2022年10月25日

本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ


本読みメモ『「大東亜」の読書編成』: 第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ

和田敦彦. 『「大東亜」の読書編成 : 思想戦と日本語書物の流通』. ひつじ書房, 2022.2.
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/ISBN978-4-8234-1129-8.htm


「第一部 国内の文化統制から対外文化工作へ」
書物を読者へ広げていく人・組織・仲介者をとらえる
国内文化統制から対外文化工作へ
発信するべき日本文化の価値付け
第1章 大学、文学教育
第2章 読書指導・読書運動、読書傾向調査
第3章 青年文化協会『東亜文化圏』




■第一章 「再編される学知とその広がり --戦時下の国文学研究から」

・海外に送り出すべき日本文化を明確にする。コンテンツを創出する。それを教え広げる技術と人員を養成する。=戦時下の国文学研究・教育
・特に、学知を広げる個々の場(=早稲田大学)に焦点をあてて。かつ、本書の趣旨である、知を教え広げる仕組み・技術(=大学、文学教育)として。

・1931年 国民精神文化研究所が創設。教育を通した学生の思想統制。「国民精神」の浸透。
・1935年 教学刷新評議会が設置。「国体、日本精神の本義」にもとづいた日本独自の学問体系に国内の学知を再編する。
・1937年 近衛内閣、挙国一致、思想動員。国民精神総動員実施要綱。
・教学統制 (1939帝国大学への具体的指示、1940国立私立大学への指示)
・国文学は、その「国体」「日本精神」の内実を期待される。
 日本の文学史を古代から続く永続的な価値の発現として、日本古典から国家民族の固有・永続的価値を読み取る。(=日本主義)

(早稲田大学(という個々の場で)
・国文学という学知が、日本価値の拡散のための技術として、国内思想統制と対外文化工作を実施する。
・早稲田大学は、多くの教員を輩出し、教科書などの出版も多い。これによって彼らの思想が伝わり流通していったということの役割。→<e>本書に通底する、戦時下の思想が流通する場・経路をあわせて考えるというアプローチの、一実践。

・文学部で、カリキュラムの刷新、学科再編、日本精神を基調とした科目編成、国体の本義などの必修共通科目。
・積極的に日本主義的な国文学研究・教育の実践へ。
・五十嵐力(国文学科)『新国文学史』『純正国語読本』(教科書)
・五十嵐力・金田一京助らが日本語教科書の編纂(占領時で日本語教授に用いられる)に参加する。
・日本語教科書を制作する=日本を教える上で価値ある文章を選択する=国文学者がその役割をになう=日本語や日本文化を教え伝え広げる技術
・他、海洋文学、南進文学。

・<e>参照:「学問をしばるもの」
・<e>学問どころか読書も
↓個人の営みとされがちな読書(第二章へ)


■第二章 「読書の統制と指導 --読書傾向調査の時代」

<e>読書の可視化がもたらす***
書物を教え伝え広げていく活動のひとつ。

・”読書傾向調査”:愛読書や感銘を受けた書物などの個人の読書嗜好を質問紙などによって調査する方法。
・例『早稲田大学学生読書調査報告書』
・読書傾向調査は、1920年代から見られ、戦時期に規模・対象が拡大・活発化する。関心が高まり、実践報告が多くなされる。
・読書傾向調査は、戦時期には、国民読書運動(全国的な読書指導のネットワーク)、推薦図書の選定、読書会の組織化等と密接に関わる。
・読書傾向調査を、国内の文化統制の手法(→かつ対外文化工作へ転用)として位置づける。
・(本研究の特徴)読書指導や読書統制については先行研究があるが、読書傾向調査にはあまり触れられていない。
・読書傾向調査が、戦時期に、図書推薦事業の図書選定の根拠として、その推薦図書が読まれているかどうかの検証として、読書指導への足がかりとして、位置づけられていくこと。その規模や対象が拡大していくこと。

(読書指導の動きは、こう)
・国民読書運動は、読書を全国的に指導統制する仕組み。
・同時期、文部科学省が全国的に読書指導統制の仕組みを強化していく。(大政翼賛会推奨図書の共同読書会など)
・読むべき図書を選定し、それを広く読ませようとする動き。選書・読書指導は思想指導に近づく。
・1938年 日本図書館協会が国民精神総動員のための「図書館総動員」活動を提唱する。図書館による読書指導への関心が高まる。
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」(読書方法、読むべき図書リストを含む)が提示される。大東亜共栄圏建設に寄与する自覚的日本人を作ると言う目的。

(読書傾向調査は、こう)
・1936年、文部省思想局が各地の学校の各種調査(読書傾向調査を含む)を調査
→1938年、文部省教学局が全国学生調査(読書傾向調査を含む)を実施する
・1938年 内務省による児童雑誌の指示指導(「浄化」)、1939年文部省が児童図書推薦(読書指導と選書)→図書推薦=読書指導
・読書傾向調査→推薦図書の普及の検証。1939年の文部省による児童読書傾向調査は「推薦事業の成果を検証」するとしている。
・同様の活動が勤労青年、農村、女学生へも。

(読書会)
・1942、文部省の研究協議会で、「読書会指導要綱」が提示される。
・要綱では、読書後にそれを口頭発表することや、読書日記に記すことを推奨。これは読書を(個人的営みではなく)集団で共有することを求めている
・共有の先には、点検、指導があり、それは内面の可視化による点検・指導である。
・1942年、日本図書館協会が『読書日録』(日記帳)を作成・販売。
読書の可視化=内面の可視化→戦争に有用かどうかでの価値付け

・調査=その集団の読書実態の可視化→見合った図書選定→読ませる指導活動=読書会 ←読書傾向調査は(孤立した事象ではなく)読書統制のための一連の技術、一連の思想統制の手法である。
・この一連の技術は、読者の可視化だけではなく、読むという行為自体の可視化である。←<e>もっといえば、その可視化は読書(個人的行為)をプライバシーから引きずり出した集団化・社会化といえる?(↓読書会へ)
・調査自体は一見中立でも、読書指導へ続く一連の技術・転用
・一般的な(誰にでも推薦すべきというような)推薦ではなく、具体的な読者層に応じた積極的な読書指導、が必要とされた。<e>アプローチは分かるんだけど。

・<e>この一連の技術は応用・汎用可能?(例えば現代)

・「この章で…なぜそうした一連の手法としてとらえる必要があるのか?」
→「その技術がどのように変化し、利用され、転用されていくのかをとらえる手立てとなる」→内地から、占領地・移民地へ。この一連の技術は満州へも適用される。
→1943、満州開拓読書協会が設立される。満州での読書指導と指導者養成のため。

・この章の最後では、読書後の内面化が実際にはどうおこなわれたか、「具体的な『読書日録』や『読書日記』から今後明らかになっていくこととなるかもしれない」

・戦時期早稲田大学学生読書調査報告書[川越淳二著]不二出版, 2021.12


■第三章 「「東亜文化圏」という思想 --文化工作の現場から」

<e>雑誌というメディア
<e>現地理解への考え方

・雑誌『東亜文化圏』: 東亜文化圏の会(青年文化協会(母体))の機関誌。東南アジアへの文化工作の実践。1942-1945。
・青年文化協会: 日本を中心とした「新興東洋文化圏ノ拡充強化」の人材育成を目的として、アジア諸国(中国以外、南洋・東南アジア中心)との対外文化事業を展開していく財団法人。もとは海外留学生対応をしていた。留学生教育、教育部による日本語教育普及事業など。
・1942年、東条英機内閣で大東亜建設審議会が設置、大東亜共栄圏構想が具体化。大東亜省が設置され、欧米や東南アジアに対する対外文化事業を担当する(芸術普及、日本語教育、国際文化振興会などの文化団体の指導・補助)
・「東亜文化圏」という思想: それまで日本発信としておこなわれた文化工作を、大東亜という広域の文化圏に拡大し、その中心に日本を据える。アメリカ文化圏と欧州文化圏とアジア文化圏の思想戦。地政学を根拠とする。

・実際に文化工作・教育宣伝をおこなっていた官民の多様な活動のひとつが、『東亜文化圏』
・『東亜文化圏』の特徴:
 対外文化政策を、宣伝学・新聞学を通して、体系化・科学化していこうとしている(理論)
 映画音楽言語等の多様な表現領域で、言語政策・映画制作などのぐたいてきな対外文化政策の実践が検討されている(具体策、提案)
 インドネシアやフィリピン等における日本占領地での実践データや報告を多く含む(現場、実践結果、検証批判)

・『東亜文化圏』は「全東亜を思想的に一体一丸たらしめむとする」
・『東亜文化圏』は、地政学(という科学・思想)を文化工作として実践に移す場となっている。また、地政学だけでなく民族学や、新聞・宣伝のような民族の統一性をつくりあげる技術が、それを実践的な文化工作をおこなうことによってつくりあげようとしていく現場の活動と結びつき、現場実践・経験の豊富な情報・報告の提供にいたる。<e>雑誌というメディアが、多様な学知・理論、宣伝・文化工作、実践活動を、まとめあげる場となっている。雑誌はコミュニティ、雑誌は活動(無いけど理想的なものをみんなでつくりあげようとしている)、★<e>雑誌の”場”の機能。(速報性、多様性、集合性)
・報告・集約されている実践例: 日本語教育、映画。

・政策と現地実践とのずれへの指摘や批判もしばしばおこなわれている。例:現地状況や住民の理解不足のままの、一方的な対外文化政策。例:現地状況を理解するための、現地調査結果の報告など。
→現地の現実を調査し理解し、各国に適した文化工作が必要、という考え方。(そうでない欧米的なまなざしの国際文化振興会に対する批判、日本の西洋化への批判)
一方的な文化発信ではなく、現地に出向き、現地の青年と交流しようという動き。/実際にアジア各地に会の拠点を作ろうとする動き
→日本の文化工作政策自体への疑問や批判。
・ただしその批判は、方法・技術への批判であり、目的への批判ではない。(現地の理解が得られないのは、日本の価値や文化工作の目的がまちがっているのではなく、方法・技術がまちがっていて充分つたわっていない)
→結果どうなったかといえば、現地へは、兵士ではない民間の青年が文化戦闘員として派遣されるべき、という主張がされる。
<e>どうしてこうなった。どこでまちがえた。そして、現代の我々はこれと同じ間違いをしていないだろうか、という不安。

<e>可視化→理解・調査・相手を知る→批判・自省


【関連する記事】
posted by egamiday3 at 05:18| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする