CEALの2016年次大会@シアトルに行ってきました。そのメモです。
CEALはCouncil on East Asian Libraries(東アジア図書館協会)の略で、北米の東アジア分野(中・日・韓)の研究図書館・大学図書館のライブラリアンたちからなるコミュニティです。毎年3月に年次集会が開催され、講演、パネル、ミーティングなどがもろもろおこなわれます。
http://www.eastasianlib.org/CEAL/AnnualMeeting/Annualmeeting.htm
その、参加メモです。
おおまかにわけて、全体会、日本研究ライブラリアンの集まり(公式なものと、非公式なもの)、その他もろもろ、といった感じです。
まずは、その1・CEAL全体会、の巻です。
●Plenary (3/30 10:00-17:00)
・CEALの全体会。基調講演、パネル、ディベート等。シェラトンホテルの中広間くらいのスペースに、参加者全員が列席している感じ。おおむね、聞いてる、という。
・Business Plenary。退職者、新任者の紹介など。
・Presidential Panel: East Asian Studies Librarians: Moving beyond (job) boundaries.
・Yunshan Ye(Johns Hopkins University)。3大学(Johns Hopkins University, George Washington University, Georgetown University)による共同webアーカイビングプロジェクトの紹介。中国のブログ・マイクロブログの類を保存していく。「Chinese Social Media and Anti-Corrupution Campaign」https://archive-it.org/collections/6314
・イェール大学の中村さんからはデジタルヒューマニティーズのスペシャリストについて、イェール大学での手鑑帖プロジェクトその他を踏まえてのスピーチ。一次資料の取り扱い、データの取り扱い、プロジェクトマネジメントスキル、何を知らないかを知ること、そしてとにかくコラボコラボコラボ、といった感じ。
・Hyoungbae Lee(Princeton University)。「Collective Subscription of Korean Databases」では、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」ということで、プロバイダーを知ること、商品を知ること、トレンドを知ることが語られている。確かに、本当に必要なこのことをどれだけちゃんとできているか、ということだなと。また己を知るという意味で紹介された"Handbook for Korean Studies librarianship outside of Korea"は自分にも聞き覚えがあった、eastlibで紹介されてたか何かかな。国立中央図書館が運営する、韓国研究司書の情報共有のためのウェブサイト:INKSLIB (International Network for Korean Studies Librarians)で提供されている、韓国研究のために必要な資料収集、整理、参考情報源等に関する情報を英語で提供するハンドブック。これはちょっと参考にすべき。
・質疑応答で、タイムマネジメントとプライオリティについて、ていうか、みんなすごい忙しいはずなのにどうしてこんなにいろいろできるの? という実に万国共通な疑問(悩み)が問われてて、答え「忙しいから誰かに放り投げるために、コラボが必要なんだ」と。まあそうですね(笑)。
・Plenary: Panel II。「Conflict of Interest and the East Asian Studies Librarian: Employer in “the west”/ Vendor in “the east”」と題した、ワシントン大学の教授や理事による講演。異文化と労働とビジネス関係とが哲学的に語られている感じ。そういうことを常にしながらにならざるを得ないんだろうなと。ただまあ詳細は、お察しください。
・CEAL Debate。「東アジアコレクションは、多分野と統合した図書館たるべきか、独立部署たるべきか」的な命題で、CEALの現チェアと次期チェアとがディベートをします、という企画。手順がっつりのディベートというよりは、現チェアがスピーチします、次期チェアが反対意見をスピーチします。会場から何人かが質疑応答マイクに立って、両人がそれに答えます。時間が来たら、どっちの意見に変わった人が多かったかを挙手でカウントして、次期チェアが多くを説得できましたね、あなたがやっぱり次期チェアです(笑)的な感じ。というようなカジュアルで自然な流れのディベートを見て、あ、やっぱりこの国の人たちは議論という行為を相当当たり前のようにやりなれて生活してるんだな、という感じでした、そこが一番勉強になったかもしれない。
・Plenary: Panel III。「Perspectives on the Roles of East Asian Studies Librarians: Reports from the Field」。
・UCLAのTomoko Bialockさんから、「A Tale of “The Hentaigana App”: Assisting Wahon (Premodern Japanese Books) and Digital Literacy in Japanese Studies」という題で、早稲田大学とUCLAが共同で開発した変体仮名学習アプリの紹介。http://alcvps.cdh.ucla.edu/support/
・Haihui Zhang(University of Pittsburgh)「Are We on the Right Track? - EAL Librarians' New Role in Digitizing Humanities at PITT」。デジタルヒューマニティーズのプログラムやプロジェクトの類に、図書館がどのような位置づけをとり、ライブラリアンがどのような役割を提供すべきか。Proactive-Reactive x Provider-Partnerというマトリクスと、結論のTossed Saladという比喩がわかりやすいか。
●CEAL/NCC全体の感想
・CEAL/NCCへの参加は9年ぶり2回目なんだけども、9年前と比較したら、人数的にも勢い的にも韓国系の存在感ががっつりしてた。9年前のハーバード滞在の時も5年前の本棚の中のニッポン取材であちこちに行った時にも、「いまはまだ韓国語蔵書少ないけどこれから増えていくだろう」みたいな未来予想図的なお話をどこでも聞いたんだけど、いまそれがはっきりと現実になっている様子がありありと見てとれた。たぶん日本の勢いと同等どころか押され気味。一番おおっと思ったのが、全体会の事務連絡のターンの時に、コリアの何とかのファウンデーションからインターンが来てます、って紹介されて、年若いインターン生が4人も参加しに来てたところ。外へ外への姿勢というか気合いの入り方が違うもの、って思た。
・全体会の感想。参加しているのは中国系でもあり韓国系でもあり、ジャンルや専門や得意分野、居住地、経歴やバックグラウンドもさまざまで、そんなさまざまな人たちが”東アジア”の”図書館”という同じテーマのもとであやこやディスカッションしている、そういう話を朝から晩まで通しで聞いてきて、その印象をざっくりと言うと、ここに来ている全員が、ライブラリアンの新しい役割と今後の活動指針はなんであるかを、考え、語り、知りたがっている、という感じ。そして、その新しい役割や活動指針なるものは、おおむねだいたいなんとなく同じことだろうなということがみんな肌感覚ではわかってるんだけど、では具体的にはいったい何をどうすればいいのか、何をすればそれが成就するのかしないのか、実践例は、その釣果は、ていうのをみんなが大なり小なり模索しあい報告しあいをしている。そういう、各自のself developmentの持ち寄りがここにあらわれているんだな、という感じ。フロンティアのつばぜり合いみたいな感じ。もちろん何をどうするかというのの具体のかたちや結論はそれぞれちがうでしょう、例えばそれはデジタルアーカイブやデジタルヒューマニティーズであったり、教育プログラムへの関与であったり、新たな特殊コレクションの収集・構築であったり。人によっても、がっつり取り組んでるぜっていう人もいれば、懐疑的な人もいる。タイムマネジメントやプライオリティはどうしてるのか?という問いが何度か聞かれたので、わかってるけど体がついてこない的な悩みは万国共通的に皆持ってはるんだな、という感じでした。まあどれをどうするのが正解かはわかんないし、それがわかるのが5年後・10年後だとしてそのころにはまた新しいサムシングを追ってるんだろうしな。
・そこに統一した正解はないとしても、共通しているのはたぶんself developmentかなと。専門職としての司書が、やらなあかんことのために、常に必要な研鑽を、勉強を、と思うんだけど、その勉強というのはstudyというよりはself developmentでしょう。
・そしてやっぱりCEALは、というかアメリカのライブラリアン界隈は、いい。アメリカのライブラリアンから、なまった魂に水をジャブジャブぶっかけられて、気持ちを新たにさせられた感じ。これで新年度を迎えられるのはなかなか縁起がいいです、がんばります。
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