2012年12月26日

業界コント「もしも図書館がスターバックスみたいだったら」

 
※他意はありません。実在するなんやかんやとは無関係のフィクションです。
 
「いらっしゃいませ、こんにちわー」
「・・・・・・あれ?」
「よろしかったら、こちらに見やすいメニューございますので」
「あの、ここって、図書館ですよね?」
「はい、須束市立玖珠図書館でございます」
「スターバックスみたいだけど」
「いえ、図書館です」
「なんか内装おしゃれだし、ソファも。あなただってポロシャツに緑のエプロン着てるし」
「エプロンは図書館に欠かせませんので」
「”マクドナルドみたいな図書館”は以前住んでた町にあったけど( http://egamiday3.seesaa.net/article/111499129.html , http://egamiday3.seesaa.net/article/158803183.html )、スタバもあるのかあ」
「当館では、図書館をお客さまのサード・プレイスとしてご愛用いただきたいと思い、このようなスタイルをとりました」
「がんばるなあ。小学生の息子がよく図書館に通ってるとは聞いてたけど、ここかあ」
「本日はこちらでご閲覧ですか?」
「息子が冬休みの自由研究やってるんだけど、他の宿題で忙しいからかわりに本借りてきてって頼まれちゃいましてね。じゃあ、ここで注文したらいいんですか?」
「はい。こちらのメニューからどうぞお選びください」
「メニューね。・・・・・・あの、ここ、図書館ですよね?」
「ええ、図書館です」
「このメニュー、見たことないカタカナばかり並んでるですけど、これ何なんですか?」
「当店のバリスタによるこだわりのサービスです。そういうスタイルです」
「バリスタ、もちょっとわかんないんだけど。え、なに・・・、レファレンス・サービス、サーキュレーション・サービス、リプロダクション・サービス、インター・ライブラリー・ローン・サービス、インフォメーション・リテラシー・インストラクショ・・・いや、もうちょっと読むだけでもきついんですけど」
「さらにこちらが専門家によるメディカル・インフォメーション・サービス、コミュニティ・アウトリーチ・サービス、アカデミック・ライティング・サポート・サービス、専門家限定のアーティクル・プロセッシング・チャージ・サポート・サービス、オープン・アクセス・アンド・セマンティック・ウェブ・アンド・リンクド・オープン・・・」
「あの、単純に本を借りたいだけなんですよ」
「ああ、図書を」
「図書、うん、まあいいや。借りれますよね?」
「はい。サーキュレーション・サービスが図書の貸出になります」
「だったらそう呼べばいいのに」
「そういうスタイルですので。では、サーキュレーション・サービス・カウンターのバリスタが応対致します。あちらのレモン・イエローのランプの下でお待ちください」
「え?」
「レモン・イエローです。あちらの、ライム・グリーンとダーク・ブルーの間の」
「黄色じゃないかただの。待ってればいいのね?」
「・・・お待たせ致しました」
「あれ、あなたさっきと同じ人じゃないですか。なんで移動させたんだ」
「ご注文をおうかがいします」
「やっとだよ。じゃあね、海の生き物について調べる自由研究らしいんですけど、そういう本を借りたいんです」
「お客さま、オンライン・パブリック・アクセス・カタログはごらんいただけましたか?」
「まただよ。なんですか?」
「OPACです」
「いや、わかりません」
「オー、ピー、エー、シー」
「綴りはいいんですよ、わからないから」
「本を検索するデータベースなんですけど」
「そう言ってくださいって。自分で調べるのとか苦手なんですよね。できれば相談にのってもらえるといいんだけど」
「それでしたら、レファレンス・サービスのほうがよろしいですね」
「え、サーなんとかとはちがうの?」
「レファレンス・サービス・デスクでサブジェクト・バリスタが応対致しますので、あちらのインディゴ・ブルーのランプの下でお待ちください」
「また移るの? どれ?」
「インディゴ・ブルーです、サーモン・ピンクの隣の」
「わかんないって」
「その紺色っぽい」
「ああ、ここね」
「いえ、それはダーク・ブルーです」
「助けてー ><」
「・・・お待たせ致しました」
「そしてあんたかよ」
「はい、サイエンス・コミュニケーション・バリスタも兼ねてますので」
「いいから、海の生き物の本がほしいんです」
「こちらのパスファインダーを使いますか? もしくは、ビブリオグラフィック・インストラクションもカスタマイズできますが」
「本をっ。頼むからっ。たかが小学生の自由研究ですよ」
「そうですね、まずはこのようなお子様用のピクトリアル・レファレンス・ブックはいかがでしょう」
「図鑑じゃないか」
「あとは、デアゴスティーニの『週刊・海の生き物』ですとか」
「なんだろう、”デアゴスティーニ”がはじめてなじみのあるカタカナなんですけど。いいや、じゃあその図鑑と雑誌、貸してもらえますか」
「申し訳ありません。コール・ナンバーなしのピリオディカルやレファレンス・ブックはイン・ハウス・オンリーでして、サーキュレーションはできませんが、オーバー・ナイト・ローンでしたら・・・」
「ああ、原因がわかった。あのね、そのカタカナ語をやめませんか。日本語で言ってくれればわかると思うんですよね、きっと」
「日本語ですか? えっと、請求記号なしの逐次刊行物や参考図書は禁帯出なので貸出できませんが、一夜貸しでよろしいですか?」
「・・・ごめんなさい、「かしだし」しかわからなかった。これはもっと根本的な問題だと思う」
「ほかには一般書で、小説風に海の生き物を扱ったものですとか、あとは専門的な資料案内の図書になってしまいますね」
「大丈夫ですよ、息子はわたしと違って本を読むのに慣れてるみたいなんで」
「ただこの小説は、作者の意向で出版後6ヵ月間、貸出できないんです」
「え、そんなことあるの?」
「奥付にこのような注意書きが」
「せちがらいねえ。じゃあこっちは?」
「こちらは「一切の複写、電子化、自炊、飲食・喫煙、ながら読書は禁止」と書いてますね」
「読み方も決められてるのか。こっちの本はどう?」
「えー、「高菜は先に食べるな」」
「ラーメン屋かここは。作者のこだわりは際限がないなあ」
「あ、これはいかがですか、『沖縄・海の秘宝』というドキュメンタリーのDVDがあります」
「DVDもあるんだ」
「はい、あちらの奥の、AV資料コーナーに」
「・・・え、図書館に、その、AVもあるの?」
「AV資料、ございます」
「あのね、言ったでしょ、うちの子は高学年とは言えまだ小学生なんですよ」
「でしたら、ヤング・アダルトのDVDも・・・」
「いやいやいや、それはなに、あなた方はおおっぴらにそんなDVDを提供してるの?」
「人気なんですよ、ヤング・アダルトのAV資料。あちらの仕切りの向こう側に専用の視聴ブースがありまして、中高生がグループやカップルで・・・」
「ちょっとごめんなさい、めまいが」
「あの、新鮮な反応をいただいているところをすみませんが、この業界ではわりと使い古された用語ネタでして」
「正気か。カタカナ語以前に理解できない世界だわ」
「『秘宝』・・・」
「言わなくていい、それ以上は言わなくていい。早いところ借りて帰ります。えっと、何日借りれるんですか?」
「貸出期間もお選びいただけます」(パタパタパタ)
「な、なんですか、急に紙コップ並べだして」
「わかりやすいように、カップのサイズで貸出期間を選んでいただけます」
「いらないでしょう、これ。SとかMとかなんでしょ」
「小さい方から、ショート、トール、グランデ、ヴェンティ、フォルテッシモ、フォルテッシッシモ、ミラバケッソになります」
「ミラバケッソ、でかいな。これで何日?」
「2週間です」
「意外と普通か。冬休み明けて発表会くらいまで使うと思うんですけど」
「でしたらカスタマイズとして、さらに数日をトッピングできますよ」
「なるほどね、慣れると自由に使えそうかな。えっとじゃあ、この『週刊・海の生き物』はここで見るだけにするとして、図鑑をコピーさせてください。あと、この案内書を長めに借りようかな」
「かしこまりました。・・・オーダー入りまあーすっ」
「え?」
「ショート・デアゴスティーニ・ピリオディカル・コンサルテーションっ」
「「ショート・デアゴスティーニ・ピリオディカル・コンサルテーションっ」」
「復唱するの?」
「ショート・ピクトリアル・レファレンス・ブック・リプロダクションっ」
「「ショート・ピクトリアル・レファレンス・ブック・リプロダクションっ」」
「呪文かこれ」
「アカデミック・リソース・ガイド・ミラバケッソ・期限マシマシ・ニンニクカラメっ」
「いまのあきらかにラーメン屋だったろ!?」
「お客さま、当館のポイントカードはお持ちでしょうか」
「そんなのもあるんだ。借りたらポイントがつくっていうこと?」
「はい。1冊貸出で1チェックイン・ポイント、ただし1日1チェックイン・ポイントが上限で、100ポイントたまると、1ゴールドポイントを獲得するためのガチャガチャに参加できます」
「ハードル高いな。ゴールドポイントって特典があるの?」
「1ゴールドポイントにつき、図書1冊を無料で貸出できます」
「おかしいよね、もともと無料なんじゃないの。どこにうまみが」
「お客さま、ご冗談を。タダで図書を借りただけのポイントで、何を得しようとしてるんですか」
「だったらポイントいらないだろ」
「チェックインの度に借りた図書の記録が残ります。加えて、コンビニでもレンタルショップでもファミレスでもどこでも共通でチェックインできるカードですので、いつ、どこで、何を買って何をしたかが、すべてこと細かにカードに記録され、えー、なんやかんやで有効活用されます」
「いまちょっと寒気したけど。いいよ、持ってないし」
「作りませんか? いま作らなかったら、全国の図書館やコンビニで毎回「持ってますか?」って聞かれますよ?」
「嫌がらせじゃないか。そんなの図書館の仕事でもコーヒーショップの仕事でもないだろう」
「コーヒーショップだけど、ティー・・・」
「余計なことをちょいちょい言うな、おい。本借りるだけのつもりが、えらいところに来たなあ」
「お言葉ですが、お客さま。図書館は決して本を貸して帰っていただくだけの場所ではございません」
「まあ、わかるけど」
「当館は貸出至上主義から脱却して、ノマド・ワーカーの方にもサード・プレイスとして心地良く使っていただけるよう、ハイパーでマキシマムなエクスペリエンスを提供するエクセルシオールなカフェを目指しております」
「スタバじゃなくなったね、最後」
「・・・・・・あ、いたいた。パパーっ」
「あれ、なんだ、来ちゃったのか」
「パパ帰ってくるの遅いんだもん」
「ごめんごめん、こういうとこ初めて来たからさ、難しくて。自由研究のテーマは決めたの?」
「うん。アサリがどうしてあっさり死んだのかを調べようかなって。・・・あ、こんにちわーっ」
「こんにちわ、いつもありがとうございます」
「なんだ、2人は知り合いか」
「いつもここで勉強手伝ってもらってるんだよ。あ、じゃあぼくもオーダーいいですか?」
「はい、どうぞ」
「えっとね、レファレンスで海の生き物のパスファインダーに、ビブリオグラフィ・リストをエクストラで、小学生用かヤング・アダルト用にカスタマイズしてください。あと、オープン・アクセスかインハウスのイー・リソースでぼくにも読めるアサリのペーパーがあったらいいんだけど、なければイー・ディーディーエスか、図書のインター・ライブラリー・ローンを期限マシマシで。そうだ、クラスのみんなでディスカッションしたいから、ラーニング・コモンズのプレゼン・ルームとライティング・サポートのリザーブもいまのうちにしちゃおうかな」
「・・・・・・」
「? どうしたの、パパ?」
「リテラシーこわい。だめだこりゃ」

posted by egamiday3 at 07:47| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする