この話って、まとまったかたちでどっかに書いたかどうか、もしかしたらこのblogにすでに書き記してるかもしれない(笑)んだけど、まあいいや、ちょっと書き記しておきますね。
アメリカのある大学図書館に話を聞きに行ったとき、そこで出逢った院生さん(日本研究が専門)に、日本への留学先とか進路的なことを相談されて、それに自分なりになんとなく答えた、っていうときのことの話です。
その院生さんは「日本の妖怪に興味がある」っておっしゃるんです、日本が好きな海外の学生さんの中には”妖怪(Yokai)”が好きっていう人が結構多いし、学生に興味を持たせるために妖怪関連の日本素材が講義や講習で使われたりするのはちょくちょく見ますし、そういう相談をされるのは別段めずらしい話ではないです。例: http://en.wikipedia.org/wiki/Y%C5%8Dkai
で、妖怪といえば我が社(笑)なわけで。彼が言うには、webで「妖怪」を検索したら、日文研が一番にヒットした、なのでその先生のところに留学しに行くのがいいのではないかと思っている、というふうにおっしゃる。
そんな話を聞くと揉み手で対応しちゃいそうなところなのですが、ここで「あれ?」と思ったことには、彼の大学の日本研究は”文学研究”がメインだったはず。それでよくよく注意して話をきいてみると、彼の専門は江戸時代の黄表紙だと。黄表紙の中に現れる妖怪、という扱い方をしたいんだ、と。
私は、日本の妖怪研究や民俗学にことさら詳しいわけではないですし、大学で専門だったはずの国文学にもだいぶ疎くなってきてしまったので、確かなことを言えるわけではないのですが。ただ、彼のその話を聞いた時点で、あ、これはちょっとヘンだな、という司書的嗅覚のほうは働くわけです。
つまりこれは、「端的なキーワードでググって、ヒットした結果をそのままとらえて、文字通り以上の意味を読むにいたらない」というパターンだな、ていう。
なので、あたしは彼に、自分がそのときに感じた違和感をそのまま丁寧に伝えました。あなたが「妖怪」に興味があるとは言え、「妖怪」という言葉で検索した結果、ヒットした研究成果がそのままあなたの興味に合致する、というわけではない。その検索には、文脈とか視点といったものが含まれていないし、学問分野全体のどのような位置づけにあるかといったものがその検索結果で把握できるわけではない。「妖怪研究」と名のつくものでも、歴史学や民俗学からのアプローチもあれば、宗教学もある、絵画美術の研究もあるだろうし、自然・地理、認知心理学的なものだってあるだろう。
このあたりから、彼の顔つきがちょっと神妙なものに変わってきます。たぶん、理解してくれてるんでしょう。
あらためて、あなたは妖怪であれば何にでも興味があるのか、日本の田舎の祭礼や儀式のようなものにも興味を持てるのか、それともあくまでも黄表紙が専門なのか、と尋ねると、はっきりと自分は江戸期の日本文学を専門としている、とおっしゃるので、だったら、留学先・進路先としてはそっちからアプローチしていくほうが得策なのではないか、とあたしとしては考えるし、そう伝えるわけです。
例えば、Readとか大学公式サイトの研究者ディレクトリ・シラバスのようなところに、たまたま「妖怪」とか、自分の興味のある単語が記してあったとしても、それがその研究者の研究実態を反映しているとは限らない。たまたま書いたとか、事務的に書かされたとか、更新されてなくて古い、とかいうことはいくらでもある。それで判断してしまうよりは、たとえばその研究者個人のページを探しなおして、最新の研究活動を確認するとかのほうがいいのではないか。また、CiNii Articlesに収録されているような論文の論題からなら、ある程度その研究分野やアプローチのされ方も詳しめにしぼりこめるだろうから、自分の研究・志向するテーマに近い具体的な論文をまず探してみて、その著者にあたってみる、というほうがよいのではないか。
もちろんそれらが妥当でないこともあるでしょうけど、少なくともざっくりとしたググりよりはよっぽどあたりがつけやすいんじゃないかって、思うんです。
調子に乗って一般論的なことも言っちゃうと。
いい研究者がいい指導者とは限らない。また、いい指導者であっても、その先生やその大学が、留学生の受入・指導に慣れているか、環境や制度が整っているかは別の問題。それ以前に、住む街自体はどうなのかっていうのも、国を越えて勉強しにくるときには重要な問題になるはずです。
そして、幸いにして江戸文学なら日本での研究者人口はかなり多いはず、というわけで、どの先生がいいか、もさることながら、大学の受入体勢の良し悪しで選んではどうだろうか。残念ながらそこまでの詳しい情報はあたし自身は不勉強で持っていないんだけど、でも、そういった情報の蓄積っていうのは、米国内にいる、日本留学経験のある、江戸文学専攻の先生や先輩こそが持ってるんじゃないだろうか。どう? と聞いてみると、うん、確かにその通りだ、と彼は深くうなずきなさるので、ああ、たぶんこのあたしのアドバイスはそんなに外れてはいないんだろうな、とちょっとホッとするわけです。
ごめんなさいね、いまあたしが思いついてあなたにお話したのは、決して日本での妖怪研究や江戸文学研究の実態を熟知した上でのお話ではありません。専門に根ざしたアドバイスではありません。ただ、日本で司書職に就く者として、あなたに必要そうな情報の探し方と解釈の仕方について、ちょっと気になったので言ってみました。専門のことは専門の先生から丁寧に話を聞いてみてくださいね。
というようなエクスキューズを、医薬品のコマーシャルのように付け加えておきましたが、まあ、ある程度得心したような表情で理解してくださったようなので、よかったんじゃないかと思います。
というようなことがあったので、ちょっと記しておきました。
そしてこの考え方はたぶん、他分野他用途の検索や情報収集、論文探しや就職先探し、家電や旅先のごはんやさん探しでも、まあまあ通じるんじゃないかなあ、とは思います。
・・・あ、念のため。全部日本語で会話してましたよ?(笑)
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