
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(答えの絞り方について)「例えば「鉛筆で肖像画を描くので、その人の名前を答えなさい」という問題があったんですけど、その時は「肖像画にして面白いのは誰だろう?」って、まず自分の中で考えるんですよ。というのは、見慣れた人じゃないと、答えを見た時に「あーっ!」ってならないと思ったので。なので、「お札とか、そっちの路線かな?」っていう風に、ある程度絞って。」
「早書きの時は、そんな感じで「設問を見た時点である程度絞って臨む」っていう風にやっているので、確定ポイントの前でもわりと精度が高く勝負に出られる」
[#QJ9東大王特集鈴木インタビュー]
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(国民の祝日が書かれたカードから、条件に合うものを選ぶという、アーケードゲームをプレイ中)
「まだ文字見えてねーじゃん」
「このクイズ 上のカードがズレて 下の文字を徐々に見せるっていうヒントの出し方をしてるでしょ?」
「だから なかなかヒントの見えないカードがあったら すぐに押そうって決めてたんだ」
「「元日」って唯一たったの2文字で 祝日のなかで一番文字数が少ないんだ」
「文字数が少ないってことは それだけヒントが見えないゾーンが大きいってこと」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第14話.)
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このように企画やルールが独特なものだと、逆に「形式からの予測/推測」のためのとっかかりも特徴的になってくるので、そこをどう分析するかの問題になってくるのかな、と。
●(2) 時事
そもそもクイズには「時事問題」というのがつきもので、これの無いクイズというのは特殊な縛りがあるものでない限り、あまり見かけません。
クイズに時事がよく出る理由としては、
・情報というものは新しいものに価値があると思われがちだから、とか、
・テレビは現在のもの・新しいものを伝えるのに適したマスメディアだから、とか、
・いまこの時期にしか出題できない刹那的なものだから、いま出したい、
などなどいろいろ考えられますが、本稿2.1でやたら出てきた「リテラシー」や「ギャップ」から考えると、
・いまこの時期であれば(視聴者含め)多くの人が知っているから、時限的に共有されたリテラシーの範囲内のものとして認められやすい、し、
・時事的情報は蓄積的情報に比べて、クイズの猛者とお茶の間の視聴者との間のギャップが広がりすぎなくて済む、
ということも言えるんじゃないかなって思います。
ともあれ、「時事問題」はクイズによく出る。
ということは、意識的にメタ読みすれば、問題や正答を"時事的な情報"の中から絞り込める、ということでもあるわけです。
これもよくやります。(せっかくギャップが広がりすぎないようにと思ったのにね。)
例えば、問題文の導入が「映画「○○○」・・・」で始まるクイズがあるとします。普通だったら映画タイトルが読み上げられた段階で、正答の候補が「監督」「主演女優」「原作」「主題歌」「舞台となった土地」「獲得した賞」云々云々とずらずら挙げられるでしょう、だからまだ全然ボタン押せない。ところがこれが最近のニュースで、出演した3〜4番手くらいの俳優が最近結婚したとか亡くなったとか別の出来事で話題になったりした場合、その時期に限っては「時事問題」として、一気に(でも刹那的に)正答候補第1位に上がっちゃう、なんなら映画名だけでボタン押していいくらいですよね。
これは、ある情報がリテラシーの共有範囲内のどのあたりに位置するかが、一時的(時限的)に移動する、というふうに言えるかもしれません。
図6:時事的情報は時限的にリテラシーの位置づけが変わる

というようなことをやってたのが、2.1.2で紹介した「トーチタワー」の例です。
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●事例3 (東大王)
※これから出る画像を見て答える、というクイズであるにもかかわらず、画像が出る前の説明文(前置き)だけでボタンを押して正答してしまう、という例。
問題テロップ「建設予定の建造物の名称をお答え下さい」
(注:このテロップ通りの前置きがナレーターによって読み上げられたあとで、問題となる建造物の画像に切り替わる予定であるが、画面上にはまだテロップしか表示されておらず、読み上げられてもいない。)
林「ピコーン」
山里「えっ!?」
実況「押したのは、ジャスコ林!? 問題文の途中だぞ!?」
(会場が騒然となる)
実況「答えをどうぞ」
林「はい、トーチタワー」
効果音「キロキロキロン」
(中略)
ヒロミ「ちょっと待ってちょっと待って、だって問題出てないじゃん!」…「なにこれ、どういうこと?」
林「あの、東京駅の近くにトーチタワーっていう、日本一高いビルが建設予定になってまして。まあ、いまニュース関連で出すなら、それかなと。「建設予定」っていう字が出てたのが」
山里「あ、この問題文でわかるんだ」
(中略)
実況「(出るはずだった画像の表示とともに)まさに今月17日にその名称が発表されました、トーチタワーの画像です。東京駅前に2027年に完成予定で、高さは390メートル、あべのハルカスを抜いて日本一高いビルになります。見事正解、トーチタワーでした。」
(「東大王」(2020年9月23日放送))
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問題予測の端的な例では、先日惜しまれつつ終了した「アタック25」でたぶん(クイズ界隈で)有名なのが、「放送日にちなんだ問題」でした。出場者にはあらかじめ放送日はこの日ですよと伝えられ、もっと言えば、なのでその日にちなんだ問題(○月○日は誰それの亡くなった日です、何々の記念日です等)を出しますよ等と直接言われたりもしてたんじゃないかしら。
●(3) 難易度
端的に言えば、予選段階や初学者向けのクイズなら易しい問題が出るはずだし、決勝段階や実力者向けのクイズならそれなりに難しい問題のはずだろう、というような予測。これにもとづいて、正答を予測することも可能です。
例えば「日本で一番高い山は富士山ですが、」という問題文の導入のあとに何が問われるかを予測しようとする場合。これが小学校低学年くらいに解かせる/観てもらうための企画であれば「世界で→エベレスト」くらいだろうし、一般成人向け番組の序盤くらいなら「アメリカ」「2番目」あたりかもしれない。一方で、3時間特番の決勝戦でバチバチとした熱戦が演出されようものなら、結構な難問に変化するにちがいありませんから、逆に言うと「エベレスト」「アメリカ」「2番目」程度は候補から落とせる、ということになります。
この”難易度”からメタ読みをするというやり方、正攻法じゃないように思えるかもですが、マンガ『ナナマルサンバツ』ではいきなり第1話でこのパターンが登場します。クイズ未経験の主人公がいきなりこれにぶち当たって、しかも正答するという。そういう意味では、メタ読みの中でもある種わかりやすいパターンなのかもですね。(以下、2.1.4からの再掲です。)
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越山「(どうしよう 押してみようか… 答えてみたい…!)」
笹島「--ふむ では次は難問といこうか」
越山「(難問…)
(中略)
越山「(「”恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった”」 知ってる…これはあの小説の書き出しだ。)」
「(貰ったペーパークイズにも似たような文学に関する問題があった これも作者名とかタイトルを答える問題だとしたら… どっちだ? 作者名… タイトル… これが本当に難問なら…)」
「答えは…ダス・ゲマイネ」
(中略)
深見「さっきのラスト問題 どうして答えがタイトルの方だとわかったの?」
越山「あ それは会長さんが”難問”だって言ってたから… 有名な著者名よりマイナーなタイトルの方が その…答えるのに難しいって思ったから…」
(杉基イクラ. 『ナナマルサンバツ』. 第1話.)
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↑上記のエピソードでは、出題者が「次は難問」と明言したのをふまえた判断なので、まだわかりやすいほうかと思います。
ですがおおかたの場合は、これから出題される問題の難易度を解答者は自力で推し量らなければならないわけで、その見積りが上手くいくか否かは解答者の力量次第、ということになるでしょう。その判断材料としては、過去問の傾向、序盤か終盤か、予選か決勝か等のステージ、報酬の多寡、対戦者・解答者群のレベル、そして何よりも(それがテレビ番組であれば)番組の企画意図とターゲットとする視聴者層、視聴者に何をどう届けたいというつもりで、いまこのクイズがおこなわれ出題がされようとしているのか、に尽きるかと思います。
特にテレビ番組は視聴者・お茶の間に向けて放送するためにクイズをやっているわけですから、受け手であるお茶の間に合わせて難易度をコントロールするのは、企画者・制作者にとってはある意味で死活問題なんだろうなと思います。そして、だからこそその難易度を推し量る芸当もなし得る、というのを丁寧に解説したのが下記の文献です。
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(クイズ番組『Qさま!!』での一幕を紹介・分析した評論)
「このときのジャンルは、「世界史上の人物の名前」であった。」「問題文は「第一回ノーベル…」であった。この時点で、経験豊富なクイズプレイヤーである山本は、「人物の名前」という前提条件から、「第一回ノーベル賞の受賞者」が答えになるところまで絞り込んでいる。」
「山本は、第一回ノーベル賞受賞者をすべて知っていた。」
「『Qさま!!』は、視聴者がまったく知らないような難問を出す番組ではない。中学や高校の授業でいちどは聞いたことがあるような知識を中心に出題する番組である。そういった出題傾向まで踏まえて、この(第一回ノーベル賞受賞者)六人のなかからクイズをやっていなくても聞いたことのあるような人物が答えになるはずだと山本は考えた。」
(田村正資. 「予感を飼いならす : 競技クイズの現象学試論」. 『ユリイカ』. 2020.7, p.95-103.)
-----------------------------------------------------
本稿で既に触れたところをふまえれば、自分がいま対峙している“企画”の難易度と、2.1.3でいう「不文律のリテラシー・ランキングのようなもの」を出題者・制作者と同様に把握していれば、2.1.4(5)でいう「クイズとしてかっこうがついている」「いい塩梅で逸脱した範囲」の情報の中から、正答となるにちがいない候補を相当程度大幅に絞り込むことが可能、ということになります。
というわけで、本稿ではやはり再々登場することになりますが、ある情報が「共有されたリテラシー」の範囲内にあるかどうか、そのどのあたりに位置しているのか、ギャップと距離感の推し量りがつねにクイズというものにはつきまとうのだな、というふうに思います。
下記の図で言えば、このクイズの鑑賞者(お茶の間)にとっての難易度に、合致するような候補があれば、それが問題/正答である蓋然性が高い、という判断です。
図7 出題の難易度で候補を絞り込む

こうやって見てみると、クイズでやってることというのは、「知識・情報それ自体を知る/問う」というよりも「リテラシーの地図を理解する」ということなんじゃないかなって、まあ、ええように言うとそんなとこです。
2021年11月05日
「海外の日本研究と日本図書館」に関する2021年10月の動向レビュー -- NCC30周年会議、CEAL来春はオンライン、ネットハラスメント 他 ( #本棚の中のニッポン )
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・文化庁アートプラットフォームシンポジウム「グローバル化する美術界と『日本』:現代アート振興の地平線」が開催
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■社会問題
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↑海外日本研究者に対する日本の歴史修正主義者等によるネットハラスメント問題について。
・「留学生の入国制限の解除を」 米の日本研究者ら656人が署名 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20211022/k00/00m/030/159000c
・留学生に門閉ざす日本「評判損なわれる」 米研究者が受け入れを要望:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/sp/articles/ASPBQ548DPBQUHBI00M.html?ref=rss
・(提言)コロナ禍における留学生や外国人研究者へのビザ発給や入国に関する柔軟な対応を求める提言 - 研究大学コンソーシアムホームページ
https://www.ruconsortium.jp/soshiki/4/565.html
・「Kawaiiは差別用語」に原宿系クリエーターが世界へ反論「誰でも使っていい」|よろず〜ニュース
https://yorozoonews.jp/article/14457624
・「滞在外国人への人権保障は」移住連が政党アンケート 各党の姿勢明らかに:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/138323
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・留学生に門閉ざす日本「評判損なわれる」 米研究者が受け入れを要望:朝日新聞デジタル
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・(提言)コロナ禍における留学生や外国人研究者へのビザ発給や入国に関する柔軟な対応を求める提言 - 研究大学コンソーシアムホームページ
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・「Kawaiiは差別用語」に原宿系クリエーターが世界へ反論「誰でも使っていい」|よろず〜ニュース
https://yorozoonews.jp/article/14457624
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