想定されている一般的な方法・環境下ではサービス・資料へのアクセスに支障・不自由があり、何らかの不利益をこうむっているユーザ(群)が存在する。
その事情にあわせて何らかの対策をとり、あるいは働きかけをして、サービス・資料へのアクセスを保障しようとする。
そういった活動を、図書館業界では「アウトリーチ活動」と称して、重要視している。
そもそも、本来私的所有物となり得る書籍を公的に確保し、無料で公共に提供して、ユーザの資料・情報にアクセスする権利を保障する、という図書館の存在自体がすでにアウトリーチ活動なんだということ。
医療、社会福祉、公共・コミュニティサービスなどの文脈でもそういったことは語られるとは思うんだけども、ここではとりあえず図書館学の視点からのみ。
1994年『ユネスコ公共図書館宣言』
「年齢、人種、性別、宗教、国籍、言語、あるいは社会的身分を問わず、すべての人が平等に利用できるという原則」
「図書館に来られない利用者に対するアウトリーチ・サービス」
『公立図書館の任務と目標』
(知る自由の保障)「いろいろな事情で図書館利用から阻害されている人々がおり、図書館は、すべての住民の知る自由の拡大に努めなければならない」
2014年IFLA『情報へのアクセスと開発に関するリヨン宣言』
情報へのアクセスによって、人々、特に社会の主流から取り残されている人々と貧しい生活をしている人々に多くの権限が付与されるという原則
図書館をはじめとするスキルやリソースを備えた機関は、ある集団に関連のある差し迫ったニーズと問題を明らかにし、それらに注目することで支援をおこなうことができる
●アウトリーチ@1960'sアメリカ
アメリカの公共図書館の歴史を、
『図書館の歴史 アメリカ編 増訂第2版』
『多文化サービス入門』
『知る自由の保障と図書館』
『アメリカ公立図書館・人種隔離・アメリカ図書館協会―理念と現実との確執』
からおさらい。
1960年代
当時の公民権運動を社会的な背景として、
人種的マイノリティや低所得者層の図書館利用の低下・サービスの不足が課題として認識されるようにまる。
不利益をこうむっているユーザ(群)へのアウトリーチという概念およびその活動が本格的に展開し始める。
1963年、ALA『公立図書館へのアクセス』を出版。
非白人地域の図書館数の少なさ、資料の貧弱さは“間接的差別”である。
間接的差別は米国全土に及んでいる。(直接的差別の集中する南部に限らず)
相当大きな議論を呼んだ。
1969年『不利益をこうむっている人々への図書館サービス』(要確認)
不利益をこうむっている人々の範囲を「経済的に苦境にある人々」「身体に障害を受けている人々」「精神的に障害を受けている人々」「人種差別を受けている人々」「刑務所やその他の施設に収容されている人々」「高齢者」「社会参加の機会を奪われた若者」「英語に不自由を感じている人々(非識字者を含む)」と定義。
クリーヴランド公立図書館
この図書館は、前々から視覚障害者、病院、児童サービスなどに取り組んでいた。
1971年発表の報告書では、”非白人ユーザ”への図書館サービスに失敗していたことを認める。(→それまで認識していなかったユーザに対し、アウトリーチ活動が必要であると新たに認識・発見した)
スペイン系住民などのアウトリーチ活動を開始。
→現在のアメリカ公共図書館では、多文化サービスは基本。(スペイン系に限らず)
●アウトリーチ@1960's日本
『障害者サービス』(JLA)
視覚障害者に対する図書館サービスは、京都のライトハウスなど、点字図書館・点字文庫の整備としての歴史はさかのぼれる。
1949年、身体障害者福祉法
それまで公共図書館に設置されていた点字文庫の類が分離され、視覚障害者への図書館サービスは点字図書館で取り組まれるものとされた。(要確認)
1960年代
1963年『中小レポート』
日本の公共図書館における住民サービスが活性化し始める。
↓
1960年代末
視覚障害者から、公共図書館利用への要求が示されるようになる。
視覚障害を持つ学生が東京都立図書館や国立国会図書館を訪問、要求運動を展開する。
1970年
「視覚障害者読書権保障協議会」が結成される。
→現在の日本の公共図書館では、規模の大小に左右されはするものの、視覚障害者だけでなく障害者へのアウトリーチ活動は基本的にサービスに組み込まれている。
図書館学テキストでも、(点字図書館の文脈ではなく公共図書館の文脈で)必ず取り上げられている。
●アウトリーチと”定番”について
『ユネスコ公共図書館宣言』(1994年)
「すべての人が平等に利用できるという原則」
「理由は何であれ、通常のサービスや資料の利用ができない人々、たとえば言語上の少数グループ(マイノリティ)、障害者、あるいは入院患者や受刑者」
→図書館がアウトリーチ活動の対象とすべきユーザ(群)の例
現在の日本の図書館学・司書課程向けテキストの例
・非識字者、民族的少数者、肢体不自由者、入院患者、内部障害者、高齢者、矯正施設入所者(・アウトリーチの例。交通手段をもたない利用者・時間的余裕のない利用者へのサービス。入院患者サービス。矯正施設入所者へのサービス。そのほかの非来館者(潜在的図書館利用者)向け図書館サービス。)(@『図書館サービス概論(現代図書館情報学シリーズ)』9784883672042 2012@)
・在宅障害者、在宅高齢者、入院患者、収監者、言語上の障壁がある移民(@『新訂図書館サービス論(新現代図書館学講座)』(2009 9784487803330)@)
・高齢者、障害者、アウトリーチ:入院患者、在日外国人、受刑者。(@『図書館情報サービス論(図書館情報学の基礎)』(4585001883 2003)@)
・遠隔地、図書館の未設置地域、図書館から遠い地域に住んでいる利用者。外出が困難な利用者。障害者、高齢者、入院患者、矯正施設、老人介護施設(@『図書館サービス論(JLA図書館情報学テキストシリーズ)』(2005 9784820404460)@)
・入院患者、高齢者福祉施設、外国人(文化的マイノリティ)、受刑者、非識字者(@『図書館サービス論(図書館情報学シリーズ)』(2011 9784762021534)@)
・図書館の利用に障害のある人たち
A図書館資料にアクセスできない利用者のケース:視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者、寝たきり老人等、非識字者、外国人
B図書館員とのコミュニケーションが不自由な利用者のケース:聴覚障害者、視覚障害者、外国人
C来館できない利用者のケース:肢体不自由者、病弱者、寝たきり老人、視覚障害者、入院患者、障害者施設入所者、矯正施設収容者
(@『図書館サービスと著作権』(4820493221 1994)@)
多くのテキストが共通してあげている”定番”は。
高齢者、障害者(身体障害者、内部障害者)、在日外国人、言語・文化的マイノリティ、入院患者、矯正施設入所者
それ以外としては、
交通手段をもたない利用者・時間的余裕のない利用者へのサービス。
老人介護施設
●アウトリーチ活動は「まずその存在やニーズに「気がつくこと」からはじまる」
図書館活動の基本は、すべての人にすべての本と図書館サービスを届けること。
アウトリーチ活動は、不利益をこうむっているユーザの、サービス・資料へのアクセスの支障・不自由を解消すること。
マイノリティの利用環境を整備することは、マジョリティの利益にもつながる。
ユネスコ宣言や図書館学テキストで言及・例示されていないユーザに対してアウトリーチ活動をおこなう必要がない、というわけではない。
“不利益”や“マイノリティ”の種類が、いまの図書館業界にとって(たまたま?)“定番”や“想定内”であろうとなかろうと、利用の権利を保障するという責務に変わりはない。
1960-70年代
クリーヴランド図書館ほかアメリカ多文化サービスの例
日本の障害者サービスの例
↓
(1)図書館は、それまで想定していなかったユーザ(群)のニーズを発見し、認識し、その問題をあきらかにして、アウトリーチ活動に取り組んできた
(2)逆に言えば、時計の針を約50年戻して考えれば、現在の図書館ではまだ認識も想定もされていないが、何らかの理由で資料・情報の利用・アクセスに支障があり、それが解消されないまま不利益をこうむっているユーザ(群)が存在する可能性がある。
アウトリーチ活動は「まずその存在やニーズに「気がつくこと」からはじまる」。(@『多文化サービス入門』@)。
→どうやったら気づけるか?
→デジタル・アーカイブに何が出来るか?
to be continued...?
【関連する記事】