2013年10月31日

業界コント「もしもマクドナルドみたいな図書館が、閲覧制限だらけの図書館だったら」


※他意はありません。実在・非実在の一切と無関係のフィクションです。

 ピンポーン。
「いらっしゃいませ、幕土市立鳴門図書館へようこそー」
「やあ、どうも」
「あ、おひさしぶりです」
「戻ってきましたよ、マクドナルドみたいな図書館(http://egamiday3.seesaa.net/article/158803183.html , http://egamiday3.seesaa.net/article/111499129.html)に。前にいた町の図書館(http://egamiday3.seesaa.net/article/309928500.html)はハードルがかなり高かったですけど」
「本日はお持ち帰りですか?」
「ええ。うちの子がね、学校の調べ物学習で昭和の歴史をやるっていうもんだから、だったらあれがいいんじゃないかと思って。『和田氏のベン』っていうマンガ」
「『和田氏のベン』、ですか・・・」
「そうそう、あの「ガハハ」っていうやつ。私も子どもの頃に学校の図書館なんかでよく読んでたし、昭和史だったらあれがいいんじゃないかなって。この図書館にもあるでしょう?」
「お客さま、たいへん申し訳ございませんが、『和田氏のベン』はただいま”閲覧制限”扱いとなっておりまして、申請手続きによって許可を得ていただく必要があるんです」
「え? 何か問題でもあったんですか」
「はい、一部の市民の方から「あのマンガは子どもに自由に読ませるべきではない」という趣旨の抗議をいただきまして、このような対応をさせていただいております」
「そうなの? 私ら子どものころはみんな読んでたし、問題があるどころか定番のマンガだったと思うんだけど。どんな抗議だったの?」
「わたしも上から言われただけですので詳しいことは存じ上げないのですが、内容が偏っている、とか」
「偏っている?」
「歴史観が、オヤ ジギャグ的過ぎるとかなんとか」
「そんなもんかなあ」
「あとは、一部に残酷で無慈悲なオヤジギャグが描写されているとかで」
「オヤジギャグなんだねとにかく」
「当店といたしましても、7年後のビッグイベントに向けてすこしづつクサいものにフタをする方向に持っていこうという、世の中の風潮を先取りしてみました」
「いや、そこあんまり誇るところでもないだろう」
「なにせ、本家のほうが大口のスポンサーなもんで」
「まあいいけど。じゃあ申請手続きをさせてください。だったら読めるんですよね」
「ええ、まずこちらの「閲覧制限図書特別利用申請書」にご記入いただきます」
「これ書けばいいのね」
「で、そのあとこちらの「閲覧制限図書閲覧理由説明書」、それから「特定歴史分野資料閲覧理由告解書」、「自己責任承諾書並びに裁判沙汰回避了解念書」、16歳以下のお子さまの場合は「ぼくとわたしの保護者監督付き閲覧申請書」・・・」
「え、これ全部書くの?」
「はい、それから添付書類として住民票、印鑑証明、所得証明、現住所が書かれた公共料金の請求書のコピー、祈りを込めて書かれた手書きの履歴書と、その顔写真が無修正であるという写真店の証明書をお願いします」
「その証明いらないだろう。全部持ってきて申請しないと読めないの?」
「そうですね、当店の店長の許可と、幕土市教育委員会の許可と、幕土市長の許可と、幕土市の歴史とメディアと子供の未来を案じる合同識者井戸端委員会の許可がおりまして、だいたい2ヶ月半後くらいにご閲覧いただけるようになります」
「待たせすぎだよ、おい」
「しかも予約待ちなので、さらに倍っていう」
「おかしいだろう。それもう、読むのあきらめろって言ってるのとほぼ一緒じゃないか」
「申し訳ありません、そういう手続きをするという決まりでして」
「誰が決めたの、こんなの」
「経緯はちょっとよくわからないのですが」
「わからないのはマズいでしょう。困ったなあ。・・・・・・あれ? その、あなたの後ろにある台車、そこに『和田氏のベン』あるじゃん」
「あっ、これはダメです。このブックトラックに置いてあるのは、すべて外部の方からの抗議によって閲覧制限扱いになったもので、いまそれをよりわけてるところなんです」
「そんなにたくさんダメなの? え、じゃあそのハリーポッターも?」
「そうです。一部のキリスト教関係の保護者の方から、子どもが異端の魔術に興味を持ってしまうので読ませるべきではない、と」
「それでダーウィンとガリレオの伝記もか。あれ、フランクリンの伝記も?」
「子どもが凧揚げして電線で感電したらどうする、と」
「ガンジーも?」
「子どもが何か気に入らないことがあるたびに、ごはん食べてくれなくて困る、と」
「その源氏物語も?」
「あんなロリコンでマザコンですけこましな男の酒池肉林を描いたような破廉恥小説はけしからんということで」
「それ言い出したら古典はほとんどアウトだろう。そこのマンガはあれだよね、ジブリのアニメになったやつ」
「『耳をすませば』ですね。これは、読書の自由を侵害しかねない描写がありましたので、自由に読書させない取り扱いになりました」
「何がしたいんだ。あれ? キリスト教ががどうのと言ってたけど、聖書もそこに置いてあるじゃないですか。聖書もダメなの?」
「ダメです。このおかげで人類はどれだけの犠牲をはらったことか」
「いや、それはちょっと。なんだか抗議したもの勝ちみたいになってるなあ」
「そうですね、私もこのお料理のレシピ本に抗議が来たときは、どうしようかと思いました」
「なんて言われたの?」
「書いてある通りに作ったのに、美味しくない、と」
「知らねえよ」
「あと、オリーブオイルがガンガン減って困る、と」
「誰のレシピだそれ。いや、抗議はともかく、だからって言われるまま従うことないでしょう。誰が取り扱いを決めてんの」
「いや、経緯はちょっとよくわからないのですが」
「おかしいって、そこを透明にしなさいよ」
「まあ、ファーストフードの食材の透明性なんて、ねえ」
「こっちにふるなよ、ややこしい」
「図書館と申しましても、しょせんはお役所の施設ですから、上の言うことには逆らえませんので。トップが変われば図書館も変わるし、クレームが出ればすべて従うという、よくある世知辛さです」
「だからって、こう何もかも禁止されちゃあなあ」
「決して"禁止"ではございませんよ、申請さえしていただければご覧になれます」
「いや、こんなハードルの高い手続き、禁止と一緒でしょう。その台車の本だってどこか奥の倉庫にしまっちゃうんでしょう?」
「いえ、よりわけてるだけです。閉架ではなく、あくまで自由に行き来できる開架フロアの書架に並べますので」
「え、オープンな場所に置かれるってこと? じゃあ制限ってわけじゃないのね」
「あちらの地上6メートルの書架の一番上の棚に置く予定です」
「読ます気ないよね、それ、いっさい読ます気ないよね」
「いえ、あくまでゾーニングです」
「まったく、これじゃ本屋で買った方がよっぽど早いじゃないか」
「そう思いまして、店内に書店も併設させていただきました。あちらに」
「買えるんだ。・・・あれ、なんだ『和田氏のベン』もふつうに売ってるじゃないですか。山積みになってる」
「ええ、閲覧制限してからというもの、あちらが売れに売れております。うふふ」
「うふふじゃねえよ。えらいことになってるなあ。図書館で本が自由に読めないなんて、あれだ、あの映画、『図書館戦争』みたいなもんじゃないか」
「お言葉ですが、お客さま。読書の自由は決してあのような派手でわかりやすいかたちで奪われるとは限りません」
「まあ、わかるけど」
「こういう書類手続きやクレーム処理のような、地味なところからじわじわと、奇妙な世界への扉が開き始めるのです。ご注意を」
「タモリか? なんかあいかわらずおかしなところだなあ、この図書館は。まあいいや、とりあえずさっき別の歴史の本があるのも見つけたんで、これとこれ、借りていきますね」
「・・・こちら、お借出になります?」
「え? 今度はなに?」
「お客さま、たいへんお手数ですが、こちらの書類にご記入をお願いします」
「これは?」
「お客さまの貸出履歴から計算してオススメ数値が低い本についての「自己責任承諾書」です」
「書類嫌い。ダメだこりゃ」
【関連する記事】
posted by egamiday3 at 20:26| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする