2013年10月08日

大英博物館・春画展への”はじめてのおつかい”

 
 イギリス・ロンドンの大英博物館にて、無事に春画展が開催されています。

・British Museum - Shunga
 http://www.britishmuseum.org/whats_on/exhibitions/shunga.aspx
・大英博物館で「春画展」始まる NHKニュース  
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131004/k10015023831000.html

 イギリスの所蔵分、アメリカからの出展分に加え、日本からは60点くらい行ってまして、そのうち40点くらいが我が館の所蔵です。で、日本側の所蔵者として、研究協力的立場というか、矢おもてに立っていろいろお世話したり挨拶したり頭下げたりするようなあれこれをしてました、という感じです。

 これらは基本的にM(useum)の人のお仕事で、でも我が社にはMの機能はなく、L(ibrary)のあたしが駆り出されてもろもろのことをやったんだけど、どの仕事もひとつもやったことがない、経験も見聞もないし、勉強したこともない。
 でもやんなきゃいけない。
 だから、ずっとお腹痛い。
 そういう”はじめてのおつかい”です。

●コンディション・レポートを作る
 Mの世界では、大事な展示品の貸し借りの前に、この資料・物品のどこそこが汚損・破損してますよ、欠けてますよ、瑕疵ですよ、その状態を両者で確認するために、状態チェックとレポート作成をする慣わしらしいです。”らしい”です。で、本来のところそれは、借りる立場の大英博物館さんがこっちに来てやるんだろうけど、まあ、遠いし、協力的立場なんで、こっちでやりますよ、ていうことです。
 我が館ではよそから借りる経験はないですが、よそさんにお貸しする経験は幾分あるので(妖怪関係とか)、借りにおいでになるときにそういうのを作って渡してくれはるのは拝見しています。その、傍目で見守ってきたいくつかの経験にもとづいて、まったくの見様見真似猿真似で、なんとなくこんな感じでチェックしたらいいのかな、こういう瑕疵に目を付けてこういう風に記録して、こういう書類を形づくったらいいのかな、という。
 それが自館資料だったらまだいい、のですが。

●国内のよそさんの資料を、借りて集めにまわる。
 日本からは我が社だけでなく、京都数者・東京数者の所蔵者がおられてそこから大英博物館がお借りになるわけです。で、遠国から借りにおいでになる代わりに、国内の矢おもてたるこちらが、出典品を借りて集めにまわる、という。実際の梱包や運搬は美術博物品専門の運搬業者さんがやってくださるのですが、まあどの資料がどれで、みな確実に引き受けたか引き渡されたかを確認し、先々で挨拶したり頭下げたり、書類渡したりする、ていう。あと、その場でコンディション・チェックもする、ていう。で、ある程度の世間話をして、それを介して先方さんのご事情をお聞きして文脈的なことをつかむ。
 でも、そんなことすべてやったことがないはじめての経験なので、当日の一週間くらい前からずっとお腹痛い、ていう。

●日本からイギリスへ運ぶ飛行機に同乗し、運搬する。
 国内で厳重に梱包された出展品、そうとう厳重に梱包されてるので元の資料群より相当でっかい貨物になっているのですが、これが日本の空港からイギリスの空港まで、直行便で運び込まれます。それに、同乗する、という仕事です。クーリエと言うらしいです。乗るだけなら大丈夫です、12時間おとなしく座っています。時差ボケするだけなのでお腹は痛くない。
 イギリスの空港に着いたら、今度はイギリス側の美術博物品専門の運搬業者の人に出逢って、初対面でバディを組んで、空港の倉庫から貨物トラックに積んでロンドン市内まで運び込む。渋滞の車内では、時差ボケでもう24時間くらい寝てない超眠い頭で、英会話の世間話をなんとかひねり出す。やっとのことで大英博物館に到着して、そこで荷物をおろし、大英博物館側の担当のみなさんと初顔合わせをして、このでっかい貨物を確かに持ってきました、ていうかたちになる。
 ここで初めて、大英博物館のバックヤードにお邪魔します。世界に冠たる大英博物館のバックヤードは、たくさん工事中で、たくさん梱包物や棚が所狭しと並んでいて、ああ、どこもスペースの確保はたいへんなんだなあ、という思いでした。でも、この敷地に”世界史”が詰まってるんだと思うと、それなりの感慨深さがありますが、眠いです。

●イギリス現地でもコンディション・チェックをする。
 日を改めて、貨物の梱包を解き、1点1点確かにありますよ、というチェックをする。それに加えてですが、大英博物館にはプロのコンサベーター(資料保存専門家)が、どうやら各分野各部門ごとにいらっしゃる。そのプロのコンサベーターの人が、イギリスに到着したての日本資料のいま・ここでの状態を再度チェックする。それに同席して、互いに状態を確認し合う、という。
 これを、英語でやります。英語de資料保存です、だから、え、それって??という単語が飛び交います。紙のシワは英語でリンクルかと思ってたらどうも違う単語を使ってはる。同じハガレてるのでもどうやらハガレ具合で単語が違う。こすれ、にじみ、よれよれ、けばけば、紙継ぎ、雲母、エンボス、アイボリー、フォックス。そういえばこれまで和訳・英訳したことなかったなあという種類のボキャブラリーと闘う、ていう仕事。

 で、自分はここまでで、日本での本務に長く穴をあけることもできないから、というので帰国してきました。このあと、それぞれを展示会場の展示ケースに運び込んで、資料保存的観点に注意しながら、これもまたプロの書見台製作専門家の人が作ってくれる書見台に載せて、陳列していき、その結果がいまの現地の展示会、なのでしょう、残念ながらその完成した姿をあたしが目にすることはありませんが、盛況かつ無事に会期を終えられますよう祈っています。


 それにしても今回痛切に思い知らされたのが、M(useum)だろうがL(ibrary)だろうが関係ない、おのれの専門分野が何だろうが関係ないな、と。何かしらの文化資源を所蔵し所有し、それに携わっている以上は、LibraryかArchivesかMuseumかのちがい、あるいは官か民かのちがい、もしくは同じLでもUniversityかPublicかのちがいなんか、ユーザにとっては何の関係もない。おめえらげんにその資料そこに持ってんだろ、と言われればそれがすべてだと思います。
 うちはLですから、Mじゃありませんから、やったことありませんしできませんとか、UのLですからサービスできません、海外だから対象外です、カフェじゃないから飲食できません。そういう言い訳が、ユーザ・社会の前で、あるいは文化資源・資料・情報の前で、通用するはずがそもそもなかったはずだ、ということを、思い出したし、思い知らされたなという感じです。
 ユーザと資料の媒(なかだち)を”専門”として標榜するなら、○○が専門だから**はできない、おら知らね、ではなくて、○○が専門だからその全うのために必要とあれば**もするし@@もする、自分にできなければ頭を下げてよそさんの協力を仰ぎ、遂行に必要ならレジ打ちもすればジェネラルなマネジメントもする。
 それがいいことかよくないことかはわかんないけど、少なくともいま、そしてこれからも、そういうところに身を置くわけなんで、そういう働きをしなきゃな、っていうあれです。

posted by egamiday3 at 20:54| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする