2017年08月07日

ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』から考えた、資料・情報とユーザのあり方についてその2


 『京都の凸凹を歩く』の紹介(http://egamiday3.seesaa.net/article/451624332.html)に並んで、もう1冊紹介するには、どれを選んだら釣り合いがとれるだろう、特に資料・情報とユーザのあり方を考察するにあたって、ということをいろいろ考える機会が、どうやらegamidayさんにはあったらしく・・・というのはどうやら建前で、実のところは、本の紹介をする原稿を書いてくれ的な依頼を受けた時点でまっさきに本書をとりあげる気が満ち満ちており、それをどうにかこうにか理屈付けした挙げ句がこういうことになっている、のが真相かと思われます。
 オフィシャルな原稿でヨーロッパ企画を語るのはたぶん初であろうと思われますが、その、たぁーっと書いたのの下書きめいたもの。

来てけつかるべき新世界 -
来てけつかるべき新世界 -

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 『来てけつかるべき新世界』(上田誠. 白水社, 2017.)は、京都を拠点に活躍する劇団・ヨーロッパ企画による舞台演劇(2016年)を収録した戯曲本である。手塚治虫の『来たるべき新世界』からタイトルをとったらしきこの作品は、2017年第61回岸田國士戯曲賞を受賞した。と書くと何やらたいそうに見えるが、「大阪の新世界に、デジタルとテクノロジーの”新世界”が到来した」という、SFと吉本新喜劇をミックスジュースにしたような、ゲーム好き・工学部出身の脚本家・上田誠氏が得意とするシチュエーション・コメディである。

 筆者の極私的な評になるが、ヨーロッパ企画本公演作品のうち三大傑作を選ぶとするなら、これまでは『サマータイムマシン・ブルース』(大学のサークル部屋を舞台にしたゆるい会話劇と、時間ものSFの粋を集めた伏線回収の見事さが圧倒的な、代表作)、『囲むフォーメーション』(9つの別の部屋で同時に何かが起こっている様子が、次第に明らかになっていくパズル的な趣向で、いまだ映像化されていない幻の名作)、『Windows5000』(空間的制約の中でやはりゆるい日常を送る人々の会話劇と、建築という”地形”が持つある種の容赦無さをドリフ的なオチでしめた傑作)であったが、ここに四天王の最後の1人がついに登場という感じで現れたのが、この『来てけつかるべき新世界』である。これからの本劇団の代表作と称されることはおそらく間違いないし、称されなかったとしても私はそう称したい。

 舞台は、おそらくもうあと何年後かの、大阪・新世界のはずれ。主人公は食べログの評価に悩む串カツ屋の娘。ソース二度づけで揉めたり、縁台将棋で暇をつぶしたりと、一見デジタルとは無縁のおっちゃんらがたむろする路地裏に、“新世界”の羽音がきこえてくる。出前ドローンがお好み焼きを運び、ロボットが日雇い労働者の職を奪い、将棋クラブでは人工知能を搭載したゴーグルがディープラーニングで銀を泣かし、パーマ屋がヴァーチャルリアリティの同棲相手からの嫉妬にさいなまれ、通天閣の歌姫がマインドアップロードに挑む。テクノロジーがもたらすのは単なる効率化・省力化だけではない。例えば、串カツ屋の娘に好意を寄せるIT企業のCEO(通称テクノ)は、道頓堀に飛び込んだ阪神ファンを遠隔操作のドローンで救い上げた時の様子を、ディスプレイ越しにこう語る。
 テクノ「慌ててまわりのドローンに呼びかけて、救助活動したんです」
 パーマ屋「あれ、お前が指揮したんか」
 テクノ「指揮っていうか、連携を取り合いまして」
 この掛け合いひとつからも、情報技術の進化が組織構成など社会のあり方自体を変えつつある様子がうかがえる。

 シンギュラリティの先はユートピアかディストピアか。非日常的な出来事の連続に、最初は拒絶反応や愚痴ばかりだったおっちゃんたち。しかし少しづつ新アイテムが入りこみ、使わざるを得なくなり、使いこなすようになり、いつしか無くてはならない存在になっていく。その結果”新世界”は到来しただろうか? ラストシーンのおっちゃんたちは相変わらず縁台将棋を楽しみ、ソース二度づけで揉めている。到来したのは”未来”と言うより、むしろ”次の日常”だった。何かが変わったのかもしれない。何も変わってないのかもしれない。よくわからない。もはやスマホがなかった頃どう行動していたかも思い出せない、かと言って、あの頃の未来にぼくらは立っているはずだけども、思ったほど衝撃的に変化したようにも思えない。おそらくおっちゃんら…デジタルと無縁かに見えるユーザは頑固でも旧態依然なわけでもなく、ただちょっとものぐさなだけ、新しい物が来るなら来るで早いとこ日常化してほしいだけなのではないか。
 だとしたら、資料・情報の提供のあり方を常に変革し前進させようとしている我々の営みは、どこへ向かうのか。その答えはもちろん本書にはない。ただなんとなく、バラ色の未来を強硬に実現するというよりは、いまの日常から次の日常へのゆるやかかつすみやかなアップデートくらいでええんとちがうやろか、と思う。

 本作に興味のある方はDVD(http://www.europe-kikaku.com/shop/eurodvd028.html)もおすすめ。キセルの音楽とともに楽しんでいただきたい。

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posted by egamiday3 at 07:57| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする