・「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/04/J2016_520.pdf
・極私的にhtml化したもの
http://egamiday.sakura.ne.jp/wiki/「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」
詳細は下記を参照。
・『公開ワークショップ「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための提言」報告書』(I, II, III). JALプロジェクト2014「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」実行委員会, 2015.3-2017.3
http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB18323816
・水谷長志. 「JALプロジェクト「海外日本美術資料専門家 (司書) の招へい・研修・交流事業」2014-2016:3年間の総括としてのアンサー・シンポジウムおよび 「提言」 への 「応答」 としての 「提案」 について」. 『情報の科学と技術』. 2017, 67(6), p.309-314.
http://doi.org/10.18919/jkg.67.6_309
これは海外で日本美術やその研究・資料提供の仕事をしている専門家の人たちが、日本側に向けて「もっとこういうふうに情報発信力を高めてほしい」とこれまで言い募ってきた提言を、凝縮してまとめたものです。もちろん美術分野に限らず、あらゆる文化資源や学術資料、研究資源やデジタルアーカイブ的なもの全般に向けての提言でもあります。
この提言の元になった「海外日本美術資料専門家(司書)の招へい・研修・交流事業」(=Japanese Art Librarian、JALプロジェクト)は、2014-2016の3年間、国立東京近代美術館さんが中心になっておこなってきたものです。私も実行委員その他のかたちで参加しました。3年間で計25人の方が海外から来日し、研修を受講し、そして最後にワークショップのかたちでさまざまな提言をのこしてくれました。その3年間の事業とワークショップが終わり、さらにその海外からの提言に日本側からこたえようじゃないかという試みとしてアンサー・シンポジウムが開かれ、という経緯を経て、その蓄積された提言を国内外関係者に広く知ってもらって課題解決につなげなきゃだろう、ということでの、このA4・2枚の「・・・提案」という文書なわけです。
というのも、アンサーシンポジウムまでやってもなお、それが課題解決に直結するわけでもないし、しそうにない、それはそうです、一部の人たちが集まって話するだけで解決するようなスケールの問題じゃないし、そういうスケールの仕組みでもない、今後継続的にあちこち、多業種・多分野で、大きいところで大きくなり小さいところで小さくなり地道になりドラスティックになりやってかなきゃいけないことばかりなんだから、そこに集まった人たちだけで、はい、わかりました、では、国内全体のレベルを底上げするような解決にはつながらない。
必要なのは、ここで提言されたこと、ニーズや解決すべき課題やその肝となる考え方を、まだ知らない/認識してない人たち、多業種・多分野・大中小のあちこちに知ってもらうことだろう、と思うんです。ていうか、思ったんです。
そうは思うものの、じゃあ例えば報告書全文やレジュメのPDFや講演の動画などをアーカイブとしてネットに上げておけば、伝わるか、っていうと、見たい人は見るでしょうけど、別に見ようと思ってない人にまで届くわけじゃなくて、それだと困る。伝わりやすいように、届けやすいように、参照されやすく配布されやすく一覧・一瞥しやすく、箇条書きかチェックリストのようなかたちでPDFをネットに上げておけば、なにかにつけて、そういえばこういうのあるからこれ見てよって、ポンって示せるから、そういうのがあったらいいんじゃないかなって、思うんです。ていうか、思ったんです。
思うんですけど、こういう課題があるとかこうしたらいいっていう指針って、fixできる正解があるわけじゃないんですよね。この文書A4・2枚を書いて出したからといって、個々の機関や立場によってできるできないがちがうし、業界や職種によって問題の大小がちがうし、時間が経てば環境も事情もちょっとづつ変わるから、課題も指針も考え方も変わって当然なので、だからこれを金科玉条にして実現に邁進していくんだ、グイグイの力仕事なんだ、っていうわけじゃないし、こうなるのが唯一のハッピーエンドなんだって言うつもりもない。あくまで課題・問題の所在の認識だし、考え方をひとつ取り入れるかどうか的なことだと思うし、だからこそ、その認識・考え方は追ってアップデートされていくのが自然だろうと思います。
ただひとつ、バッドエンドがあるとするならば、それはせっかく出た提言、課題、問題の所在という知見が、知られずに終わること、共有されずにすぅっとフェードアウトしていくこと、気付かれないがゆえに何もされないというぼんやり感。その手のバッドエンドだけはせめて避けたいし、避けられるだろう、やりようによっては、と思うんです。ていうか、それがたぶんあたしの考え方のベースなんだろうなって思うんですけど、だから”図書館”とか”文献”とかいうものの力を信じてこの仕事してるわけで。
で、そういう参照されやすいような文書にしましょうっていう提案をして、下書きして、委員会で完成形にしてもらったのが、それです。
ただ、これ抽象的な提言文句だけだと、なんのこと言ってるのかも伝わりにくいよなあ、って思って、いくつかの条文に、事例というかこういう具体案がありますよ、こういうベストプラクティスがありますよ、的なことも添え書きしてたんですけど、それだとコンパクトに収まんなくなることもあって、割愛になったところもあるんですが、でもやっぱりこう見ると、んー、そのことをわかってる人にしかわかりにくいんじゃないかな、的なところも多分にあるし、なにより、ただたんにああしろこうしろと言われるよりは、「それについてはこういうイケてる事例があってね」と示されるほうがノリも良くなるだろうと思うんで、はあっていうんで、前置きが長くなりましたが、スペースの都合上割愛したところを極私的に解説するという、そういうやつです。
以下、各条を抜粋しつつ。
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1. 海外のユーザについて
1.1. 海外のユーザのことも対象者として認識すること。
・日本の美術資料は、日本のユーザだけのものではなく、海外のユーザも必要としているということを認識してほしい。
・専門の研究者だけでなく、日本文化に興味を持つ一般のユーザや、日本が専門ではない司書・資料専門家・研究者等も、日本美術資料のユーザとして認識してほしい。
・ターゲット・ユーザの見直しは、国内・海外を問わず必要である。
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海外のユーザも日本資料を必要としている、という件について、ここではあるポエムを紹介させてください。JAL研修2016年受講者のフォルミサノ・ペトコヴァ・サロマー班がプレゼンで紹介した、Kahlil Gibranという人の作品です。(和訳)
あなたの子どもはあなたの子どもではない
彼らは生命そのものが望んだ息子と娘である
彼らはあなたを通って生まれてくるが、
あなたから生まれるのではない
あなたと共にいるけれども、
あなたのものではない
このプレゼンのタイトルは「アートは世界の遺産:Art Belongs to all」でした。受講者のみなさんはこのポエムを通して、日本資料は日本だけの専有物ではない、ということを伝えたかったのだろうと思います。
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1.2. 海外のユーザが日本から離れつつある現状を認識すること。
・日本美術資料のために、英語等が整備された海外のデジタルアーカイブを使うユーザが多い。(例:ニューヨーク・メトロポリタン美術館、大英博物館、Ukiyo-e.org等)
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これもJAL研修2016年受講者のグッドさんからの紹介です。「Good model for an easy access」として紹介されたのは、ニューヨーク・メトロポリタン美術館や大英博物館のデジタルアーカイブでした。
・ニューヨーク・メトロポリタン美術館の例
http://www.metmuseum.org/art/collection#!?q=ukiyoe
・大英博物館の例
http://www.britishmuseum.org/research/collection_online/search.aspx?searchText=japan&images=true
もちろん、コレクションの豊富さや情報の充実度で言えば、日本の美術館や博物館のwebサイト、日本のデジタルアーカイブの方がより充実しているでしょう。ですがそれでも、海外の研究者たちが比較的よく利用するのはメトロポリタンや大英博物館の方だと言います。たとえ件数が少なくても英語で公開されているそれらのwebサイトの方が使いやすい、という理由です。
・・・いや、と言うよりもはや「日本サイトのほうが日本資料充実してる」説のほうがダウトっぽくなってきてないですかマジで。
こんなサイトもたくさんの海外研究者が利用しているそうです。
・Kuniyoshi Project
http://www.kuniyoshiproject.com/
・The Utagawa Kunisada (Toyokuni III) - Project
http://www.kunisada.de/
・Kabuki.21
https://www.kabuki21.com/
単に英語だからというより、そもそも使いやすさ、機能、ポータル的充実さが日本製のサイトよりぜんぜんいい、という意味では、代表的なのは、Ukiyo-e.orgですね。
・Ukiyo-e.org
https://ukiyo-e.org/
メタデータ検索だけでなく、画像による類似検索もできる。そして日本からも江戸東京博物館、東京国立博物館、早稲田大学演劇博物館、立命館大学等がデータを提供している。正直言うと、例えばあたしなんかは浮世絵や美術が専門じゃないからそんなにしょっちゅうそれ系の検索とかするわけじゃないんだけど、そのくらいの距離感だと、日本のどこかのサイトに期待するよりはよっぽどこのUkiyo-e.orgのほうを先に見に行っちゃう、っていうのはあります。
という意味では、日本資料を求めてるからと言って、日本が頼りにならないんなら、ユーザは当然よそへ行っちゃうよ、という感じのあれです。それは、「日本が頼りにならないから→日本以外のサイトで日本資料を探す」というのもそうだし、さらに進むと「日本が頼りにならないから→日本を研究することをやめて別のことをする」ということでもあります。そのことは、たくさんの人が形を変え言葉を変え事例を変えつつ同様のことを口々に言うてはる。特に、日本語や日本文化を学生に教えている大学教員・講師に就いている人たちにしてみれば、もう直接的に目の前にいる学生たち(=若いデジタル世代)が困る→モチベーション下がる→減る、なわけなんで、その語り口はまさに真剣です。
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2. データベースやデジタルアーカイブのあり方について
2.1. 多言語対応、ローマナイズが必要であること。
・コンテンツ全体の対応が難しくても、メタデータやアブストラクトだけでも対応してほしい。(例:渋沢栄一記念財団の社史データベース)
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メタデータの英語対応への努力、ということでは、JAL研修2016年度アンサーシンポにおいて渋沢栄一記念財団の茂原さんが紹介してくださった「渋沢社史データベース」の例があります。
・渋沢社史データベース
https://shashi.shibusawa.or.jp/
AASやEAJRSで海外のユーザから受けとった要望をふまえて、書誌事項にローマ字のヨミを追加しています。
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・日本美術研究資料の翻訳を推進してほしい。(例:Japanese Arts Library、Heibonsha Survey of Japanese Art)
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翻訳については、JAL研修2014年受講者の吉村さんから提言があったので、挙げておきました。特に学部の段階で日本語の書籍を読みこなせる学生はどうしても少なく、一般教養の一環として学ぶ学生ともなれば英語文献に頼らざるを得ない。そういうユーザにリーチする=将来の日本研究者を育てるのに、基本図書の翻訳出版はやはり重要だろうという話です。
そこで紹介されたのが、「Japanese Arts Library」(至文堂「日本の美術」からの翻訳)と「Heibonsha Survey of Japanese Art」(平凡社「日本の美術」の翻訳)の2つのシリーズでした。
・Japanese Arts Library
http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA00635786
・Heibonsha Survey of Japanese Art
http://ci.nii.ac.jp/ncid/BA07219382
これらはうちとこの図書館にもあって、確かによく使われる、受講者の吉村さんはワシントンDCのフリーア美術館のライブラリアンですが、そこでもやはり学生さんはコレラをよく使う。ただし、この2シリーズは1970年代から80年代に翻訳出版されたもので、そして、それ以降はめざましい翻訳シリーズが出ていない、だからいまだに使われている、とのことだそうです。
平凡社のに至っては日本での出版が1960年代ですから、半世紀前のコンテンツっていうことですよね。それをいまだに使ってる、となると、”新鮮な”翻訳コンテンツってちゃんと無いとダメよな、ってやっぱり思います。
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・翻訳が困難でも、海外の一般ユーザに届くコンテンツは作成可能である。(例:Visualizing Cultures(MIT)等)(※本紙上は割愛)
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この1条は公開版からは割愛されてます。そういうのもあります。まあ、英語/ローマ字話にこれが混じってるのもどうかというのはありますが、とは言え、言語の壁をどう解決するかという点ではこれは重要かつ有効な考え方のはずだとやはり思うので、ここで挙げておきます。
JAL研修2015年受講者レッドファーンさんからの紹介です。
・Visualizing Cultures
http://visualizingcultures.mit.edu
データベースやコンテンツを全部英語に翻訳するのはコストがかかる。それに、翻訳したとしてそれだけで、たとえば専門家でない海外の一般の人々がどれだけそのことを理解できるか、という問題もある。そのような、「日本語もわからない」し「日本のこともわからない」人へ向けたコンテンツのあり方の一例として紹介されたのが、マサチューセッツ工科大学の「Visualizing Cultures」というサイトです。
このサイトでは、日本由来のデジタル画像からさまざまな種類の関連文献へのリンクが提供されています。リンク先には、論文やエッセイがあったり、地図や動画があったり、別のデジタルコレクションや、オープンコース的なサイトへのリンクもあります。言語による翻訳、というよりは、コンテンツをリッチにして文脈を解説する、外堀を埋めるというような感じ。これだと、それっぽいプラットフォームさえあれば、言い方は悪いかもしれませんが”ありもの”で埋めていくこともできるわけなんで、ネット上でのコンテンツの作り方、その考え方としてはベストプラクティスなんじゃないかなって思いますね。
翻訳/英語化/ローマ字化すること自体が目的ってわけじゃないですし。
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2.2. 可視化が必要であること、およびそのためのポータルサイトが必要であること。
・日本のデータベースやデジタルアーカイブが、あちこちに散在していてわかりにくく、インターネットで公開されていても、海外の専門家に周知されていないことを認識してほしい。
・包括的・効率的な検索・アクセスのために、日本美術に関する資料・情報を集約するポータルサイトを構築してほしい。
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そんな”日本版ヨーロピアナ”的なものの実現については、内閣府知的財産戦略本部というところで検討が進められ、国立国会図書館さんが(現行)NDLサーチ→(仮)ジャパンサーチを構築しようとしてらっしゃる。「世界に向けて我が国のメタデータを流通・発信」「多様な分野のコンテンツへのアクセス、所蔵情報をわかりやすく伝える」ということらしいので、当面はそれを現実的な解として考えていくべきなんだろうなと思いますね。
・デジタルアーカイブの連携に関する関係省庁等連絡会、実務者協議会及びメタデータのオープン化等検討ワーキンググループ(内閣府知的財産戦略本部)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/index.html
・「NDLサーチの歴史と今後」小澤 弘太
http://www.ndl.go.jp/jp/event/events/lff2016_forum_search1.pdf
ていうかもう、これでできなかったら日本終了だなと思いますけどね。
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2.3. オープンなアクセスが必要であること。
・ソーシャルサイトや外部のwebサービスにも積極的に提供してほしい。(例:Flickr、Wikimedia Commons等)(※本紙上は割愛)
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最後の1条も割愛されたものです。JAL研修2014年受講者の岩瀬さんが、アメリカやヨーロッパの進んだ機関ではソーシャルメディアに作品画像をアップロードして、アクセスポイントを増やしている、ということを指摘なさっていました。
事例で言うとこのへんでしょう。
・LC、Flickrに進出
http://current.ndl.go.jp/node/7146
・英国図書館、100万枚以上の画像をFlickr Commonsで公開
http://current.ndl.go.jp/node/25080
あらためて確認しにいったら、LCがFlickrに画像アップしたのって2008年、もう10年前じゃないですか、マジですか、ドッグイヤーですか。
あと日本で最近出てきためでたい事例が↓。
・東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門、漢籍・碑帖拓本の高精細画像をFlickrで公開:CC BY-NC-SA 4.0で提供
http://current.ndl.go.jp/node/34068
この、ソーシャルサイトやwebサービスにアップロードすることを「オープンなアクセス」のひとつに条的には入れてますけど、そもそも”オープンなアクセス”って、「タダで見ていいよ」的な許可的な文脈で語られるよりは、「見つけてもらえやすくする=ファインダビリティ、ディスカバラビリティ」的な文脈でこそ語られたほうが出す方も見る方も前向きになれると思うんで、並べるとしたらこうなるかなって思うんですよね。
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2.4. ユーザにとって使いやすいこと。
・特に若い世代の学生等のためにデジタルコンテンツの充実とデジタルデバイスへの対応が必要である。(例:スマホ対応、アプリ作成)
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「若い世代対応」問題は1.2でも出ましたが、その繰り返しです。ここで言う「スマホ対応、アプリ対応」というのは、決して「流行りモノにのっかんなさい」という意味ではなく、どういうユーザにどう焦点をあてるのか、そしてそのユーザが普段使い普段目にしているものは何でどこなのか、それを考えたら対応すべきはこれでしょう、ていう。2016年JAL研修受講者のペトコヴァさんは大学の先生ですが、現代の学生はスマホでデジタルにアクセスできない、見つからないと、それ以上はやらない。あるいは何するにしてもアプリを活用する。そういうユーザにどうリーチするのか。
これについてはよくご存知のベストプラクティスがこちらで。
・「早稲田大学文学学術院、「変体仮名」をゲーム感覚で身につけられる無料スマートフォンアプリを公開」
http://current.ndl.go.jp/node/29862
・「くずし字学習支援アプリ「KuLA」が公開開始」
http://current.ndl.go.jp/node/30780
海外の学生にも大人気らしいですよ、ベストプラクティスですね。もちろんこれが一朝一夕にできるわけじゃないというのは重々承知の事ながら、コンテンツ自体は海外のみなさんにも興味持ってもらえそうなものいっぱいあるわけなんで、ビジュアル系の分野なんか特にいいですよねって思いますね。
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2.5. 国際的なレベルでのデータベース構築やコンテンツ発信が必要であること。
・国際的なポータルサイト等に日本の機関も積極的に参加してコンテンツを発信することを検討してほしい。(例:Ukiyo-e.org、Artstor、東京文化財研究所による展覧会カタログ情報のOCLC提供等)
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最後の1条、つまり、日本側でポータルを構築整備することもさることながら、それだけじゃなく、すでに国際的に流通・普及している海外のポータルサイトのほうに出てきなさいと。海外サイトに参加し、データを提供し、コンテンツを発信しなさい、じゃないと、日本の国境線内側だけでオープンにしてても”可視化”にはなんないよ、と。
その例として、Artstorというサイトの話は2014年にも2015年にも繰り返し言及されていました。
・Artstor
http://www.artstor.org/
2015年JAL研修受講者のジヨンさんによれば、Artstorという美術教育用データベースが欧米ではよく使われていて、そこには各国の美術作品画像が素材としてごっそり収録されていて、学生は美術学習のためにそれを自由に使える、というインフラ的な存在らしいです。そこに、日本の美術作品も収録されるにはされているものの、その提供者というのは日本の美術館博物館ではなくて、ほとんどがV&Aとかナショナルギャラリーとか大英博物館とか、そういう欧米の所蔵館が提供しているもの、という事情だそうです、2015年現在の話ですが。もちろん、日本のどこそこの博物館のどこそこのサイトに行って何回かクリックすれば、タダでオープンで公開されてるのかもしれないけども、それと、国際的に普及しているポータルサイト上でぽんっと出てくるのとでは、同じオープンはオープンでも雲泥のオープンなんだな、ていう。
そういう意味では、下記の2つ、東文研さんと奈文研さんのはもっと話題にされてほしいベストプラクティスだなって思いますね。
・東京文化財研究所、展覧会カタログ情報をOCLCで提供 (2016年10月)
「第7回美術図書館の国際会議(7th International Conference of Art Libraries)への参加」
http://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/240626.html
「東京文化財研究所は、本年度このOCLCに、日本で開催された展覧会の図録に掲載される論文情報を提供することになっており、来年度にはこうした当研究所のもつ情報が世界最大の図書館共同目録「WorldCat」や、OCLCをパートナーとする「Art Discovery Group Catalogue」で検索することができるようになります」
・奈良文化財研究所、全国遺跡報告総覧とWorldCatのデータ連携開始 (2017年2月)
https://www.nabunken.go.jp/nabunkenblog/2017/02/worldcat.html
OCLCのセントラルインデクスに奈文研がデータを提供して、WorldCatで全国遺跡報告総覧の検索・リンクができる。
「WorldCatの検索結果画面から奈良文化財研究所の全国遺跡報告総覧に画面遷移し、収録する発掘調査報告書の PDF をダウンロードできる」
(「「全国遺跡報告総覧」は、埋蔵文化財の発掘調査報告書を全文電子化して、インターネット上で検索・閲覧できるようにした“電子書庫”です。「総覧」は、全国遺跡資料リポジトリ・プロジェクトによって構築された遺跡資料リポジトリ・システムとコンテンツを国立文化財機構 奈良文化財研究所が引き継ぎ、運用しているものです」)
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3. 人的サポートとコラボレーションについて
3.3 交流・ネットワーク作りやコラボレーションが重要であること。
・国際会議に積極的に参加し、発表したり、パネルやワークショップを催したりして、情報発信をしてほしい。(例:AAS(アジア学会)、CEAL(東アジア図書館協会)、EAJRS(日本資料専門家欧州協会)、EAJS(欧州日本研究協会)等)
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AAS・CEAL・EAJRS・EAJSといったところへ、日本の文化学術機関が出向いていって、資料・情報の伝播・発信という意味での活動をおこなう、ということについては、それをもっと促進させたい。その促進させる、させやすくするひとつの案として、例えばですが、こういうふうにやってきたよ、という実践例・成功例が集約・蓄積されてるようなところがないかな、っていうのは思いましたね。国文研さんなんかたくさんやってはるけど、そのノウハウとか実践報告みたいな、それを読んだら、あ、うちもできるじゃん、って思えるような感じのやつ。
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・海外に出向いて学生に研修をおこなったり、情報交換の場を設けたりしてほしい。(例:ピッツバーグ大学JAL出張セミナー)
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2016年にはJAL出張セミナーと呼ばれるものがピッツバーグでおこなわれてたんですね。
・ピッツバーグ大学でのJAL出張セミナー開講の試み
http://www.momat.go.jp/am/wp-content/uploads/sites/3/2017/04/J2016_460.pdf
で、そこでも言われてたんですけど、一方的に教えに行くような姿勢の研修・セミナーよりは、「情報交換のワークショップのような相互に教え合う対等な形の方が良い」んだろうと思います。これは逆もそうで、日本から海外に研修・調査の出張に行くとかいうようなときに、こちらが情報を得るばっかりの目的で行くのはやっぱり相手にとって失礼というか、なんの旨味もおもしろみもないので、答えもオチも特になくていいから、ディスカッションや情報交換のようなかたちで場をデザインするのが肝要なんだろうな、って思いますね。専門家同士の会合ならそういうふうにしようって、わりとすっと思えるんですけど、学生相手の企画として、っていうときになってそういうことをすっと思えるかっていうと、そうでもない気がするので、そこは気をつけようって思いました。
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・多言語対応・ローマナイズやデータベース等のプロジェクトにおいて、海外関係者ともっと議論をし、連携・協力を求めてほしい。
・海外の関係者もプロジェクトに加えて進めることを検討してほしい。(例:東京文化財研究所とセインズベリー日本芸術研究所による英語での文献情報提供)
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そうなんですよ、これまででてきたもろもろの課題を、日本側だけの問題として日本側だけでなんとかしようとするから、コストがかかるとか上手くいかないとかになっちゃうんで、それもっとこう、向こうの人たちひっぱりこんで一緒にやったらいいんだなって、例えば下記のような事例の話を聞いて思いましたね。
・「文化財関係文献(統合試行版)」. 東京文化財研究所
http://www.tobunken.go.jp/archives/文化財関係文献(統合試行版)
『日本美術年鑑』所載文献、などの日本語文献・情報の統合データベースの中に、セインズベリー日本藝術研究所が採録・入力した英語の日本美術文献のメタデータ等(主に2013年以降)を収録しているもの。
・「セインズベリー日本藝術研究所との共同事業のスタート :: 東文研アーカイブデータベース」
2013年7月
http://www.tobunken.go.jp/materials/katudo/120524.html
「この事業は、これまで東文研が日本国内で発表された日本語文献の情報を収録して公開してきた「美術関係文献データベース」を補完するものとして、SISJACが日本国外で発表された英語文献の情報を収録したデータベースを構築及び公開することにより、日本国内外における日本芸術研究の共通基盤を形成することを目指しています」
天理の古典籍ワークショップもそうでしたし、初期の頃の海外日本司書研修もそうだったと思うんですけど、日本側と海外側とで一緒になって何かやるのって、たぶん、それが盛夏として成就するかどうかよりも、一緒になって何かやってるその過程の議論や活動のほうが意味大きいんだろうなって思いますね。
なんかもう、よろずのことは、結果が出るか出ないかはあんま問題じゃないみたいな。
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・学生をプロジェクトに参加させることが、若い世代の育成につながる。(例:立命館アートリサーチセンター)
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最後は、いつもお世話になってる立命館アートリサーチセンターさんからの事例です。これも2016年JAL研修受講者のペトコヴァさんが見学行ったからかわりと厚く語ってた気がします。
・立命館大学アート・リサーチセンタ一
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/
・立命館大学大学院 文学研究科 行動文化情報学専攻「文化情報学専修」(2014年新設)
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/lib/gslbunkajyoho/
・赤間亮. 「立命館大学アート・リサーチセンタ一の古典籍デジタル化 : ARC国際モデルについて」. 『情報の科学と技術』. 2015.4, 65(4), p.181-186.
将来の後進を育てる、という意味においては、プロジェクトに学生を実際に巻き込んでいるというARCモデルの教育と実践は、学生側も専門家側も、日本側も海外側も、得るところ大きいんじゃないかなって思いますね。
以上です。
同じ事でも手を替え品を替えして示すこと大事だなって思いました。
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