3月の「海外の日本研究と日本図書館」は話題が豊富でしたので、数分割で。
■文献・発表
カレントアウェアネスに海外日本研究関連の記事が3本掲載されました。どれも読みごたえたっぷり&示唆に富むものばかりなので、マストでお目通しください。もう全文に朱線引きたいパターンのやつ。
Paula R. Curtisさんの「デジタル・シフトとデジタル日本研究の未来」@『人文情報学月報』もネット公開されました。
●CA1991 - コロナ禍における米国シカゴ大学図書館の対応と日本研究支援 / 吉村亜弥子
https://current.ndl.go.jp/ca1991
以下、あわせて読みたい文献
・横田 カーター 啓子. 特集, コロナと生きる: 米国ミシガン大学のITシフト 遅れる日本の学術基盤強化. Journalism, 2020, (362), p. 72-77.
http://hdl.handle.net/2027.42/156101
・マクヴェイ山田久仁子. 特集, 教育現場における電子書籍の活用: 海外大学図書館における電子書籍の動向 : パンデミック下のハーバードでの教育と研究の支援. 情報の科学と技術, 2021, vol. 71, no. 1, p. 28-33.
https://doi.org/10.18919/jkg.71.1_28
・大学のデジタル対応について
「大学図書館は、教員が指定した読書課題(書籍内の特定のページや章)を館内担当者がスキャンし、授業用資料を共用する学習管理システム(LMS)に載せるが…大学閉鎖により、それも不可能」
「英語圏では電子書籍の発行がほぼ定着している…しかし電子書籍を積極的に使用するか否かは、まだ利用者の好みが分かれる」
「印刷版の需要がある事実も明らかになった。利用者によっては、オンラインで閲覧できるのはありがたいが、研究のために何度も読み返す・読み込むには印刷版の方が良い」
「オンライン化が可能なのも、原本の保存があってこそである。蔵書構築を担うエリア・スタディーズ・ライブラリアンの責務は、そのような原本の収集と保存にある」
・日本資料の電子書籍について
「日本研究司書として、コロナ禍になってからの最大の蔵書構築上の変化は、出来るだけ日本研究関連の英文電子書籍を買い揃えるのが優先になったこと」
「日本語の電子書籍はコロナ禍でも不思議と利用数が少ない…日本の電子書籍プロバイダーが無料試読サービスを特別処置として提供してくれたが…試読で利用されたのはわずか9件」
「丸善雄松堂と紀伊国屋書店の電子書籍ポータル上では、出版社の厚意で承諾が得られた書籍に限り、未購入のタイトルでも5分間試読できるサービスが利用可能になった」
・日本資料のオンラインアクセスについて
「米国の日本研究者や司書の間では、遠隔授業に使えるオープンアクセス資料を紹介するメールが頻繁に流れ」
「2020年4月、HathiTrustはメンバー館を対象とした「緊急一時アクセスサービス」(Emergency Temporary Access Service:ETAS)…自館に印刷版の所蔵がある書籍に限り、著作権保護期間内であっても学内者の本文画像閲覧を可能とするサービス」「日本語書籍に関しては12万7,093タイトル中4万9,127タイトルがETASによって閲覧可能になった」「HathiTrustコレクションに収録されていた日本研究関連の書籍は、主にカリフォルニア大学バークレー校とミシガン大学の蔵書」
「グローバルな視点で日本研究の今後の発展も考慮すると、「デジタル化資料送信サービス」の利用規定見直しは不可欠」
●CA1992 - 米国イェール大学図書館における日本語エフェメラ資料の収集・整理・提供の実例 / 中村治子
https://current.ndl.go.jp/ca1992
Yaleの日本エフェメラ資料(LGBTQと日本映画)について、収集、整理、提供。
これについても、あわせて読みたい。
・E2177 - 米・アイビー・プラス図書館連合のQueer Japan Web Archive
https://current.ndl.go.jp/e2177
・資料の特性
「LGBTQコレクション」は主に首都圏の性的マイノリティなどの団体によって1990年代から現在までに配布されたチラシ、ニュースレター、パンフレットの類。(8箱程度か)「LGBTQ関連の個人やコミュニティに関する情報などは、チラシ、ニュースレター、Twitterやブログなどが多く、「研究に有益な情報は保存されにくい」」
「映画コレクション」は1970年頃から現在までのチラシ、パンフレット、映画ニュースレター、カタログ等。(50箱程度)
・エフェメラ資料の整理・マネジメントについて
「一つの資料群をアーカイブコレクションとして確立するためには、収集・整理・保存のための周到な計画策定に膨大な時間と労務を要する」「コレクションの構築を主導したのは東アジア図書館に所属している日本語資料専門の司書だが、アーカイブ資料を取り扱う様々なトレーニングなども含め、コレクション構築を遂行するために文書館のサポートは大きな後押しとなった」
「コレクションの構成を明確に説明し、利用者が資料を効率良く検索するための手引きとなるファインディングエイドの作成を開始する。項目以外にコレクションの要約、内容の説明、著作権と引用のガイダンスなど、様々な情報も含まれる。また混乱を避けるため、重複の可能性のある分野の範囲を明確にする説明文もコンテンツノートとして追加される。その説明文は特定の学問分野がどのように形成されるか、コレクションの大部分を形成する資料の種類と、ユーザーがどのように利用するかの予測に基づいて作成される。」
・LGBTQ資料の収集・取り扱いについて
「性的マイノリティコミュニティへのアプローチは、寄贈者に疑心を与え収集が進まなかったことから、現在当館では日本の二人の研究者を招聘して、細心の注意を払い資料を収集している」
「寄贈者からプライバシーについての懸念があった」「その内容は、一部の限られた地域のコミュニティのみを対象としていることが多く…コミュニティなどではこのような露出を不要と見なす意見もある」
「アクセスを制限する合意・契約が機関と寄付者間で交渉され、制限の期間、または終了日が掲載され、コレクションによっては寄贈後100年先まで公開されない」
●CA1993 - 米国における占領期日本の写真資料をどう捉えるのか:現状・全体像・日本への還元における課題 / 佐藤洋一
https://current.ndl.go.jp/ca1993
・経緯
「占領期の写真資料が米国に多数所蔵されていることをいくつかの書籍(2)から知り、米国へ赴くことにした」
→(2) 佐久田繁. 東京占領 (太平洋戦争写真史). 月刊沖縄社, 1979, 654p.
福島鑄郎. GHQ東京占領地図. 雄松堂出版, 1987, 129, 107p.
には、出典情報の詳細が記載されていないものの米国所在として写真が多数紹介されている。
・在外日本資料の所在とアクセスのあり方の問題
「(4) 佐藤洋一. 図説占領下の東京1945-1952. 河出書房新社, 2006, 143p., (ふくろうの本).」
→「同書を出版したのち、出版、放送などさまざまなメディアから画像データの提供を求められた。社会的に需要があり、かつ米国においてはパブリックドメインとなっている画像データを一個人の研究者が営利企業へわざわざ提供していることが奇妙に思われた」
「「日本の資料が日本にないという構造的な問題」に研究上の問いとして向き合わざるを得なくなった」「占領下において同時代的な記録が管制下におかれたことは、情報の不均衡をもたらし、それを構造化させている」
・資料/資料群が持つ意味をどのように捉えるのか
「資料本位、資料漁りだけでは研究は続かない…それをどういう観点で見ていくのかというのが大事」
「米国にある写真の全体像を捉え、個別の写真を批判的に捉える視座を持てなければ…どのような社会的性格をもった写真なのかという、より正確な判断を停止させてしま」う
「「占領期日本で撮られた写真」という〈種〉総体の特徴を捉えようとしないかぎり、それぞれの〈個体〉である一つ一つの写真やコレクションの意味や価値を吟味できない」
「紙にプリントされたシグナルフォトのイメージ面のみをデジタル化するのであれば、上記の「時空間記録」は伝えられるかもしれないが、「経緯記録」、すなわちどのような経緯を経てコレクションが形成されたのかといった情報は置き去りにされてしまう。…写真をイメージとしてのみ扱わないということ」
・デジタルアーカイブ化・オープン化の意義、からの、地域資料としての活用
「占領期日本で撮られた写真」という〈種〉総体の特徴を知るためには、可能な限り、多様なタイプとバリエーションの写真を並存させる空間をつくることが必要である。この取り組みは、必然的に「占領期写真アーカイブ」の構築を目指すこと」
「研究者が所有するパブリックドメインの写真データを再収集し、オープンデータ化して、活用できる統合的な仕組みは考えられないだろうか。国立公文書館やすでに日本占領期関係資料を所蔵している国立国会図書館に公的かつ永続的なプラットフォームが設置できれば」
「その地域で撮られた写真を地域へと戻し、地域資源として活用できないかというアイデア」
●吉井由希子. 「英国図書館研修報告 : ヨーロッパの日本研究図書館訪問も交えて」. 『Media Net』. 2020, 27.
http://www5.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/02700670.pdf
Primo他ディスカバリシステムと日本語資料検索の問題、セインズベリー、ヨーロッパの日本研究と図書館、等。
●京都大学図書館機構 - 【附属図書館研究開発室】コロナ下の大学図書館サービス・日米情報共有会報告
https://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1389227
伊藤倫子氏(カンサス大学)、坂井千晶氏(コロンビア大学)、野口契子氏(プリンストン大学)による。
以下、参加できてないので、記録から。
「日本語資料は紙媒体が主なので、コロナ禍では利用不可。データベースや電子書籍は少なく、またHathiTrustやCDLも全ての日本語資料をカバーしているわけではない。」
「日本研究者の失望と苛立ちを感じた。NDL図書館向けデジタル化資料送信サービスがあれば良かったが未導入。導入しても来館利用になるのがネック。文化庁、文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」のパブコメが実施されている。是非意見を出してほしい。」
●Paula R. Curtis. 「デジタル・シフトとデジタル日本研究の未来」. 『人文情報学月報』. 115.
https://www.dhii.jp/DHM/dhm115-1
「日本研究は比較的ニッチな分野であり、デジタル・ヒューマニティーズと交差する場であるので、今は助け合い、これらの障害を克服し、技能・経験値を問わず研究者を迎え入れる環境を作り出すまたとない好機です。」「私は日本研究におけるデジタル・スカラシップのコミュニティ・スペースを積極的に作り出すことが必要であると確信しました。以来、デジタル・リソースのウィキとメーリング・リストを管理する Digital Humanities Japan initiative を通じて、オンラインでの活動に努めてきました。」
「AAS 2020において、日本研究の将来に関する円卓会議をヴァーチャル開催したときも…日本人の研究者が1名しか参加しなかったのです…ヴァーチャルな環境においてさえも、日本の研究者に日本研究について意見を求めることは難しく」「重大な問題とは、共同研究プロジェクトへの参加の奨励、健全な保存と持続可能な実践の開発、制度変更への誘導、今後の数年間における学術研究の方法に関する新たな思考の促進といったものですが、それは技術的なものではなく、むしろ社会的なもの」
●Journal of East Asian Libraries. Number 172 (February 2021)
https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/
・Kim, Hana (2021) "From the President," Journal of East Asian Libraries: Vol. 2021 : No. 172 , Article 2.
Available at: https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/vol2021/iss172/2
「The COVID-19 pandemic has brought into sharp relief how library area studies are unevenly prepared to deal with the problems of the future.」
「that collections remain diverse so as to cater to the unique needs of the East Asian Studies community.」
●Studies in Japanese Literature and Culture. Volume 4. (2021.3)
https://www.nijl.ac.jp/pages/cijproject/sjlc.html
■AAS/CEAL 2021
今年のAAS(Association for Asian Studies)とCEAL(Council on East Asian Libraries)の年次大会は、すべてオンラインで行われました。おかげでラクに参加できたという面もあり、深刻な時差に悩まされた(あるいは参加できなかった)という面もあり、でも動画がアーカイブとして残りがちなところは良かったのではないかと思います。
聞けたもの、聞けなかったもの、聞き取れなかった(涙)もの、含めてのまとめ。
●●CEAL
●基調講演
・2021 CEAL Presidential Plenary: "Responding to Crisis: Perspectives and Strategies" - YouTube
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=Aw9EUH1zIck&feature=youtu.be
●CJM(Committee on Japanese Materials)
https://www.eastasianlib.org/newsite/meetings/#cjm-program
Theme: Exploring Ways to Network Through Common Interests
−CJM Interview with the National Diet Library: Updates on the NDL Services under the COVID-19
−The Japanese Historical Council Responses to the COVID-19 Pandemic / Shinji Asada
−LibrarianMap and Professional Networking among Japanese Librarians / Riko Modeki
おおむね、日本からの情報提供と問題提起、特にNDLのデジタルコレクションとその送信サービス(特に個人宛て、海外宛てのそれ)が重要テーマとして扱われていました。なおこの時点で送信サービス参加に成功した海外館は、北京大学、イタリア日本文化会館、UCBerkeley、スペインの(聞き漏らし)、とのこと。
印象的だったのが、参加していた中国系のライブラリアンからの「ていうか日本の著作権法ってアメリカのとそんなに違うの?」という質問チャットが出ていたことで、アメリカではごく当たり前の行為が日本では許されていない等とはゆめゆめ想像つかないだろう人がほとんどだと思うので、まずその違いの存在を示さないとなかなかオンラインサービス不備について理解してもらえないだろうな、と。(ただ怠惰なだけだろ、と思われてても仕方ない気がする。(いや、そうでないとも言い切れない(肯定ツッコミ)))
あと、NDLさんの事前録画スピーチは日本語スピーチ+英語字幕付きで、非日本系参加者からかなり好評なコメントが出ていたことも覚えておきたいです。
●NCC(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources)
-Welcome & Logistics (Haruko Nakamura)
-Updates on NDL’s Digitized Contents Transmission Service (Setsuko Noguchi)
-NCC Membership and Fundraising Taskforces (Tokiko Bazzell & Steve Witt)
-NCC Reorganization (Tara McGowan)
-NCC 30th anniversary celebration (Haruko Nakamura)
-Q & A
(やはり)NDL送信サービス、著作権パブコメのほか、fundについてと組織再編(かなり大掛かりっぽい)についてがメイン。
「emerging technologies」(デジタルテクノロジーとライブラリアンシップの変化への対応)というフレーズが気にかかりました。
なお、「30th Anniversary and next Decade Conference」を9月から11月にかけて数度にわたっておこなうとのことです。(現状と今後の議論、過去の業績、パネルディスカッション、基調講演など)
最後にSNSメディア展開として、Twitterフォロワー数が半年で100から700へという報告あり。
●●AAS
●「Ask a Librarian!」
・C001: Ask a Librarian!: A Discussion of Alternative Careers in Japanese Studies
https://www.eventscribe.net/2021/AASVirtual/searchGlobal.asp
・Ask a Librarian: Re-thinking Professional Contributions in Area Studies - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/ask-a-librarian-re-thinking-professional-contributions-in-area-studies/
研究者からライブラリアンへのキャリアパスについて。主に「Q&A」対応(zoomはチャット機能が偉大だと思い知った…)。
「We hope that readers may draw ideas or even inspiration from our experiences as they think about their own career development.」という後進への願いと、「the “generalist” role of being a librarian」という確固たる指摘。
なお、以下を参照。
・An International Student’s Long Road to Librarianship - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/an-international-students-long-road-to-librarianship/
・Changing Careers But Not Gears – My Path to Librarianship - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/changing-careers-but-not-gears-my-path-to-librarianship/
・A Circuitous Path to Finding the Right Career - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/a-circuitous-path-to-finding-the-right-career/
・Playing a Critical Role in Achieving a Bigger Goal - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/playing-a-critical-role-in-achieving-a-bigger-goal/
●「Digital Humanities Japan」
https://www.eventscribe.net/2021/AASVirtual/index.asp?presTarget=1560904
https://twitter.com/paularcurtis/status/1374776210631319562
たくさんの活動事例が紹介され、その中でたとえば「デジタルヒューマニティーズのピアレビュー問題」などが話題に持ち上がる、というような感じの流れ。
・JBDB − 日本の人名データベース
https://jbdb.jp/#/
・Constitutional Revision Research Project
https://projects.iq.harvard.edu/crrp/home
・Eat Pray Anime - YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCA0Bt7lnqD2c73M_PQkRDKg
・Exploring Premodern Japan - YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCfMvm0JFBb-tv68-nzl_y-A
・Welcome to Bodies and Structures
https://bodiesandstructures.org/bodies-and-structures/index
・“Making it Count”: The Case for Digital Scholarship in Asian Studies - Association for Asian Studies
https://www.asianstudies.org/making-it-count-the-case-for-digital-scholarship-in-asian-studies/
・Samurai Archives Japanese History Podcast
https://samuraipodcast.com/
・ReEnvisioning Japan
https://rej.lib.rochester.edu/
なお、付け足し。
・Motoi Katsumata on Twitter: "今年のAAS(米国アジア学会)での、日本のパネルの少なさよ…。 https://t.co/AHjtn2Wyqa"
https://mobile.twitter.com/motoi_katsumata/status/1374722117661462537
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