2017年03月01日

デジタル(e-resource)不足 #2017年の本棚の中のニッポン


 デジタル不足、特に、日本製e-resource(電子書籍・電子ジャーナル・データベース)の不足については、中国・韓国との対比で語られることが多いのですが。

・「北米大学図書館の日本研究司書の人たちの危機感を実感した話 - digitalnagasakiのブログ」(2016年1月)
digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/2016/01/26/175249
台湾・中央研究院の学術書籍をデジタルで即座に入手できた経験から、「米国の研究者業界で、日本研究はおそらくそのような不利な状況におかれている」、と。

・川島真. 「新たなデジタル化時代の中国研究と日本」. 『東方』. 2016.4, 422, p.4-7.
「■情報へのアクセスと発信lまず日本語での発信を」
「中国のCNKIに相当するものを日本はもっているだろうか。CiNiiはもちろんあるが、そこで見られるコンテンツは限定的だ。英語での発信とか中国語での発信が問題になることが多いが、そもそも日本語でさえ情報発信ができておらず、日本国内の学術情報が「閉じた」空間に置かれていることがそもそもの問題で」
「海外の中国研究では、日本の研究が参照されなくなったと言う声を聴くことがあるが、その根本的な問題は日本の、日本語で書かれた中国研究の成果の利用の面で限界が有るからではないか」
「このままでは、日本の研究はそもそもウェブ空間に陳列さえされておらず、日本でも世界でも消賀されないまま検索エンジンにひっかからない空間に留まってしまう。そして、それどころかこちらから学術資源を提供しないということになり、海外の学術資源を得ていく機会をも喪失することにもつながろう」

 デジタルで生産していない、発信していない、というだけでなく、購入もしていない、と。

・金文京. 「中国古典文学研究と漢籍データベース検索」. 『日本語学』. 35(10), 2-9, 2016-09
http://ci.nii.ac.jp/naid/40020947860
「日本では、『中国基本古籍庫』を契約している大学は全国で数校にすぎず、大部分の研究者や学生はアクセスすることができないのである。現在の研究状況から言えば、これでは中国の研究者と同じ出発点にさえ立てないに等しい」

 まず学術雑誌の電子化について言えば、紀要はかなり進んだものの、学会誌・協会誌が進んでいないという指摘。

・佐藤翔. 「ビジビリティの王国 : 人文社会系学術雑誌という秘境」. 『DHjp』. 2014, 4, p.18-24.
・佐藤翔他. 「日本の学協会誌掲載論文のオンライン入手環境」. 『情報管理』. 2016.3, 58(12), p. 908-918.

 日本の学協会誌とその論文が電子化されていない、特に人文社会系のそれがオンラインで入手できない様を「秘境」と表現した佐藤さんたちが、実際に日本の学協会誌を調査したところ、日本の学協会誌掲載論文のうちオンラインで入手可能なものは人文科学で43.7%、社会科学で51.5%。まだまだだなと見るか、あ、意外と増えたな、と見るかは人によって分かれるかもしれませんが、例えばIthakaの調査を見ると。

・「Ithaka S+R US Faculty Survey 2015」
http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty-survey-2015/

 「電子ジャーナルがあったら紙はいりませんか?」の問いに、人文系でも6割近くがいらない、と答えてるくらいに整備されてるんだな、っていうことを考えると、その中にあって日本研究のためのリソースはこう、っていうのはやっぱり格差がかなりありそうだなという感じですね。

 電子書籍について、直近では、『情報の科学と技術』に、

・グッド長橋広行他. 「米国大学図書館における電子書籍サービス」. 『情報の科学と技術』. 2017, 67(1), p.19-24.

 この投稿論文はおおむね米国事情を伝えるものでしたが、最後の方に「日本の電子書籍への要望」とする章があって、読んでるとまあやっぱり、仕様とか、契約プランとか、内容云々において、売り手と買い手とがだいぶ噛み合ってないなという印象で、これたぶんどっちがどうというわけではなく、強いて言うなら日本の買い手側がきちんと買い手場所を耕せてないのが遠因だろうなと思うんですが、いずれにしろ満足には活用されていないなっていう様子がうかがえます。
 他方で同論文中で紹介されている米国のDDA/PDA事情について、このグッドさんは2016年6月の同志社でおこなわれたシンポジウムで、「米国の蔵書担当ライブラリアンはDDA/PDAで選書の仕事がなくなり、かわりにインストラクション活動に時間を使えるようになった」とご紹介になり、一方で日本の本はまだまだ紙を選書せんならんのでそれに時間を使う、っていうことなので、ここにも格差ができつつあるというか、格差の連鎖が起こってるんだなと思いました。(ライブラリアンが選書しなくていいのかどうか?という話はまた別の問題ですが)
 そのシンポでも先の論文でも言及されていましたが、日本の電子書籍をEBSCOでDDA導入してみたものの、年間で5冊しか購入実績がない、という。
 これは永遠の卵と鶏みたいな話で、使われないから供給されないのか、売られないから導入されないのかですが、まあでも卵鶏言うてる暇あったらどっちかがアクション起こさない限りはどうしようもないので、同志社シンポの今度はアンサーシンポのほうで日本側司書から発言あったように、日本の電子書籍を日本の大学図書館が買わなかったらどうしようもない、そこを我々が耕せてないから、めぐりめぐって、海外の日本研究ユーザに魅力ある電子書籍も提供できてないってことなんじゃないかと思います。

 これは丸善eBookでやった実験ですね。

・CA1874 - 大学図書館における電子書籍PDA実験報告〜千葉大学・お茶の水女子大学・横浜国立大学の三大学連携による取組み〜 / 山本和雄、杉田茂樹、大山努、森いづみ
http://current.ndl.go.jp/ca1874

 さてじゃあこの電子書籍の利用を促進するのに一役買ってくれるのが、ウェブスケールディスカバリの類なんだろうな、という感じですけど、それはそれでまた項をあらためて。

 学術書じゃないほうの一般的な電子書籍が海外に発信されていくかどうか、については、正直あまり詳しくは追えてないんですが、下記のニュース記事を追うだけでも、なんとなく、あ、これそろそろ時間の問題なんじゃないかな、っていう印象を持ちますね。


・メディアドゥ、OverDrive社と戦略的業務提携について基本合意(2014年5月)
http://current.ndl.go.jp/node/26119
「日本コンテンツをoverdrive経由で海外図書館に配信」

・「メディアドゥ、日本の様々な書物を英訳する官民連携のプロジェクト「JAPAN LIBRARY」で英訳された電子書籍を、米・OverDriveを通じて、海外の電子図書館へ」
Posted 2016年2月9日
http://current.ndl.go.jp/node/30690

・「株式会社メディアドゥ、米国OverDrive社と提携して実施している日本のデジタルコンテンツの海外電子図書館への配信について、配信館数が100館を突破」
Posted 2016年4月19日
http://current.ndl.go.jp/node/31386
「購入されたコンテンツの主なカテゴリーは、英語に翻訳されたマンガや日本語のマンガ、日本語の文学作品や、絵本とのことで、配信対象館としては、米国のロサンゼルス公共図書館、米国陸軍図書館、ハワイ州立公共図書館などのほか、カナダのカルガリー公共図書館やブリティッシュコロンビア図書館など」
・「メディアドゥ、海外電子図書館への日本コンテンツ輸出が加速。配信図書館数が100館を突破」(株式会社メディアドゥ, 2016/4/19)
http://www.mediado.jp/service/1340/

・「電子書籍取次のメディアドゥ、同業を買収 80億円で」
2017/2/28 0:01 日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO13449860X20C17A2TI5000/
出版デジタル機構を買収。「取り扱う電子コンテンツの幅を広げる。海外に日本のコンテンツを配信する事業も強化したい考え」

・「講談社、ミリオンセラー無き増益 デジタルで稼ぐ」
2017/2/21 18:11 日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ21HLH_R20C17A2000000/
「紙の不振をデジタルで補うという構図が鮮明になった講談社。だが、今回の決算で注目すべき点がもう一つある。海外版権ビジネスだ。売上高の絶対額こそ36億円と小さいが、前の期からの伸び率は16%に達した。」
「講談社は14年に米国に電子書籍の配信子会社「講談社アドバンストメディア」を設立した…「進撃の巨人」など日本でヒットした作品の英語版の配信」

posted by egamiday3 at 23:21| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする