2023年01月10日

『君のクイズ』(2022年の「コンテンツ掘り」)


 2022年のアルファコンテンツ(http://egamiday3.seesaa.net/article/495546013.html)の中から、特によかったものを掘る、それが「コンテンツ掘り」です。

 ※ネタバレ無いように気をつけて書いたつもりですが、少しでも避けたければ本編をお先に。

君のクイズ - 小川 哲
君のクイズ - 小川 哲


僕はこれからクイズを解く。
「Q. なぜ本庄絆は第一回『Q−1グランプリ』の最終問題において、一文字も読まれていないクイズに正答できたのか?」
(本文より)



 元クイズ研であるとかクイズを観たりやったりしてるとかについて、カタギの方からよく問われるFAQというのがいくつかありますが、そのひとつに「暗記した知識を解答することの、何が楽しいのか?」というものがあります。
 それはたぶんクイズを単純な”知識合戦”と思ってはるからだろうと思うのですが、実際にはそうでなく、知識合戦と推理合戦とを組み合わせた総合力のようなもの、と理解してもらったらいいんじゃないかと思います。あたし自身も、クイズの”知識合戦”の部分は正直ほとんど興味がなくて、(大きく言えば)推理合戦のほうをおもしろいなあと思ってるほうなので。
 その”推理”の側面をつきつめて語ったもの、として『君のクイズ』を楽しみました。やっとこういうのが出てくだすったな、と。クイズをつきつめて考えれば、それは推理小説になりますよねと。(なのでこれは「推理小説」だと思ってます。how done itですかね。)

 概要としては冒頭の本文引用が端的なもので、クイズ番組の決勝戦で、問題文がまだまったく一文字もよまれていないのにボタンを押して正答してしまった対戦相手(本庄)のことを、なぜそんなことができたのかと敗者の方の主人公(三島)が懸命に推理する、という。
 思考実験エンタメ的な。こんなんワクワクするじゃないですかね。
 思考実験ですからだからもちろん、「たまたま」「賭け」「ヤラセ」とかじゃなく、また「暗記超人」でも「魔法超人」でもない。そんなオチは許さない、というのがこの推理のモチベーションなわけですよね(殺人事件ではないので推理のモチベーションとしては、1000万円かプライドあたりになる)。あくまで理詰めで”how done it”を推理する。本文中の言葉で言えば「クイズとは、知識をもとにして、相手より早く、そして正確に、論理的な思考を使って正解にたどり着く競技」とある、その”論理的な思考を使って”の部分です。

 例えば、本庄が過去に出演したあるクイズ番組での解答の様子を、三島が録画映像で見て考察する、という場面。
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 本庄は「日本では阪神・淡路大震災をきっかけに導入」でボタンを押して、「ドクターヘリ」で正答する。
 しかし、「阪神・淡路大震災をきっかけに導入された」としてクイズによく出るものには「ドクターヘリ」と「トリアージ」のふたつがあり(※後に註釈)、この時点ではまだ正解が確定しない。
 三島は「本庄があそこでボタンを押したのはなぜか」ということを以下のように考察する。
 1 「トリアージ」も正解になり得ると知らなかった
 2 賭に出た
 3 ヤラセだった
 そのひとつひとつを検証し、しかしどの推論にも納得できないと判断した結果、さらに第4の「自分が気づいていないだけで、実は「ドクターヘリ」で確定していた」という可能性に思い至る。
 調べなおした結果、トリアージは厳密には「規格の統一がされた」であり「導入」とは言えなかったので、あの時点で「答えが確定していた」。
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 ね、推理小説じゃないですかね。 

 この場面なんかもそうですけど、全編、彼が懸命に推理する様子については、「自分が気づいていないだけで、答えは(あるいは答えにつながる手がかりは)どこかにあるのではないか」ということを”信じて”いるから、そこまでつきつめて考察する、しようとする意思を持つ、ことが成り立つんだろうな、と思います。
 
 これもよくあるカタギの方からの物言いで、「クイズみたいにどんなものにも正解なんてあるわけではない」という類のあれがあります。ただ、こちらからしてみれば、「そんなこといちいち言われんでも、クイズやってれば痛いほどよくわかっとるわ」という感じです。クイズなんて、やってもやってもわからないことだらけなんだから。
 世の中には、あるいは我々生きていれば、無数の課題にあたり、問題にあたり、また無数の選択肢や候補にあたり、どれが正解かもわからないし、どれが正解と言えるわけでもないし、その選択肢がすべてでもなかろうし、そして正解などというものがあるかどうかも定かではない。それでも我々は、個々人またはこの社会は、なんとか考え、判断し、選んでいこうとする。

 そこでおこなわれているのは、目の前にある条件と候補の中から、いや可視化されていない条件や可能性も含めて、どこかしらに何かしらの”最適な解”があるのではないかということを信じて、ウソでも信じて、ギリギリまで考え抜くこと
 それは畢竟、現実問題もクイズも同じことじゃないかと。
 考え抜くこと、それが一番大事、なので、実際に正解が存在するかしないかは、正直さほどたいした問題ではないんじゃないでしょうかね。(クイズで用意された正答だって所詮は人為的なものに過ぎないので)

 でも、そんな無数の選択の連続の中で、「それでよかったんだよ」と肯定してくれるのが正解音の「ピンポン」だったとしたら、それに癒やされ幸福を感じ時に涙してしまうという登場人物たちの人情も、わかるといえばわかります。
 それが他人からの判定ではなく、自分で鳴らしにいく「ピンポン」であればなお良しですが。
 ………そうか、「あの鐘を鳴らすのはあなた」ってそういうことか。(違う)

 さて、本題のゼロ文字押しのほうは、まだ一文字も読まれてないという前提ですから問題文そのものから推理することはできず、外的要素を中心とした推理ということになります。そこには現実的な問題や社会的要因が絡んでくる。絡んできてあたりまえです、クイズだって、別に”純粋クイズ空間”のようなところでやってるわけではなくて、現実社会の中でやってるわけだから。(純粋クイズ空間や純粋クイズ能力や魔法超人のような解答があるかのように見えるのは、テレビ番組がそういう演出のエンタメだからであり、でもそれこそ現実社会の一部なわけで)
 なので、最後の最後に、クイズにだけストイックに向き合う云々というのは、それはそれでちょっとどうかな、と思います。クイズが”リテラシーのギャップを持ち寄っておこなう娯楽”である以上、それは必ず社会性を帯びます、問題も正答も自然に降って湧いてくるものではないので。ストイックに向き合う系の姿勢って、若い人にとっては親和性高いかもしれませんけど、でもクイズに特化して言うと、それでずっと冬の時代続いちゃってましたので。
 (そもそも本当にストイックに取り組むなら、出題者サイドから目を背けるような姿勢はないだろうと)




 ※註釈
 本小説ではこの箇所で、「なぜ「阪神・淡路大震災をきっかけに導入された」のがドクターヘリとトリアージのふたつしかないと言えるの? 他にもあるかもしれないのに?」という、おそらくカタギの方から出るであろう疑問を逐一フォローしていないのですが、他にもあるかもしれない無数の選択肢の中からなぜそのふたつが「クイズによく出る」と絞れるのかについては、例えば以下のような考え方があると思われます。
 ・テレビ番組の視聴者にわかりやすく、高度に専門的ではないこと
 ・現在では浸透している概念のきっかけが○○であった、という物語性があること
 ・正答として提示しやすい短めの名称であること
 ・続く問題文の中で正答を一意に定めやすい用語であること



posted by egamiday3 at 07:58| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月04日

「海外の日本研究と日本図書館」に関する2022年11月・12月の動向レビュー -- 各種シンポ、海外日本語教育機関調査、JEAL2022年秋号 他 ( #本棚の中のニッポン )


■トピックス

●これからの予定

・CJS Thursday Lecture Series | Naomi Fukuda, Backseat Player for Japanese Studies: Izumi Koide, former Director of the Resource Center for the History of Entrepreneurship, Shibusawa Eiichi Memorial Foundation | U-M LSA Center for Japanese Studies (CJS)
 https://ii.umich.edu/cjs/news-events/events.detail.html/102036-21803381.html

・多言語多文化共生センター(社会貢献部門) 助成事業 多文化共生活動助成/国際共同教育(サンフランシスコ州立大学・東京外国語大学)「世界のなかの日本:アメリカと日本」 | 2022年度 | EVENTS | 東京外国語大学
 http://www.tufs.ac.jp/event/2022/230127_1.html

・East Asian Studies & Digital Humanities 2023
 https://web.sas.upenn.edu/dream-lab/east-asian-studies-digital-humanities-2023/


●Journal of East Asian Libraries(2022年秋号)
「A Reflection on the Challenges and Collaborative Potential in Working with Buddhist Studies Materials in East Asian Librarianship」ほか

・Journal of East Asian Libraries | Vol 2022 | No. 175
 https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/vol2022/iss175/


■デジタルアーカイブ/デジタルヒューマニティーズ

●「The Digital Turn in Early Modern Japanese Studies」(2022/12/2-4)
・The Digital Turn in Early Modern Japanese Studies
 https://japanesedhconference.co.uk/


●「Digital Humanities Resources for Early Modern Japanese Literature」
 上記シンポ発信で立ち上がったサイト。

・Digital Humanities Resources for Early Modern Japanese Literature
 https://japanesedhresources.co.uk/
「created with funding from Cambridge Digital Humanities (CDH) in conjunction with The Digital Turn in Early Modern Japanese Studies conference held from 2-4 December 2022」「a repository of existing tools that either facilitate or utilise digital humanities research in the field of early modern Japanese literature.」

・A Critical Introduction to the Repository of Digital Humanities Resources for Early Modern Japanese Literature – The Digital Orientalist
 https://digitalorientalist.com/2022/12/27/a-critical-introduction-to-the-repository-of-digital-humanities-resources-for-early-modern-japanese-literature/


●「デジタル・ヒューマニティーズが拓く日本研究の新展開」
・オンライン研究交流ワークショップ「デジタル・ヒューマニティーズが拓く日本研究の新展開」の参加者を募集します。(11/15情報更新) | 新着情報 | グローバル日本学教育研究拠点
 https://www.gjs.osaka-u.ac.jp/news/2022/1761/
「デジタル・ヒューマニティーズの手法による日本研究という領域でなされている最先端の取り組みの成果を共有するとともに、若手研究者間の研究交流の機会を提供し、当該領域の研究のさらなる活性化を図ることが目的」


■日本研究

●「The Modern Japan History Association」webサイト公開

・The Modern Japan History Association
 https://mjha.org/


●「Global Asian Studies」webサイト公開

・GAS: Global Asian Studies
https://gas.ioc.u-tokyo.ac.jp/
「The Institute for Advanced Studies on Asia (IASA), as one of the leading institutes of Asian studies located in Asia, established Global Asian Studies (GAS) program in 2022 to promote an “inside-out” approach to Asian studies. This approach respects the agency of local scholarship to determine what should be studied, while engaging with global audience.」


●ヨーゼフ・クライナー氏が第4回日本研究国際賞を受賞

・NIHU Magazine No.080 - ヨーゼフ・クライナー氏が第4回日本研究国際賞を受賞 | 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
 https://www.nihu.jp/ja/publication/nihu_magazine/080
「日本をフィールドとした民族学・民俗学研究の専門家として、また、ヨーロッパ日本研究協会初代会長、ドイツ日本研究所初代所長として、日本研究の国際的発展に多大な貢献」

・第4回人間文化研究機構日本研究国際賞授賞式及び記念講演のご案内 | 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構
 https://www.nihu.jp/ja/event/20230120


■日本資料

●「バチカンと日本 100年プロジェクト」シンポジウム
・江戸時代の奉答書、昭和天皇の親書…バチカンと日本、450年の交流:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQDG4CJ6QCKPLZB00P.html

●ハワイ・パシフィック・プレス
・「ハワイと沖縄の架け橋」44年間邦字紙発行 移民1世の生活記録した”歴史資料” | HUB沖縄(つながる沖縄ニュースネット)
 https://hubokinawa.jp/archives/20412
「ホノルル市で発刊されていた日系人向けの邦字・英字新聞がある。その名も「HAWAII PACIFIC PRESS(ハワイ・パシフィック・プレス/HPP)」。1977年11月〜2020年12月まで月2回のペースで発行」


■日本語教育

●国際交流基金2021年度「海外日本語教育機関調査」

・国際交流基金 - 2021年度 海外日本語教育機関調査
 https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/survey/result/2021/2021.html

・国際交流基金 - 【取材のお願い】2021年度「海外日本語教育機関調査」結果 全世界の「日本語教育機関数」「日本語教師数」「日本語学習者数」〜コロナ禍においても学校教育機関でほぼ横ばい、学校教育以外の機関で減少〜
 https://www.jpf.go.jp/j/about/press/2022/023.html
「前回より減少しましたが、機関数と教師数は過去の調査で最多だった前回調査に次ぐ数となり、学習者数については3番目」

・コロナ禍、海外の日本語教育実態は? オンライン授業実施は6割:朝日新聞デジタル
 https://www.asahi.com/articles/ASQCS5RWNQCSUHBI01H.html


■情報発信・交流

・いつか誰かが見つけてくれる | ECOSTATS
 https://ecological-stats.netlify.app/2022/11/13/china-japan/
「いい研究をしていれば、いつか誰かが見つけてくれる」が成り立つのはマジョリティーに属している場合のみ」「日本の平均的な研究力・創造力はアメリカと比べてそん色がないどころか、大きく上回っているとすら感じる。しかし現状では、多くの欧米人はそんなことは知る由もなく定年を迎えるのだろう」

・上海内山書店跡に新書店オープン 中日文化交流の新たなシンボルに | 新華社通信
 https://nordot.app/970574665103720448


■社会問題

・Anti-Asian Racism Working Group’s student members aim to build community, drive change
 https://www.utoronto.ca/news/anti-asian-racism-working-group-s-student-members-aim-build-community-drive-change

・Precarities in Public Scholarship and on Public Platforms in Japanese Studies
 https://mla.confex.com/mla/2023/meetingapp.cgi/Session/14623
「Panelists address public-facing scholarship, online harassment in response to scholarship, and the precarities of managing an online presence while engaging in research that challenges established power structures.」

・技能実習制度、抜本見直しへ 有識者初会合、存廃含め議論:東京新聞 TOKYO Web
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/219909
「委員からは「内外の批判に正面から向き合い存廃を考えるべきだ」といった発言があった」
・技能実習見直し 理念離れ、本格是正不可欠 「強制労働」国内外で批判【大型サイド】|あなたの静岡新聞
 https://www.at-s.com/news/article/national/1165102.html
「問題に正面から向き合ってこなかった政府の責任は重く、ちょっとした手直しでお茶を濁すことは許されない。技能実習制度は廃止し、外国人労働者を適切に受け入れる制度を抜本的に作り直すべきだ」

・国連、日本の入管死亡に懸念 「人権救済機関」創設を要求|全国のニュース|京都新聞
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/911953?gsign=yes
「国連の自由権規約委員会…は日本政府に対し、「パリ原則」と呼ばれる国際基準に沿った独立した国内人権救済機関を早期に創設するよう要求。設置に向けた具体的な説明が日本政府側からなされなかったことを遺憾とし、十分な予算と人員を備えた機関の立ち上げを求めた」

・村上作品、廃棄処分へ 「非伝統的」禁止、吉本ばななさんも―ロシア図書館:時事ドットコム
 https://www.jiji.com/jc/article?k=2022122000235&g=int
・モスクワの図書館で村上春樹さんの作品など廃棄のリスト配付か | NHK | ロシア
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221222/k10013930721000.html



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