2021年07月10日

もうすぐ終了するというCiNiiのArticlesについて


 国立情報学研究所(NII)、CiNii ArticlesをCiNii Researchに統合すると発表 | カレントアウェアネス・ポータル
 https://current.ndl.go.jp/node/44356
 「2021年7月6日、国立情報学研究所(NII)が、CiNii ArticlesをCiNii Researchへ統合し、論文検索はCiNii Researchに一本化すると発表しました。」

 な、なんだってーっ。

 というわけで、NII学術情報基盤オープンフォーラムの「CiNii Researchと大学図書館」というコマで、「図書館の現場および海外から見た情報検索基盤」というお題をいただいたので、すこししゃべってきました。
 そのメモです。

 RCOSトラック1 - NII OPEN FORUM 2021
 https://www.nii.ac.jp/openforum/2021/day1_rcos1.html

 いろんな成り行きによるとはいえ、大徳寺散歩中にオファー受けた時から「なんで私が、”CiNii Researchと大学図書館”に?」感はなかなか拭えなくはあるのですが、図書館の現場の立場としてナマの意見を、という感じだったので、特にあまり難しくor精緻には考えてないです、だいたいで。
 とは言え、自分ひとりのコメントだけ10分間しゃべってもn=1の説得力しかないだろうしと思い、簡単にではありますがTwitterやFacebookなどを使って業界界隈の方にざっくりコメント募集させていただきました。n=40〜50くらいにはなったかしら。各所でご協力くださったみなさまには、ほんとに感謝しております、ありがとうございました。やっぱこういうのって、いろんな立場の人がいろんな視点からいろんなことをやいのやいの言い合えるほうが、得るもの多いんじゃないかな、って思いますね。
 そのいただいたコメントは一応「フォーラムだけで使います」宣言付きなので、こんな場末のblogでポロリしたりとかはしませんが、自分なりにそれをざっくり編集・匿名化したものとして、まとめてみて、ここに置いておきます。


●A高R低

 「CiNii Articles知ってますか/使ってますか」「CiNii Research知ってますか/使ってますか」の質問では、ほとんどの人が、「CiNii Research? なにそれ?」でした。これはしょうがないと思います、かく言うあたしが、今回のオファーを機に初めてまともに使いましたから。いや、あまりまともにも使ってないけど。
 で、アンケートで「ぜひ実際使ってみて、良いところ・ダメなところをコメントください」とお願いしましたが、それでもそれなりの文章でコメントくださったのは数人でした。はかばかしいコメントが得られなかったというのが正直なところで、当日の発表も、すみません、おおむねArticlesの話をずっとしてました。


●最初にOAがあった

 そのArticlesの良いところを挙げてもらったら、まあ、ほぼ絶賛です。「不満はいっさいない」とか言われてる。正直、これほど愛されてるデータベースの類を探すのは難しいんじゃないかしら。
 特に注目した褒めポイントが、「オープンアクセス(OA)論文」のことなんですけど、これちょっとおもしろかったのがですね。
 図書館関係者は、「OAへのリンクが出ること」褒めや、「OAあるのにリンクが出ない」ことへの不満。つまりアクセスですね。
 一方、研究者・教員は「OAを検索できる、絞り込める、本文も検索できる」というふうに、どうやら「OAを探せるツール」と考えておられる。
 これが学生・一般になると、「調べ物をしにくる」「論文で事実確認するため」とか「PDFを見る」とか言うようになる。つまり、論文情報の検索じゃなくて、「論文そのものを見るためのサイト」みたいに解釈してるふしがどうやらあるっぽいです。
 ビジネス逸話でよく「お客はドリルがほしいんじゃなくて、穴をあけたいんだ」的な比喩を聞きますが、たぶんこれは、「NIIさんはドリルを売ってるつもりでも、お客は穴を買ったと思ってる」みたいになってないかな、っていう。


●ソースのトレーサビリティ&アカウンタビリティ

 もちろんダメ出しも少なくありませんでした。
 今回よく聞かれたのの、第1位はまあもちろん「OA論文が少ない」でしたが(註:それを「CiNii Articlesへの不満」として言うくらいには同一視されてる)、それとほぼ同じくらいいろんな人から聞かれたのが、「収録されている情報に不審な点、不信な点がある」というものです。
 「これはヒットするのに、これはヒットしないの?」
 「なぜこれは入ってないの?」
 「この情報どこからきたの? おかしくない?」
 という、源流というかソースへの不審感・不信感。

 これも興味深いことに、なんとなく図書館関係者と研究者・教員とで言うことがちがってて。
 図書館関係者の不満は「データがおかしい」とか「重複してる」とか、「ネットに現にOAあるのに、そのリンクがない」とか、データ、レコード、データベースのつくりあたりに対するツッコミ、みたいなのが主のようです。「ギチギチの基準でできた書誌と、(多分IRDB由来の)雑多で不揃いの文献情報が、混じってるのが微妙」っていう感じのご意見が何人かからあって、なるほどおっしゃるとおりと思いました。
 一方で研究者・教員の不満は、圧倒的に「収録雑誌や論文の採否への不審・不信」にあるようです。「学術雑誌のあれとこれがない」「市町村・地方研究会の論文雑誌が入っていない」「なのに大衆誌や"偏った"雑誌がある」「書籍内の論文はどうした」云々。
 「収録範囲、採録基準がよくわからない」よね、ということでしょう。これちなみに補足しておきますと、「基準がわからない」みたいなことを言われると「あ、これが基準です、一覧です」「こういう理由でヒットしないです」みたいに答えがちじゃないですか。でもちがうんですよね、ここで「わからない」っていうのは「知りたい」っていう意味じゃないんです。「納得できない」ってことです、そこですれちがっちゃう。
 この納得できなさは、研究者・教員が「論文の発信者」の立場に立つと一層強くなるかと思います。「よその雑誌はヒットするのに、うちの雑誌はヒットしない」「自分の論文がヒットしない」「ヒットしなかったら読んだり引用したりしてもらえない」「じゃあ、載せてもらうにはどうしたらいいのか、わからない」。実を言うと昔はうちとこもわりと苦労した問題でした。ポータル/インフラとして愛されれば愛されるほど、格差の問題も強くなるんだろうなと思います。まあそれを、誰が、どこまで、どうやって解決するかは、また別問題として議論を切り分けるべきかと思いますが。

 それは置いとくとしても、ただ、ユーザは必ずしも「ざっくりヒットしさえすれば、細かいことは気にしない」という人ばかりではない、ということはせめて意識しておきたいと思いました。公共図書館と大学図書館とでまたお客の反応は変わってくるものかと思いますが、こちらが思う以上に、ヒットする/しないや、ソースが何か、収録の採否に対して、敏感に疑問を投げかけてくる人は多いです。だから、ソースにあたってデータの妥当性を確認できること、何が入ってて何が入ってないかを納得でき、必要があれば議論し直せること。トレーサビリティ&アカウンタビリティ。
 Google登場以降の検索サービスはディスカバラビリティ方面がイケイケどんどんだったかもしれませんが、もちろんそれは重要であったとしても、それは別にトレーサビリティ&アカウンタビリティなんか誰も気にしてねえよ、っていうのとは違うと思うので、犠牲にされずにどっちも両立されててほしい、と思いました。


●「次」へ向かって走れ

 で、それと同じことが、やっとですが、CiNii Researchさんの方でもコメントとして出るわけです。
 つまり、「なんでCiNii Articles/Booksではヒットするものが、CiNii Researchではヒットしないの?」「なんで検索結果が減ってるの?」と。(念のため再度補足です、「なんで?」というのは「理由や仕組みを知りたい」という意味じゃないです、「ヒットしてくれ」「同じ(or以上)であってくれ」と言ってます。なんでヒットしないかはヘルプなりアバウトなり見ればよい。)
 あと、「検索結果のソースがわからない」「データの出所はいったいどこなのか」「何が載ってて何が載ってないのかがわからない」、うん、Articlesと同じでしたね。

 そこまではまあいい(よくはないですが)として、CiNii Researchさんへの反応がArticlesさんへの反応と若干違うのはどうやらこのあとのようです。
 というのも、上記のような感じで検索結果やそのデータに不審・不信がありました。じゃあそれ確認しなおすために、同じデータやキーワードで他のDB、NDLサーチやCiNii Books等の他のCiNiiを、再検索しに行きたい、と思う。
 これがCiNii Articlesさんにはいろんなボタンやリンクやタブがあるし、みんな使い慣れてるから、わりとすっと”次”に行けるんですが。一方で、いまのCiNii Researchさんではそれがだいぶ苦労するみたいです。苦労するっていうか、リンクやボタンがない、あってもわかりにくい。なんかシンプルすぎて、画面がなぜか黒くて…あーおもいだした、セブンイレブンのセルフコーヒーマシンみたいなんだ。でもブラウザに自分でテプラ貼るわけにもいかないしな。

 これはあたしみたいな山すその図書館員が言うのも口幅ったいくらい、たぶんシステム関係のみなさんにはコモンなセンスなんだろうと思うんですが、よい検索サービスとは何かって言われたら、「次にどうしたらいいかがすぐにわかる」ですよね、たぶん。NDLオンラインは、アカウント持ってるユーザなら遠隔複写すぐに申し込める。NDLサーチからデジタルコレクションに飛べる。CiNii Articlesも、自分の大学のOPACに戻れたりILL申し込みボタンがあったり、そのままNDL検索にも行ける。
 この、「次にどうしたらいいかがすぐにわかる」ものがあること。ポータルで統合的でディスカバラブルなデータベースであることよりも、検索結果を前に「……で?」て言わなくてすむようなののほうが、直感で、あ、これ使えるデータベースだな、って思える気がしますね。

 ……というようなことを考えてたところ、当日別の方からのご発表で、超クールな「OAリクエストボタン」なるものの実装を予定中という発表がありまして(註:担当者の実務的にはわりとしんどそうな要調整案件ではありますが)、これについては、↓下記あたりで動画やパワポが公開されているorされるようになろうと思いますので、ぜひご覧くださいませ(ダイレクトマーケティング)。

 RCOSトラック1 - NII OPEN FORUM 2021
 https://www.nii.ac.jp/openforum/2021/day1_rcos1.html


●その他もろもろ

 その他の落ち穂拾いです。

・研究者の方からの、CiNii Articlesは"横断検索"できる(=学際的な意味で)、という意見がなるほどでした。不慣れな他分野の文献を簡単に検索できる、他分野の研究者の業績を確認できる、そういうインフラであると。
・これも研究者から、多かったのが、「Articlesは名寄せ・研究者情報まわりが甘い」という不満です。同姓同名の識別、外国人名の表記、重複など、このあたりはResearchが解決するのでしょうか。
・CiNii Researchは現状、理系向けというか、あるいは事務方/評価業務向けのツールになってるような気がします。人社系の人向けの設計っぽくはあまり見えないんじゃないかな、Articlesが人社系向けっぽいからよけいにそう見えるのかもですが。
・じゃあどうしたらって聞かれたんですが、CiNii Recearchの「本」「論文」「研究データ」云々の横に、「デジタルアーカイブ」っていうタブがあったら、人社系イチコロじゃないかな、って思いました。それは、また別のところで汗をかく話につながりますが。
・今回のアンケートで一般(学術機関所属ではないという意味)の方からもいくつかコメントをいただきましたが、CiNiiにしろOAにしろ、学術界が社会に還元するべきものを還元するための公的なリソース、なんだということをあらためて実感しました。ネットで無料でオープンにパブリックされていること、これが最強説。
・あ、海外からの反応ですね。「ローマ字」です、ローマ字。ヒットするだけじゃなく、表示込みで。
 参照:「日本美術の資料に関わる情報発信力の向上のための課題解決についての提案」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/digitalarchive_kyougikai/jitumu/dai8/siryou1_2.pdf


 というような感じで、CiNii Researchさんが上位互換としてCiNii Articlesの好評を相続するまでには、まだもうちょいありそうなので、これからに期待、という感じです。

posted by egamiday3 at 17:03| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする