※他意はありません。
ピンポーン。
「いらっしゃいませ、こんにちわー」
「・・・・・・あれ?」
「こんにちわ、こちらへどうぞー」
「あの、ここって、図書館ですか?」
「はい、幕土市立鳴門図書館でございます」
「え、マクドナルドですよね?」
「図書館です」
「マクドナルドでしょう、この内装、どう見ても。あなた制服着てるし」
「マクドナルドではありません。当店は、マクドナルド”みたいな”図書館です」
「何それ?」
「図書館にもお客様第一のサービスが求められる時代になって参りましたので、当店ではこのように、マクドナルドをお手本とした図書館を営業しております」
「へぇー、がんばってんねぇ」
「はい、結構ムリしてます」
「お手本ってか、まんまだよね、これ」
「いえ、”みたいな”です」
「ていうか、僕、本借りに来たんですけど、本棚ないじゃないですか」
「こちらのメニューをどうぞ」
「メニュー? え、なに、ここから選ぶの?」
「はい、当館の蔵書メニューです」
「だってこのメニュー、ベストセラーとか有名どころしか載ってないじゃないですか」
「ええ、まあ、たいていのお客様はこれでまにあいますので」
「なんかいま、軽く毒吐かれたような気がするけど。なんかこう、検索するやつとかないの」
「ご希望の本をおっしゃっていただければ、ご注文にあわせてこちらでご用意いたします」
「あ、じゃあ、言えば出してくれるんだ」
「はい、私自身が次世代OPACです」
「ん、なんかわかんないけど、まあいいや。えーとね、うちの子が読みたいって言ってるんだけど、ハリー・ポッターの最後のやつあるじゃないですか。いろいろあるから覚えてないけど・・・」
「それでしたら、『ハリー・ポッターと死の秘宝』ですね」
「おっ、さすが次世代OPACだねぇ、早いじゃん」
「本日はこちらでご閲覧ですか?」
「ご閲覧・・・ていうか、持って帰ります」
「あ、はい、お貸出ですねー」
「・・・・・・なんか調子狂うな」
「お客様、ごいっしょに『ハリー・ポッターと謎のプリンス』はいかがですか?」
「え?」
「こちらの本をお借りになった方は、こんな本もお借りになってます」
「あ、いや、いいです。それはもう読んでるから」
「でも、こんな本もお借りになってるんです」
「いや、借りてるかもしんないけど、順番逆じゃん。ていうか、なんでそんなに薦めてくんの」
「マクドナルドみたいな図書館ですから」
「あー、そうでしたね。あとはじゃあ・・・、そうだ、上の子が学校の自由研究で「地球を守る」とかって言ってて、環境問題のこといろいろ聞かれちゃってるんですけど、なんかいい本ないですかね」
「でしたら、こちらの本などいかがでしょうか?」
「なに?」
「『環境問題はなぜウソがまかり通るのか』」
「ケンカ売ってんのか、あんた。地球を守る、っていう自由研究だって言ったじゃん」
「こちら、環境問題の本の中では、当館の貸出ランキング1位となっておりますので」
「だからって、いらないもんはいらないから」
「レレバンスでも1位・・・」
「しらねぇよ」
「ごいっしょにこちらの本もいかがですか?」
「なに?」
「『”環境問題のウソ”のウソ』」
「おちょっくてんのか」
「おちょくってません。しかも、これがAmazonさんでもほんとにお薦めしてますから、大笑い」
「やっぱりおちょくってんじゃないか」
「せっかくですので、『「買ってはいけない」は買ってはいけない』もいかがですか」
「どんなレコメンドだよそれ、ネタとして言いたいだけだろ」
ピロリッピロリッ
「え、いまのチャイム、なに?」
「あれは当館のRSSです。ただいま新着図書が揚がりました。ごいっしょにいかがですか?」
「いりません。揚がりました、てのはなんだ。もういいから、その『ハリー・ポッターと死の秘法』だっけ、それ借りていきます」
「かしこまりました。えー、では上下2冊でお会計3900円になります」
「金とるの!?」
「上下2冊ですので、バリューセットでお安く・・・」
「いや、そういうことじゃなくて、え、だって図書館でしょ、ここ」
「申し訳ありません、当館は図書館有償論でやってますので」
「いや、図書館っていったら、普通タダなんじゃないの」
「お言葉ですがお客様。図書館は決して無料の貸本屋などではございません」
「うん、言いたいことはわかるけど、そこで”無料”のほうをやめちゃうのはおかしいよね」
「いまのご時勢、図書館がいつまでも無料でやってけると思ったら、おおまちがいです」
「なんで偉そうなんだよ」
「こちらごらんください、メニューにもお値段が」
「うわ、ほんとだ。上下2冊でバリューセットて書いてある。でも3900円てほとんど定価じゃないの」
「著者の権利を守るためです。権利者のお目こぼしあっての図書館ですから」
「なんかもうぐちゃぐちゃだな、この図書館。・・・あれっ、ていうか0円っていうのあるじゃん、これ」
「はい、スマイルは0円です(笑)」
「はあ、そのへんも本家といっしょなんだね。その下にもあるね、これは何?」
「それは”図書館の自由”です。図書館の自由も、0円です」
「・・・・・・そのネタは、どうなの?」
「・・・・・・いや、わかんないです」
「たぶん誤解招くよね」
「まあ、私どもの関係者にも自由をはきちがえてる方が多く・・・」
「も、もういい、それ以上言わなくていい。それ、”どっち”にもケンカ売ってるように聞こえるから」
「ごいっしょに法務省のマル秘・・・」
「あんた、わざとやってるだろ。もういいよ、ハリー・ポッターだけもらって帰るから、出してください」
「お客様、たいへん申し訳ございません。ご注文の『ハリー・ポッターと謎のプリンス 』がですね、超人気ベストセラーになっておりまして、お貸出まで少々お時間をいただいております。こちらの札を持ってお待ちください」
「え、待たなきゃいけないの? どのくらい?」
「ただいまご予約のお客様、378人待ちになっております」
「ダメだこりゃ」
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