2020年02月27日

第3章「君は君のままで、USドルはUSドルのままで」(ILL) - 『君に届け 〜 OCLCと日文研をつないだ目録・ILLの物語』


●君は君のままで、USドルはUSドルのままで

 ILL。
 相互貸借、文献複写、ドキュメントデリバリー、云々をひっくるめての、ILL。
 そもそも目録登録の長い長い旅路は、すべてこの海外ILL受付を実施するための大切なレッスンでした。

 というわけでWorldCatへの目録登録にあわせて、OCLCのILLサービス・WorldShare ILLにも参加しました。
 WorldShare ILLは、56ヶ国1万館以上が参加し、年間700万件のリクエストが飛び交うという、世界最大のILLプラットフォームなわけで、この大舞台に参加すればたくさんの人から見つかりやすくなり、リクエストも受け取りやすくなる、という見込みです。
 規模が大きいだけでなく、提供されているwebブラウザベースのシステムがかなり使いやすい。テスト段階でごにょごにょ触らせてもらったのですが、なんだこの使いやすさは、とても初めてとは思えない、と思いました。なんというか、もちろんNACSIS-ILLもそのクライアントである某社-Jも便利さはあるわけなんですけど、WorldShareさんのはめっちゃシンプルで、あれですね、こっちが細かいことを気にさえしなければサクサク使えてポイっと終わる、という感じです。かゆいところに手が届く感はないけど、手を届かせるための手間が省ける、というか。あと、うちとこのOPACへもOCLC番号で直リンクしてくれて、サクッと該当資料を確認しに行けるし、使いやすいの当たり前ですよね、だって、必要な機能が必要なところにちゃんとあるから。

 そしてさらに、WorldShare ILLの利点として、もっとも大きな魅力といえるのが「IFM」です。これこそが、日本の図書館において海外ILL受付を阻んでやまないラスボス・「料金を受け取れない」問題を、一気に解決してくれる夢のひみつ道具であると言えます。
 IFM、ILL Fee Managementシステムを使うと、図書館間の料金収受・相殺の処理をOCLCさんが代行してくれますので、各大学と何百円のコピー代を個別にやりとりする必要がなくなります。例えば、ナントカ大学さんがうちとこにコピーをオーダーしました。料金は300円、ドル換算で2.71USドルです、っていうのをシステムに入力します。これをOCLCさんが月締めで全体を精算して、各大学に請求したり送金したりします。そうすると、ナントカ大学さんはうちとこのコピー代を、個別精算しなくていいし、円建てじゃなくUSドルなり自国通貨なりでそのまま払えるし、銀行の国際送金手数料も払わなくていい、と。さらにOCLCとうちとこの間には紀伊國屋さんが代理店として入ってますので、うちとこはILL料金を円建てで紀伊國屋さんに請求すればいい、というかたちになります。相手館はUSドルのままで、うちとこは円のままで、銀行手数料無しで、いままでの高い高いハードルに比べるとどんな天国かしら、っていう。
 …まあ種明かしをしますと、このIMFシステムを使うのにOCLCさんに若干の手数料を上納してます、そりゃそうか。でも、それも1件当たり0.30USドルとかですから、為替の上下でうやむやになるレベルのやつ。
 あともちろん、そういう料金収受で行きましょうね、っていうのを、事前に数ヶ月くらい、紀伊國屋さんと関係部署とで丁寧に調整・合意したうえで、っていう、関係各位のご協力のおかげであります。決して打ち出の小槌のように使えるシステムっていうわけではないので、参加料さえ払えばその日のうちにさらっと使える、というようなことではないです。調整大事。


●ゆずれない想いとレンディングポリシー

 というシステムの便利さはわかったとして、実務としてどんなふうにこれを運用していくか、というところですが。
 まずレンディング・ポリシーのおおまかなところは、国内相手とほぼ差異はありません。料金も貸出日数も、資料種別による可否判断も、国内/海外で同じ。コピー代1枚35円だから、たまに請求金額0.63USドルとかあるんですけど、北米の館って「1件20ドルから」みたいな料金設定の世界なんで、この不均衡なんとかならんだろうか、っていうのは今後の課題ですね。
 国内と海外で違うことのひとつは、現物貸借の時の郵送方法です。うちとこは、海外郵送はEMSを基本とし、返却するときも相手館に「traceableなcourierを使ってね」と求めてます。なので、金額的にはこっちのほうが逆に高額を要求してることになりますが、資料の保全を考えるとここはちょっと求めなしゃあないラインです。

 資料の保全をということで言えば、絶版本・入手困難本の類、つまり紛失したら再度入手できなくなってしまうようなものに貸出リクエストが来た場合は、貸すことはお断りしています。その代わりですが、日本の著作権法にはその第31条1項の3に「他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する」というのがあってね、というのを長々と説明したりして、全頁複写というコストをかけても良ければ、っていうふうに提案します。これにノってくれば複写提供、ノってこなければ謝絶になりますが、ノってくるのが3割4割くらいという感じです。ちなみにWorldShare ILLには「max cost」という設定、つまり依頼館が「最大いくらまでだったら出すけど、それ超すなら辞めます」という金額設定があるんですが、だいたいどこも30とか50とか大きめの金額書いてはりますね。
 
 あともうひとつ大事なポリシーですが、WorldShare ILLを通さないリクエスト(メール等)や、IFM以外の支払い方法を希望するというリクエストでも、これまで通り、その時々で可能な方法を模索して対応しています。
 これがたぶんこの話題で一番重要なところだと思うんですが、うちとこがWorldShare ILLなりIFMを使う理由って、それを使うことで省力化できるサービスを実現するため、であって、それ以外のサービスを拒絶する理由にするためでもなければ、その枠内に入れる館と入れない館とを分断するためでもないです。それだけは決してない。もちろん、WorldShare ILLやIFMを使わないと途端に手間や条件がどうしてもしんどくなり、涙を呑むことが多くなってしまいはするのですが、なんとかならないかの模索はお互いにちゃんとするのです、だってもともとそういう姿勢からこの話は始まってるわけじゃないですかね。

 というような感じで、明確にポリシーを定めて、譲れないところはキープして、省力化できるところは省力化して、謝絶の場合の代替手段を用意して、というふうに身構えてることによってかどうかはわかりませんが、一応いまのところ大きなトラブルは起こってないです。


●このままいつまでもサステナブルな関係でいられたら

 さて、そんな調子でとりあえずやってきたわけですが、大きな事故なく1年間が過ぎ、なるほどだいたいこんな調子なんだな、というのが見えてきた数字が、このブログ記事の元ネタになってる某論文に載ってますので、ひっぱってきます。

fig2-oclcill.png
(荒木のりこ他. 「国際日本文化研究センターにおける目録・ILLの海外対応 : OCLC WorldCat・WorldShare ILLによる新サービスと課題」. 『大学図書館研究』. 2019, 112. https://doi.org/10.20722/jcul.2042 より引用)

 これまで年間で依頼10件来るか来ないか程度だったのが、500件以上依頼がきて、200件以上受け付けられたわけですから、数字上まずは事業として成功したと言えると思います。

 気になる謝絶の割合云々については後述にまわすとして、まず525件の依頼について少し能書き述べます。
 リクエストされた資料のほとんどが日本語資料ですが、525件中65件、つまり1割以上が非日本語資料へのリクエストでした。中国語30件、韓国語12件。目録のところで申しましたように、言語・メディアを問わずに全件を丸ごと登録しましたが、やってみるとしっかりリクエストが来る。日本の図書館が海外に貢献できるのは、日本語資料に限るわけではないのだな、ということがわかります。
 依頼してきた図書館を国/地域別に見ると、アメリカ408、カナダ30ともちろん北米が最多ではあるのですが、アジア勢では香港(32)、台湾(18)、タイ(7)、ほか中国・韓国など。それ以外にも、オーストラリア(3)、ニュージーランド(5)、デンマーク(6)、ほかスイス・ノルウェー・スペイン・イギリス・イスラエル、といった調子です。つまりはこのWorldShare ILLに参加さえしてる図書館であれば、どんな国からだってリクエストは来得るということでしょう。…とはいえ、北米以外のたとえばデンマークやタイや香港なんかは、おおむねどうやらリピーターが件数を重ねてる、というのもなんとなくの現実ではありますが。まあ、国/地域を問わずやってるところはやってる、という感じですかね。
 リピーターか初見さんかでカウントしてみると、ほとんどの機関(95機関)が1-3件程度の初見さんだなという一方で、30件近いヘビーなリピーターも5機関ある。ということは、がっつり日本語資料使いたい、っていう機関のユーザさんにも届いているし、かつ、WorldCat上でなんとなくたまたま見つけてくれたユーザさんがいるようなところにも届いている、両方にちゃんと届いてるんだったらこれもとりあえず成功かな、って思いますね。

 さて問題は、525件中289件と過半数を占める「謝絶」です。つまり、よそさんがうちとこの資料欲しいってリクエストを送ってくれたんだけど、うちとこはそれに応えることができなかった、ていうやつ。ダメじゃん、こんなにたくさん断ってたんじゃ、苦心惨憺して目録登録した意味ほんとにあったのか?ていう。じゃあ、あったのかなかったのかを、どういう理由で謝絶したのかをもって考えてみると。

 謝絶理由の第1位「所蔵無し」、105件(謝絶中36%)。
 リクエスト来るんだけど、え、いや、それうちとこでは持ってないです、ていう。
 いや、おかしいじゃないですかね、目録で所蔵してるものを登録してるのにね。
 実は「所蔵無し」のほとんどが、雑誌タイトルはWorldCat上でヒットして所蔵してることになってるんだけど、その人が求める巻号は持ってない、というものです。で、なぜ持ってない巻号にリクエストが来るかというと、所蔵巻号まではWorldCatに登録してないから、っていう。
 再々申してますように、うちとこはカタロギング参加館ではなくデータをまるごとOCLCさんに提供している立場なので、細かい情報登録や修正なんかができません。とはいえ、所蔵巻号くらいは登録して当然なんじゃないの?ってNACSIS-CATベースでお働きのみなさんなんかは思われるでしょうが、実はOCLC WorldCat、所蔵巻号を登録する機能はもちろんあるにはあるのですが、北米の参加館さんでもそれを細やかに登録してるところは、まあずいぶんと少数派のようです。見たところ、巻号情報を登録してるのをお見かけする方が圧倒的にめずらしい。じゃあどうするかっていうと、所蔵館のリンクをポチッと押して、そこのローカルなOPACで巻号を調べなきゃいけない、っていう感じ。そこの不便さに加えて、アメリカさんのILLスタッフもそこまで細かく調べずにダメ元でリクエスト送ったりしてるっぽいし、さらにはイマドキだとユーザが直接webフォームか何かでポチったリクエストがダイレクトにうちとこまで来たりするわけです。ていうなんやかんやの諸要素が重なった結果、うちとこに限ったことじゃない、北米館同士のやりとりでも「所蔵無し」の謝絶はごくありふれた日常風景なんだよ、とうかがったことがあります。

 謝絶理由の第2位「それはおたくの国内にある」、72件(謝絶中25%)。
 主に北米の話です。うちとこに貸出のリクエストが来る、その資料は確かにうちとこにあるんだけど、ちょっと待てよ、こんな基本的な本くらいはさすがに北米内のどっかの図書館にはあるだろう、って思ってWorldCatを自分で検索してみると、ふつーに北米内にやまほど所蔵があるっていう。こういう場合、わざわざ日本から郵送料かけて送るくらいだったら、いったん北米内で融通しあってくださいよ、という意味合いをこめて、「先に北米内の所蔵館に依頼してね」と返します。
 これも不思議な話で、なぜ北米内に所蔵があるのにわざわざ日本のうちとこにリクエストを送ろうとするのか。その大きな理由が、目録の章で触れたEnglish書誌とJapanese書誌の別にあります。WorldCat上には、同一の書籍についての書誌を言語ごとに個別に持つ、ということが認められており、まあ国際的総合目録として必要な措置のひとつではあろうにもしろ、その複数書誌(あえて重複書誌とは言いませんが…)に所蔵館が泣き別れになっていてそこまでちゃんとは統合できてない、っていうことになっちゃってます。WorldCatはわりとFRBR化ができてるほうではあると思うのですが、それでも完全ではないし、ILLスタッフが使う業務システムのほうのWorldCatはそのFRBR化もされてない。ということは、日米間の目録事情の違いなんかに精通してるわけでもない北米のILLスタッフや、web上でセルフにオーダーしようとするエンドユーザに対して、そこまで丁寧に重複書誌の存在を認識して(重複書誌って言っちゃったけど)検索し尽くしてくれることを期待はできんでしょうから、結果、北米で何十館が持ってるようなポピュラーな図書にも、遥か遠い極東の山の上までリクエストが届く。ていうか正直、「いや、おたく自分とこで持ってますやん」ていうのも何回かありますよね。
 で、複写とちがって、現物貸出はやはり一定のリスクがありますから、一応こちらの手と目で検索して、ほんとに北米内にないかどうかはいったん確かめます。特に、絶版/入手困難本は貸し出せないし、そうじゃなくてもこれ買い直すのきついなと思えるものも多い(ていうか、まあそういうのにこそ依頼は来ますよね)ので、わりと丁寧めに調べます。

 で、そうやって調べた結果、絶版/入手困難本は貸し出せないので全頁複写なら対応しますよ、と代替案を提供した結果、特に反応が無くてそのままキャンセルに流れるようなのが、謝絶第3位です、44件。

 これら「所蔵無し」「自国内にあり」「全頁複写辞退」の上位3件が言わば”先方都合”であり、謝絶全体の76%を占めていますので、まあ、これはゴメンやけどしょうがない話じゃないかな、って思います。

 というようななんやかんやがありますが、結果として年間236件のリクエストに対応している、と。
 うちとこの同年のILL受付件数は2300件弱なので、だいたい全体の1割くらい。実数ですと週あたり5件くらい。まあこのくらいだと、日常業務の範囲内で消化できるレベルかな、という感じです。
 しかも、うちとこの蔵書が年間で大幅に増えるっていうことはありません(年あたり1万冊程度)。リクエストはあくまで蔵書に来るのであって、蔵書の有無問わず機関に来る、なんてことは通常無いわけですから、リクエスト数が年によって大幅に増減するというようなことはまずないでしょう。
 そしてそれ以上に、そもそもこのWorldShare ILLのシステムがものすごく使いやすくて、当初予想していたよりもずっとずっとラクチンなわけです。IFMがラクチン、webシステムの操作がストレスフリー、自館OPACとのリンクがシームレス。当初ものすごく心配してビクビクしていたようなトラブルも、明確なポリシーと代替手段の賜物か、ほとんど無くて拍子抜けという感じで。 
 ですので、事業としては過度に無理せずサステナブルに続けていって、資料がユーザに届き、必要な方のお役に立ち、かつうちとこへの好評も得られる、という感じで当面はやってけるんじゃないかなと見込んでます。

posted by egamiday3 at 05:19| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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