2016年04月21日

CEAL2016のメモ その2・日本研究ライブラリアンの集まり

 CEAL2016@シアトルのメモ、その2です。
 日本研究ライブラリアンの集まり、公式プログラムが3件と、インフォーマルなのが2件。

 以下に登場するNCCとCJMですが。NCCは、North American Coordinating Council on Japanese Library Resources(北米日本研究資料調整協議会)。CJMはCEAL内の日本資料委員会、Committee on Japanese Materials。ざっくり言えばどちらも北米の日本研究ライブラリアンのコミュニティ。


 以下が公式編。

●NCC/CJM Joint Session (3/30 19:00-20:00 + 20:00-21:00頃)
・“Updates from Japanese Partners: the National Institute of Japanese Literature and the National Diet Library”
・小分科会的なセッションで、NCC・CJMが合同で持つ日本研究司書向けの企画。
・NDLから、ILLサービスについての概説。e-ラーニング教材や海外日本研究司書研修について。それから地図のデジタル化事業の紹介、など。
・国文研の山本先生から、例の事業、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」について、概要紹介。
・なお、公式セッション企画のあとさらに1時間ほど、有志で集まってアンオフィシャルにミーティングが持たれて、主に国文研の事業について具体的な質疑応答や議論がなされる。アンオフィシャルなやつなので具体的なことは割愛しますが、北米図書館側はこの事業への連携提携を具体的に進めよう進めよう手を挙げようと望んでいる様子。国文研側の考えとしては、事業名にもあるようにこれは共同研究ネットワークの構築だ、という感じなんだなという印象でした。
・まあいずれにしろ、ヨーロッパ(2015年秋ライデン)でも北米(2016年春シアトル)でも、国文研さん超大人気、超期待大、ていうのがありありと見てとれました。

●Committee on Japanese Materials (3/31 15:15-16:15)
・CEALの日本資料分科会。二の丸。「Recent Developments in Japanese Higher Education: Politics and Policies in Japanese Universities」と題す。
・『右傾化する日本政治』(岩波新書)の著者、上智大学・中野晃一氏による「Historical Revisionism as Official Policy: Crisis of Academic and Press Freedom in Japan」という講演。どうなっちゃうんだろう、とため息がきこえる感じ。日本の図書館ではニセ歴史書?の類はどう分類してる?という問いあり。
・われらが永崎さんの講演、「Crisis of Humanities in Japan」。少子化、財政難。中期目標中期計画。科研費中の人文社会系の割合の少なさ。大学院重点化によって急増したのはおおむね理工系? 現在キーになっているような官僚が、勉強しなくてよかった大学時代を過ごしたから、という説にちょっとわく。あと、無用の用論ではまにあわない説は、おっしゃるとおり。今後必要となる対応としては、理工系との学際性、研究手法の改善、オープン化・・・、そこでデジタルヒューマニティーズですよ、ってことかな?

●North American Coordinating Council on Japanese Library Resources (3/31 16:30-17:30)
・NCC分科会。本丸。「Digital Humanities in Japanese Studies Now: What's Next?」と題し、先ほどは日本からの研究者の講演っぽかったけど、今回は北米ライブラリアンの現場報告のような感じ。
・ケンタッキー大学のコンサベーター・日沖さんからの報告「Advancing digital scholarship in Japanese studies workshop」。2015年11月にハーバード大学で催された「Advancing Digital Scholarship in Japanese Studies: Innovations and Challenges」(http://guides.nccjapan.org/c.php?g=397542)というワークショップについて。
・ライデン大学・ナディアさんの報告。ライデン大学の東アジアコレクションと、ライデン大学図書館によるデジタル化事業について。デジタルヒューマニティーズのための教員・ライブラリアンを採用する、イメージ・リポジトリを構築する。日本資料で言えば、シーボルトコレクションやホフマンコレクションのデジタル化、など、かなり積極的な姿勢で取り組んでいる様子がわかる。ライデンって前からそういう土地柄だったんだろうなという気はする、たとえばIDCだってマインド的にはそうだろうし。
・ワシントン大学セントルイス校の小牧さんのプレゼンは、永井荷風とデジタルヒューマニティーズ。技術的問題、レファレンス的な問題、学術的な問題などなど。
・そして来年3月、トロントのCEALでは、2017/3/13-14にデジタル・スカラシップin Japan StudiesのワークショップをNCCでやりますとのこと。これは、期待・行きたい、です。


 そして以下が、非公式なの。ちゃんと企画立てて組まれたものもあれば、個人ベースで顔をつきあわせて話するといったものもあり。

●「Gaihozu Show and Tell」(3/29 12:00-13:20)
・外邦図を所蔵する北米図書館の司書などからなるグループによる、外邦図に関する自主的勉強会。
・ワシントン大学Suzzallo Libraryのマップルームにて。
・参加者は、北米のいくつかの大学の日本研究司書やマップコレクションの司書など。NDL地図部署の方も参加。またオンライン会議システムで大阪大学名誉教授の小林茂先生やスタンフォード大学のマップコレクションの主任司書の方も参加。

・外邦図について
・外邦図は、明治から太平洋戦争終戦までの間に、旧陸軍参謀本部の陸地測量部(現在の国土地理院)が作成した、日本の領土以外の地域の地図。満州・中国などの地図、当時日本の統治下にあった台湾、朝鮮半島、樺太南部などの地図が多い。主に軍事目的で作成されたこともあって、機密文書として終戦直後に多くが処分されたか、あるいは米軍に接収された。その一部が日本の大学図書館等に残り、また多くが北米など海外の大学図書館等に所蔵されている。
・国立国会図書館では約15000枚を所蔵(台湾、朝鮮半島、樺太南部、満州等)。ほかに、東北大学、京都大学、お茶の水女子大学、東京大学、広島大学、駒澤大学、岐阜県図書館など。
(参考)
・小林茂. 『外邦図 : 帝国日本のアジア地図』(中公新書, 2119). 中央公論新社, 2011.
・東北大学附属図書館/理学部地理学教室 外邦図デジタルアーカイブ http://chiri.es.tohoku.ac.jp/~gaihozu/
・外邦図(一覧) | 調べ方案内 | 国立国会図書館
https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-601012.php

・日文研には、朝鮮総督府・陸地測量部による朝鮮半島地域の地図が約400点所蔵されている。タグ「外邦図」をクリックまたは下記URL。
 http://toshonin.nichibun.ac.jp/webopac/ufirdi.do?ufi_target=ctlsrh&srhclm1=tag&valclm1=外邦図

・勉強会で出た話
・スタンフォード大学マップコレクションでは外邦図を所蔵している。約10000枚、1940年代後半-1950年代前半。
・2011年10月にスタンフォード大学でシンポジウムが開催された(参照:http://www.let.osaka-u.ac.jp/geography/gaihouzu/newsletter9/
・GIS化は困難では(実戦経験の共有が少ないため)。
・国立公文書館や東北大学がデジタルアーカイブ構築を進行中。
・外邦図は長い間秘密にされてきたもの。臨時に作成されたもの、正確さに疑問があるものなどがある。地名の90%が間違っている例や、漢字が適当に作字されてしまっているものもある。
・外邦図が何に活用可能かは、今後の課題であるところが多い。
・全体像を把握するために、日米で資料とその情報の共有が必要。(その経緯から、アメリカにしかないものがたくさんある)
・外邦図の公開・閲覧システムの構築が必要。
・所在調査をするにしても、各大学のどこ/誰に問い合わせれば分かるかという問題がある。地図コレクション? 地理学? 日本研究司書? Goverment Document?

・egamidayさんの感想。外邦図を「外邦図」という視点だけでかためてしまうと、今度は同時期の他の地図とリンクさせた利用など、地図一般・史料一般としての利用ができなくなる/しづらくなってしまうのではないか。外邦図含めどの古地図もデジタル化・可視化させていく動きは必要として、「外邦図」としてはそれらをヴァーチャルにまとめる/ポータル化していく方向にもっていったほうがいいのではないか、という気がする。


●ILLに関するインフォーマルなミーティング(3/29 20:00-21:00頃)
・急遽、話をしないかと声をかけられて、Sheratonホテルロビーにて、夜、インフォーマルに。
・NCCのILL委員の方々、NDLのサービス系の方、NBKのサービス系の方(つまりegamidayさん)。
・おおむねNDLのILLサービスや図書館送信サービス等に質問・要望する感じのやりとり。
・GIF初期に、海外の図書館へは(図書館間送信に限っては)デジタル形式で複写を送信していいという合意がとれていたはず、との言あり。確かにうちとこでも過去にはArielで電子送信していた作業手順があるにはあったが、確認したところ、やはり著作権管理団体と国内大学図書館とによる”許諾資料”のみか。ただこれも人によって言うことが違う。要確認。
・他には、NBKとしてはとりあえず何かしら出来るだけの対応をするから、何かあればメールしてほしい、と宣伝(これは宣伝になってるか?)。
・結局どういうふうにすればILL受付って増やせるんでしょう、難しい。


 もうひとつミーティングがあったのですが、それは別途。

posted by egamiday3 at 23:09| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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