いやもう、ほんとにね、びびったんですよ。
ニューヨークに初めて行ってね、雪深くて足下の悪い街中をしゃくしゃくかきわけながら、大学キャンパスの中の図書館に入らせてもらってね、なんかわかんないけど階段や通路を上り下りしていった先の、しずかーな書庫の中に、ずらーっと並んでるんですよ。
日本語の本が。
国文学の棚だったんですけどね、そりゃもう、たくさんなんて話じゃないですよ。あたりまえの日本の大学図書館みたい、いや、それどころの騒ぎじゃない。当時あたしはまだ京大で図書館員やってましたけど、例えば源氏物語の注釈書なり大御所的な研究書なりの品揃えだったら、京大の附属図書館の本棚なんかとてもとても、ここの品揃えの足下にも及ばない。いや、附属なんか相手じゃない、京大の文学部のほうの図書館の本棚と充分にいい勝負ができるくらいに、源氏物語関係の本がそろってる。そういうレベルですよ。
まさにその通りですよ、本書の冒頭。
「本がある、ということはそれらを購入する理由があり、資金の流れがあり、書物を運ぶルートがあり、さらにはそれら手に入れた書物を整理し、使うノウハウがあるということである」
「もしも海外で目にした書架に日本語の書物が並んでいたとしたら、こうした疑問が湧かないだろうか。あるいはもしもそこに一〇万冊、あるいは二〇万冊を超える日本語の書物があったとしたら。」
あったんですよ。書物がね。
すげえなあって。こんなところに、こんだけ大量の日本の本がちゃんとやってきてて、ていうことは使って研究する人がちゃんといて、ってことだもんなあって。それ見て、がつーんって感銘受けちゃって。
それが、2011年の震災後に日本に永住するってゆってこっちに来はった、ドナルド・キーン先生のいたコロンビア大学の東アジア図書館なんですけど。
『越境する書物』(新曜社, 2011)、ていう本について書きます。
和田敦彦先生の、前著『書物の日米関係』(新曜社, 2007)の、まあゆっちゃえば続編なんだけど、あんま続編続編みたいな扱いするのもひょっとしたらどうなんかなっては思うんですけど、ただ、あたしは前著読んで、本書読んで、ああ続編だなあと思いながら読んだ身の上なんで、これはちょっともうしょうがない、ここで無理に切り離してぐだぐだになるくらいなら開き直ってそういう視点でちゃんと見たらいいや、ていうあれで書くんですけど。
前著っていうのが、日本語の書籍がアメリカの、特に大学図書館その他に日本研究用資料としてたくさん伝わりましたよ、と。蔵書、コレクションが形成されていってましたよ、と。それの、特に20世紀前半頃から太平洋戦争中、占領期、戦後っていうあたりを、章立て追って読んでくとなるほど通史的に描いているなあ、ていう感じの本で、書物が渡米した経緯とかあちらでの処遇とか、蔵書を巡る人びと・組織・社会の動きみたいなんが描かれていくと。それで、要所要所で個々の大学の日本語蔵書の歴史が解説されていると。
で、それを受けての本書はっていうと、先生はなんかそれを「大きな課題として残されていた」て言うてはるんですけど、「それら日本の書物を送り出した日本国内の販売機関」「その間に立った組織や人びと」に焦点をあてた、て言うてはるから、あたしはこっちは“なかだち”(媒)の存在の人たちのこと書いてはるなあ、て思ったんです。思ったって言うか、そうなんです。そう思って前著見返してみるとああなるほど『書物の日米関係』のほうは、描き方としては通史っぽくて内容としては蔵書の歴史だなあと。蔵書+それをとりまく、だなあと。で、その中でも「それをとりまく」のほうにちょいちょいと顔を出しては重要な役割を果たしてるように描かれていた、例えば国際文化振興会だとか、チャールズ・E・タトル出版だとかが、本書『越境する書物』では独立して1章とか半章とかを使って、スポットライトぱーんあてられて、掘り下げて描かれている、という感じ。チャールズ・E・タトル出版の章なんかわくわくして止まりませんでしたもん。
構成としては、一応、1部・2部てなってます。第1部は「越境する書物」、アメリカにおける日本語蔵書の形成や歴史について、書物の所蔵や流通からどのような問題が見えてくるのか、そんな感じ。第2部のほうが「書物と読者をつなぐもの」ていうので、さっきゆったような仲介した存在にスポットをあてる感じ。
で、まあこれは前著もそうなんですけど、どっちも、アメリカなり日本なりの各地・各図書館・各機関に残る膨大な量の文書だとか資料だとかメモっぺらだとか、あと、たくさんの人たちにじかに取材をしてそれをもとにしている。そこから丹念に当時の有り様を復元していく。ていう感じ。もうね、わくわくが消せやしない感じ。
で、さっきゆったように、前著の通史の中でちょいちょいと顔を出しては重要な役割を果たしてるように描かれていた存在のいくつかが、こっちで独立トピックとしてぐっと掘り下げられてる。だから前著読んだ身にしてみれば、もう単純にすげえうれしいんですよ。わあー、それ来たかーっ、つって(笑)。あんましこういう卑近な例出しちゃうのは申し訳ないんですけど、スピンオフ、来たーっ、つって。真下が交渉人やるのかーって。
さっきもゆった、チャールズ・E・タトル出版とか国際文化振興会とかがそうでしょ。あとは、本書第2章の「書物の戦争・書物の戦後」ていうところだと、前著第5章の「占領軍と資料収集」ていうところで紹介されてたワシントン文書センターとかプランゲ文庫とかの、占領期の接収文献の話が出てくるんですけど、それをさらに掘り下げて、たとえばそれらがどんなルートでアメリカに流れてきたんだ、伝わってきたんだ、誰がどう“なかだち”になって動くことによって、結果、どう"書物"が"越境"したんだ、ていうことの追跡なわけですよね。これなんか、ただ簡単な言葉で「蔵書の歴史」だとか「読書の歴史」だとかひとことで片付けるような話じゃないんですよ、ここで語られてるのって。そういう、なんていうかな、本棚にちょこねんとと収まってますー的な無機質な存在のお話じゃなくて、もっとこう、いろんな人の、いろんな思惑が、群がって立ち上って、ていう。生々しい、という言い方がよくなかったら、湿り気のあるというか、水気をたっぷり含んだような話。
それと本書第5章「人と書物のネットワーク」ていうのでは、角田柳作先生が出るんですよ。先生ですよ。ていうかSENSEIですよ、日本学の。あのきな臭い時代のニューヨークで、日本文化センターなんてものを作ろうってんで、なんやかんやがあって最終的にはコロンビア大学に5000冊の日本語の本をもたらした、ていう。そういう“なかだち”をした人。なかだちの話ですよね、書物でも蔵書でもなく、著者でもなく、本と読者のなかだちになった人についてスポットをあてましたよ、ていう。これも前著読んだ方には思い出深い、前著第2章「蔵書の記憶、蔵書の記録」のコロンビア大学の日本語蔵書史を、さらに別角度から掘り下げましたよ、ていうあれですし。
でもあたしが個人的に一番興奮したのはあれですね、本書第4章「一九三三年、米国日本語図書館を巡る」。高木八尺、アメリカをまわる、みたいなやつ。1935年に『A survey of Japanese studies in the universities and colleges of the United States』ていう報告書が出版されてるんですけど、これは、1933年に高木八尺ていう人が実施した、アメリカ全土の日本語図書館と日本研究についての実態調査、なんですね。この調査っていうのが、期間はたった2ヶ月で、アメリカ全土をがーってまわってはる。いや、それってね、この交通機関の発達しまくった&インターネットだe-mailだで連絡調整が簡単になりまくった現代においてだってなおですよ、ぜんぜん一筋縄ではいかんような話ですよ。ようやらはったなて、マジでそんなん、1933年、てことは満州事変のすぐあとにですから。その背景には何があったんや、ていう話になって、最終的には政治がどうのっていう話になるっていう。これはびびる。
ていうようなこと言うてたら、ああそういう歴史系の話かー、歴史興味ないし意味わからんし食傷気味やしなあ、みたいな不届きなこと言う人もいるかもしれんけども、そこで、第3章ですよ。第3章「今そこにある書物 --書籍デジタル化をめぐる新たな闘争」。ここで俎上にあがるのが、Google Booksであり、早稲田の古典籍総合データベースであり、NDLの現在まっさかりのデジタル事業であり、そしてそれに先立つマイクロ化事業であり、なわけで、前著&本書の歴史的なトピックをたどっていく中で、この第3章に出逢ったときに、ああなるほど、と。それまでここで扱われてきたテーマなり問題意識なりってのはまったく歴史学オンリーの舞台上の話ってわけでもなんでもない、そこにある“現代性”みたいなものがちゃんと存在するんだなということを、思い出させてくれるというあれですよ。だからこれは是非、いま電子書籍に興味あるんだけど自分、という人こそ、昨今のうわっつらだけの電子書籍議論に辟易してるような人こそ読んでくれはったらええと思うですたぶん。ぜひ。おもろいから。歴史学は歴史学そのものの自己目的のためにあるんじゃないって思えるから。
そんな感じですげえいい加減な自分勝手な紹介の仕方ばっかりしちゃった感じになるのもあれなんで、もっとずっとまともな紹介・書評関係のリンクを下記にまとめときますね。
http://b.hatena.ne.jp/egamiday2009/%E2%97%8F%E8%B6%8A%E5%A2%83%E3%81%99%E3%82%8B%E6%9B%B8%E7%89%A9%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AF/ あとなんだろう、もう一エピソードあるっちゃあるんだけど、それはまあ本編(えっ(笑))のほうにとっときます。
posted by egamiday3 at 20:44|
日記
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