2022年10月28日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第二部 「外地日本語蔵書から文化工作をとらえる」


和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


第二部「外地日本語蔵書から文化工作をとらえる」
戦時期に日本が占領していた東南アジアで、日本文化・大東亜文化圏の拡大のための文化工作はどのようにおこなわれていたか。
現地に遺された日本語資料から考える。
知や情報を伝え広げ教える仕組みをとらえる一環。
第4章 ベトナムの日本語資料、日仏ベ間の蔵書移動
第5章 ベトナムの日本語資料、大東亜学の具現化
第6章 インドネシアの日本語資料、文学による日本宣伝
第7章 「講談」と「山田長政物語」の2文学


●東南アジア諸国の日本語資料調査について(第二部)

・東南アジアで戦時期に構築された日本語蔵書がまとまってのこっているのはきわめてすくない。インドネシア国立図書館とベトナム社会科学院図書館、シンガポール国立大学。
・マニラ文化会館、日泰文化研究所・バンコク日本文化会館などがあったが、蔵書の現所在は不明。
・柳澤健はタイで各国語の南方アジア文献をあつめた「大東亜図書館」を設置することを主張していた。

・「ある国が日本についての資料を収集し、日本語蔵書が生まれるという現象は、その国と日本との文化的な関係のみならず、政治的、あるいは経済的な関係に結びつき、それらと影響しあっている。」→<e>この北米版→『書物の日米関係』『越境する書物』
・和田の東南アジア諸国調査は2014年から。
・東南アジアで戦時期の日本語蔵書がのこっているのは、大きく分けて2パターン。
 −植民地統治していた欧米各国が収集していた日本語資料
 −占領した日本が新たに築いた日本語蔵書
・<e>和田氏は「対象を拡大することが、調査、研究する方法そのものを更新してくれる」と[#終章]で述べている。これは具体的にどういうことか?


■第四章&第五章
第四章 「アジアをめぐる日仏の文化工作 --ベトナムに遺された日本語資料」
第五章 「日本を中心とした東南アジア研究へ --ハノイ日本文化会館蔵書から」

・ベトナムにおける日本語資料は、フランス極東学院が日本で収集し植民地ベトナムに構築していた蔵書と、日本がベトナムに進駐しハノイ日本文化会館に築いた蔵書とからなる。
・フランス極東学院: 1898年サイゴンにインドシナ考古学研究所として設置。その後、改称、ハノイ移転。アジアに置かれた研究機関として機能。
・フランス極東学院は、当時の日本研究者の手により、日本語資料の現地での収集もおこなった。1922年時点で和装本4000冊を含む6500冊を所蔵。

・1941の開戦後、日本仏印間で協定、文化交流。
・日本文化会館を設置して日本の文化工作の拠点とし実践がはじまる。東南アジアでの「大東亜共栄圏」構想のための文化工作。(日本は1930年代からニューヨークに日本文化会館を設置してきていた)
・ハノイ日本文化会館: 1943年設置。文化協力の基地となる。文化工作を「半官半民」事業として効率的におこなう。
・日本の文化工作は、仏印統治階級のフランス人向けと、ベトナム人知識人層や大衆層にもおこなわれた。
・ハノイ文化会館の事務局長小牧近江は、ベトナムの独立運動に関わっていく。
・1945、ベトナムがフランスから独立。日本敗戦。→引き上げ時に日本文化会館の蔵書がフランス極東学院に寄贈→ハノイのベトナム社会科学院へ。
・「この日本文化会館蔵書の今日までの道のりをたどることが、それ自体、日本やフランスの文化外交のあり方やその変容を浮き彫りにする」

・東南アジア中では大規模ではあるが、日本にない稀書があるわけではない。「資料そのものの珍しさや希少性という尺度」ではなく、「資料の移動を歴史的に意味づけ、その役割をとらえていく視点」でその価値や意味がわかる、という考え方。
 ↓
<e>これが第4章。←→第5章では、蔵書からわかる日本の文化工作(第一部のアプローチの適用?)
 ↓
・(@第5章)ハノイ日本文化会館の蔵書から、日本を中心としてアジアを捉えるという大東亜文化圏構築や「大東亜学」(大東亜学、日本を中心とした大東亜文化という体系)の考えがかたちづくられていたことを、とらえていく。
・この方法は、この時期の日本の対外文化工作をアジアの地で実践していく方法を具体的に示している。文化工作の学術版。
欧米中心の東洋アジア研究を排除し、研究主体を日本とし、日本語日本文化を中心とした研究をおこなう。≒日本語と日本文化を中心とした文化圏をアジアに構築しようとする。<e>欧米が日本にすりかわった。

・この枠組みが、ベトナムに残る日本蔵書からどうわかるか、を考察したのが第5章。

・ベトナム社会科学院所蔵のフランス極東学院旧蔵書: 和装本4100、洋装本5700、(そのうちにハノイ日本文化会館旧蔵書130も含む)
・わかりやすく日本を解説する文献ではなく、専門的な学術書が中心。
・例:当時、大東亜共栄圏や大東亜文化を広げていく考え方の根拠となった地政学(当時流行した)に関する著述。ほか、広域経済、国土計画、自然・資源など。
・例:日本研究・日本語教育の資料など。
ベトナムにのこる戦時期日本語資料の中心は、日本語で記された、仏印・東南アジアの歴史文化についての研究・著述である。すなわち、欧米によるアジア研究から脱却し、日本語による日本主体の東洋学へ転換する。<e>まさにこの節のタイトル通り、「誰がアジアを記述するのか」である。

・ただ、こうした特徴はそもそも戦時期の東南アジア研究・東洋史研究の刊行物全般にある。が、重要なのは、実際に具体的にこの土地にこの時期においてその蔵書があり、それによってこの学知の体系が具現化されているということ。それらはその蔵書のために選ばれたのだ、ということ。<e>これが和田研究のやりたかったことだから。

・インドネシアとは異なる→第6章へ



■第六章
第六章 「戦時下インドネシアにおける日本語文庫構築」

・日本は東南アジアにおいて、大東亜共栄圏建設、日本語日本文化教育をおこなう。
・日本文化会館の設置。バンコク日本文化会館、マニラ日本文化会館、ハノイ文化会館等。

・インドネシアは、オランダの植民地→1942年2月日本が侵攻、終戦まで日本軍政下におかれる。
・インドネシアでは、日本文化会館は設置されなかったが、文化工作は活発におこなわれ、日本語資料蔵書1200が構築された(現在はこれがインドネシア国立図書館に所蔵)。
・インドネシア国立図書館の日本語文庫
 分析すると、約1200冊のうち、76%が1940-1945刊、これら新刊書が戦時中に日本からインドネシアまで運び込まれている、ということ。
 戦時期刊行書の2割を「日本文学」(大衆向け文学、講談、児童向け物語等を含む)が占めている。日本文化をわかりやすくたのしめるコンテンツ?(注:←→ベトナム・ハノイ日本文化会館のほうは、社会科学、アジア歴史文化、各分野の学術書・専門書が中心で、大東亜学をかたちづくるものだった)

・オランダ領時代、昭和初期の日本人人口が急増する。日本企業・銀行が進出する。
 日本人学校、日本人会館。
 邦字新聞(爪哇(ジャワ)日報)。
 新聞社(爪哇(ジャワ)日報社)による日本書籍・雑誌・新聞(他紙)の取次、販売。
 横浜紹介による取次。
・日蘭関係の悪化で、日本人引き上げ(1941年)。
・日本軍侵攻(1942年)後、宣伝班がマスメディアによる文化宣伝を開始する。(宣伝班の例:武田麟太郎、大宅壮一、横山隆一、浅野晃等)

・日本軍による占領地インドネシアの文教政策
 日本語出版(ジャワ新聞社による『ジャワ新聞』等)
 日本語教育・日本語学校→日本語リテラシーの拡大、読者の育成
 翻訳出版
 日本内地からの日本出版物の供給網を、(戦前同様に)再構築する。
・啓民文化指導所:日本軍が1943年に設置。日本文化の紹介・指導など。
→日本文学の講座・紹介、日本文学のマレー語翻訳、映画化など。
大宅壮一「文学は、その浸透性の広さと深さにおいて、あらゆる宣伝媒体の中で王座を占める」
<e>和田さんはこれを本書であまり推してないけど、これを軸にしている/なっているのでは? でもそれは(文学研究にとっては)自明?

・教育にも文学にも書籍が必要。そのために、日本からの書籍の流通の仕組みが(新たに)構築された。

・日本出版配給株式会社(戦時期に書籍流通業務を統合した国策会社)が、東南アジアへの書籍流通と、日本語書籍の占領地への配布を担っていた。
・国際文化振興会が、南方への文化工作のため、日本語教科書、日本紹介の書籍・映画・幻灯を作成し、日配を介して南方へ配布していく。→流通体制の再構築
・『ジャワ新聞』の書店広告が1943年頃から増える。

・(町田敬二)インドネシア国立図書館の前身・バタビア博物館について、占領した日本からは、西欧の価値観によって構成されたものであり、アジア・日本を中心に改編されるべき。
=大東亜共栄圏の理念を広く広報していく役割を担わせる。
→日本語図書館の構築(提供も行われていた)


●岡倉天心
・インドネシアで「岡倉天心」を文化工作に活用する、という実践例。
・「Asia is one」(『The Ideals of the East with Special Reference to the Art of Japan東洋の理想』)
・岡倉天心の著述は、日本の文化工作において、日本文化を広げるべき根拠として広く活用されてきた。大東亜共栄圏の理想を文化面で支えるイデオローグとして権威化、神格化されていた。
・浅野晃(岡倉天心著述の翻訳・編纂)が『東洋の理想』をマレー語訳
・注:岡倉天心の著作・思想自体がどうだったか、ではなく、戦時期の岡倉天心受容がどうだったか、でもない。
・当時の日本の文化工作(日本文化の価値付け・中心付け)に実際に岡倉天心の著述が有効だった、ということ。実際にそれが活用された、ということ。


■第七章
第七章 文化工作と物語
講談文学
山田長政の伝記

・文化工作は、日本についての知識理解を意図的に海外に広げていく技術。(第一章から六章まで通して)
・インドネシア国立図書館の日本語図書からは、小説、伝記、講談のような物語が、現地における日本の文化工作にとって有用な素材だったことがわかる。
・(一般的なイメージとはかけ離れているにしろ)「これが占領地で具体的な形をとった日本文学である。」

・国際文化振興会は、戦時中、南方文化事業会や日本文学報国会を設置し、作家・文学者による日本文学の翻訳や普及宣伝をすすめていく。
↓↑
インドネシアの現地で主に用いられたのは講談文学だった
(当時のインドネシアにおける日本近代文学像は「講談」)
インドネシアの文化工作・宣伝班による、義士ものの翻訳。


●講談
・特に20世紀初頭に定着。各種メディアによる伝播。庶民の娯楽、教訓教養。
・特に、日本近代の思想道徳イデオロギーと結びつきが強い。
・思想教育・教化の手段として使われてきた。児童向け講談本など。
・活字だけでなく、講演・演劇など表現が多様。
・講談社、昭和初期以降、複数の全集・シリーズを刊行。(児童向け含む)
・講談とかさなるかたちで、偉人伝も、児童向けの教育効果が期待されたジャンル。


●『少年少女教育講談全集』を例に、語りの手法、物語の手法を考える
・<e>語り口の分析、という文学研究的アプローチ
・語り手(=地の文)から読者への呼びかけ、感嘆表現
・語り手(=地の文)による、規範意識、明確な価値観の提示
・唯一当然のこと(断定、言い切り)として共感、価値観の共有を求める
・(物語中に登場するものとしてではなく)現在残る史跡・銅像や事象に結びつけて、歴史的偉人の物語を読者の現在と結びつける。語られる人物の偉大さの根拠を、銅像や修身教科書に求める。
・→読者は、語りを読むことで、日本人であれば知っているべきこと、認めるべき当然の価値観を、共有している。あたかもそういう永続的な価値軸があるかのような前提に、読み手を誘う。
・なお、示している価値規範は、忠義・武勇・立身・海外渡航征服・孝行貞節・勤皇。


●海外渡航・征服話群=海洋物語群
・日本人の海外進出を称え価値づける
=日本の大東亜共栄圏の建設を支える物語。
・実際に海軍は文化工作としてこうした物語群の活用をはかっていく。
・戦時下にあって教育研究等多様な場で活用されていく。


●山田長政の物語
・戦時下でくりかえし利用された海洋物語のひとつ。「大東亜共栄圏の理想を体現」「日本人の戦意昂揚に利用」
・山田長政の物語:日本からタイ(シャム)・アユタヤの日本人町へわたって長となり、王室にとりたてられて王位継承戦争に参加、王子の即位に貢献したが、のち政争等の末に死亡。

・17世紀〜戦前:伝・物語はあるにはあったが、あいまいで「国史上疑問の人物」あつかい。
・1930年代以降、日本人研究者による関連資料の調査・刊行が進む。「山田長政が「発見」されていく時期」。
 −当時のタイの国立図書館に、タイ王室が在タイ日本人に依頼して日本から取り寄せた、日タイ関係史資料が収集されていた。同時に、タイに関する西欧の文献も参照できた。
 −1934三木栄『日暹交通史考』、郡司喜一『十七世紀における日暹関係』(日本語資料、日タイ関係史資料の紹介、欧米文献の紹介)
 −オランダの国立文書館にある、当時のアジア・日本に関する資料について、調査が進んだ。(東インド会社資料、蘭印総督府資料)
<e>国・地域を越えた活動・人物の資料が、国・地域を越えて発掘・調査・参照されていく様子。(そのモチベーションは南洋・大東亜共栄圏思想)
・この動向が、アジアに拡がる日本人の発見・検証というトレンド、西欧によるアジア研究から日本中心のアジア研究にシフトする「大東亜学」の流れと合致していた

・山田長政の伝記小説が、戦時下に生産されていく。
−小説であること
−海を越えてアジアで活躍する日本人像
特徴「考証のそぶり」:小説の語り手が地の文で史料・文献を示し、考証・批判までする。(あくまでそぶり)
(例:「暹羅国風土軍記」等によれば当時の在留邦人は8000人以上というが、これは多すぎる、他国の文献には見当たらない、等)
(例:これらの長政伝はみな「山田仁左衛門紀事」による創作。ハーグ国立文書館の史料等の史料をひく)
→これは、1930年代現在に、アジアにわたった日本人の存在を、現地の史料等からあらためて見出している・発見している、という「物語」

<e>
「過去の人物・事象」=価値がある、ひろめたい思想にかなっている
だけでなく、「その「過去の人物・事象」が現在実際に再発見できていること」=価値がある、ひろめたい思想にかなっている
歴史修正主義がそうなのでは。事実や内容よりも、いままさに”真実”の発見が成功しようとしているというのが、大好物の物語。




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2022年10月25日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ


本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ

和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


「第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ」
書物を読者へ広げていく人・組織・仲介者をとらえる
国内文化統制から対外文化工作へ
発信するべき日本文化の価値付け
第1章 大学、文学教育
第2章 読書指導・読書運動、読書傾向調査
第3章 青年文化協会『東亜文化圏』




■第一章 「再編される学知とその広がり --戦時下の国文学研究から」

・海外に送り出すべき日本文化を明確にする。コンテンツを創出する。それを教え広げる技術と人員を養成する。=戦時下の国文学研究・教育
・特に、学知を広げる個々の場(=早稲田大学)に焦点をあてて。かつ、本書の趣旨である、知を教え広げる仕組み・技術(=大学、文学教育)として。

・1931年 国民精神文化研究所が創設。教育を通した学生の思想統制。「国民精神」の浸透。
・1935年 教学刷新評議会が設置。「国体、日本精神の本義」にもとづいた日本独自の学問体系に国内の学知を再編する。
・1937年 近衛内閣、挙国一致、思想動員。国民精神総動員実施要綱。
・教学統制 (1939帝国大学への具体的指示、1940国立私立大学への指示)
・国文学は、その「国体」「日本精神」の内実を期待される。
 日本の文学史を古代から続く永続的な価値の発現として、日本古典から国家民族の固有・永続的価値を読み取る。(=日本主義)

(早稲田大学(という個々の場で)
・国文学という学知が、日本価値の拡散のための技術として、国内思想統制と対外文化工作を実施する。
・早稲田大学は、多くの教員を輩出し、教科書などの出版も多い。これによって彼らの思想が伝わり流通していったということの役割。→<e>本書に通底する、戦時下の思想が流通する場・経路をあわせて考えるというアプローチの、一実践。

・文学部で、カリキュラムの刷新、学科再編、日本精神を基調とした科目編成、国体の本義などの必修共通科目。
・積極的に日本主義的な国文学研究・教育の実践へ。
・五十嵐力(国文学科)『新国文学史』『純正国語読本』(教科書)
・五十嵐力・金田一京助らが日本語教科書の編纂(占領時で日本語教授に用いられる)に参加する。
・日本語教科書を制作する=日本を教える上で価値ある文章を選択する=国文学者がその役割をになう=日本語や日本文化を教え伝え広げる技術
・他、海洋文学、南進文学。

・<e>参照:「学問をしばるもの」
・<e>学問どころか読書も
↓個人の営みとされがちな読書(第二章へ)


■第二章 「読書の統制と指導 --読書傾向調査の時代」

<e>読書の可視化がもたらす***
書物を教え伝え広げていく活動のひとつ。

・”読書傾向調査”:愛読書や感銘を受けた書物などの個人の読書嗜好を質問紙などによって調査する方法。
・例『早稲田大学学生読書調査報告書』
・読書傾向調査は、1920年代から見られ、戦時期に規模・対象が拡大・活発化する。関心が高まり、実践報告が多くなされる。
・読書傾向調査は、戦時期には、国民読書運動(全国的な読書指導のネットワーク)、推薦図書の選定、読書会の組織化等と密接に関わる。
・読書傾向調査を、国内の文化統制の手法(→かつ対外文化工作へ転用)として位置づける。
・(本研究の特徴)読書指導や読書統制については先行研究があるが、読書傾向調査にはあまり触れられていない。
・読書傾向調査が、戦時期に、図書推薦事業の図書選定の根拠として、その推薦図書が読まれているかどうかの検証として、読書指導への足がかりとして、位置づけられていくこと。その規模や対象が拡大していくこと。

(読書指導の動きは、こう)
・国民読書運動は、読書を全国的に指導統制する仕組み。
・同時期、文部科学省が全国的に読書指導統制の仕組みを強化していく。(大政翼賛会推奨図書の共同読書会など)
・読むべき図書を選定し、それを広く読ませようとする動き。選書・読書指導は思想指導に近づく。
・1938年 日本図書館協会が国民精神総動員のための「図書館総動員」活動を提唱する。図書館による読書指導への関心が高まる。
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」(読書方法、読むべき図書リストを含む)が提示される。大東亜共栄圏建設に寄与する自覚的日本人を作ると言う目的。

(読書傾向調査は、こう)
・1936年、文部省思想局が各地の学校の各種調査(読書傾向調査を含む)を調査
→1938年、文部省教学局が全国学生調査(読書傾向調査を含む)を実施する
・1938年 内務省による児童雑誌の指示指導(「浄化」)、1939年文部省が児童図書推薦(読書指導と選書)→図書推薦=読書指導
・読書傾向調査→推薦図書の普及の検証。1939年の文部省による児童読書傾向調査は「推薦事業の成果を検証」するとしている。
・同様の活動が勤労青年、農村、女学生へも。

(読書会)
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」が提示される。
・要綱では、読書後にそれを口頭発表することや、読書日記に記すことを推奨。これは読書を(個人的営みではなく)集団で共有することを求めている
・共有の先には、点検、指導があり、それは内面の可視化による点検・指導である。
・1942年、日本図書館協会が『読書日録』(日記帳)を作成・販売。
読書の可視化=内面の可視化→戦争に有用かどうかでの価値付け

・調査=その集団の読書実態の可視化→見合った図書選定→読ませる指導活動=読書会 ←読書傾向調査は(孤立した事象ではなく)読書統制のための一連の技術、一連の思想統制の手法である。
・この一連の技術は、読者の可視化だけではなく、読むという行為自体の可視化である。←<e>もっといえば、その可視化は読書(個人的行為)をプライバシーから引きずり出した集団化・社会化といえる?(↓読書会へ)
・調査自体は一見中立でも、読書指導へ続く一連の技術・転用
・一般的な(誰にでも推薦すべきというような)推薦ではなく、具体的な読者層に応じた積極的な読書指導、が必要とされた。<e>アプローチは分かるんだけど。

・<e>この一連の技術は応用・汎用可能?(例えば現代)

・「この章で…なぜそうした一連の手法としてとらえる必要があるのか?」
→「その技術がどのように変化し、利用され、転用されていくのかをとらえる手立てとなる」→内地から、占領地・移民地へ。この一連の技術は満州へも適用される。
→1943、満州開拓読書協会が設立される。満州での読書指導と指導者養成のため。

・この章の最後では、読書後の内面化が実際にはどうおこなわれたか、「具体的な『読書日録』や『読書日記』から今後明らかになっていくこととなるかもしれない」

・戦時期早稲田大学学生読書調査報告書[川越淳二著]不二出版, 2021.12


■第三章 「「東亜文化圏」という思想 --文化工作の現場から」

<e>雑誌というメディア
<e>現地理解への考え方

・雑誌『東亜文化圏』: 東亜文化圏の会(青年文化協会(母体))の機関誌。東南アジアへの文化工作の実践。1942-1945。
・青年文化協会: 日本を中心とした「新興東洋文化圏ノ拡充強化」の人材育成を目的として、アジア諸国(中国以外、南洋・東南アジア中心)との対外文化事業を展開していく財団法人。もとは海外留学生対応をしていた。留学生教育、教育部による日本語教育普及事業など。
・1942年、東条英機内閣で大東亜建設審議会が設置、大東亜共栄圏構想が具体化。大東亜省が設置され、欧米や東南アジアに対する対外文化事業を担当する(芸術普及、日本語教育、国際文化振興会などの文化団体の指導・補助)
・「東亜文化圏」という思想: それまで日本発信としておこなわれた文化工作を、大東亜という広域の文化圏に拡大し、その中心に日本を据える。アメリカ文化圏と欧州文化圏とアジア文化圏の思想戦。地政学を根拠とする。

・実際に文化工作・教育宣伝をおこなっていた官民の多様な活動のひとつが、『東亜文化圏』
・『東亜文化圏』の特徴:
 対外文化政策を、宣伝学・新聞学を通して、体系化・科学化していこうとしている(理論)
 映画音楽言語等の多様な表現領域で、言語政策・映画制作などのぐたいてきな対外文化政策の実践が検討されている(具体策、提案)
 インドネシアやフィリピン等における日本占領地での実践データや報告を多く含む(現場、実践結果、検証批判)

・『東亜文化圏』は「全東亜を思想的に一体一丸たらしめむとする」
・『東亜文化圏』は、地政学(という科学・思想)を文化工作として実践に移す場となっている。また、地政学だけでなく民族学や、新聞・宣伝のような民族の統一性をつくりあげる技術が、それを実践的な文化工作をおこなうことによってつくりあげようとしていく現場の活動と結びつき、現場実践・経験の豊富な情報・報告の提供にいたる。<e>雑誌というメディアが、多様な学知・理論、宣伝・文化工作、実践活動を、まとめあげる場となっている。雑誌はコミュニティ、雑誌は活動(無いけど理想的なものをみんなでつくりあげようとしている)、★<e>雑誌の”場”の機能。(速報性、多様性、集合性)
・報告・集約されている実践例: 日本語教育、映画。

・政策と現地実践とのずれへの指摘や批判もしばしばおこなわれている。例:現地状況や住民の理解不足のままの、一方的な対外文化政策。例:現地状況を理解するための、現地調査結果の報告など。
→現地の現実を調査し理解し、各国に適した文化工作が必要、という考え方。(そうでない欧米的なまなざしの国際文化振興会に対する批判、日本の西洋化への批判)
一方的な文化発信ではなく、現地に出向き、現地の青年と交流しようという動き。/実際にアジア各地に会の拠点を作ろうとする動き
→日本の文化工作政策自体への疑問や批判。
・ただしその批判は、方法・技術への批判であり、目的への批判ではない。(現地の理解が得られないのは、日本の価値や文化工作の目的がまちがっているのではなく、方法・技術がまちがっていて充分つたわっていない)
→結果どうなったかといえば、現地へは、兵士ではない民間の青年が文化戦闘員として派遣されるべき、という主張がされる。
<e>どうしてこうなった。どこでまちがえた。そして、現代の我々はこれと同じ間違いをしていないだろうか、という不安。

<e>可視化→理解・調査・相手を知る→批判・自省


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図書館が文献をメールで送るための近くて遠き道 : 「図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会」メモ

 2021年6月に著作権法が改正され、図書館がいよいよ文献複写をメール等で送っていいという時代が、来るのかどうなのか、それをどう段取りするのかを協議している関係者協議会による、2023年の本サービス開始を前にした、説明会、というのがおこなわれ動画配信もされていますので、それを見たまとめメモと所感。
 2022年10月24日現在です、新コンテンツが公開されれば追記するかも。


●説明会動画
・図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会(1回目)説明アーカイブ - YouTube
 https://www.youtube.com/watch?v=WuF6iONAtiY
・動画見た人が質問を送れるフォーム(10月31日まで)
 https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeMJKjUPBBzP5tJTk60PfpOTLOsFa5-4agIb3kd-FwWHI8hYQ/viewform?usp=sf_link

●ドキュメント類
・図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会
 http://www.jla.or.jp/committees/chosaku/tabid/988/Default.aspx
・図書館等公衆送信サービス説明会 説明資料(2022年9月30日)
 http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/20220930_toshokankoshusoshin.pdf
・図書館等公衆送信サービス説明会 1回目質疑応答概要
 http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/%E8%91%97%E4%BD%9C%E6%A8%A9%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/kosyusoshin_setumeikai_shitsugi01.pdf



■法改正の概要

・図書館等が、現行の複写サービスに加え一定の条件(※)の下、調査研究目的で、著作物の一部分をメールなどで送信できるようにする。
・その際、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払うことを求める。
(※)正規の電子出版等の市場を阻害しないこと(権利者の利益を不当に害しないこと)、データの流出防止措置を講じることなど

・権利者保護のための厳格な要件の下で、国立国会図書館や公共図書館、大学図書館等が、利用者の調査研究の用に供するため、図書館資料を用いて、著作物の一部分(政令で定める場合には全部)をメールなどで送信することができるようにする。

・公衆送信を行う場合には、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払うことを求める。
(※)実態上、補償金はコピー代や郵送代と同様、基本的に利用者(受益者)が図書館等に支払うことを想定。
(※)補償金の徴収・分配は、文化庁の指定する「指定管理団体」が一括して行う。補償金額は、文化庁長官の認可制(個別の送信ごとに課金する料金体系、権利者の逸失利益を補填できるだけの水準とする想定)



■動画(@図書館に向けた図書館等公衆送信サービス説明会)等からわかる要点

・要件を満たす図書館のみが公衆送信できる。(「特定図書館等」)
・事前に利用者が図書館等に氏名・連絡先等を登録する。その際、不正防止規約に同意を求める。

・不正拡散防止(複製抑止措置?)として、
  全頁のヘッダに、利用者ID等を挿入する。
  全頁のフッタに、図書館名と作成日を挿入する。
図書館から指定管理団体へ、実施実績の報告と、実際に利用者に送ったPDFファイル(ただし利用者IDを削除した別のファイル)を、送付する。
・ファイルは保存期間中に破棄する、誤送信防止の対策をする、等。

・(関係者協議会としては、)補償金は利用者(受益者)が図書館に支払うことで負担することを想定している。
・補償金の徴収分配は、指定管理団体が一括しておこなう。
・補償金は、各図書館が個別の送信ごとに利用者から徴収し、指定管理団体に一括して支払う。
・補償金は、包括的な料金体系(年いくら)ではなく、個別の送信ごとに課金する
・補償金は、一律の料金体系(1件いくら)ではなく、著作物の種類・性質、分量に応じてきめ細かな設定
算定の要素は、著作物の種類(新聞か、雑誌か、価格あり図書か、そうでないか)と、価格と、ページ数。

・著作権者の利益を不当に害さないありかたについて、具体的にはガイドラインを作成する。
・複写送信可能な図書館資料には、ILL借り受け資料、電子資料(契約によりそれが可能なもの)を含む。
・著作権保護期間が満了していれば補償金支払いは不要だが、やっぱ駄目だったとわかったときの追徴・返還について
・複写可能な範囲の問題として、発行後相当期間経過の定期刊行物の著作は全部、が消えて、政令で指定することになった。政令で定めるのは定期云々のほか、複写内の写真や著作物。
・楽譜・地図・画集・写真集はのぞく。



■所感
・「個別に課金・徴収」「個別に複数要素できめ細かに算定」「ヘッダ・フッタにID等を入力」「その後それを削除したものを管理団体に送付」、現場パンクするのでは
・割高でいいから年額定額プランもつくってほしい、事務処理コスト半端ないので。
・なおILL・図書館間については特に考慮されていない様子。(第2回質疑応答より)
・PDFファイルのヘッダーにID等を入力できるシステム・ソフトが用意できなければならない?
・JPEGやTIFFは?
・連絡先はメールアドレスに限らず、LINEのIDその他の各種コミュニケーションツールのアカウント等でよい?([送信」なので)
・発行後相当期間経過の定期刊行物の著作は全部、の政令←図書わい。
・関係者協議会の案に現場から意見する態勢はないのか? パブコメは?


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2022年10月23日

やはり「誰でも」とは誰か? : デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議第2回登壇メモ


 デジタルアーカイブって、何?って考える。
 そのときにいつも思うことは、「いつでも、どこでも、誰でも」の「誰でも」って誰のこと? ということです。
 記憶する権利、あるいは記憶される権利は、誰が有しているのかと。



 これは、先日おこなわれた「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」の第2回に、登壇者の一人として参加しコメントさせていただいたので、そのときのコメントのまとめです。

・「デジタルアーカイブ憲章をみんなで創る円卓会議」 | デジタルアーカイブ学会
 https://digitalarchivejapan.org/advocacy/charter/kenshoentaku/

(参)デジタルアーカイブ憲章について
・デジタルアーカイブ憲章 https://digitalarchivejapan.org/advocacy/charter/
・デジタルアーカイブ憲章 (案) 2022年10月11日円卓会議提出案 https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/09/DA-Charter-ver-20220922.pdf
・デジタルアーカイブ憲章におけるこれまでの論点整理 (2022/10/11版) https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/10/RontenSeiri-20221011.pdf


 デジタルアーカイブ憲章というのは、デジタルアーカイブ学会が策定しようとしているもので、「デジタルアーカイブが目指すべき理想の姿」を提示して、デジタルアーカイブ関係者が実現に向けてどのようなことを行なうべきかを宣言する、というようなものだそうです。(記事末に但し書き)

 なんか、日文研の図書館の人キャラみたいな感じで、「国際化」のあたりのコメントを求められていたのですけど、えーそんなおそれおおい、英語もろくにしゃべれやしないし、なんなら海外の司書紹介するのに、と思いつつ、それでも依頼されたからには”足らず”をどう補えばいいかをほじくったらいいのだな、と思いながら、下記の会議日10/11現在案をふまえて。

・デジタルアーカイブ憲章 (案) 2022年10月11日円卓会議提出案
 https://digitalarchivejapan.org/wp-content/uploads/2022/09/DA-Charter-ver-20220922.pdf

 しかも、最初のコメントターンが持ち時間3分だったので、エレベータよろしく端的短文でピシャリと言わないと無理そうだな、という感じでだいぶ凝縮版にしたのが、下記の2要点です。

 @ 国際化
 A DEI

 メインの発注だった「@ 国際化」のほうですが、上記10/11案でもちゃんと明言はされています、まあ多言語だけで済む話ではないし、正直「観光」につなげないと国際化と言えないのかどうかとも思うのですが、そのあたりはそう言いたい人もいる多様な学会だからそれはそれでいいし、内容的なことを盛り込むにしても現案の派生のようなものになるだろうから、こまかく言い募るようなことでもないかなと(3分しかないし)。
 ただ、もし現案に決定的な”足らず”がもしあるとしたら、それを日本サイドだけで考えてもの申そうとしてることなんじゃないかな、と思ったわけです。
 つまり、「憲章をみんなで創る」の”みんな”とは誰か、と。
 なので、提言@として「「みんなで創る円卓会議」の議論の国際化」を提示しました。

20221023-1.jpg

 これは、デジタルアーカイブやそのコンテンツを国際的に流通させるとか、この憲章をつくって世界にも示すとか以前に、いまこの場でやってるこの議論に、海外から、特に日本の情報やコンテンツを求めている人に加わってもらって話を聞くべきではないのか、ということです。
 (念のため、国籍が海外の人、という意味ではないです、環境とか文脈の問題として。)

 例えばこの憲章ががっちり成立成文化されて、世に公表されまた英訳版も作成されて、こんなん作りましたって海外の関係者に発表したときに、たぶんですけど、「えっ、なんで決める前に教えてくれなかったの、先に見せてくれてたらいろいろ言えたのに」ってなると思うんです、国際化トピックスのあたりに対して、海外の日本研究関係者や司書等から。
 なると思うんです、っていうか、過去にそうなってた/なってるシーンを別の企画でちょいちょい見聞きしてるので。たぶんそういうの、なんだかなー、って思われるパターンのやつだと思います。知らんまに知らんとこでやってんなー、ていう。

 ていうか、それってもうすでに海外サイドから提言されてることなんですね。

・「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」
 http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/04/J2016_520.pdf
・極私的解説付きの「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」: egamiday 3
 http://egamiday3.seesaa.net/article/450762067.html

 これは海外で日本美術やその研究・資料提供の仕事をしている専門家の人たちが、日本側に向けて「もっとこういうふうに情報発信力を高めてほしい」ということを提言してくださったもので、美術に限らずあらゆる文化・学術的プロジェクトに言えることかと思います。
 その中に「3.3交流・ネットワーク作りやコラボレーションが重要であること」の一部として、

20221023-2.jpg

 「海外の関係者もプロジェクトに加えて進めること」
 日本側だけの問題として日本側だけでなんとかしようとするのではなくて、向こうの人たちひっぱりこんで。それで何かが成就するか憲章が成立するかどうかよりも、一緒になって何かやってるその過程の議論や活動のほうにこそなんか意義的なものがありそうに思います。
 少なくとも、あたしみたいな中途なハンパ者に国際化まわりのコメントさせようというくらいであれば、リアル開催でもないんだし、オンラインで誰なりとひっぱってくればよいのではと思うので、第3回はぜひそのようによろしくお願いします。

 というのも、もちろんこれは主語が日本だからとか我々の範囲とはという話はおっしゃるとおりにせよ、受け手・ユーザの話を聞くチャンネルはあっていいし、何より、日本サイドだけで意見こねくり煮詰めてるだけでは得られないような、ちがった見方が得られるのがいいんだって、こういうのは釈迦に説法かと思うんですが。
 実際現案のデジタルアーカイブの「国際化」の文脈に「観光誘致」が出てきてると、そのコンテンツはなんというか、キラキラしたポジティブな美しい国みたいなもので飾られてしまうのではないかという危惧もなんとなくあるのですが、開国ニッポンじゃないんだから日本サイドの売らんかなを「国際化」と言ってる場合じゃないので、ほんとのところ我々が日本から世界へアクセス可能化していくべきコンテンツはそんなものばかりではないし、じゃあ何が求められてるんだ、っていうのはシンプルに傾聴すべきだろうと。

 例えば先にリスボンで開かれたEAJRS(ヨーロッパ日本資料専門家会議)では(あ、その録画もYouTube(https://www.youtube.com/channel/UCaDvNifPoLWOsRrLUC2p-tg)で公開されてるので、どうぞご覧ください、良い時代になった)、こういう指摘がありました。
 いま海外の日本研究や教育で取り扱われているトピックには、主にDEIの視点が取り入れられている。なので、必要とされているコンテンツは例えば、アイヌ、琉球、ジェンダー、部落解放、水俣、といったことだ、云々。

 というわけで、そうだ、取り組む姿勢にもコンテンツにもDEIを、という発想を得たのが「A DEI」です。

20221023-3.jpg

 「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」をあわせて「DEI」と昨今では称されていますが、特に今回焦点をあてたのが「Equity(公平性)」だったかな、と。
 こういう図をネットでよく見るかと思うのですが。

20221023-4.jpg

 我々が目指すべきって右側ですよね。「誰でも」ってそういうことだと思います。

 という考え方をふまえて現案を眺めてみると。
 利用者がアクセスする時に不利・障壁がある場合には、それをフォローしよう、という「Equity」については言及があるのがわかります。

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【デジタルアーカイブの目的】
2. アクセス保障
「個人の身体的、地理的、時間的、経済的などの事情から発生するあらゆる情報格差を是正し、いつでも、どこからでも、誰でも平等に、情報資産にアクセスできるようにします。」

【行動指針】
(ユニバーサル化)
「心身の機能に不自由のある人々や高齢者など、様々なアクセス障壁のある人びとによる情報資産の更なる活用を促し、デジタル技術を用いて誰もが便利に享受できるようにします。」
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 一方で、自らの情報発信やコンテンツ提供によって、声をあげ存在を示し課題を社会に共有しようとするような、発信者・提供者サイドについてはどうか、と見てみると。
 その「Diversity(多様性)」には言及があるのですが、「Equity(公平性)」やその格差是正にまでは言及が無いのではないか、と思うのです。

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【デジタルアーカイブの目的】
1. 活動の基盤
豊富で多様な情報資産を永く保存し、情報資産の生産・活用・再生産の循環を促すことで、知の民主化をはかり、現在及び将来にわたり人びとのあらゆる活動の基盤となります。」
3. 文化
あらゆる人類の営みと世界の記録・記憶を知る機会を提供することで、多様な文化の理解を助け、新たな創作活動の促進により文化の発展に寄与し、コミュニティを活性化させ、人びとの生活の質を向上させます。」

【行動指針】
(オープンな参加)
「デジタルアーカイブが扱う情報資産の保存・公開・活用等の全ての計画・実施局面において、その提供者と活用者を含む幅広い主体の声を聞き、主体的な参加を促します。」
(体系性の確保)
「アーカイブ機関が保有する情報資産に限らず、大学・研究機関、メディア、民間事業者又は個人が保有する情報資産についても、可能な限り収集・保存し、構造化・体系化して公開します。」
-----------------------------------------------------

 もちろん多様性の確保はきわめて重要なことですが、多様なことだけを目指すつもりでいたとき、ほうっておくとマジョリティに偏るであろう、あるいは声の大きい小さい、力の強い弱い、土地柄や数の大小、そして結局は市場原理によって流れていくだろうことは、まあ容易に想像がつくので、そこを一歩踏み込んで流れを踏みとどまらせるような、意識的な宣言は必要なんじゃないか。
 という思いで、とは言えそういう思いを抽象的にふわっとコメントするだけだと扱いづらいかな、と思ったので、こちらも踏み込んで、なんとなくそれっぽい文体で言語化し、具体的に検討の俎上に載せやすくしたのが、当日の提言Aです。

20221023-5.jpg

 提言A
 「リテラシー、地域、ルーツ、性差、社会制度、市場原理などの様々な要因から、声を発し課題を広く共有することに不利な状況にある、マイノリティや特定の社会的属性を持つ人々にも、デジタル技術により情報発信の格差を是正し、コンテンツ可視化を促すことでエンパワーメントできるように…」的なこと(を現案に加える)

 アクセスに障壁のある利用者がいるのと同じように、提供者・発信者の側にもなんらかの不利な状況にある人たちがいるはずではないか、と。それはリテラシーの問題だけでなく、風潮や力関係で被っている不利かもしれないし、社会の無理解や制度の不整備によるものかもしれないし、単に属性がまれとか数が少ないとかいうマイノリティなだけなのに被っている理不尽かもしれない。それって、リアルな社会現場だけでは声を大きくできなかったかもしれないけども、そのディスアドバンテージをデジタル技術やオンライン環境によって解消し、あるいはアンプのように声を増幅することで、コンテンツの可視化、課題の社会共有が実現できるのではないか。

 デジタルアーカイブって、そういうエンパワーメントができる存在だと思っています。

 ていうか、そういうデジタルアーカイブを目指さないんだったら、デジタルアーカイブ立国なんかやんなくていいって、わりと本気で思ってます、あたし別にデジタルアーカイブ自体にはそこまで価値も興味も置いてるわけではないので。

 そこまで言わなくても「多様な文化の理解」でいいのでは、って思われるかもしれませんが。
 でもアクセスの保障には「心身の機能に不自由のある人々や高齢者」のようにかなり具体的にあれしてるんで、発信者・提供者側についても多少踏み込んでもバチは当たらないと思います。
 「誰でも」って、そういうことじゃないかな、と。
 「記憶する権利」というか「記憶される権利、記憶させる権利」じゃないかな、と。


 というような感じのことを、がんばって3分で当日申しました、というまとめでした。






 但し書き。
 なお、依頼を受けて登壇コメントはさせていただいたものの、実を言うと、このプロジェクトの発端や経緯についてとか、この憲章の主語や矛先がどのあたりなのかというのが、各種文書を拝読してもいまいち身体に落ちてなくてふわっとした状態だったのですが、それでもふわっとした立場なりに遠いところから眺めて言えることもあるんだろうな、というくらいであれさせてもらった感じです。

posted by egamiday3 at 12:17| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月04日

今日の「クイズ鑑賞」メモ: 「東大王」2022年9月21日放送回


 「東大王」2022年9月21日放送回、Tverにて視聴。
 https://tver.jp/episodes/epyydjbgj6
 すべて敬称略。

 クイズ猛者枠は、アタック25地上波最終回の優勝者。


●第1ステージ「4面マルチクイズ」

 第1ステージ「4面マルチクイズ」は、今回初登場の企画。
 画面に4問の問題(主に画像クイズの類)が田の字に並んでいて、どれか1つを選んで解答する。4問中3問が正答10ポイント、1問が難問で正答20ポイントという設定。正解すると、新しい問題が補充される(10ポイントの問題が正答されれば、そのマスに10ポイントレベルの新しい問題が表示される)ので、常に4面中1面を選べる。
 対戦は、先攻・芸能人チームが4人、後攻・東大王チームが3人参加し、各チーム1人づつ解答者となって交互に解答する。つまり7人が1問づつ7問解答して、各チームの合計獲得ポイントで勝敗を決める。これを、一ステージで3戦、(少なくとも今回は)各回で出題内容が異なる。
 1回目 日本各地の郷土料理の写真とヒント(例「青森県」「???に」)から、料理名を答える
 2回目 広辞苑のある見出し語が提示され、その語の次に(五十音順で)書かれている、生き物名を答える(例:おぼつかない→オポッサム)
 3回目 世界遺産の写真とヒント(例「ドイツ」「???大聖堂」)

 これ、東大王チームがかなり不利なルールじゃないかなと。
 4問中10点問題と20点問題があって、東大王チームが3人、芸能人チームが4人。ということは、芸能人チームは全部10点の易問だけ選んでも40点取れるから、東大王チームは1人が難問20点取っても40点で同点。勝ち越そうと思ったら、3人中2人が難問20点で正答(計50点)しないと勝てない。しかも、易問10点は常に3種類の問題が出てるから、まあどれか1つは正答できそうなのあるだろうところ、一方で難問は常に1種類の問題しか出てないので、その1つがわかんなかったらもうアウトっていうことでしょう。ということは、東大王チームは3人中2人が決められた難問1つに必ず正答しないと勝つことはできないし、あろうことか芸能人チームがたまさか難問1つ正解してしまったら(計50点)、東大王チームは3人全員が決められた難問1つに正答(計60点)しないといけない。かなり厳しそう。
 東大王というのはどちらかというと、純粋な知識量というよりも、早押し技術・スピードや、それを支える推理・推測力や、事前の対策力のようなものによって成り立っている傾向があって、この難問1つを確実に正答、というのは難しいんじゃないか。
 実際今回も、1回目の郷土料理は芸能人チームの勝利、これは知識が問われる系(むしろ芸能人チームはロケや情報番組等で有利なやつ)。2回目は、語彙力や五十音による推測力が問われる系で、東大王チームの勝利。3回目の世界遺産は当番組必須科目で、東大王チームの勝利。

 
●第2ステージ「難問オセロ」

 特になし。


●第3ステージ「全員一斉早押しバトル」

 2問目のいわゆる「問題文押し」(注:略)で、ピンクダイヤモンドの原石が発見されたアンゴラを答える東大王チーム・東は、芸能人チームクイズ猛者枠・倉門との”対策会”で情報共有していたとのこと。いまどきの対策は、画像や出題形式あたりまで考慮にいれるんだろうな…。


posted by egamiday3 at 21:56| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする